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番外編

享楽を与えたもう―薫・前編―

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※時代背景により一部現代の社会通念や、今日の人権意識に照らして合わせて不適切な表現や語句や、差別的表現が見られる部分がありますのでご注意ください。またこれを作者が肯定するものではありません。

✤✤✤

 私は、この片桐家に仕える下女のキヨと申します。このあたりは外国人の居留地なのですが、お仕事の都合でこちらに越していらっしゃった片桐様に、両親ともどもお仕えすることになりました。しばらく、ご病気でお屋敷を出られていた旦那様が戻られてからは、穏やかな日々を過ごしておられるようです。

「キヨ、仕立て屋に行って、メアリーの服を取ってきてくれないか」
「は、はい。旦那様」

 窓拭きの仕事をしていると、突然声をかけられ、私は大変驚きました。ふと視線をやりますと、そこには旦那様が気怠そうに腕を組み、壁に寄りかかっておられたのです。
 口元の黒子ホクロ、眼鏡の奥に見える艷やかな黒い二重の瞳。毒蛇のような危険な色香を漂わせる薫様は、まるで舞台俳優のように二枚目で惚れ惚れとしてしまいます。
 旦那様は、どういうわけか日によってまるで別人のようになります。
 その様子を見て、母が『あの旦那様には狐が憑いてる』『拝み屋のような仕事をしているんだよ』と陰口を言うので困っております。
 お父さんは『金払いは良いが、あの旦那は可哀想に頭の病気なのだろう』と噂をしているのですが、学がない私には良く分かりません。
 ともかく私たちは貧乏でございますから、風変わりでも、このお屋敷で雇って頂いたことは感謝しております。

「お前、俺をよく見ているね」
「い、いいえっ! そ、そんなことはございません。旦那様、仕立て屋に行ってまいります」

 窓を拭く手を止め、思わず惚けておりますと旦那様が私を、おもしろそうに覗き込んできたのです。世間様に言わせれば、私はいわゆる不器量ぶきりょう、醜女と罵られるような女でありましょう。
 結婚はしたものの子宝に恵まれず、稼ぎの悪い亭主は、戦争で死にました。
 それから行かず後家で、気づけばもう四十しじゅう手前になってしまったのですが、旦那様のように美男子を前にして、まさか乙女のように心踊らせてしまうとは思わず……本当にお恥ずかしい。
 けれども、なぜ薫様は私のような下女の醜女を気にされるのでしょう。
 薫様のからかうような悪戯な仕草とまなざしは、何か私に特別な感情でも抱いているのではないかと、淡い期待を抱いてしまうのです。

✤✤✤

「ねぇ、薫様……これを着たらいいの? どこかで見た事のあるお洋服だけど」
「そうだ、メアリーのために作らせたんだぜ。銀座のカフェーの女給が着ていた服さ。英国で言うところのメイドってやつだよ」

 仕立て屋へと行ってこれを引き取ってから、これを何に使うのかと妙に気掛かりでした。私は仕事をするふりをして、旦那様と奥様を監視したのです。
 すると、旦那様は奥様をお連れになられ、薫様の秘密部屋へと向かわれたのです。一部始終を見ていた私は、何食わぬ顔でそちらに向かいました。
 女中が、旦那様たちの私生活を覗き見なんてご法度はっとでございましょう。そんな事が知られれば一家ともども、使用人を首になるかもしれません。
 けれども私は、以前に見た芽亜里めあり様と、薫様の淫らな性交まぐわいが忘れられないのです。
 奥様の芽亜里めあり様は西洋人で、薫様とご結婚されました。芽亜里様は流暢りゅうちょうに日本語を話され、日本の文化や風習にも慣れ親しんでおられます。けれど私には異国人と結婚するという考えが、まるで理解できません。
 私は、芽亜里様が薫様に愛されるということに嫉妬しているのでしょうか。

「あっ、そうだったね! 薫様は私に色んなお洋服を着させるのが好きよね。でもこの女給さんのお洋服、可愛いから好き……。お着物にエプロンも、とっても可愛くて好きだけど」
嗚呼あぁ、あの格好も捨てがたいなぁ……あれはまた今度にしよう。今日は俺とメイドのメアリーで、子作りご主人様遊戯プレイをしようね」
「コ……コヅクリゴシュジンサマプレイ?」

 芽亜里様は、不思議そうに首を傾げました。薫様は上機嫌で芽亜里様の着物の帯を外し、脱がしていきます。そして、白いタイツに黒の革靴、足首までの清楚な黒のドレスを着せ、最後にヒラヒラのエプロンをつけます。
 金の髪に、同じような白のヒラヒラしたレェスの髪飾りをつけると、薫様はたいそう満足そうに微笑みました。そして薫様は、何故か芽亜里様に、自分のことをご主人様と呼ぶようにと命令したのです。

「メアリー、今だけ俺は君のご主人様だよ。ふふっ、とっても可愛いメイドさんだ。俺はそうだなぁ、せっかくだから医者にでもなろうかな」
「う、うん。お医者様のご主人様?」

 薫様の秘密のお部屋には、私には良くわからない衣装や、怪しげな道具などが取り揃えられております。芽亜里様のお着替えを手伝われますと、薫様は私の視界から消え、まるで医者のように白衣を着て現れたので心臓が止まりそうになりました。
 またそのお姿が、大変艷やかで美しいのです。不意にチラリとこちらを見られたような気がして、私は慌てて扉に隠れます。
 気づかれてはない……のかしら。
 それともこちらを見たのは私の気のせいなのかもしれません。薫様はメアリー様を抱き上げ机の上に座らせると、両手を机の上に置いて、深くまどろむように口付けます。

「んっ、んんっ……はぁっ……ちゅ、ふっ……んっ、はぁっ……ご主人様……んっ……んんっ」
「ふふっ、はは! はぁっ……メアリーは素直だから本当に可愛いんだよ。まずは舌を出して……うん、健康のようだな。だけど、俺の舌がもっと欲しいっていう顔をしているぜ」

 芽亜里様の顎を掴むと、まるで検診するかのように舌を出すようにと促しているようでした。薫様は淫靡に微笑むと、大人しく従った芽亜里様の舌を見つめ、そして絡め取ります。
 ぬる、ぬると生き物のように小さな舌を絡め取って動き回っているのでしょうか。
 甘い吐息と、漏れた低い声、そして唾液が絡まり合う水音。淫らな薫様の動きだけで私は興奮してしまいます。

「はぁっ、んっ、んんっ、んっ、はぁっ、んんっ、頭が真っ白になっちゃう……っ、んんっ、はぁっ、はぁっ」

 ちゅくっ、と薫様が音を立てて芽亜里様の舌を放すと、淫らな唾液が糸を引いて……。
 芽亜里様は恥ずかしそうに頬を染めて項垂れています。何度も薫様と、夫婦の営みをされておられるでしょうに、まだ生娘のようにお恥ずかしいのかしら。

「それはいけないなぁ、メアリー。この屋敷に来て、君は少し働きすぎなんじゃないかい? それか、他の主人の世話が大変で疲れがでてきているのかもしれないなぁ。脈を調べようか」
「はい、ご主人さま……ひぁっ」

 薫様は、妖艶に微笑みますと芽亜里様の細い首筋を大きな手で包み込みます。耳の付け根から首筋へと優しく撫でると、芽亜里様はピクンと足のつま先を泳がせました。
 それから、薫様は淫らに親指で唇を撫でて、芽亜里様を刺激しました。そして聴診器ちょうしんきを取り出しますと、首筋に当て、エプロン越しの乳房へと緩やかに降りていきます。

「おや、メアリー、もしかして掃除のしすぎかな。どうも乳房のほうが固くなっているようだからね。ふふっ、ちゃんと心音も聞いておかないといけないなぁ」

 薫様は赤い舌で自分の唇をペロリと舐めると、エプロン越しに芽亜里様の乳房に触れ、揉み上げます。
 その度に芽亜里様の体は震え、まるで遊女のような鳴き声を漏らしてしまい、本当にはしたない光景なのですが目が離せなくなりました。
 薫様は聴診器で、鎖骨からちょうど乳輪の辺りまで辿ると、撫でるようにしながら押し当てるのです。そうしますと、芽亜里様のエプロン越しにツンと胸の蕾が主張し始めて……。

「はぁっ……やぁっ、んっ、ご主人様、そこは、あ、あんまり……聴診器で触れられると、か、感じてしまいます」
「駄目だよ、メアリー。恥ずかしがって手で抑えたりなんかしたら、君の心音が聞こえないぜ。俺の手で乳房を押しても瑞々しく押し返してくる。胸の先端も、聴診器に反応して固くなって突起しているな、健康な証拠だよ」

 薫様は淫靡に微笑むと、吐息を漏らす芽亜里様の乳輪を執拗しつように攻め立てます。机の上で、薫様の白衣を握りしめるあどけない様子と薫様の指先に、私はだんだんと興奮を覚えてしまいました。
 白昼堂々はくちゅうどうどう、なんてふしだらなのでしょう。
 けれど、今この屋敷には私と片桐夫妻しかいらっしゃいません。

「あふっ、んっ、んぅぅ……ゃだ、お昼間なのに声がもれちゃう」
「ふふっ、可愛いなぁ! いいじゃないか、俺は可愛いメアリーの声を屋敷中に響かせたいよ! それじゃあメアリー、胸元を開けてごらん。じかに俺が触診してあげよう」 

 白い肌を紅くさせ、おずおずと見上げる芽亜里様に薫様は優しく淫靡に諭すように仰られます。そしてゆっくりとエプロンを胸元まで脱がせ、芽亜里様は自ら黒のメイド服のボタンを外し、丸い肩を出しました。
 芽亜里様の乳房は、形もよく傷も無く、透き通るような白で、ツンと芽吹いた乳首は薄い桃色の桜の蕾のようです。
 どこかまだ成長途中の少女のような可憐さを宿しており、私はそれを眩しく思いながら、嫉妬にも似たような感情を抱いていたのです。

「声を出してもいいんだよ。いやらしくて可愛い、俺のメアリー。エプロンで君の乳房が押し上げられている。肌もきめ細やかで心地いいね……。本当は俺の愛撫を待ちわびていたんじゃないかい? いやらしい女中だなぁ! こんな風に俺に触れられる事を想像して、手淫でもしてたんじゃあないのかい?」
「あっ、ぁぁっ、はっ、やぁっ、薫様のいじわるっ……んっ、お胸弱いの、あっ、はぁっ、ひぁっ、あん、冷たいっ」

 まるで私に向けた言葉のようで、心臓が飛び跳ねました。そうです、はしたないのですが私は薫様を思って手淫したことがあるのですから。
 聴診器で乳首を撫で、淫らに乳房を揉むと首筋に舌を這わせます。
 芽亜里様の首筋にわざと接吻の痕をつけて、胸を揉み解していくと、固くなった尖端を今度は中指で緩やかに撫でていきます。

「んっ、あ、あっ、はぁっ、だめ、だめ、ん、あ、ゃだ、――――!!」
「ふふ、メアリー。ご主人様って言うのを忘れてるぜ。そう言えば最初は胸なんて弱くなかったのに、だんだんと感じやすくなって、軽く達するようになったなぁ。本当は聴診器より舌で舐めて欲しいんじゃない?」
「あっ、んっ、ぅん……ご主人さまぁっ、ひぁ、あんっ、はい、もう、舐めてくださぁい」
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