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第二話 新生活②
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店長に呼ばれ、バックルームで軽い説明を受けると研修中のバッジを貰った。
とりあえず、僕としては夕方から夜の時間帯を通信教育の勉強の時間にあて、朝か昼間にシフトに入れたら良いということを伝えてある。
店長は僕の要望を聞きつつ、人手が足りないときは、夜のシフトを頼むかもしれないという提案を出してきたので、とりあえずここは社畜……じゃない、社会人として臨機応変に対応すると答えた。
制服に着替え、バックルームから出ると、見慣れた中年女性がカウンターに立っていて、横林さんと話していた。
「じゃ、店長、横林くんお先に失礼します。あっ、雨宮さんところの息子さんじゃない! 帰ってきたのねぇ、やっぱり地元が一番でしょう。働きながら神職免許取るんだって? 偉いわねぇ」
「あ、さ、佐藤さん……ご無沙汰しています」
「健くんは、本当に好青年ねぇ。うちの息子もいつまでも馬鹿やってないで、真面目になって欲しいものだわ」
はぁ……。
母さんの知人の佐藤さんだ。神社に良くお参りにくる人で、田舎にありがちだけど、僕の情報は全部この人に筒抜けになっている。
ここでは、都会ほどプライバシーなんてものは無い。確か佐藤さんの息子さんって、僕の四つくらい下の子で地元では、暴走族とまでは言わないまでも、マイルドヤンキーみたいな感じだったはずだ。
なんとなく気まずいが、同じ職場で働く以上、この人の干渉も我慢しなければいけない。
「佐藤さん、お疲れ様。それじゃ僕も帰りますね。何かあったら電話してください」
そう言って、店長と佐藤さんが帰ると僕はカウンターへと向かった。初出勤日で緊張している僕を、横林さんはちらりと見る。
「雨宮、でいい? 敬語苦手だから」
「あ、はい。構いません」
ばぁちゃんが、まるで不動産の内見のように、コンビニの中をウロウロと見て回っているのに気を取られつつも、僕は頷いた。
「神主目指してるんだ、じゃあさ……霊感とかもあんの?」
「いや、まぁ……。実家が神社なので、ゆくゆくは跡を継ぐつもりです」
申し訳ないが、佐藤さんを少し恨んだ。
もう慣れたものだけど、僕が霊感があると知ったらこうやって、興味本位でいろいろと突っ込まれてしまう。
自分に何か憑いてないか、とか聞かれる位なら良いけど、簡単にお祓いして欲しいとか、こいつは、みんなの気を引くために嘘をついてるんだろと言うような態度を取られると、本当にやるせなくなってしまうからだ。
曖昧に濁すと、横林さんは『ふーん』と気のない返事をする。
「だから店長が雇ったのかもな。お前の前のバイト、オープンスタッフで夜勤やってたんだけど、お前が入る一週間前に行方不明になったんだよ」
「え? バイトに来なくなってそのまま失踪したんですか?」
「ちげーよ。俺と一緒に夜勤入ってたのに、そのまま荷物置いて居なくなったんだ。そいつ、神崎っていうんだけど、どうやらこの島出身じゃなくてさ。緊急連絡先がデタラメで身内もいないみたいで……。とりあえずうちの店長と彼女さんが警察に届けたんだけど、まだ見つかってないんだ」
なんだか嫌な話だ。
都会なら、嫌になって途中で帰ってしまい、そのまま仕事に来なくなった、なんて話はよく聞く。
だけど、神崎さんという人は移住者だ。
狭い島でそんなことをしたら、次の仕事に響きそうだって思いそうなものだけどな。
それに、彼女さんを置いて仕事中に行方不明になるなんて、なんらかの事件に巻き込まれたのか、事情がありそうな気がするんだけど。
「神崎さん、早く見つかるといいですね。でもなんで僕の霊感と関係あるんですか?」
「俺は霊感ないから分からないし信じてねぇけど、このあたりに心霊スポットがあるんだろ? それで視えたりするのか、夜勤はあんまり地元の奴が入りたがらないんだ。霊感があって神主の息子なら、対処法とか分かるって思ったんじゃね」
「はぁ」
僕は曖昧に返事をした。
なんだか、横林さんの話だと慣れた頃には、店長と共に夜勤に入れられそうな勢いだ。しかし、勤務初日から新人に対して、こんな出鼻を挫くような事を言い出すなんて、横林さんも大概だなと僕は思った。
店内をぐるりと一周したばぁちゃんが僕の元まで来ると言う。
『やっぱり言わんこっちゃない、ここは長い間更地になっていて建物なんて無かったんだよ。あの沼地の影響もあるせいか、土地が穢れてる。それに外から来た新しい住人を快く思わない連中もいるからね。とりあえず入り口に盛り塩でもしとくんだね』
僕はあえて霊視しなかったが、沼地の影響でこのあたりは、霊道になっているのかもしれない。とりあえず、明日にでもお客さんに見えないようにして盛り塩をする許可を得ようか。
ひょっとして、よそ者を嫌がる島民の念もあるかもしれないし。
しかし、今はとりあえず新しい仕事を覚えなくちゃいけない。
「横林さん、よろしくお願いします!」
コンビニのバイトは初めてだったが、品出しや店内清掃、公共料金の支払い、ホットスナックの製造などやる事が沢山あった。
前の仕事で、得意先の営業周りをしていたこともあり、レジの接客などは、なんとか応用が効いたがやることは多いなぁ。
店長の言うとおり、島で物を買える場所は限られているので、何でも手に入るコンビニは、若い人だけじゃなく、お年寄りにも人気みたいだ。僕は、ようやく休憩に入るとバックルームに戻り、スマホが点滅していることに気付いて開けた。
『健くん、新しいバイトどう?』
とりあえず、僕としては夕方から夜の時間帯を通信教育の勉強の時間にあて、朝か昼間にシフトに入れたら良いということを伝えてある。
店長は僕の要望を聞きつつ、人手が足りないときは、夜のシフトを頼むかもしれないという提案を出してきたので、とりあえずここは社畜……じゃない、社会人として臨機応変に対応すると答えた。
制服に着替え、バックルームから出ると、見慣れた中年女性がカウンターに立っていて、横林さんと話していた。
「じゃ、店長、横林くんお先に失礼します。あっ、雨宮さんところの息子さんじゃない! 帰ってきたのねぇ、やっぱり地元が一番でしょう。働きながら神職免許取るんだって? 偉いわねぇ」
「あ、さ、佐藤さん……ご無沙汰しています」
「健くんは、本当に好青年ねぇ。うちの息子もいつまでも馬鹿やってないで、真面目になって欲しいものだわ」
はぁ……。
母さんの知人の佐藤さんだ。神社に良くお参りにくる人で、田舎にありがちだけど、僕の情報は全部この人に筒抜けになっている。
ここでは、都会ほどプライバシーなんてものは無い。確か佐藤さんの息子さんって、僕の四つくらい下の子で地元では、暴走族とまでは言わないまでも、マイルドヤンキーみたいな感じだったはずだ。
なんとなく気まずいが、同じ職場で働く以上、この人の干渉も我慢しなければいけない。
「佐藤さん、お疲れ様。それじゃ僕も帰りますね。何かあったら電話してください」
そう言って、店長と佐藤さんが帰ると僕はカウンターへと向かった。初出勤日で緊張している僕を、横林さんはちらりと見る。
「雨宮、でいい? 敬語苦手だから」
「あ、はい。構いません」
ばぁちゃんが、まるで不動産の内見のように、コンビニの中をウロウロと見て回っているのに気を取られつつも、僕は頷いた。
「神主目指してるんだ、じゃあさ……霊感とかもあんの?」
「いや、まぁ……。実家が神社なので、ゆくゆくは跡を継ぐつもりです」
申し訳ないが、佐藤さんを少し恨んだ。
もう慣れたものだけど、僕が霊感があると知ったらこうやって、興味本位でいろいろと突っ込まれてしまう。
自分に何か憑いてないか、とか聞かれる位なら良いけど、簡単にお祓いして欲しいとか、こいつは、みんなの気を引くために嘘をついてるんだろと言うような態度を取られると、本当にやるせなくなってしまうからだ。
曖昧に濁すと、横林さんは『ふーん』と気のない返事をする。
「だから店長が雇ったのかもな。お前の前のバイト、オープンスタッフで夜勤やってたんだけど、お前が入る一週間前に行方不明になったんだよ」
「え? バイトに来なくなってそのまま失踪したんですか?」
「ちげーよ。俺と一緒に夜勤入ってたのに、そのまま荷物置いて居なくなったんだ。そいつ、神崎っていうんだけど、どうやらこの島出身じゃなくてさ。緊急連絡先がデタラメで身内もいないみたいで……。とりあえずうちの店長と彼女さんが警察に届けたんだけど、まだ見つかってないんだ」
なんだか嫌な話だ。
都会なら、嫌になって途中で帰ってしまい、そのまま仕事に来なくなった、なんて話はよく聞く。
だけど、神崎さんという人は移住者だ。
狭い島でそんなことをしたら、次の仕事に響きそうだって思いそうなものだけどな。
それに、彼女さんを置いて仕事中に行方不明になるなんて、なんらかの事件に巻き込まれたのか、事情がありそうな気がするんだけど。
「神崎さん、早く見つかるといいですね。でもなんで僕の霊感と関係あるんですか?」
「俺は霊感ないから分からないし信じてねぇけど、このあたりに心霊スポットがあるんだろ? それで視えたりするのか、夜勤はあんまり地元の奴が入りたがらないんだ。霊感があって神主の息子なら、対処法とか分かるって思ったんじゃね」
「はぁ」
僕は曖昧に返事をした。
なんだか、横林さんの話だと慣れた頃には、店長と共に夜勤に入れられそうな勢いだ。しかし、勤務初日から新人に対して、こんな出鼻を挫くような事を言い出すなんて、横林さんも大概だなと僕は思った。
店内をぐるりと一周したばぁちゃんが僕の元まで来ると言う。
『やっぱり言わんこっちゃない、ここは長い間更地になっていて建物なんて無かったんだよ。あの沼地の影響もあるせいか、土地が穢れてる。それに外から来た新しい住人を快く思わない連中もいるからね。とりあえず入り口に盛り塩でもしとくんだね』
僕はあえて霊視しなかったが、沼地の影響でこのあたりは、霊道になっているのかもしれない。とりあえず、明日にでもお客さんに見えないようにして盛り塩をする許可を得ようか。
ひょっとして、よそ者を嫌がる島民の念もあるかもしれないし。
しかし、今はとりあえず新しい仕事を覚えなくちゃいけない。
「横林さん、よろしくお願いします!」
コンビニのバイトは初めてだったが、品出しや店内清掃、公共料金の支払い、ホットスナックの製造などやる事が沢山あった。
前の仕事で、得意先の営業周りをしていたこともあり、レジの接客などは、なんとか応用が効いたがやることは多いなぁ。
店長の言うとおり、島で物を買える場所は限られているので、何でも手に入るコンビニは、若い人だけじゃなく、お年寄りにも人気みたいだ。僕は、ようやく休憩に入るとバックルームに戻り、スマホが点滅していることに気付いて開けた。
『健くん、新しいバイトどう?』
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