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【霧首島編】
第十四話 マレビト①
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雨宮の反応は俺の予想を遥かに越えていたな。あいつ、変な言い訳してたけど、葉月を霊視してとんでもねぇものを視たんじゃねぇのか。
あんなの見ちまったら、うかつに葉月を霊視できねぇ……。
そもそも。
俺とあいつが同じように視えるかも疑問だけどな。俺と葉月は坂を下り『萬屋マーケット』への帰路についていた。
「千堂さん、今日はありがとうございます。雨宮先輩に掛け合ってくれたおかげで、少し安心できました。綾人の親族が見つからないようなら、お父さんに反対されても私が遺骨を引き取ります」
「…………お腹の子の事、いつまでも隠しておけねぇよな。ちゃんと、親父さんに言ったほうがいい」
本気で産むつもりなら、肉親の助けを借りるしかない。二人の交際に反対していても、辰子島で生まれる孫は可愛いだろう。俺の助言に、葉月の視線は揺れる。
「はい、千堂さん」
「もし、一人で言うのに勇気がいるっていうんなら俺が一緒に……」
そう言いかけて、聞き慣れない着信音がした。どうやら葉月の着信コール音のようで、スマホを手に取ると応答する。少し動揺したように何度か頷き、雑談すると葉月は電話を切って俺を見た。
「どうした?」
「警察からでした。綾人の親族が見つかったみたいで……私と会いたいと言ってるそうなんです。お腹の子の事もあるし……、順序は逆だけど、先に会おうかなと思います」
「見つかって良かったな、遺体を引き取りに来たのか。そうか……うーん、ややこしくなりそうな気もするが、俺も一緒に行ってやるよ」
うまく言えないが、本能的に嫌な予感がした。だが妙な正義感が出てしまうのが俺の悪い癖で、余計な事に顔を突っ込みすぎて親父によく叱られるんだよな。
とりま、なるようにしかならない。
✤✤✤
警察で待っていたのは、喪服を着た小柄な老夫妻だった。年齢からして神崎の祖父母のような年代だろうか。人の良さそうな柔和な大黒天のような顔をしているが、違和感を感じる。
「あなた様が、綾人様と婚約されていた方ですね。私どもは神崎家の分家、岩倉の者です」
「この度はご愁傷様です。は、はい。お互い結婚の約束をしていました。お父さんには反対されましたが……、私のこと警察からお聞きになられたんですか?」
違和感の正体は、この二人が神崎の死を悲しんでいるようには見えないこと、本家ではなく分家の者がこの島に来ているって事だよな。
しかし、よくよく考えれば行方不明になった親戚が死んで発見されるなんて、頭の隅でどこか予想をしているのかもしれない。
辛すぎて、両親が顔を確認できないかもしれないしな……特に水死体は。
「ええ、ええ。綾人様は船で運びます。ご当主の裕貴様は島を出られませんで、親戚の私らが代わりに来ました。それで、あちらで葬式を執り行いますので、生前ようしてもらった貴方にも来てほしいと仰っております」
「宿も神崎家の一室を用意させていただくと……それが気を使うようなら、民宿も用意すると言うことです」
「ご当主、綾人さんのお父様ですか?」
「いやぁ、裕貴様は綾人様の兄になります。母親の和歌子様も、姉の菜々様もお待ちしています」
突然の急展開に、葉月は俺に助けを求めるように視線を向けた。
身重のまま一人で、死んだ彼氏の実家に行くのは気が重いかもしれない。父親と共に行くのが一番だろうが、あの島に渡る事も反対しそうだよなぁ。
でも、そうなると雨宮たちがあの島に渡るので合流することになる。
「俺の友人たちが霧首島に観光するって言ってたし、俺も行くわ。こいつの体調も心配なんで……船酔いしたら余計に吐くだろ」
「ほう……、この時期に珍しいなぁ。ところでその方はどちら様ですか?」
「関東でお世話になったバイト先の先輩なんです。従兄妹がこの島の出身で遊びに来てたので久しぶりに会ったんです」
「千堂です、この度はご愁傷様です」
「千堂さんですか、そのほうが安心ならええでしょう。民宿はこっちで用意します」
一瞬、岩倉夫妻は目を細め真顔になったがにっこりと微笑んだ。やっべぇ、もしかしたら俺の言い回しで、葉月の妊娠がばれたかもしれん。
この先こいつが神崎家とどう関わっていくかで、お腹の子の処遇も変わりそうだよな……。
俺は冷や汗を背中に感じながら愛想笑いした。
雨宮たちも俺たちもなんだか、あの霧首島に導かれているような気がして、薄気味が悪い。数珠をカバンの中に突っ込んで持ってきて良かったわ。
あれは死んだ爺ちゃんが祈祷したもので、霊を成仏させるには最強のもんだ、魔除けにもなるし…………、とりま、備えあれば憂いなしだ。
「じゃ、俺たちは朝のフェリーに乗ることにします。葉月、用意しようぜ。岩倉さん、なにからなにまですみません」
「いやいや、観光客が少ない季節に来てくれるのはありがたいよ。この季節は魚もうまいし、歴史的な場所もあるからねぇ」
俺は不審がられないように腰を低くして挨拶した。それが功を奏したのか陽気に受け答えしてくれたので、俺は胸を撫で下ろす。
あんなの見ちまったら、うかつに葉月を霊視できねぇ……。
そもそも。
俺とあいつが同じように視えるかも疑問だけどな。俺と葉月は坂を下り『萬屋マーケット』への帰路についていた。
「千堂さん、今日はありがとうございます。雨宮先輩に掛け合ってくれたおかげで、少し安心できました。綾人の親族が見つからないようなら、お父さんに反対されても私が遺骨を引き取ります」
「…………お腹の子の事、いつまでも隠しておけねぇよな。ちゃんと、親父さんに言ったほうがいい」
本気で産むつもりなら、肉親の助けを借りるしかない。二人の交際に反対していても、辰子島で生まれる孫は可愛いだろう。俺の助言に、葉月の視線は揺れる。
「はい、千堂さん」
「もし、一人で言うのに勇気がいるっていうんなら俺が一緒に……」
そう言いかけて、聞き慣れない着信音がした。どうやら葉月の着信コール音のようで、スマホを手に取ると応答する。少し動揺したように何度か頷き、雑談すると葉月は電話を切って俺を見た。
「どうした?」
「警察からでした。綾人の親族が見つかったみたいで……私と会いたいと言ってるそうなんです。お腹の子の事もあるし……、順序は逆だけど、先に会おうかなと思います」
「見つかって良かったな、遺体を引き取りに来たのか。そうか……うーん、ややこしくなりそうな気もするが、俺も一緒に行ってやるよ」
うまく言えないが、本能的に嫌な予感がした。だが妙な正義感が出てしまうのが俺の悪い癖で、余計な事に顔を突っ込みすぎて親父によく叱られるんだよな。
とりま、なるようにしかならない。
✤✤✤
警察で待っていたのは、喪服を着た小柄な老夫妻だった。年齢からして神崎の祖父母のような年代だろうか。人の良さそうな柔和な大黒天のような顔をしているが、違和感を感じる。
「あなた様が、綾人様と婚約されていた方ですね。私どもは神崎家の分家、岩倉の者です」
「この度はご愁傷様です。は、はい。お互い結婚の約束をしていました。お父さんには反対されましたが……、私のこと警察からお聞きになられたんですか?」
違和感の正体は、この二人が神崎の死を悲しんでいるようには見えないこと、本家ではなく分家の者がこの島に来ているって事だよな。
しかし、よくよく考えれば行方不明になった親戚が死んで発見されるなんて、頭の隅でどこか予想をしているのかもしれない。
辛すぎて、両親が顔を確認できないかもしれないしな……特に水死体は。
「ええ、ええ。綾人様は船で運びます。ご当主の裕貴様は島を出られませんで、親戚の私らが代わりに来ました。それで、あちらで葬式を執り行いますので、生前ようしてもらった貴方にも来てほしいと仰っております」
「宿も神崎家の一室を用意させていただくと……それが気を使うようなら、民宿も用意すると言うことです」
「ご当主、綾人さんのお父様ですか?」
「いやぁ、裕貴様は綾人様の兄になります。母親の和歌子様も、姉の菜々様もお待ちしています」
突然の急展開に、葉月は俺に助けを求めるように視線を向けた。
身重のまま一人で、死んだ彼氏の実家に行くのは気が重いかもしれない。父親と共に行くのが一番だろうが、あの島に渡る事も反対しそうだよなぁ。
でも、そうなると雨宮たちがあの島に渡るので合流することになる。
「俺の友人たちが霧首島に観光するって言ってたし、俺も行くわ。こいつの体調も心配なんで……船酔いしたら余計に吐くだろ」
「ほう……、この時期に珍しいなぁ。ところでその方はどちら様ですか?」
「関東でお世話になったバイト先の先輩なんです。従兄妹がこの島の出身で遊びに来てたので久しぶりに会ったんです」
「千堂です、この度はご愁傷様です」
「千堂さんですか、そのほうが安心ならええでしょう。民宿はこっちで用意します」
一瞬、岩倉夫妻は目を細め真顔になったがにっこりと微笑んだ。やっべぇ、もしかしたら俺の言い回しで、葉月の妊娠がばれたかもしれん。
この先こいつが神崎家とどう関わっていくかで、お腹の子の処遇も変わりそうだよな……。
俺は冷や汗を背中に感じながら愛想笑いした。
雨宮たちも俺たちもなんだか、あの霧首島に導かれているような気がして、薄気味が悪い。数珠をカバンの中に突っ込んで持ってきて良かったわ。
あれは死んだ爺ちゃんが祈祷したもので、霊を成仏させるには最強のもんだ、魔除けにもなるし…………、とりま、備えあれば憂いなしだ。
「じゃ、俺たちは朝のフェリーに乗ることにします。葉月、用意しようぜ。岩倉さん、なにからなにまですみません」
「いやいや、観光客が少ない季節に来てくれるのはありがたいよ。この季節は魚もうまいし、歴史的な場所もあるからねぇ」
俺は不審がられないように腰を低くして挨拶した。それが功を奏したのか陽気に受け答えしてくれたので、俺は胸を撫で下ろす。
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