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【霧首島編】

第十六話 マレビト③

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 僕たちも、安藤さんに続いて頭を下げた。それにしても卒業旅行ということになっているのか……。間宮さんの立ち位置が気になる所だ、と僕は頭の中で突っ込む。

「こんにちは。僕が予約した間宮です。この子たちの監視役として一緒に行くように姉に頼まれちゃって……。羽目を外し過ぎないよう、自然の空気を満喫させます」
「そうなんです、私たち都会で遊ぶのに飽きちゃったから、潮の香りとか綺麗な空気が吸いたくて! ねぇ、健くん!」
「え!? あ、うん、そうだね! やっぱり自然はいいよね!」

 なんという無茶ぶりなんだ、梨子。
 そして順応しすぎだろ……いや、そんなことより、突然腕を組まれて僕は顔から火が出そうになった。
 つまり、僕はこの霧首島での立ち位置として、おそらく梨子の彼氏役に抜擢ばってきされたのだ。横を見ると、僕たちのやり取りを見て明くんがニヤニヤ笑っている。

「もう暫くすると、民宿の者が到着すると思います。霧首島の全員が喪に服しますので、今日はあまりおもてなしは出来ませんが、ご了承下さい。葉月さんは私と共に本家に参りましょう」
「構いません。四日間の初日はバーベキューをしようと話していたので材料も購入してます。あの……、もしよろしければ私たちものちほど、お焼香をあげさせて貰ってもよろしいでしょうか」

 間宮さんが申し出ると、岩倉さんたちは互いに顔を見合わせた。裕貴さんは少し間を置くとにこやかに微笑む。

「――――村の者だけで葬儀を予定しておりますが、葉月さんのお知り合いの方ならお帰りになられる時にでも、本家にお越しください。弟も喜ぶ事でしょう」

 当然、見ず知らずの他人が葬式に参加できるわけもないが、帰り際にでも手を合わせお線香をあげたいという申し出は、快く受けてくれた。それで、神崎さんの本家に行く口実はできたと言うわけだ。
 安藤さんは、不安そうにして僕と明くんを見ている。彼氏を失った悲しみと、妊娠、そして霊体験、遺族との初対面で、いろんな不安が積み重なっているように見えた。
 暫くして、漁港に白いバンが入ってくると、その車とすれ違うように、裕貴さんは安藤さんを労るように声をかけ、黒い乗用車の元へと歩いていった。

「なんだか、心配だな……」
「ほんとにな。一緒についてってやりてぇけど、俺たちに関わるなっていう拒否感がひしひしと伝わってくるよなぁ」

 明くんが感じた事と全く同じことを思った。
 そして僕は不意に空を見上げた。
 フェリーに乗る前は、あれだけ晴れていたのに霧首島についてから急に曇りだしている。
 そう言えば、夜から天候が崩れるようなことを天気予報士が言っていたな……。
 この島に降りた時から、全身にミミズが這うような気持ち悪い悪寒がして、僕は居心地が悪かった。
 明くんも、この霧首島に何かを感じてるのか、それともこの島の人間の違和感を感じとっているのか分からないが、落ち着きがない。
 あまり、普段はこんなことはしないのだが、僕は心の中で龍神様に無事に帰れるように祈った。

「間宮さんですかぁ、民宿たけしげのもんです。お迎えに参りました」

 白いバンから出てきたのは、どうやら僕たちがお世話になる、民宿のスタッフのようだった。

 ✤✤✤

 間宮さんが助手席、後部座席に僕、梨子、明くんの順番に座った。荷物はとりあえずトランクに入れ、御神刀だけは不敬のないように手で持っておきなさいと、ばぁちゃんに言われたので、それだけは大事に持って座る。

「んだよ雨宮、釣りが趣味なら俺に言えよ。俺も持ってくりゃ良かったなぁ」
「健くん、釣りするんだっけ?」
「いや、まぁ、小学生の時はやってたんだよ。また始めようかなって」

 
 さっそく二人に突っ込まれて僕は冷や汗をかいてしまった。かなり苦しい言い訳をしたし偽装工作も自信なかったが……。
 さすがに、御神刀持ってくるなんて、いよいよやばい奴だと思われてしまう。
 運転手の武重たけしげさんは、民宿たけしげの経営者で、奥さんと息子夫婦で営んでいるらしい。最近は観光シーズンでも、バブルの時ほどお客さんは来ないので、別の商売もしているようだ。よくよく話を聞くと、武重さんも神崎家の分家筋なんだとか。

「ダイビングの季節から外れてるんで、海で遊ぶんなら海釣りは良さそうだけどねぇ、ちょっと、雲行きが怪しくなってきたから今日は無理かもしれないよ」

 武重さんはそう言うと、ラジオの音を大きくした。

『………発達した低気圧が台風10号に成長し、日本海側をゆっくりと勢力を保ちながら北上しています。また、台風から遠く離れた地域でも、台風が運んでくる湿った空気により、激しい雨となっています。低地の浸水、河川の増水にご注意ください』
「うーん、これはもしかすると四日間雨になるかも知れないなぁ。もう少し持つかと思っていたんだけど。帰る時に船を出せるといいんだけどね」
「ええっ、どうしよう。帰れなくなったらもう一泊できるんですか?」
「マジか、親父の仕事手伝う約束してたんだけど、スマホの電波もやばい感じだし今のうちに連絡しとくか」
「ああ、お客さんはあんたたちだけだから、一泊出来るよ。船が出なくなったらどうしようも無いからね」

 梨子と明くんがぼやいていると、武重さんがにこやかに答えてくれた。自家発電機もあるようで、停電しても大丈夫そうだ。
 温帯低気圧に変わると思っていたんだけど、どうやら台風に変わってしまったらしい。船は四日目にしか来ないので、台風の影響で海がしけなければいいけど。

『もしかすると、あんたが島に訪れたから荒れてるのかもしれないねぇ』

 冗談っぽくばぁちゃんは言ったが、洒落にならないからやめてほしい……。
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