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19 古の伝承②

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「ええ、なにそれぇ。傷ついちゃうなぁ、アリアちゃん。こう見えて俺は、ドルチェちゃんには忠犬ですよん♡ かんわいい御主人様に楯突く奴は、ランスロットであろうと、容赦なくちゃんとぶっっっ殺すから安心してね♪」

 レジェロ様は口を尖らせると、ふんぞり返ったまま首を傾げ、ニヤリと凶悪な笑みを浮べる。確かにレジェロ様は騎士らしくないわね、だって少し……強面過ぎるし、エッチで女好きだもの。

「いえ。私が想像しておりましたのは、寡黙で誠実な、騎士様でしたので。聖女様にはそのような男性が、相応しいかと思っていたのです。ですが、聖女様が、そのエルフかたお選びになられたのならば、意味があるのでしょう」

 アリア様には、レジェロ様の様子は見えていないと思うのだけれど、刺々しい言葉だわ。きっと、私の事を心配してくれているのでしょうけれど、逆にこっちが選択を間違ったのでは? と言われているようで緊張してしまう。
 レジェロ様は、私と営みをしてから、ウロボロスの騎士である証の紋章が、浮かび上がってきたと言っていたけれど、そう言う事もアリア様にはお見通しなのかしら?

「ア、アリア様。ウロボロスの騎士とは一体どういう存在なのですか? 私を護ってくれる、というのはなんとなく分かるのですが……」

 そうですね、とアリア様は言うと付き添いのエルフの巫女に、本棚から一冊取るように申し付けると、彼女からそれを受け取った。ページを巡ると、レジェロ様が私の肩に顎を乗せ、腰を抱く。
 まるで、恋人同士みたいなレジェロ様の仕草に、私は頬が熱くなってしまったの。
 本には私のお腹に浮き出ている紋章や、竜が自分の尾を噛む挿絵が描いてある。そして、恐らく女神アリオーソと思わしき女性に、跪く騎士の姿が描かれていたわ。

「ウロボロスの騎士の起源は、創世記にまで遡ります。古き竜と慈愛の女神アリオーソは、全ての竜の母とも呼ばれておりました。かつて、アレクサンドラ大陸には飛龍ワイバーン大海竜シー・サーペント等よりも、高位の神竜達がおりました。神竜も七神も創造された者私たちに近く、その頃は創造主と共に暮らしていたそうです」
「アリオーソだけじゃない。全ての神々が祖先達に知恵を授けたって、爺さんから飽きるほど聞いたなぁ! 神々にはそれぞれお気に入りの種族が居て、その中でもエルフは万物の神々に寵愛されてたとか、うんたらかんたら~~」

 レジェロ様は耳をホジリながら言う。
 私も子供の頃に、お母さんからお伽噺のように聞かされていたもの。その頃の事を想像すると、胸が高鳴るわ。
 だって、神様から知恵を授けて貰って生きていた初期の頃は、魔物や邪神軍もおらず、まさに生き物にとっては理想郷で、とても平和だったと書かれているから。

「そしてアリオーソは、ある一人の人間に恋をしたのです。彼が最初のウロボロスの騎士アレグレッド。アレグレッドも彼女に永遠の愛を誓いました。ウロボロスの意味は不滅、永遠。女神の加護を受けた騎士は、後の邪神と神々の闘いで、邪神を神々と共に異界へ追放した英雄でもあります。今ではその尽力を尽くした英雄の存在は消され、皇族の祖先がその人物にあたるとされていますが」

 そうだわ、私もそのようにお母さんから聞いていたもの。

「聖女様が降臨される時、女神アリオーソと同じく、初めて契りを交わす異性を、ウロボロスの騎士として選ぶとう予言が伝えられているのです」
「初めての……?」

 アリオーソが人間に恋をしたのも初めて聞いたわ。いつの間にか邪神追放に尽力を尽くしていたのも、皇族の祖先とされているなんて言いように書き換えられているのね。
 彼女はどんな気持ちで、事実を知ったのかしら。それにしても、初めての相手がウロボロスの騎士になるの? 
 愛した、と言うよりもなし崩しに関係を持ってしまったレジェロ様が、選ばれてしまったんだわ。そう思うと、顔が熱い。

「聖女様は、生まれたての雛と同じなのです。完全に覚醒するまで、ご自身で身を護る手段がありません。ですから、貴女様の剣や、盾となる信頼できる騎士が必要なのです。愛し合い騎士との信頼が強まれば強まるほど、レジェロ様の力も増します。騎士と聖女は一心同体なのです。また、貴女様がこのアレクサンドラ大陸を安住の地へと導くまで、私のように協力する者達も現れる事でしょう」
「ほーん。つまりめちゃくちゃ俺、ドルチェちゃんにとっては重要って事ねぇ♪ いいじゃん、おもしれぇ。それでさぁ、アリオーソの魂の欠片ってどーいう事?」

 レジェロ様は私の腰を抱き寄せるとペロリと舌で唇を舐めて、楽しそうに笑う。なんだか自分が、さらに強くなる事を喜んでいるみたいだけれど……。
 私は、アリア様の目が見えないのを良い事にベタベタしてくるレジェロ様の手の甲を少し抓った。私が抓っただけじゃ、レジェロ様は全然痛がりもしないのが悔しいけど。

「レジェロ様。貴方が聖女様の信頼を得られる事が前提ですよ」

 アリア様は少し厳しい口調でそう言う。なんだか、アリア様はレジェロ様に手厳しい気がするわ。レジェロ様はへいへいと返事しつつも腰を抱いている。

「アリオーソの聖女については、諸説ありはっきりとしないのですが。女神アリオーソと、ウロボロスの騎士の子孫であるという説。女神アリオーソの生まれ変わりであるという説。女神が力を授けた娘であるという説です。ともかく、女神の力を持つ聖女である事を、女神の魂の欠片と称したのでしょう」

 私は、女神アリオーソと聖女の挿絵を見ながら指でなぞった。自分自身の事なのに、全然実感が沸かない。こんなにも深い関わりがあるのに、今まで何も知らずにいたなんて思わなかったわ。

「そう、なんですね……。まだ実感はないけれど不思議な事はいくつか起こりました。今回の神竜……ううん、死竜が消えてしまったのも、私の力なんですね。でも、どうして神竜があんな姿になっていたのですか」
「……分かりません」

 今まで、私とレジェロ様に対してはっきりと説明をしていたアリア様だけど、この時ばかりは歯切れが悪く答えた。

「神竜になんらかの変化が起こったのは確かですが、その原因が私には視えないのです。ランスロット様の事を視ようとすると、同じく靄のような物が頭の中で掛かって、彼の思考も未来も、全く読み取れないのです」

 アリア様のお話によると、引退した高位の巫女に協力をお願いしても、同様にランスロット様の事は視えないという。
 未来は不確かで、定まっていないと言う事なのかしら? 

「予知能力が使えないだなんて。それは何かしら妨害というか、邪魔が入っているって言う事ですか?」
「神竜とランスロット様の事が視えないのに関連性があるかは、分かりませんが。彼も予言された勇者ですので、ブリッランテ様の御力により、悪戯に勇者の未来を視て、運命を変えないようにとの事かもしれませんし」
「まぁ単純に、あの神竜が役目を終えて病気になっただけって事も考えられるよなぁ。俺達は神竜の死なんて、見た事がねぇからどうなるか知らねぇし? だ・け・どまぁ、本当に邪神が封印できてるかは、別の話だよなぁ♪」 

 レジェロ様は、一体何を言ってるのかしら? 私は驚いて彼を見上げた。アリア樣も光のない瞳で不審そうに彼を見ている。

「レジェロ様……どういう事なの?」
「だってぇ、確かに俺達はランスロットの仲間として、邪神軍を相手にしてぶっ殺しまくって、魔物の参謀や邪教徒も、殲滅させたよーー? んでも、この大陸の地下、神殿から異界に続く扉の先で、邪神を封じたのはあいつ一人なんだわ♡」

 それじゃあ……。
 実際に、レジェロ様達はランスロット様が、邪神を神々の鎖で封じた所を見ていないの?

「それは……。何故、ランスロット様は一人で邪神に挑まれたのですか?」
「で、でも……レジェロ様。邪神軍の気配は消えたんでしょ?」
「んとねーー♪ 異界に続く扉を通り抜けられたのは、神竜に乗った神々の祝福を受けた英雄ランスロット様だけだったんだよねぇ。ま、あいつが戻ってくると、邪神軍の気配は消えてたしぃ、魔物は居なくなってたんよな。んで、ソルフェージュ帝国とアレクサンドラ大陸に、平和でつまんねぇ日常は訪れたっしょ? やだねぇ、例えばの話よ、例え話☆」

 そうよね、例え話だわ。
 あれから、辺境や場外で魔物や邪神軍が出たなんてお話は、全然聞かなかったもの。そりゃあ、人気のない所や洞窟にはまだ居るだろうけれど。
 けれど、私と私の家族を襲った魔物は、明らかに誰かが差し向けた物だし……、なんだか胸がザワザワと嫌な感じがするの。

「一人で封印された事には驚きましたが、もしかすると……、可哀想ですが神竜は、その時に邪気に当たったのかもしれませんね。聖女様の使命は、この大陸でこれから起こる事に対抗する為に遣わされた、最後の希望なのでしょう」

 アリア様は、メヌエット様が即位されてから、ソルフェージュ帝国に暗雲が立ち込めると、思っていらっしゃるのだわ。
 でも……私も多分レジェロ樣も、何か言葉にできない物を感じているようだった。
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