8 / 39
足跡を辿って③
しおりを挟む
間宮さんは、過去の思い出を振り返るようにして話し始めた。
「もちろんだよ。香織ちゃんは優しい子でね。ご両親が再婚して、どちらも連れ子だったけど本当の兄妹みたいに仲が良かった。だから、あの悲惨な事件の後、克明は妹を守れなかった自分を責めてしまってね。大変だったんだ」
その当時、小学生だった僕も、克明さんくらいの年齢だったら同じように自責の念に狩られていたと思う。梨子の表情も心無しか暗く感じられた。間宮さんは溜息を付くと、言葉を続けた。
「それから、俺のほうが先に東京に出てしばらく疎遠になってたんだけど、あいつが教員免許取ったあたりからまた仲良くなってね。実は、克明、一週間前から行方不明なんだ」
僕達は互いの顔を見合わせた。そして僕はあの気味の悪い明晰夢を思い出した。後ろから何か邪悪なものか忍び寄ってくるような不気味さを感じた。
これ以上、関わってはいけない、聞いてはいけない、触れてもいけないような忌むべき存在を。
「行方不明って、一体何があったんですか……間宮先生」
「俺も詳しくはわからないんだ。3ヶ月前かな、克明のお祖父さんが亡くなってから様子がおかしくてね。大学で知り合った女の子と結構長く付き合ってたんだけど……婚約破棄して行方不明になって、連絡がつかないんだ」
間宮さんの話を表面的に聞けば、単なる失踪のようにも思える。高校の教師をしていたようなので、クラスでの問題か保護者とのトラブルか。精神的に追い詰められて、失踪してしまったようにも思えた。
「間宮さん、克明さんは失踪する前にどこかに行ったりしていませんか? 例えば洋館の心霊スポットとか……。島に戻って、何か変わった事があったとかでも構いません」
間宮さんは首を傾げて、記憶を辿っているようだったが一つ思い出したように言った。
「克明は僕と違って、オカルトは否定的だったから心霊スポットには行かないだろうな……だけど、変な事を言ってたな。毎晩彼女が逢いにくると。元婚約者の芽実ちゃんが、克明が浮気してるって言ってたけど……何というか、気味が悪い感じだった」
克明さんが、その女性の話をする時はどこか虚ろで目の焦点が合わない様子だったという。その女性は二十代で、毎日高価な着物を着ていて、良く似合うと言っていた事も不審に思っていたようだ。
それ以上の事は、元婚約者の早瀬さんや家族に聞いたほうが引き出せそうだった。出来れば、克明さんの持ち物や何か霊視できるものがあれば良いのだが。
「僕は、その女性が克明さんの失踪に関係していると思います。きっと、触れてはいけない忌むべき者と接触したんだと思います」
「俺もそう思ってるんだ。克明にも忠告したが、聞き入れなくてね……。雨宮くん、ぜひ俺も一緒に調査させてくれないかな?」
顔を上げると間宮さんが、目を輝かせていた。不謹慎な気もするが、オカルト研究の血が騒いだのだろう。僕は少し引き気味になったが、間宮さんがいれば、元婚約者や家族とスムーズにやり取りができそうだ。
有村家に僕が梨子と二人で乗り込んでいった所で、いまさら何の用だと不審がられそうな気がする。ましてや、香織ちゃんから克明さんを助けて下さいと頼まれました、なんて言えるはずもない。
「間宮先生の民俗学の知識、今回も役に立ちそうだし、健くん……手伝ってもらう?」
「うん、そうだね」
「ありがとう。克明の行方を探しつつ、雨宮くんが持っている霊感の研究も出来そうだ」
間宮さんが、僕に握手を求めてきたので戸惑いながら僕は彼の手を握った。視るつもりも無かったのに急に僕の額に意識が集中する。
目の奥が赤く光り、僕は間宮さんの背後を見た。
(――――この人、何も憑いていない)
普通なら、守護霊が憑いていたり死んだペットが憑いていたり、生霊や、害のないたまたま憑いて、暫くしたら離れていくような浮遊霊がいたりするのだが、間宮さんには何も憑いてない。
真っ暗な空間が広がっているような感覚だ。
僕は反射的に手を離した。
「雨宮くん? 大丈夫かい?」
「あ、すみません。何でもないです」
「もしかして、何か視えちゃった?」
間宮さんは少し冗談混じりに笑った。僕は誰かに何か憑いているか霊視してくれと頼まれない限り、その人を視る事は無い。こんな事は初めてだったが、本人はいたって元気そうだ。もしかしてオカルト研究のような物をしている影響なのだろうか、僕にも初めての経験だった。
僕は、間宮さんを怖がらせないようにして笑った。
「ちょっと、静電気がきちゃって……ハハ」
3人で笑うと、早速間宮さんから芽実さんに連絡して貰う事にした。メッセージのやり取りをして、電話をする為に席を立って外に出るとその様子をいつの間にか、僕と梨子の間で座っていたばぁちゃんが、その様子を目で追っていた。
『――――居てるよ。たまに何も憑いてない人間は。ばぁちゃんも二回しか逢った事ないけどねぇ』
「……?」
ばぁちゃんの呟きに僕は首を傾げた。ともかく、元婚約者の芽実さんに、話が聞けそうだ。
「もちろんだよ。香織ちゃんは優しい子でね。ご両親が再婚して、どちらも連れ子だったけど本当の兄妹みたいに仲が良かった。だから、あの悲惨な事件の後、克明は妹を守れなかった自分を責めてしまってね。大変だったんだ」
その当時、小学生だった僕も、克明さんくらいの年齢だったら同じように自責の念に狩られていたと思う。梨子の表情も心無しか暗く感じられた。間宮さんは溜息を付くと、言葉を続けた。
「それから、俺のほうが先に東京に出てしばらく疎遠になってたんだけど、あいつが教員免許取ったあたりからまた仲良くなってね。実は、克明、一週間前から行方不明なんだ」
僕達は互いの顔を見合わせた。そして僕はあの気味の悪い明晰夢を思い出した。後ろから何か邪悪なものか忍び寄ってくるような不気味さを感じた。
これ以上、関わってはいけない、聞いてはいけない、触れてもいけないような忌むべき存在を。
「行方不明って、一体何があったんですか……間宮先生」
「俺も詳しくはわからないんだ。3ヶ月前かな、克明のお祖父さんが亡くなってから様子がおかしくてね。大学で知り合った女の子と結構長く付き合ってたんだけど……婚約破棄して行方不明になって、連絡がつかないんだ」
間宮さんの話を表面的に聞けば、単なる失踪のようにも思える。高校の教師をしていたようなので、クラスでの問題か保護者とのトラブルか。精神的に追い詰められて、失踪してしまったようにも思えた。
「間宮さん、克明さんは失踪する前にどこかに行ったりしていませんか? 例えば洋館の心霊スポットとか……。島に戻って、何か変わった事があったとかでも構いません」
間宮さんは首を傾げて、記憶を辿っているようだったが一つ思い出したように言った。
「克明は僕と違って、オカルトは否定的だったから心霊スポットには行かないだろうな……だけど、変な事を言ってたな。毎晩彼女が逢いにくると。元婚約者の芽実ちゃんが、克明が浮気してるって言ってたけど……何というか、気味が悪い感じだった」
克明さんが、その女性の話をする時はどこか虚ろで目の焦点が合わない様子だったという。その女性は二十代で、毎日高価な着物を着ていて、良く似合うと言っていた事も不審に思っていたようだ。
それ以上の事は、元婚約者の早瀬さんや家族に聞いたほうが引き出せそうだった。出来れば、克明さんの持ち物や何か霊視できるものがあれば良いのだが。
「僕は、その女性が克明さんの失踪に関係していると思います。きっと、触れてはいけない忌むべき者と接触したんだと思います」
「俺もそう思ってるんだ。克明にも忠告したが、聞き入れなくてね……。雨宮くん、ぜひ俺も一緒に調査させてくれないかな?」
顔を上げると間宮さんが、目を輝かせていた。不謹慎な気もするが、オカルト研究の血が騒いだのだろう。僕は少し引き気味になったが、間宮さんがいれば、元婚約者や家族とスムーズにやり取りができそうだ。
有村家に僕が梨子と二人で乗り込んでいった所で、いまさら何の用だと不審がられそうな気がする。ましてや、香織ちゃんから克明さんを助けて下さいと頼まれました、なんて言えるはずもない。
「間宮先生の民俗学の知識、今回も役に立ちそうだし、健くん……手伝ってもらう?」
「うん、そうだね」
「ありがとう。克明の行方を探しつつ、雨宮くんが持っている霊感の研究も出来そうだ」
間宮さんが、僕に握手を求めてきたので戸惑いながら僕は彼の手を握った。視るつもりも無かったのに急に僕の額に意識が集中する。
目の奥が赤く光り、僕は間宮さんの背後を見た。
(――――この人、何も憑いていない)
普通なら、守護霊が憑いていたり死んだペットが憑いていたり、生霊や、害のないたまたま憑いて、暫くしたら離れていくような浮遊霊がいたりするのだが、間宮さんには何も憑いてない。
真っ暗な空間が広がっているような感覚だ。
僕は反射的に手を離した。
「雨宮くん? 大丈夫かい?」
「あ、すみません。何でもないです」
「もしかして、何か視えちゃった?」
間宮さんは少し冗談混じりに笑った。僕は誰かに何か憑いているか霊視してくれと頼まれない限り、その人を視る事は無い。こんな事は初めてだったが、本人はいたって元気そうだ。もしかしてオカルト研究のような物をしている影響なのだろうか、僕にも初めての経験だった。
僕は、間宮さんを怖がらせないようにして笑った。
「ちょっと、静電気がきちゃって……ハハ」
3人で笑うと、早速間宮さんから芽実さんに連絡して貰う事にした。メッセージのやり取りをして、電話をする為に席を立って外に出るとその様子をいつの間にか、僕と梨子の間で座っていたばぁちゃんが、その様子を目で追っていた。
『――――居てるよ。たまに何も憑いてない人間は。ばぁちゃんも二回しか逢った事ないけどねぇ』
「……?」
ばぁちゃんの呟きに僕は首を傾げた。ともかく、元婚約者の芽実さんに、話が聞けそうだ。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説

こちら御神楽学園心霊部!
緒方あきら
ホラー
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。
灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。
それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。
。
部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。
前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。
通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。
どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。
封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。
決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。
事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。
ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。
都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。
延々と名前を問う不気味な声【名前】。
10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。
無能な陰陽師
もちっぱち
ホラー
警視庁の詛呪対策本部に所属する無能な陰陽師と呼ばれる土御門迅はある仕事を任せられていた。
スマホ名前登録『鬼』の上司とともに
次々と起こる事件を解決していく物語
※とてもグロテスク表現入れております
お食事中や苦手な方はご遠慮ください
こちらの作品は、
実在する名前と人物とは
一切関係ありません
すべてフィクションとなっております。
※R指定※
表紙イラスト:名無死 様
二人称・短編ホラー小説集 『あなた』
シルヴァ・レイシオン
ホラー
普通の小説に読み飽きたそこの『あなた』
そんな『あなた』にオススメします、二人称と言う「没入感」+ホラーの旋律にて、是非、戦慄してみて下さい・・・・・・
※このシリーズ、短編ホラー・二人称小説『あなた』は、色んな"視点"のホラーを書きます。
様々な「死」「痛み」「苦しみ」「悲しみ」「因果」などを描きますので本当に苦手な方、なんらかのトラウマ、偏見などがある人はご遠慮下さい。
小説としては珍しい「二人称」視点をベースにしていきますので、例えば洗脳されやすいような方もご観覧注意、願います。
オカルト嫌いJKと言霊使いの先輩書店員
眼鏡猫
ホラー
書店でアルバイトをする女子高生、如月弥生(きさらぎやよい)は大のオカルト嫌い。そんな彼女と同じ職場で働く大学生、琴乃葉紬玖(ことのはつぐむ)は自称霊感体質だそうで、弥生が発する言霊により悪いモノに覆われていると言う。一笑に付す弥生だったが、実は彼女には誰にも言えないトラウマを抱えていた。
呪配
真霜ナオ
ホラー
ある晩。いつものように夕食のデリバリーを利用した比嘉慧斗は、初めての誤配を経験する。
デリバリー専用アプリは、続けてある通知を送り付けてきた。
『比嘉慧斗様、死をお届けに向かっています』
その日から不可解な出来事に見舞われ始める慧斗は、高野來という美しい青年と衝撃的な出会い方をする。
不思議な力を持った來と共に死の呪いを解く方法を探す慧斗だが、周囲では連続怪死事件も起こっていて……?
「第7回ホラー・ミステリー小説大賞」オカルト賞を受賞しました!
5A霊話
ポケっこ
ホラー
藤花小学校に七不思議が存在するという噂を聞いた5年生。その七不思議の探索に5年生が挑戦する。
初めは順調に探索を進めていったが、途中謎の少女と出会い……
少しギャグも含む、オリジナルのホラー小説。
月のない夜 終わらないダンスを
薊野ざわり
ホラー
イタリアはサングエ、治安は下の下。そんな街で17歳の少女・イノリは知人宅に身を寄せ、夜、レストランで働いている。
彼女には、事情があった。カーニバルのとき両親を何者かに殺され、以降、おぞましい姿の怪物に、付けねらわれているのだ。
勤務三日目のイノリの元に、店のなじみ客だというユリアンという男が現れる。見た目はよくても、硝煙のにおいのする、関わり合いたくないタイプ――。逃げるイノリ、追いかけるユリアン。そして、イノリは、自分を付けねらう怪物たちの正体を知ることになる。
ソフトな流血描写含みます。改稿前のものを別タイトルで小説家になろうにも投稿済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる