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怪画②
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LINEも電話も着信拒否されてしまったけれど、私は諦めの悪い性格だから、克明のご両親に電話をかけた。私達が別れたのを知っているのか、お義母さんは少し戸惑った様子で電話口で返事をした。鼻声になっているのは、最愛の息子が行方不明になって途方に暮れ、今まで泣き暮れていたのだろうか。
一方的に克明の方から婚約破棄したのだから、慰謝料の話しでも持ち掛けられるのではないかと構えていたようだけど、私は克明が正常な状態で、別離の決断したとは思っていないと伝えた。
それを伝えた上で、お義母さんに克明のマンションの洋間に飾られていた不気味な絵画の事について訪ねた。
『――――私は、克明さんが行方不明になってしまった原因は、あの絵画にあるんじゃないかって思っています。あの絵画は一体、なんなんですか? 私はただ真実が知りたいだけなんです』
『……芽実さんも、あの絵画の事が気になるのね。そうよ、私もあの子がおかしくなったのはあの気味の悪い絵画のせいだと思ってるの! だけど、夫は信じないのよ。義理の息子だからかしら?』
まくし立てるように、お義母さんは電話口で話した。お義母さんは再婚するまで女で一つで育ててきた克明の事を溺愛していて、恋人の私にとっては少々煙たい存在でもある。正直に包み隠さず言えば、息子の事になると必要以上にヒステリックになる義母が苦手で、将来嫁姑問題で苦労してしまうのでは無いかと言う嫌な予感がしていた。
それだけが、克明との結婚に不安を感じる唯一の点だったけれど、今はお互いに共通の目標があるので頼もしささえ感じられる。
『――――私は信じます。克明さんは、まるで何かに取り憑かれたみたいな言動をしていたので』
『実はね、芽実さん。私達霊能者を呼ぼうと思ってるのよ。私があんまりうるさいから旦那も渋々ね。来てくれる方は、テレビに出た事のあるくらいの有名な霊能者さんらしくて、きっと克明を見つけてくれるわ、あの絵画だって……ああそうだわ、絵画ね』
私は我慢強くお義母さんの話しを聞いた。
お義父はTV局のお偉方とも関わりのある職種だと聞いた事があるので、その関係で『有名な霊能者』とやらを紹介して貰ったのだろうか。ようやく、脱線していた話が絵画の話題に戻って、私は内心ホッとすると胸を撫で下ろした。
『あれは、お父さんの遺品整理の時に見つかったのよ。私は興味が無かったから詳しく知らないんだけど、きっと常連だった古美術商で買ったんだわ。鹿砦堂だったかしら……』
私は、義母から聞いた住所をメモすると土日の休みを利用して東京から新幹線に乗り、鹿砦堂へと向かった。克明から故郷の話は、少し話題に上った事もあったが、義妹さんの事を思い出してしまう為だろう、あまり深く私に教えてくれなかった。
普段の明るい克明からは想像も出来ないが、あの残虐な事件が、克明の心に暗い影を落としている事は明らかだ。
義妹さんが亡くなってから、家庭では口論も増えてしまい離婚の危機は何度かあった。その度に克明が二人の架け橋になっていたと言う話しを聞いた事がある。彼は、せめて義妹さんを殺害した犯人が見つかるまでは、お互いを家族として支え合いたいと願っていたのだろう。
私は、鹿砦堂に向かうと七十代半ば位に見える白髪頭を綺麗に整えた、店主から話しを聞いた。年齢の割に店主は背筋がピンと伸びたしっかりとした印象のある人だった。
『あぁ、有村さんねぇ。うちの常連で島から良く通ってくれてたんだよ。亡くなって本当に寂しくなっちまったなぁ。
――――ああ、あの油彩画ね。あれは、売り物じゃなかったんだけどねぇ、どうしても有村さんが譲ってくれって言うもんだから。確か、浅野清史郎の油彩画だったかな。まぁ、この県の出身の画家で、有名な画家じゃないが、一部の蒐集家に好まれている人でね』
私は克明と同じく美術に明るくない。浅野清史郎と聞いてもピンと来ないが、マニアの蒐集家がいるような画家なんだろうか。話しを聞く限りおどろおどろしい曰くがあるようには思えない。
だが、店主が言うには例え店頭で販売していても直ぐに買われるが、何ヶ月後かには家族がお金はいらないからと引き取ってくれと返品にしくる。そんな事がたびたび続いて気味悪く思っていた店主は、近所の神社で貰ってきた札を適当貼り、布で覆って倉庫の奥に片付けていたのだという。
『寺や神社に持っていって処分して貰ったら良かったんだろうがねぇ。一応ね、私も長いこと古美術商の端くれでやってるもんだから。焼かれるなんて事になったらねぇ。
それで、何がきっかけだったか……、ああ、そうだ。浅野清史郎の遺作の油彩画があると言ったもんだから、そうなったんだ。確か、清史郎が家庭教師先のお嬢さんを描いたと言う逸話があってねぇ』
私は、その話を詳しく聞くことにした。ぼんやりとしていたあの絵画についても、ようやくうっすらと輪郭が現れてきたように思える。私は持って来た大学ノートを片手にメモを取った。
鹿砦堂であの絵画について話を聞いてから、誰かに見られているような気がしていた。誰に言っても信じて貰えないが、一度もまばたきする事無く、四六時中、壁の隅や扉の隙間や、階段と階段の間、そしてトイレの上から針のように突き刺さる視線を向けられている、そんな感覚がして落ち着かない。
邪魔するな、という警告を破った事で、精神的に過敏になっているんだと自分に言い聞かせた。
(――――この聞き込みのメモも、役に立ちそうね。持っていこう)
私は、ハンドバックに大学ノートを入れると間宮さんとの待ち合わせ場所である喫茶店へと急いだ。
一方的に克明の方から婚約破棄したのだから、慰謝料の話しでも持ち掛けられるのではないかと構えていたようだけど、私は克明が正常な状態で、別離の決断したとは思っていないと伝えた。
それを伝えた上で、お義母さんに克明のマンションの洋間に飾られていた不気味な絵画の事について訪ねた。
『――――私は、克明さんが行方不明になってしまった原因は、あの絵画にあるんじゃないかって思っています。あの絵画は一体、なんなんですか? 私はただ真実が知りたいだけなんです』
『……芽実さんも、あの絵画の事が気になるのね。そうよ、私もあの子がおかしくなったのはあの気味の悪い絵画のせいだと思ってるの! だけど、夫は信じないのよ。義理の息子だからかしら?』
まくし立てるように、お義母さんは電話口で話した。お義母さんは再婚するまで女で一つで育ててきた克明の事を溺愛していて、恋人の私にとっては少々煙たい存在でもある。正直に包み隠さず言えば、息子の事になると必要以上にヒステリックになる義母が苦手で、将来嫁姑問題で苦労してしまうのでは無いかと言う嫌な予感がしていた。
それだけが、克明との結婚に不安を感じる唯一の点だったけれど、今はお互いに共通の目標があるので頼もしささえ感じられる。
『――――私は信じます。克明さんは、まるで何かに取り憑かれたみたいな言動をしていたので』
『実はね、芽実さん。私達霊能者を呼ぼうと思ってるのよ。私があんまりうるさいから旦那も渋々ね。来てくれる方は、テレビに出た事のあるくらいの有名な霊能者さんらしくて、きっと克明を見つけてくれるわ、あの絵画だって……ああそうだわ、絵画ね』
私は我慢強くお義母さんの話しを聞いた。
お義父はTV局のお偉方とも関わりのある職種だと聞いた事があるので、その関係で『有名な霊能者』とやらを紹介して貰ったのだろうか。ようやく、脱線していた話が絵画の話題に戻って、私は内心ホッとすると胸を撫で下ろした。
『あれは、お父さんの遺品整理の時に見つかったのよ。私は興味が無かったから詳しく知らないんだけど、きっと常連だった古美術商で買ったんだわ。鹿砦堂だったかしら……』
私は、義母から聞いた住所をメモすると土日の休みを利用して東京から新幹線に乗り、鹿砦堂へと向かった。克明から故郷の話は、少し話題に上った事もあったが、義妹さんの事を思い出してしまう為だろう、あまり深く私に教えてくれなかった。
普段の明るい克明からは想像も出来ないが、あの残虐な事件が、克明の心に暗い影を落としている事は明らかだ。
義妹さんが亡くなってから、家庭では口論も増えてしまい離婚の危機は何度かあった。その度に克明が二人の架け橋になっていたと言う話しを聞いた事がある。彼は、せめて義妹さんを殺害した犯人が見つかるまでは、お互いを家族として支え合いたいと願っていたのだろう。
私は、鹿砦堂に向かうと七十代半ば位に見える白髪頭を綺麗に整えた、店主から話しを聞いた。年齢の割に店主は背筋がピンと伸びたしっかりとした印象のある人だった。
『あぁ、有村さんねぇ。うちの常連で島から良く通ってくれてたんだよ。亡くなって本当に寂しくなっちまったなぁ。
――――ああ、あの油彩画ね。あれは、売り物じゃなかったんだけどねぇ、どうしても有村さんが譲ってくれって言うもんだから。確か、浅野清史郎の油彩画だったかな。まぁ、この県の出身の画家で、有名な画家じゃないが、一部の蒐集家に好まれている人でね』
私は克明と同じく美術に明るくない。浅野清史郎と聞いてもピンと来ないが、マニアの蒐集家がいるような画家なんだろうか。話しを聞く限りおどろおどろしい曰くがあるようには思えない。
だが、店主が言うには例え店頭で販売していても直ぐに買われるが、何ヶ月後かには家族がお金はいらないからと引き取ってくれと返品にしくる。そんな事がたびたび続いて気味悪く思っていた店主は、近所の神社で貰ってきた札を適当貼り、布で覆って倉庫の奥に片付けていたのだという。
『寺や神社に持っていって処分して貰ったら良かったんだろうがねぇ。一応ね、私も長いこと古美術商の端くれでやってるもんだから。焼かれるなんて事になったらねぇ。
それで、何がきっかけだったか……、ああ、そうだ。浅野清史郎の遺作の油彩画があると言ったもんだから、そうなったんだ。確か、清史郎が家庭教師先のお嬢さんを描いたと言う逸話があってねぇ』
私は、その話を詳しく聞くことにした。ぼんやりとしていたあの絵画についても、ようやくうっすらと輪郭が現れてきたように思える。私は持って来た大学ノートを片手にメモを取った。
鹿砦堂であの絵画について話を聞いてから、誰かに見られているような気がしていた。誰に言っても信じて貰えないが、一度もまばたきする事無く、四六時中、壁の隅や扉の隙間や、階段と階段の間、そしてトイレの上から針のように突き刺さる視線を向けられている、そんな感覚がして落ち着かない。
邪魔するな、という警告を破った事で、精神的に過敏になっているんだと自分に言い聞かせた。
(――――この聞き込みのメモも、役に立ちそうね。持っていこう)
私は、ハンドバックに大学ノートを入れると間宮さんとの待ち合わせ場所である喫茶店へと急いだ。
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