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第二十一話 女郎蜘蛛―壱―
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私は、そこから逃げ出したいくらい怖かったの。一也様も薫様も、書生さんもヨッパライになっているところなんて、見たことが無かったんだもん。
目がトロンとして、なんだかまとわりつくような視線が気持ち悪くて怖いの。やっぱり、知らない男の人とお話するのは、苦手………。
怖い……書生さん……助けて……怖いよ。
『だけど、日本人はイエガラを重視するって言うじゃないか。なのに娼婦が妻になれるなんて、やっぱりトコジョウズってやつか』
『さっき、アヤトは梅子夫人と二階に行っていたよな。俺たちは庭の方で彼女とちょっとだけ仲良くしようぜ。元娼婦だったら浮気もうまく誤魔化せるだろ』
「あの、私、気分が悪くて綾斗さんのところに行きます。ごめんなさいっ」
この人たちがなんて言ってるのか、全然わからないけれど、一緒にいたら駄目な気がする。私が離れようとすると、手前の人に手首を掴まれたの。
やっ、すごく強い力、それに痛いよっ……!
顔を近づけられると、お酒臭くて酔いそう。
怖くて胸がどきどきして、周りの人の声が聞こえなくなってきちゃう……。
「ダイジョウブ? 僕たちも外の空気、吸いたいから庭まで案内してくだサイ」
「ウン。キミも気分が悪いなら少し風に当たった方がイイヨ」
「ゃっ……!」
背の高い男の人に腕を掴まれて、壁を作られると周りの人が全然見えないの。腰を抱かれて歩くように急かされると、凄く怖いのに声が出ない。
悲鳴をあげれば、ここにいる人たちはきっと助けてくれるって頭ではわかっているのに。
『あの、大丈夫ですの? 彼女は具合が悪そうですから、私が介抱いたしますわ』
『あ、貴女は……鷹司氏のご息女様。え、ええ、そうですね……。女性同士の方がここは……』
『お庭に御用なら、あの使用人に尋ねると良いですわ』
男の人たちで見えないけど、女の人が英語で話しかけてるみたい。それから酔いが醒めたみたいに私の手首が離されて、ポケットに手を突っ込むとあの人たちは庭の方へと向かった。
ほっとして、振り向くとそこにはなんとなく見覚えがある女の子がいた。
たしかこのお屋敷に引っ越してくる前に、カフェーで出逢った……。
「ありがとう……ございます。貴女は、綾斗さんの従兄妹の」
「あら、私のことご存知なのね。貴女、西洋人なのに、本当に英語がわからなくて? お酒に酔った殿方と庭へ向かうだなんて……、危機感が無いのね、軽率だわよ」
私の隣に立つと、少し刺々しく話しかけてきたの。
『小春ちゃん』と呼ばれていた従兄妹の女の子は、やっぱり私と同い年くらいかな。助けて貰ったけれど、なんだか気まずい。私はカフェーで薫様の目の前に座ってたんだけど、小春ちゃんは私のことを覚えていないみたい。
でも、どうしてここに彼女がいるの?
書生さんは横浜のお家は、従兄妹にも梅子叔母さんにも知らせてないから心配ないって言ってた。
書生さんたちは全員、梅子叔母さんのことを凄く嫌ってたから、お祝いに呼んだりなんてしないと思うの……。
「ご、ごめんなさい。怖くて声が出なかったの。あの………どうして……ここに? 綾斗さんは妃咲のお家とはもう……。この会場に叔母様も、いるの?」
「ええ、お母様もお呼ばれしているわ。失礼だけど、私この場所にお祝いにくるつもりなんて無かったの……。だって、私は綾斗さんとは許嫁だと聞いていたから、心に決めた方がいるなんて知らなかったわ」
イイナズケ……?
その言葉は知ってる。親同士が決める結婚のお相手のこと……だよね。それじゃあ、小春ちゃんは、書生さんたちと結婚する予定だったの?
もしかして、好きだった?
なんだか、お胸がモヤモヤする……、私悪いことしたのかな。でも、書生さんたちと小春ちゃんが結婚するのは、やだ。
「イイナズケのお話は知らなかったの……。だから、綾斗さんは小春さんと叔母様を紹介してくれなかったのかな」
「お母様は、綾斗さんと芽亜里さんとの結婚に反対しているのよ。結婚パーティーと言っても、まだ正式に祝言をあげたわけじゃあないんでしょ、だから……。お母様は、一度お決めになると考えを曲げない方よ。伯父様たちだって私たちの結婚を了承していたのに」
すごく、責められてるような感じで居心地が悪い。お二人が火事でお亡くなりになられて、お母様がご両親に代わって書生さんを支えるのよ、と教えてくれたの。
書生さんたちは大人なのに自由に結婚できないんだって。帝国には難しい決まりごとがあるみたい。小春ちゃんは、あの異人さんたちから私を助けてくれたけれど、やっぱり結婚には反対してるし、私のことを嫌ってる。
「小春さんは、綾斗さんのこと……好き?」
「お母様とお父様がお決めになったお相手と結婚するのが普通よ。そんなこと、聞かないで……自由恋愛だなんて、不良みたいじゃない。でも綾斗さんは昔から素敵な方だわ。聡明で長身、舞台役者みたいだもの、憧れない人なんているのかしら」
「ん………そうなの。ねぇ、梅子叔母様はどこにいるの?」
「綾斗さんと一緒に、お二階に上がられたわ。家族だもの、きちんと話し合うのよ。貴女だってむこうに親族がいるかもしれないし、英国に帰ったほうがいいわ」
そう言うと、小春ちゃんはそっぽを向いて私から離れてどこかに行っちゃった。私はすごく不安な気持ちでいっぱいになったの。なんだかうまく言えないけれど、嫌な予感がして……。
こんなこと、普段はしないしお行儀が悪いから、書生さんたちに叱られちゃうかもしれないけれど、私はお客様から離れて二階に上がることにしたの。
今すぐ書生さんたちに会いたい。
それに梅子叔母さんが気になるの……。
だって……あんなふうに小春ちゃんに言われたけど私も『結婚』したい。
だから、何も心配ないよって言われてぎゅっとしてほしいんだもん。
✤✤✤
「綾斗さん、無事で良かったわ。叔母の私に何も仰らずに横浜まで、引っ越しなさるんだもの。探すのにとても骨が折れましたわよ」
シャンパーニュを片手に、あの女が近付いてきて、苦々しい気持ちで一杯になった。カフエーで小春に出逢ってから、いずれここも嗅ぎつけられるだろうとは思っていたが、それにしても随分と早い。
横浜にくる前に、僕が生きているという痕跡を全て消してきたが、この女の千里眼を使ってもこれほど早く特定はできないだろう。
となると、鷹司氏の人脈を使ったのか。
「…………お久しぶりですね、梅子叔母さん。ええ、両親が亡くなったあと、急な移動があり横浜に引っ越したのです。叔父さんは変わりないですか」
「鷹司は相変わらずよ。まさか、メアリーと貴方が婚約するとは思わなかったわ……。ゆっくりと二人きりでお話しができる場所は無いかしら?」
あくまで僕は客人を持て成すような態度を取る。友人たちは特に梅子と僕の関係を不審に思わず、彼らはそれぞれ、話しに花を咲かせていた。
メアリーが気にかかり、視線を向けると挨拶に疲れた様子で、小休憩している。
この女が居るということは、小春もこの場所に来ているだろうけど……。厚化粧の下に見える、おぞましい視線を感じながら、僕は梅子を二階の客間に案内した。
シャンパーニュをテーブルに置くと部屋を見渡し、僕を振り返る。
「趣味のいい部屋ね、綾斗さん。……あの火事でお兄様とお義姉さんが亡くなってしまったけれど、きっと貴方は生きてる、私はそう信じていましたのよ」
明治38年、奉天から帰ってきた時と同じように、梅子は、生還してきた僕に縋りつき胸に頬を寄せて抱きつく。
今思えば、偽の戦死公報でも作っていれば良かったが、あの座敷牢にメアリーが囚われている以上、僕たちは妃咲家に帰るしかなかった。
あの時の一也の嫌悪感といったら、僕の比では無かったな……。
笑いがこみ上げるくらいだったよ。
僕は穢らわしい淫売婦を振りほどくように梅子を体から離した。
「梅子叔母さん、鷹司氏の人脈まで使って僕を探したの……? 僕はもう、叔母さんが知ってる妃咲郁人じゃないんだからやめてくれない? 両親と僕が死んで、表向き妃咲家の血は途絶えたことになっているでしょう。これで、心置きなくお国のために働ける。それに、戸主がいなければ自由結婚はできるはずだ」
「つれないわね、梅子と呼んでちょうだい。世間ではそうなっていても、貴方たちの体には私と同じ『妃咲家』の血が流れていましてよ。片桐と名乗った所で、私たちは普通の人ではないのよ……諦めなさい」
梅子はおぞましい猫なで声でそう言うと、僕に触れながら背後に回る。この女は僕と小春との結婚を隠れ蓑にして、昔のように不適切な関係を結びたいのだろう。
鷹司氏にも愛人がいるらしいが、こちらのほうがもっと質が悪いな……。
女郎蜘蛛が脚を絡めて欲情するようで吐き気がする。
「別に鷹司に婿入りしてもいいのよ。ゆくゆくは政治家として普通に暮らしていけるじゃない。あんな、どこの馬の骨ともわからないような異人の娘なんておよしなさいよ。妃咲家の血が穢れてしまうわ」
「小春ちゃんとは結婚しないよ。僕が表舞台に出られるわけ無いじゃない。メアリーを悪く言うのはよしてくれ、彼女は僕たちが子供の頃から妻にすると決めていた。いい歳してまだ僕の魔羅が恋しいの、この阿婆擦れ女が」
メアリーを貶められるのだけは許せない。
お前のように穢らわしい女が、彼女を穢すような言葉を放つな。この世界のどの女たちよりも、メアリーの魂は美しくて清らかなんだ。
梅子の歯ぎしりする音が聞こえ、爪を立てるようにして僕の腕を掴む。
「やっぱり、もう一度貴方を教育し直さなくちゃいけないわ。安心して、全て私に任せておきなさい。さぁ、一緒に帰りましょう。――――帝国の悪意」
背後で指が鳴らされると同時に、そのフレーズを聞いた瞬間、僕の体はガクンと床に倒れ込んだ。その言葉は……福来……博士のっ!
僕の意識が………だんだん、遠のいていく。
「やめ……ろっ、郁人……!」
目がトロンとして、なんだかまとわりつくような視線が気持ち悪くて怖いの。やっぱり、知らない男の人とお話するのは、苦手………。
怖い……書生さん……助けて……怖いよ。
『だけど、日本人はイエガラを重視するって言うじゃないか。なのに娼婦が妻になれるなんて、やっぱりトコジョウズってやつか』
『さっき、アヤトは梅子夫人と二階に行っていたよな。俺たちは庭の方で彼女とちょっとだけ仲良くしようぜ。元娼婦だったら浮気もうまく誤魔化せるだろ』
「あの、私、気分が悪くて綾斗さんのところに行きます。ごめんなさいっ」
この人たちがなんて言ってるのか、全然わからないけれど、一緒にいたら駄目な気がする。私が離れようとすると、手前の人に手首を掴まれたの。
やっ、すごく強い力、それに痛いよっ……!
顔を近づけられると、お酒臭くて酔いそう。
怖くて胸がどきどきして、周りの人の声が聞こえなくなってきちゃう……。
「ダイジョウブ? 僕たちも外の空気、吸いたいから庭まで案内してくだサイ」
「ウン。キミも気分が悪いなら少し風に当たった方がイイヨ」
「ゃっ……!」
背の高い男の人に腕を掴まれて、壁を作られると周りの人が全然見えないの。腰を抱かれて歩くように急かされると、凄く怖いのに声が出ない。
悲鳴をあげれば、ここにいる人たちはきっと助けてくれるって頭ではわかっているのに。
『あの、大丈夫ですの? 彼女は具合が悪そうですから、私が介抱いたしますわ』
『あ、貴女は……鷹司氏のご息女様。え、ええ、そうですね……。女性同士の方がここは……』
『お庭に御用なら、あの使用人に尋ねると良いですわ』
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ほっとして、振り向くとそこにはなんとなく見覚えがある女の子がいた。
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「ありがとう……ございます。貴女は、綾斗さんの従兄妹の」
「あら、私のことご存知なのね。貴女、西洋人なのに、本当に英語がわからなくて? お酒に酔った殿方と庭へ向かうだなんて……、危機感が無いのね、軽率だわよ」
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『小春ちゃん』と呼ばれていた従兄妹の女の子は、やっぱり私と同い年くらいかな。助けて貰ったけれど、なんだか気まずい。私はカフェーで薫様の目の前に座ってたんだけど、小春ちゃんは私のことを覚えていないみたい。
でも、どうしてここに彼女がいるの?
書生さんは横浜のお家は、従兄妹にも梅子叔母さんにも知らせてないから心配ないって言ってた。
書生さんたちは全員、梅子叔母さんのことを凄く嫌ってたから、お祝いに呼んだりなんてしないと思うの……。
「ご、ごめんなさい。怖くて声が出なかったの。あの………どうして……ここに? 綾斗さんは妃咲のお家とはもう……。この会場に叔母様も、いるの?」
「ええ、お母様もお呼ばれしているわ。失礼だけど、私この場所にお祝いにくるつもりなんて無かったの……。だって、私は綾斗さんとは許嫁だと聞いていたから、心に決めた方がいるなんて知らなかったわ」
イイナズケ……?
その言葉は知ってる。親同士が決める結婚のお相手のこと……だよね。それじゃあ、小春ちゃんは、書生さんたちと結婚する予定だったの?
もしかして、好きだった?
なんだか、お胸がモヤモヤする……、私悪いことしたのかな。でも、書生さんたちと小春ちゃんが結婚するのは、やだ。
「イイナズケのお話は知らなかったの……。だから、綾斗さんは小春さんと叔母様を紹介してくれなかったのかな」
「お母様は、綾斗さんと芽亜里さんとの結婚に反対しているのよ。結婚パーティーと言っても、まだ正式に祝言をあげたわけじゃあないんでしょ、だから……。お母様は、一度お決めになると考えを曲げない方よ。伯父様たちだって私たちの結婚を了承していたのに」
すごく、責められてるような感じで居心地が悪い。お二人が火事でお亡くなりになられて、お母様がご両親に代わって書生さんを支えるのよ、と教えてくれたの。
書生さんたちは大人なのに自由に結婚できないんだって。帝国には難しい決まりごとがあるみたい。小春ちゃんは、あの異人さんたちから私を助けてくれたけれど、やっぱり結婚には反対してるし、私のことを嫌ってる。
「小春さんは、綾斗さんのこと……好き?」
「お母様とお父様がお決めになったお相手と結婚するのが普通よ。そんなこと、聞かないで……自由恋愛だなんて、不良みたいじゃない。でも綾斗さんは昔から素敵な方だわ。聡明で長身、舞台役者みたいだもの、憧れない人なんているのかしら」
「ん………そうなの。ねぇ、梅子叔母様はどこにいるの?」
「綾斗さんと一緒に、お二階に上がられたわ。家族だもの、きちんと話し合うのよ。貴女だってむこうに親族がいるかもしれないし、英国に帰ったほうがいいわ」
そう言うと、小春ちゃんはそっぽを向いて私から離れてどこかに行っちゃった。私はすごく不安な気持ちでいっぱいになったの。なんだかうまく言えないけれど、嫌な予感がして……。
こんなこと、普段はしないしお行儀が悪いから、書生さんたちに叱られちゃうかもしれないけれど、私はお客様から離れて二階に上がることにしたの。
今すぐ書生さんたちに会いたい。
それに梅子叔母さんが気になるの……。
だって……あんなふうに小春ちゃんに言われたけど私も『結婚』したい。
だから、何も心配ないよって言われてぎゅっとしてほしいんだもん。
✤✤✤
「綾斗さん、無事で良かったわ。叔母の私に何も仰らずに横浜まで、引っ越しなさるんだもの。探すのにとても骨が折れましたわよ」
シャンパーニュを片手に、あの女が近付いてきて、苦々しい気持ちで一杯になった。カフエーで小春に出逢ってから、いずれここも嗅ぎつけられるだろうとは思っていたが、それにしても随分と早い。
横浜にくる前に、僕が生きているという痕跡を全て消してきたが、この女の千里眼を使ってもこれほど早く特定はできないだろう。
となると、鷹司氏の人脈を使ったのか。
「…………お久しぶりですね、梅子叔母さん。ええ、両親が亡くなったあと、急な移動があり横浜に引っ越したのです。叔父さんは変わりないですか」
「鷹司は相変わらずよ。まさか、メアリーと貴方が婚約するとは思わなかったわ……。ゆっくりと二人きりでお話しができる場所は無いかしら?」
あくまで僕は客人を持て成すような態度を取る。友人たちは特に梅子と僕の関係を不審に思わず、彼らはそれぞれ、話しに花を咲かせていた。
メアリーが気にかかり、視線を向けると挨拶に疲れた様子で、小休憩している。
この女が居るということは、小春もこの場所に来ているだろうけど……。厚化粧の下に見える、おぞましい視線を感じながら、僕は梅子を二階の客間に案内した。
シャンパーニュをテーブルに置くと部屋を見渡し、僕を振り返る。
「趣味のいい部屋ね、綾斗さん。……あの火事でお兄様とお義姉さんが亡くなってしまったけれど、きっと貴方は生きてる、私はそう信じていましたのよ」
明治38年、奉天から帰ってきた時と同じように、梅子は、生還してきた僕に縋りつき胸に頬を寄せて抱きつく。
今思えば、偽の戦死公報でも作っていれば良かったが、あの座敷牢にメアリーが囚われている以上、僕たちは妃咲家に帰るしかなかった。
あの時の一也の嫌悪感といったら、僕の比では無かったな……。
笑いがこみ上げるくらいだったよ。
僕は穢らわしい淫売婦を振りほどくように梅子を体から離した。
「梅子叔母さん、鷹司氏の人脈まで使って僕を探したの……? 僕はもう、叔母さんが知ってる妃咲郁人じゃないんだからやめてくれない? 両親と僕が死んで、表向き妃咲家の血は途絶えたことになっているでしょう。これで、心置きなくお国のために働ける。それに、戸主がいなければ自由結婚はできるはずだ」
「つれないわね、梅子と呼んでちょうだい。世間ではそうなっていても、貴方たちの体には私と同じ『妃咲家』の血が流れていましてよ。片桐と名乗った所で、私たちは普通の人ではないのよ……諦めなさい」
梅子はおぞましい猫なで声でそう言うと、僕に触れながら背後に回る。この女は僕と小春との結婚を隠れ蓑にして、昔のように不適切な関係を結びたいのだろう。
鷹司氏にも愛人がいるらしいが、こちらのほうがもっと質が悪いな……。
女郎蜘蛛が脚を絡めて欲情するようで吐き気がする。
「別に鷹司に婿入りしてもいいのよ。ゆくゆくは政治家として普通に暮らしていけるじゃない。あんな、どこの馬の骨ともわからないような異人の娘なんておよしなさいよ。妃咲家の血が穢れてしまうわ」
「小春ちゃんとは結婚しないよ。僕が表舞台に出られるわけ無いじゃない。メアリーを悪く言うのはよしてくれ、彼女は僕たちが子供の頃から妻にすると決めていた。いい歳してまだ僕の魔羅が恋しいの、この阿婆擦れ女が」
メアリーを貶められるのだけは許せない。
お前のように穢らわしい女が、彼女を穢すような言葉を放つな。この世界のどの女たちよりも、メアリーの魂は美しくて清らかなんだ。
梅子の歯ぎしりする音が聞こえ、爪を立てるようにして僕の腕を掴む。
「やっぱり、もう一度貴方を教育し直さなくちゃいけないわ。安心して、全て私に任せておきなさい。さぁ、一緒に帰りましょう。――――帝国の悪意」
背後で指が鳴らされると同時に、そのフレーズを聞いた瞬間、僕の体はガクンと床に倒れ込んだ。その言葉は……福来……博士のっ!
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