鬼遣の贄〜雨宮健の心霊事件簿〜④

蒼琉璃

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【霧首島編】

第十八話 神崎綾人の葬儀①

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「健くん、明。お部屋どうだった? なんだかこの部屋、落ち着かなくて……民宿泊まるの初めてだからかな」

 梨子は明らかにほっとした表情で僕たちを迎え入れた。彼女が落ち着かないのも無理は無い。
 僕たちの泊まる部屋には、御神刀が置いてあるので、無意識にうまい具合に結界が張られている事になっているからいいけど、ここは空気が淀んでいる。
 電気を点けているのに、部屋全体が薄暗く、圧迫感を感じるんだ。僕は、額に神経を集中すると霊視してみた。
 この部屋には霊の姿は視えないが、ところどころに黒いヒトガタの蚊柱のようなものが立っている。これは、前回の事件で見たネブッチョウという憑き物とも、ちょっと違う感じに思えた。

「ばぁちゃん、この部屋……」
『健、あんたは今まで魔物か、霊ばっかり視てたでしょ。あの黒い蚊柱はこの土地の穢れだ。贄になった人の無念さや、この島の島民の念が一緒になってる。あれを浄化しなきゃ、側にいるだけで、精神や体調に不調をきたすんだよ。あんた、やり方わかるね?』
「え、な、なに? 健くん……何か視えるの?」

 ばぁちゃんが後ろから、僕の疑問に答えてくれた。不安そうにする梨子を明くんが、雨宮に任せとけとなだめてくれた。
 僕は急いで部屋まで戻ると、ヒトガタを取ってきて手の平に乗せ、目を閉じて指を口元まで当てる。

「急急如律令」

 僕の手の中にいたヒトガタの式神たちが、ふわりと浮き上がると、まるでツバメのように部屋の中を飛びわまりみるみるうちに、黒くなって墜落していく。
 それを回収し、手の平に乗せるとハラハラと消えて無くなる。梨子は目を丸くし興奮したように手を叩いた。

「今のなに!? すごい!!」
「いやな、この部屋に入った瞬間すげぇ重く感じたんだよ。出る部屋かと思って霊視したけど霊の姿は無かったし……、やっぱすげぇな雨宮」
「うん。霊がいたわけじゃないけど、あまり良くない雰囲気だったから、浄化しておいたんだ。あのまま三日間も、ここで寝起きしてたら、体調を崩していたと思うよ。梨子、僕のあげた塩持ってきた?」

 そう言うと、梨子は鞄の中から雨宮神社で販売されている清めの塩を取り出す。彼女も巫女としてバイトするようになってから、遠出するたびに大学、バイト先の行き帰りさえも、お守りとしてこれを持ち歩いているようだ。
 
「うん、舐めるといいんだよね」
「そう、すっきりすると思うよ」

 梨子が手の平に少し塩を乗せると、ぺろりと舐める。しかし僕は、彼女たちの部屋がこんな感じならば、間宮さんのところも影響がありそうだなと心配した。

「僕らの部屋は大丈夫だったけど、間宮さんはどうかな。霊感無いって言ってたけど、浄化してあげたほうが……」
『あの人にはそんなもの必要ないよ』

 ばぁちゃんが真顔で冷たく言い放った。
 何故かばぁちゃんは、間宮さんとは一線を置いているというか、彼のことをうさん臭く思っているようで、手厳しい。
 ばぁちゃんに理由を聞いてもはっきりと答えてくれないので、教授とか、そういう立場の人間が苦手なんだろうか。
 ともかく、間宮さんには気を付けろと意味深な事を言う。
 僕も、彼の背後に闇が視えるのは気になってるけど、心霊オカルト関連では、かなりお世話になってるんだよなぁ。

「間宮センセーなら、お守り各種取り揃えてそうだし、大丈夫そうじゃね? 下手したら俺らより結界張る方法知ってそうだし」
「ま、まぁ……たしかに」

 そんなやり取りをしていると、ノックする音がし、扉が開いて間宮さんが顔を覗かせた。

「おや、僕が噂の的になってるみたいで光栄だな。立ち聞きしちゃってごめんね、千堂くんの言うとおり僕は、心霊好きだけど怖がりだから、御守り各種持ってきてるよ。ゼロ感だから霊は視えないけと、結界を張る知識だけは無駄にあるから。そうそう、昼ご飯が出来たようだ」
「あはは……、それなら大丈夫そうですね」

 僕は笑いながら頭を掻いた。とりあえず今は観光客らしく昼食を食べようかな。

 ✤✤✤

 霧首島の漁港に降り立って、神崎裕貴ゆうきさんに出逢った時、目元が綾人に似ていると思った。身長も綾人とそんなに変わらないから、やっぱり兄弟なんだよね……。
懐かしいような苦しいような気持ちになった。
 なんで死んじゃったの、綾人。
 警察は、何かしら心にストレスを抱えていて仕事中に突発的に店を飛び出し、自殺したのではないかと推理してたけど、絶対そんなことない。早く私と結婚したいっていつも言ってたし、仕事を掛け持ちしながら就活も頑張ってた。
 そんな綾人が、自殺なんてするわけ無いよ。

「葉月さん、大丈夫ですか? 都会より道が悪いのでご気分でも悪くなりましたか?」
「い、いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
「それなら良かった。もうすぐ本家が見えますので」

 私がうつむいて考え事をしていると、隣に座っていた裕貴さんが心配そうに見つめてきた。たしかに時々、車が揺れることもあったけど私は辰子島の出身だし、そんなのは慣れている。
 お兄さんや、分家の岩倉さんたちも優しそうだけれど、車内は重苦しい空気というか、緊張する。
 私が人見知りなせいかな。
 綾人の家族だと分かっていても、初対面の人たちと密室の中にいるのは疲れちゃうよ。

「あっ、あそこが……本家ですか?」
 
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