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第九話 炎の輪舞曲―薫・中編―

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 帝国図書館は、上野公園の外れにありこのホテルからはそう遠くない。
 上野駅に着く間中、メアリーは列車の振動を感じては、時折ときおり薄桃色の唇を噛みしめて耐えていた。
 行儀ぎょうぎ良く座っているが、俺の用意した、二本指と同じサイズの小さな張り型おもちゃを陰部に挿入されているんだ。
 まるで劣悪文学のワンシーンみたいに卑猥ひわいだね。君の清楚な顔立ちからはとても想像もできないな。
 三編みにしたうなじからくるりと飛び出している後れ毛が可愛らしい。
 それにしても、頬を染めて悩ましい表情をしていたら、君の目の前の女学生たちが変に思うんじゃないかな?

「ねぇ、久子さん。私、異人さんを見たのは初めてなんですの。女学生の格好をしているなんて、留学生なのかしら。西洋のお人形さんみたいね」
「私も見たことがありませんわよ。どこの女学院の方かしら? ハイカラよねぇ……。それに、あの方は恋人なのかしら、美男子ハンサムだわ」

 女学生は声を潜めながら、小鳥のようにクスクスと笑って話し込んでいる。覚えたての外来語を使って、俺とメアリーを興味深く交互に見ては関係性を探っているようだった。

 嗚呼あぁ、うるさいったらありゃしないなぁ。

 でも、女学生たちに見られていると知ったメアリーはますます羞恥に頬を染め、張り型に伝わる列車の振動に耐えるように涙ぐんだ様子を見ると、少々悪戯心が出てきてしまってね。
 白くて細いメアリーのうなじに指の腹を押し当てて、背中から臀部まですっ、と撫でてやる。


「ひやぁっ……ん!!」
「おや、大丈夫かい? メアリー……鬼灯ほおずきの実のように顔が赤くなっているよ。風邪薬ヘブリンの効き目がいまいちだったかな?」

 もちろん、大嘘だ!
 風邪なんかじゃあない、俺の挿れた張り型で白い肌を快楽に染めているだけだ。
 だって、あんまりにも君が可愛いからついつい苛めたくなるんだよ。
 それに、一也に体の芯まで蕩けさせられたのが許せないし、書生に淫らな言葉まで教えられたんだから。
 メアリーの腰を抱き、耳元に唇を寄せると小さな桜貝のように赤くなった耳朶の付け根に舌を這わせた。
 当然、二人の女学生が目を丸くして凝視する。
 そうだ、もっとよく羞恥に震える俺の天使を見ておくれ。本当はこうして皆の前で辱めて、メアリーが誰のものなのかしっかりと心に刻みつけてやりたい。
 そうしなければ君はいつか、俺のもとから逃げてしまうかも知れないからね。

「やぁっ……薫様っ」
「メアリー、俺はいっこうに構わないよ。君が女学生の前ではしたなく達しても。ほら俺にもたれかかって、あの子達を見てごらん」

 メアリーは頬を染め涙目になりながら肩に持たれかかると、顎を掴んでうるさい女学生の方へ視線を向かせた。
 ふしだらだと言わんばかりの、女学生たちの視線を感じると、俺は舌なめずりするように自分の唇を舐めて挑発する。
 真っ赤になった初心うぶなおしゃべり雀達は、慌てた様子で席を立ち車両を移っていった。

 嗚呼あぁなんて愉快なんだろう、鬱陶うっとうしい女どもが居なくなってせいせいした! 
 俺は思わず、メアリーの耳元で含み笑いを漏らした。

「か、薫様……い、いや……こ、これ以上は、他の人も見てるの、恥ずかしいの」
「メアリー、次で降りるよ。帝国図書館にたどり着いたら張り型おもちゃを抜いてあげるからね」

 乗客たちは、メアリーの容姿の事もあってチラチラとこちらを見ている。
 自由恋愛が盛んになったとはいえ、俺たちはさしずめ堕落だらくした痴人ちじんに見えるんじゃあないかなぁ。
 堕落は嫌いじゃない。堕落こそ俺にふさわしい言葉だと思わないか?
 無垢なメアリーは俺の言葉を純粋に信じ、安堵した。
 まるで親のあとを必死に追いかける雛鳥ひなどりのように、素直に俺を信頼する姿が愛しくて愛しくて。彼女の心根が優しいのは生まれつきなのだろうか?
 けれど……俺の仕事を知ったらどう思うだろう? 狂った俺でも君は愛してくれるかな?

✤✤✤

 上野公園の外れにある帝国図書館は、定員制になっていて、外には多くの人が列をなしていたが、特別待遇とくべつたいぐうで図書館に入った。
 ルネッサン様式の建物は品格があり、漆喰しっくいの装飾も美しい。シャンデリアが飾られた優雅な天井も、この淫靡いんび遊びゲエムにはピッタリな場所だ。

「薫さ……ま、図書館まで来たから、あ、アレ抜いて……お願い」
「まぁ、そう慌てないでくれよ、メアリー。まずは書庫で好きな本を選んでごらん。帝国図書館は婦人閲覧室と一般閲覧室で分かれてるけれど、俺たちは貴賓室きひんしつでゆっくり使わせて貰おう」
「ゃ、そんな……わたし……わたし」

 俺はそう言ってはぐらかすと、メアリーと共に書庫に向かった。自由に選んでごらんと促し、彼女から離れて遠くから様子を伺う。
 女学生姿のメアリーはもじもじとしながらゆっくりと書庫の中を歩き、辺りを見渡していた。
 天井の高い帝国図書館は、階数ごとに書庫があり、貴賓室に近いこの書庫には書生や女学生がまばらにいる程度だ。
 メアリーが突き当りの奥の本棚へふらふらと向かい背の届かないであろう、一番上の段に指を伸ばそうとした。
 その時、横並びになっていた学生帽の書生が爽やかな笑顔を浮かべメアリーに話しかけた。

「異人さん、この本が欲しいのですか」
「えっ……は、はい……あの、で、でも、大丈夫で……す」
遠慮えんりょはいりませんよ、異人さん。日本語がお上手ですね。しかし、顔も赤いし、息が乱れている。具合が悪いんじゃあないですか?」

 書生は親切心で困っている異人のメアリーに声をかけたのかも知れない。この男も淫靡な遊びの駒になりそうだが、馴れ馴れしくメアリーの肩に触れたのは頂けないなぁ。
 俺は、できるだけ満面の笑みを浮かべて背後から声をかけた。

嗚呼あぁ、すみません。その子は俺の連れなんですよ。ご親切にありがとうございます」
「そうでしたか。彼女、気分が優れないようでしたので……大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です」

 強引に割入るようにして告げると、書生は少し怪訝けげんそうな表情をしてこちらをチラチラと見ながら去っていった。
 本棚を前にして震えるメアリーが取ろうとした本を取ってやると、彼女を振り向かせ手渡す。
 俺は、頬を染め短く礼を言ったメアリー覗き込むように姿勢を低くして本棚に手をついた。

「ほら、これが読みたかった本かな? きちんと断れたのは進歩したけれど馴れ馴れしく肩に触れさせたのは減点だ。でも、そろそろ辛いだろうから張り型おもちゃを抜いてあげるよ」
「ごめ、ごめんなさい……はぁ、うん、んっ……早く、抜いてほしいよぉ……はぁっ」

 両手で本に抱きしめるメアリーの袴を捲り上げて太ももまで指を這わせると、愛液の雫が少し垂れている事に気付いた。
 蝶々結びにされた月経帯の下着も愛液で濡れているのを確認すると、太ももまでずらして手を差し入れた。
 メアリーの愛液にまみれた張り型をぎりぎりまで抜き、ゆっくりとそれを奥まで挿入し動かし始める。

「やぁっ……!? っっ、や、やめ、薫さま、あっ、はぁっ……んっ、あっ……動かさないっ……でっ」
「しー! 図書館ではお静かに。さっきの書生が、戻ってくるかも知れないだろう? もしかしたら、君の淫らな姿を盗み見ているかも知れない」

 メアリーはハッとすると、ふっくらとした唇を噛み締めた。無垢な彼女も、淫らな姿を他人に見られる事を恥じるようになったと思うと興奮を隠せない。
 張り型がちゅぷ、ちゅぷと動かされると、メアリーは敏感に反応し、本を握りしめながら吐息を激しくさせた。
 ――――なんていやらしいんだろう。

「っっ! はぁっ……っっ、……ゃあ……ふっ、んんっ……んーっ……」
「列車の振動が腟内なかに伝わって感じていたみたいだね、メアリー。太ももにも愛液が伝っていたし……駄目だなぁ。ほら、こうして動かす度に、いやらしい音がしてる」

 張り型の表面を、むき出しの陰核に擦りつけながら動かすと、メアリーの腕から本が落ちて静かな書庫に鳴り響いた。
 彼女はビクリと肩を震わせ、俺の胸元にすがりつくかのように隠れた。
 二人の書生が本棚と本棚の間をこちらに気づかず歩いて行く様子が見えからだろう。俺は構わず張り型を動かして、口付けした。
 可憐な亀裂に出し入れする淫靡な蜜音が響いて、ガクガクと足が震えている。
 トロトロの愛液が奥から次から次へと溢れ出していた。
 腰が抜けそうになっていてるから、絶頂までもうすぐかな?
 互いに舌先を絡める合間に、熱い吐息が漏れて指先に感じる愛液の量も多くなってきた。

「んんっ、ゃっ、はぁっ……んんっ、かおるっ……はぁっ……んっ、ゃ、あっ、っっ……んぅ、あっ……はぁっ、はぁっ、だめ、だめ、あっ……―――――ッッ!!!」
「ん、はぁっ……メアリー、駄目だよ。イク時は薫様だけを愛してるって言わなくちゃ。さて、メアリー貴賓室に向かう前に、ここで一度お仕置きしないとね」

 張り型をゆっくりと抜くと、メアリーの甘い愛液の香りがするそれを舐め、するりと脱がした月経帯の中に包み込んだ。
 息を乱したメアリーは、どうしてお仕置きされるのか分からないだろうね。少なくともここに来るまではとてもお利口さんだったし……。
 でもね、あんな風に書生に抱かれて俺が教えもていない事を吹き込まれるのは嫌なのさ。

「はぁ、薫さま、ここは、書生さんたちが通るの。み、見られたら……いや。『まぐわい』はホテルがいい、貴賓室でご本読みたい」
「ふふ、だからだよ。『書生』がたくさん通るだろう? それに俺は一也が君の腟内なかに出したのが気に食わないんだ」

 必死に訴えるメアリー。
 そんな可愛い顔をして俺を見ても駄目だ、余計に焚きつけるだけだからね。
 それに、俺に嘘は通じないよ。列車の中でも君が軽く達していた事は知っている。
 俺は異人にしては小さくて華奢きゃしゃなメアリーの体を抱えあげ、首に抱きつくように言うと本棚に押し付けた。
 それと同時に、無毛の洋花を蹂躪じゅうりんするように陰茎を奥まで挿入する。

「――――っっ! ぁっ、くっ、ん、ひっ……ぁ……んっ、はぁっ……んっ、んっ、はぁ、はぁっ……ぁん、ゃ、はぁ、はーっ、動かしちゃ、だめ、ぁぅ、気持いい」
「はぁっ……気持いいだろ? ねぇ、メアリー。女学生の姿で、んっ……列車の中で何回達したんだい? 俺に教えてくれ」

 揺さぶるように動かすと、必死に声を抑えようとして抱きつくメアリーの吐息に混じって、ぶつかり合う粘着音がする。
 いやいやと頭を降るメアリーに構わず、絡みつき、奥まで導こうとしてうごめく淫らな壁にうっとりと目を細めた。
 日本人と西洋人は凹凸おうとつが合わないと聞くが、華奢で小柄なメアリーと俺は間違いなく相性が良い。
 俺はメアリーの、羞恥で小さく声を殺してすすり泣く声や、快楽に歪む愛らしい顔を見るたびに興奮してたまらないのだ。
 おそらく遠くの方で人の気配がするのを、メアリーも感じているんだろう。結合部から、ちゅぷちゅぷ、という淫らな摩擦音まさつおんがして劣情れつじょうが焚きつける。
 
 それにしても。
 炎で誰かを焼き殺すたびに、メアリーの柔らかな肌に触れたくなってしまうのは何故だろう。
 お上にとっていらぬ人間を焼き殺す事になってから、暗殺も何てことの無い日常の一部になってしまったから困ったものだ。
 母が言うように、俺は妃咲家の長男と入れ替わった化け物なんだろう。
 化け物屋敷に化け物がいてもなんらおかしくもなんともないけどねぇ。
 そのくせ、穢れた俺の心も体も、君に触れるとなぜか浄化されたような気になるんだ。


「はぁっ、はっ……くぅ、そこ、ゃ、感じちゃう、そこ、擦らないでっ、あっ、はぁっ……はぁ、薫さま、ゃ、ぁ、だめなの、い、イク、薫さまだけを愛して、はぁっ、許して、―――ッッ!! はぁっ……んっっ、やぁ、っ……ふっ」
「んんっ、腟内なかがヒクヒクしたね。こんなに乱暴にしてごめんよ、貴賓室でたっぷり愛撫して愛してあげるからね、メアリー……はぁ、もうっ……声を我慢できそうっ、にないねぇ。ねぇ、俺の子を孕んでよ、メアリー」
「ハラム? 赤ちゃん? あっ……ひっ、んんっ、だめ、中に出したらっ」

 だって、メアリー。
 初めて出会ったあの日から、俺たちは君を花嫁にすると決めていたんだ。でもね、抜け駆けした一也も君の想い人の『書生』にも渡したくない……俺だけのお姫様でいてほしいのさ。
 だからメアリー、一也でもない書生でもない俺の子を孕んでおくれ。
 女学生姿の華奢なメアリーを揺すり、突き上げる動きを激しくしていく。メアリーは俺の首元に抱きついたまま掠れた甘い嬌声を上げ、息も絶え絶えになっていた。
 メアリーが何度目かの絶頂に達したころ、俺は精液を解き放った。
 
「――――ッッ!!」
「はぁっ……ふふっ、メアリーがあんまり締め付けるから腟内なかに出したよ? さぁ、貴賓室に行こう。貸し切りにしているから存分に綺麗にしてあげるね」
「はぁ……はぁ……は……い」

 メアリーの落とした本を拾うと、俺は朦朧もうろうとする彼女の肩を抱きゆっくりと書庫を出た。
 その道中、奥の本棚から三番目の場所に、さきほどの書生の姿を見つけた。
 本を小脇に抱え、目当ての本を探しているようなわざとらしい仕草をし、こちらをチラチラと伺っている。
 その赤らんだ頬からして、いや……本当はあの書生の視線に、とっくの昔に気付いていたんだけど、面白そうだから黙っていたのさ。メアリーの体は見えずとも俺と彼女が『まぐわう』姿はたんと見れたんだろう?
 俺は視線をその男に向けて、やんわりと微笑むと、男はバツの悪そうな顔をしてうなだれた。

 ――――いいかい、あの娘に馴れ馴れしく触れるなんて許されない事なんだ。この場所が帝国図書館で無ければ、俺は迷いなくお前を燃やしていただろうね。

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