鬼遣の贄〜雨宮健の心霊事件簿〜④

蒼琉璃

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第六話 事件発覚①

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 欠片ピースがぴったりとはまり込むような感覚に、僕は何かしら因縁めいたものを感じた。あまりにも、僕が横林さんから聞いた『わくわくまーと』で行方不明になった人と、状況がかぶりすぎていないか?

「え、雨宮なんで知ってんの? 俺も顔と名字くらいしか知らないけど。たしか神崎って言ってたよ、そいつ、島じゃ有名なやつなの?」
「やっぱり……。いや、僕の働いてるわくわくまーとの先輩から聞いたんだよ。仕事中に行方不明になった人がいるって。あまりにもその状況が似てるから、驚いたんだ」
「なにそれ、もしかして霊が関係したりしてるのかな?」

 僕の言葉に梨子が食い気味に身を乗り出した。なんだか梨子は、心霊ファイルを管理するようになってから、こういう事に本当に敏感になってきたなぁ。
 将来的には巫女として僕の仕事を管理したいと言ってるけど、データを取ったり事件ファイルを記録する仕事は、彼女に向いてそうだ。
 そうなると、彼女と一緒にいられるってわけだから、素直に嬉しいんだけど、複雑だ。

「いや、霊が関係しているかどうかは分からないよ。なにか個人的な理由があって失踪したのかもしれないし。だけど……、あのコンビニの近くの沼、あそこは本当にやばい」
「あ……そういえば。私、あの底なし沼で、昔から人か足を滑らせて亡くなってるって聞いたことがあるよ。遺体が上がりにくいから、自殺する人も多いんだって」

 釣りをして誤って落ちても、長い間浮いてこないと聞いたことがある。この島で行方不明になって、一ヶ月後くらいにあの辰好沼たつよしこに浮かび上がってきたなんて恐ろしい話が僕の子供の頃からあった。
 僕は、ばぁちゃんの言いつけを守って、沼に近づかず、あそこのバス停を利用しないように気をつけていた。なるべく話題にもふれないようにしていたけれど、大人の話というのは、けっこう子供の耳に入ってくるものだ。
 もしかして、あの沼に神崎さんは行ったんじゃないのか?

「なぁ、もしかして神崎ってやつはあの沼に行ったんじゃないだろうな」
「僕も一瞬それが頭によぎったけど、うかつな事は言えないよ。明くん、まずは安藤さんの話を聞いてあげて欲しい」

 二人の会話に、ばぁちゃんは呆れたようにしていたものの、諦めたような口調で言った。

『やれやれ、これも龍神さまのお導きなのかねぇ』

 ✤✤✤

 それから、しばらく二人と軽い雑談をしていると、あっという間に時間が過ぎていった。
 明くんは安藤さんに会うために、待ち合わせの場所に行き、僕は梨子を実家まで送り届ける。神社で働きつつ、島の研究をするのは明日からということで、今日はひさしぶりに家族水入らずでゆっくり過ごすと言っていた。
 僕は自転車に乗ると、出勤二日目のバイト先へと向かう。

『なんだい、騒がしいねぇ』
「ほんとだ、なんかあったのかな? 交通事故かな?」

 ばぁちゃんは僕の後ろに乗りながら、ひょっこり肩から顔を出して騒がしい方を見つめた。
 バス停のほうの片側一車線が通行止めになっていて、パトカーが二台と救急車が一台止まっている。僕と同じように、様子をうかがうようにして、数人の野次馬やじうまが遠巻きで見ていた。
 駐在さんの自転車もあるけど、あのパトカーは本土から応援を頼んだものだな。それにしても、なにか大きな事故か事件でもあったんだろうか?
 なんだか、僕は嫌な予感がした。
 コンビニの駐車場に自転車を止め、周囲の騒がしい様子を気にしながら鍵を抜くと、とりあえずコンビニの中に入る。
 店内に客はいない。
 おそらく、というか間違いなくあちらの騒ぎが気になって見に行ったんだろう。

「あ、雨宮くん……。大変なことになったよ」
「あれ。店長……今日は非番だったんじゃないんですか? 大変なことって、バス停の方でなにかあったんですか」

 カウンターのほうで、横林さんと店長が青ざめた様子で話し込んでいた。
 確か貰ったシフト表では、店長は休みになっていて、この時間は佐藤さんが入っているはずなんだけど。
 もしかして、バイト初日から僕が店長が呼び出されるくらいの大きなミスでもしてしまったんだろうか。

「いや………、バス停の奥の方に沼があるらしいんだけど知ってる? 朝方、釣りをしにきた人が、その周辺で男女の遺体を発見したんだよ。その男性の方が佐藤さんの……息子さんで」
「つきあってた女と心中したんじゃねえかって。それでな………常連さんの聞いた話だと、どうも女の足首を掴んでた遺体が、もう二体見つかったんだって」
「え………?」

 僕は、言葉を失った。
 あの沼には絶対に行くなとあれほと念を押したのに……。応急処置的なお祓いをして、お守りを持たせても、それが通用しないほどの強力な悪霊まものなのか。
 それとも、自分たちの意思に反しなんらかの理由で辰好沼に向かってしまったのか。
 僕はとてつもなく罪悪感に苛まれた。もし僕が早退して、すぐにでもお祓いしていれば、彼らの状況は変わっていて、死ななくてもすんだかもしれないのに。
 佐藤さんの代わりに店長が出勤しているのは、息子さんが亡くなったせいだったのか。

『健。そう毎回依頼人を助けてやれるわけじゃないんだよ。ばぁちゃんだって、失敗もあったし、救えなかった人もいる。菜々子ななこが失敗したって、なんにもおかしかないよ』

 ばぁちゃんは、母さんを庇うように言った。僕らは万能な神様じゃない、ばぁちゃんが言うことはもっともだが、それでもやっぱり、彼等を救えなかったという罪悪感は消えはしない。

「女の足首を持っていたやつの足に、もう一人絡みついてたんだってよ。そいつらの身元はまだわかんねぇけど……。もし警察から身元確認の連絡が入ってきたら、どっちかが神崎じゃねぇかって店長と話してたんだ」
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