鬼遣の贄〜雨宮健の心霊事件簿〜④

蒼琉璃

文字の大きさ
上 下
3 / 46

第一話 新生活①

しおりを挟む
 一身上の都合により、退職した僕は生まれ故郷である『辰子島』に帰ってきた。家の事情もあり神社本庁の推薦状で、僕は通信教育で入学することになったのだ。
 ばぁちゃんは、ようやく家を継ぐ決心がついたかと喜んでいたが、正直なにかと心霊現象に巻き込まれてその度に会社に、有給届けを出すのが面倒だったてのがある。
 雨宮神社は、正月やお祭りの時に本土からも観光客が来るほか、巷でパワースポットとか言われているらしく、それなりに忙しい。
 生活には困らないが、勉強しつつ生活費くらいは実家に入れようと僕はバイトする事にした。

『神職の勉強に専念するほうが、龍神様も安心するよ! あんたはすぐに仕事疲れたー言うて勉強しないでしょーが』
「うっ、まぁ……高校の時はそうだったけどさ、ばぁちゃん。僕も社会人を経験してそれなりに成長したんだから。ある意味、神社以外のところで働くって息抜きになるし」

 とはいえ、僕は試験勉強を怠けて梨子に教えてもらったという前科があるので、ばぁちゃんの心配はもっともだ。
 そう言えば、梨子は卒論のテーマに辰子島と雨宮神社を選んだらしく、帰郷するって言ってたっけ。そのあいだ、神社でバイトも手伝ってくれるというありがたい申し出もしてくれて大助かりだ。
 梨子と久しぶりに会える嬉しさと、あの死ぬほど可愛い巫女姿を見れるかと思うと、ニヤついてしまう。

『梨子ちゃんが、帰ってくるんだったら一緒に神社でバイトすればいいでしょうに。ほんとあんたはこう……、恋愛オンチって言うかねぇ。誰に似たのか』

 ばぁちゃんが、呆れたように話しかけてきた。恋愛オンチと言われても、正直言い返せないのが腹立たしい。
 もう少し早く知ってたらバイトの面接受けてなかったんだけどさ……。
 島の移動は原則車か自転車になるが、バイト先までは自転車で行くことにした。

「だって、バイトの面接受かってから、連絡きたんだから仕方ないだろ。そりゃ僕だって梨子と一緒に働きたいし……、将来的にもそのつもりだけど」
『――――それにねぇ、働くならなんで『萬屋よろずやマーケット』の方にしておかないんだい』

 萬屋マーケットは、いわゆる地元のローカルなコンビニと言うか、コンビニを名乗っているものの個人商店のようなところだ。
 僕が物心ついた時からあって、オーナー夫妻の事も知ってる。
 バイトの募集があれば、そこで働かせて貰う事も考えたけど、家族でやっているような店だし、一度、島の外に出た僕がお願いしに行くのは気が引けた。
 そこで、僕は最近オープンしたという、本土ではそこそこ知名度のある『わくわくまーと』のバイト募集の広告に目を付けたのだ。

「どうせなら、東京にあったチェーン店の方がいいよ。都会の生活を思い出せるし、昼勤のシフトにして貰ったから、たぶん安全」
『――――どうだかね』

 信号が切り替わり、僕はバス停の手前で直角に曲がってそちらの方を見ないようにするとコンビニの前で自転車を止めた。
 あのバス停の背後には、子供の頃ばぁちゃんとバスを待っていた時に遭遇した、半ば魔物と化した『釣り人』の悪霊がいる。
 大人になっても消える様子は無く、僕はなるべく、そのバス停を利用しないようにしていた。
 あの時とは違い、僕はもう所構わず霊視してしまう能力を遮断しゃだんするスイッチの切り替えは出来ているけど、いわゆる悪霊化して魔物になった霊の中には、そのバリケードを突破して存在をアピールしてくる者もいた。
 だから、ばぁちゃんは僕を心配してあそこを通るのはいい顔はしないし、僕も全く見えないふりをして悟られないようにする。


 ――依頼された心霊事件に関係のない霊とは、関わるな。


 それがばぁちゃんが口酸っぱく言っている事だ。僕も、よほどせっぱつまって頼られない限り、霊の世界に足を突っ込みたく無い。
 ごくごく普通の二十代でいたいからだ。
 ボディバッグを背負った僕の後を、ふわふわと守護霊のばぁちゃんがついてくる。
 店に入ると、わくわくまーとの聞き慣れた入店音がし、カウンターには店長と僕より一回り年上の男性店員がいてこちらを見た。

「いらっしゃ……あぁ、雨宮くん! 今日からだったね、よろしく頼むよ」
「おはようございます、店長」
 
 店長もその男性店員も、この島では見かけた事のない顔だ。
 店長は確か、もともと本土で直営店の店長をしていたようで、本社が離島にも店をオープンさせるにあたり、こちらに派遣されてきたようだった。
 オープンスタッフは10人くらいだと聞いていたけど、田舎ならそれでも回るのかな。
 いや、もしかすると、多すぎるくらいかも知れないけど。

「横林くん、彼が雨宮くんだ。彼はフリーターでこの業界はけっこう長いから、一通り教えて貰ってくれるかな。僕は夜勤なんでね」
「ああ、神崎の……。昼間はそこそこ忙しいけど都会のコンビニほどじゃないから、よろしく」

 夜勤といっても、確かここは夜中の25時には閉店すると聞いている。横林さんはいかにもフリーターというような風貌で、必要以上の事はあまり話したく無いと言うオーラを感じた。
 神崎、と言うのは辞めたバイトの人だろうか。
 そう言えば、急遽きゅうきょ欠員が出てしまって、面接もそこそこに、僕がいつから出勤できるか質問されたことを思い出した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

処理中です...