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逆さま
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耳鳴りと共にぐらぐらと視界が揺れて、俺は目を醒ました。両手は自然とバンザイをしていて、指先にルーフが当たっている。そうか、車が逆さまになっているのだ。
状況から見て俺は事故に合い横転して車が逆さまになっているのだろう。だが、事故直前の記憶が全く思い出せず霧掛かっている。頭を強く打ってしまったのかも知れない。額を触るとぬるりと血が指先に絡みついたのでそれが決定的だった。
「アキト先輩……大丈夫?」
「あぁ、大丈夫……ミカ、お前の方こそ大丈夫なのかよ」
助手席には、俺と同じように両手をだらりと逆さまにしているミカがいた。ミカはバイト先の後輩で、俺が今気になっている子だ。
ホブの黒髪と赤い唇、切れ長目で近寄りがたいサブカル女子だが、俺はベタベタしてくるよりそう言う子の方が楽で良かった。
何度か彼女を遊びに誘い、断られていたんだが、ミカが助手席にいるという事はついに今日、成功したんだろう。ミカが俺の誘いにオッケーしてくれた時のことを、事故の衝撃で覚えていないのが悔しい。
「事故ったみたいだな。怪我はないか。本当にすまん、車から出て警察と救急に電話しねぇとな」
兎に角、シードベルトを外して電話をしなければいけない。見た感じミカの方は怪我をしていないようなので安心した。ガチャガチャと音を立て、シートベルトを外すと何とか体を地面につけた。
「山奥だから、電波通じるかな」
ミカは俺の言葉に不安そうに答えた。
「山奥……? 俺なんでそんな所に来たんだ。横転した時に頭打ったみたいで覚えてないんだよな」
ミカの言葉を確かめるように車から這い出ると、辺りを見渡した。ザワザワと風に吹かれて蠢く森。曲がりくねった道路、前方にはポッカリと開いた大きな廃トンネルがあった。
ここは、有名な心霊スポットじゃないか。俺が免許取り立ての時に、大学のやつらと肝試しした事がある場所なので覚えている。
どうして俺はここに居るんだろう。ミカを連れて肝試しにでもきたのか。
振り向くと、逆さまになったまま車の助手席でミカがこっちを見ている。なんであいつは車から出てこないんだ。頭に血が登ってしんどい筈なのに……。
「ミカ、出てこないのか? と、取り敢えず救急車呼ぶから……」
気味悪く思った俺は、スマホを取り出す。ミカの言うとおり電波か死んで電話も掛けられない。以前ここに来た時はそんな事は無かったんだが。
もう一度、車に視線を戻すとそこにはミカの姿は無かった。這い出して、何処かに隠れているのかと思ったが目を離した時間なんて、たかが知れてる。
「おい、ミカ……! 何処に居るんだ大丈夫か? ちょっと……! 笑えないぞ!」
大声を出して呼び掛けても、辺りは静まり返って人の気配も無く、木々が風で擦れ合う音しか聞こえなかった。
途端に気持ち悪くなって悪寒がした。
――――待て。
俺は一人でこの心霊スポットまで来た。いや、違う。大学の仲間と一緒に肝試しに行って皆を家まで送った。俺は、自分の家に帰る為に車を走らせていたのに、どうして此処に戻ってきているんだ。
――――それに、ミカって誰だよ。
「なんだよ……なんなんだよ……」
ゾクゾクと這い上がるような悪寒がする。肝試しに来た時は、全く何も起こらず眉唾ものの心霊廃トンネルだと思ってたのに。
このトンネルの噂はなんだったけ、確か女の幽霊が出て――――駄目だ思い出せない。
こうなったら、徒歩で電波の届く所まで行って助けを戻るしかない。
自然に震える体を抑えるようにして振り返ると逆さまの女が目の前にいた。
ホブのボサボサの黒髪が、逆さまのなのに逆だっていない。精気の無い虚ろな切れ長の瞳は焦点が合わず死んでいるように思えた。
ミカは、真っ赤な口を限界まで開くと酷く舌ったらずな可愛い声で言った。
「もう手遅れだヨ」
逆さま/終
状況から見て俺は事故に合い横転して車が逆さまになっているのだろう。だが、事故直前の記憶が全く思い出せず霧掛かっている。頭を強く打ってしまったのかも知れない。額を触るとぬるりと血が指先に絡みついたのでそれが決定的だった。
「アキト先輩……大丈夫?」
「あぁ、大丈夫……ミカ、お前の方こそ大丈夫なのかよ」
助手席には、俺と同じように両手をだらりと逆さまにしているミカがいた。ミカはバイト先の後輩で、俺が今気になっている子だ。
ホブの黒髪と赤い唇、切れ長目で近寄りがたいサブカル女子だが、俺はベタベタしてくるよりそう言う子の方が楽で良かった。
何度か彼女を遊びに誘い、断られていたんだが、ミカが助手席にいるという事はついに今日、成功したんだろう。ミカが俺の誘いにオッケーしてくれた時のことを、事故の衝撃で覚えていないのが悔しい。
「事故ったみたいだな。怪我はないか。本当にすまん、車から出て警察と救急に電話しねぇとな」
兎に角、シードベルトを外して電話をしなければいけない。見た感じミカの方は怪我をしていないようなので安心した。ガチャガチャと音を立て、シートベルトを外すと何とか体を地面につけた。
「山奥だから、電波通じるかな」
ミカは俺の言葉に不安そうに答えた。
「山奥……? 俺なんでそんな所に来たんだ。横転した時に頭打ったみたいで覚えてないんだよな」
ミカの言葉を確かめるように車から這い出ると、辺りを見渡した。ザワザワと風に吹かれて蠢く森。曲がりくねった道路、前方にはポッカリと開いた大きな廃トンネルがあった。
ここは、有名な心霊スポットじゃないか。俺が免許取り立ての時に、大学のやつらと肝試しした事がある場所なので覚えている。
どうして俺はここに居るんだろう。ミカを連れて肝試しにでもきたのか。
振り向くと、逆さまになったまま車の助手席でミカがこっちを見ている。なんであいつは車から出てこないんだ。頭に血が登ってしんどい筈なのに……。
「ミカ、出てこないのか? と、取り敢えず救急車呼ぶから……」
気味悪く思った俺は、スマホを取り出す。ミカの言うとおり電波か死んで電話も掛けられない。以前ここに来た時はそんな事は無かったんだが。
もう一度、車に視線を戻すとそこにはミカの姿は無かった。這い出して、何処かに隠れているのかと思ったが目を離した時間なんて、たかが知れてる。
「おい、ミカ……! 何処に居るんだ大丈夫か? ちょっと……! 笑えないぞ!」
大声を出して呼び掛けても、辺りは静まり返って人の気配も無く、木々が風で擦れ合う音しか聞こえなかった。
途端に気持ち悪くなって悪寒がした。
――――待て。
俺は一人でこの心霊スポットまで来た。いや、違う。大学の仲間と一緒に肝試しに行って皆を家まで送った。俺は、自分の家に帰る為に車を走らせていたのに、どうして此処に戻ってきているんだ。
――――それに、ミカって誰だよ。
「なんだよ……なんなんだよ……」
ゾクゾクと這い上がるような悪寒がする。肝試しに来た時は、全く何も起こらず眉唾ものの心霊廃トンネルだと思ってたのに。
このトンネルの噂はなんだったけ、確か女の幽霊が出て――――駄目だ思い出せない。
こうなったら、徒歩で電波の届く所まで行って助けを戻るしかない。
自然に震える体を抑えるようにして振り返ると逆さまの女が目の前にいた。
ホブのボサボサの黒髪が、逆さまのなのに逆だっていない。精気の無い虚ろな切れ長の瞳は焦点が合わず死んでいるように思えた。
ミカは、真っ赤な口を限界まで開くと酷く舌ったらずな可愛い声で言った。
「もう手遅れだヨ」
逆さま/終
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