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14. メヌエット皇太女の戴冠式①
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あの日いきなり抱きつかれたレジェロ様は、驚いた様子だったけど何故か嬉しそうにしていた。どうして泣いていたのかと理由を尋ねられたけれど、あんなに恐ろしくて、卑猥な夢を見ただなんて、とてもレジェロ様には言えなかったわ。
だって、あれは単なる夢だもの。
レジェロ様に説明のしようもないから、はぐらかすしかなかったわ。
ただ、私は本当にあの日、あまりにも怖くてレジェロ様にくっついて寝てしまったけれど。
あんなに性欲の強いレジェロ様なのに、あの夜ばかりは、手を出さずに居てくれたのだから、私が思うよりも、彼は案外優しいエルフなのかしら?
ピッツィカート様のご逝去は、翌日になって、国中に号外がばらまかれた。
皇帝の急逝に、帝都オラトリオは驚きと悲しみに包まれ、ソルフェージュ帝国のみならず、アレクサンドラ大陸にいる、全ての種族と民が悲しみ喪に服した。
お亡くなりになられるのには、まだお早い年齢だったもの。
「本当に驚いたわ。こんなに早くご逝去されるなんて……。やっぱり、これまでの無理が祟ったのかしら」
仕事終えたメイド達は、階下にある休憩所でお茶をしながら、縫い物をしていた。
レジェロ様のお城で雇われているメイドって、種族問わず、グラマラスだったり、美人だったり、美少女だったり、凄く……その、レジェロ様の趣味が、よく出てるなぁって呆れちゃう。
「あれよ、ランスロット様や、レジェロ様がお戻りになられた瞬間、天寿を全うして、ポックリ逝ったんじゃない?」
「ちょっと、あんた不謹慎よ。それよりメヌエット様と、ランスロット様のご結婚はどうなるのかしら? 帝都中の使用人にも休日が与えられるという噂でしょ。エリックと結婚パレードに行くつもりだから、延期は困るのよね。ねぇ、エリーナ。あんたはどう思う?」
私も、この城では最近新人メイドとして雇われた『エリーナ』と言う事になっているの。幸い、このお城には知り合いが居ないから、私が窃盗団に襲われた、あの酒宿場の娘だと気付く人はいない。
私はお皿洗いを手伝っていた手を止めて、先輩達の方を振り返った。
「ううん……。どうなんでしょう? メヌエット様の戴冠式が終われば、ランスロット様と直ぐにでもご結婚なされるような気がします」
「ええ? さすがに、一年くらいは喪に服すんじゃないの? でもまぁ、メヌエット様はお美しいけれど、風が吹けば倒れそうなお姫様だわ。連合国を纏めるには、まだまだ少し頼りない気がするのよね。かといって、第一皇子のグラーヴェ様は、とても病弱だと言うお話しだし、頼りにならないでしょう」
「エリーナ。あんた結構感が鋭いんしゃないかしら。ピッツィカート様がお亡くなりになって、世の中が沈んでいるもの。世界を救った英雄が、美しいお姫様と結婚だなんてお伽話みたいでしょ。帝都中が盛り上がるわよ」
メヌエット様はお美しいけれど、私と同い年だし、女帝としては、あまりにも若すぎるわ。貴族達は表向きメヌエット様に従っても、帝国宰相に政治をお任せするのではないかしら。
でも、皇配にランスロット様がいらっしゃれば、少なくともお二人共帝国民、ううん、この大陸で絶大な人気があるのだから、何事も同意が取りやすそう。宰相様方にとっては、政治を有利に進めやすくなりそうだものね。
以前の私ならお二人の結婚式を楽しみにしていたのに、あんな夢を見たせいで、ランスロット様のお姿を見るのがなんだか恐ろしく感じてしまう。
だってあまりにも、生々しい夢だったから……。
あの夢を見たせいなのか、両親を目の前で殺されたせいなのか、この間の葬儀でレジェロ様と離れるだけでも、なんだか不安になってしまったの。皇族の結婚パレードだなんて、もっと長い時間が掛かるだろうし、レジェロ様と離れるのは、憂鬱だわ。
「きゃっ……!」
私が再びお皿を拭いていると、背後から誰かに腰を抱かれ、私は思わず驚いて悲鳴を上げた。
「ああ、やっぱりエリーナはスタイルが良いわねぇ。レジェロ様が好きそう。それにしてもあんたのメイド服、私達よりも、上等な生地じゃない。なんで?」
はぁ……まただわ。
なにもかもレジェロ様が用意した、数々のいやらしいメイド服のせいで、色々と怪しまれるんですもの。
チルカさんは、ここで一番立場が強いメイドさんみたい。かなりの美人だし要領も良いから、仕事も早い上にエルフの執事にも気に入られているみたいで、贔屓されている。
彼女は、クレイパイプを片手に笑いながら煙を吐くと、遠回しに私に問い詰めてきた。
以前から、彼女は私の出身や家族構成などを色々と執拗に聞いてきたけれど、今日はまるで酒場で管を巻いている、酔っぱらいみたいに絶好調だわ。
彼女は悪い人じゃないけれど、私の事はあまり好きじゃないみたいで、チクチクと棘のある言葉を、こうして投げかけてくるの。
酒宿場でも、困ったお客様はいらしたから相手するのは慣れているけれど、やっぱり嫌な気持ちになる。
「そ、そうですか? あまり他の方のメイド服を、マジマジと見た事がないんです。レジェロ様は気紛れですから、新人の私に良いメイド服を用意してくれたのかもしれません」
「私の目は誤魔化せないよ。女好きのレジェロ様が、あんたが来てからこっちにはさっぱりお呼びが掛からないもの。知ってるよね、ここのメイドは皆一回はレジェロ様と寝てるの。それで気に入られたら、何度も部屋に呼ばれる。エルフで英雄のレジェロ様に特別に目を掛けて貰えるなんてさ、最高よねぇ。もしかしてエリーナも、私同様に玉の輿を狙っているの?」
「もう、辞めなってチルカ。また虐めて新しい子が辞めちゃうと困るでしょ」
チルカさんの言葉に、そこにいたメイド達が気まずそうな、呆れたような表情をして目を逸らした。レジェロ様がこのお城に来て間もない筈なのに、もう既に側室同士みたいな女同士の争いが生まれているだなんて……。
私にあんな事をしておいて、領地を持ったら誰彼構わず女の子に手を出していただなんて、想像するだけでムカムカしてくるわ。
でも、私がお城に来てからさっぱりだなんて聞くと、急に顔が熱くなってしまったのだけれど。
あの言葉って、嘘じゃなかったの?
本当に私でないと駄目なのかしら。
不意に、トントンと、陽気に階段を降りて来る音がして、全員がそちらに視線を向けた。手をヒラヒラと動かしながら階段を降りて来たのは、レジェロ様だった。
「あーー♪ こんなところに居たのね、エリーナちゃん。探しちゃったーー♡ あ、そのまんま君達は、休憩しててくれていいよーん」
「れ、レジェロ様!」
「こんなところにお越しになるなんて」
さすがに城主が、使用人が使う憩いの場に姿を表せば、慌てて立ち上がるわ。
クレイパイプの火を慌てて消すと深々と頭を下げたの。私の肩を抱いていたチルカさんも、何食わぬ顔で私から離れると、さっきのやり取りなんてまるでなかったかのように、微笑みを浮かべて頭を下げた。
「エリーナちゃん、そろそろ俺の部屋においで? 例の事もたーぷり打ち合わせしねぇといけねぇからね♪ 後さぁ、君達あんましエリーナちゃんの事を虐めるの辞めてくんね? この子すげぇ、泣き虫だからね。そう言う事で、んじゃよろ!」
「えっ、きゃっ! ま、まだお皿洗いが残って……レジェロ様!」
レジェロ様は軽いトーンで頭を傾け、ニッコリと口の端に笑みを浮かべたけれど、紅玉の瞳の奥は、全然笑っていなかったわ。
ベェ、と二又に割れたスプリットタンの舌を出して、おどけて私の肩を抱き寄せたの。
チルカさん達は、ポカンとしたけれど体を強張らせて頭を下げた。それを後目に、私はレジェロ様に肩を抱かれながら、廊下に出た。
「チルカちゃん、俺の強火ファンだからさ。グラマラスなキャワイイ子ちゃんだけどぉ、アウトかなぁ。ドルチェちゃん泣かせるのは、ウロボロスの騎士的に見逃せないし?」
「ちょ、ちょっとそれは……。お仕事を辞めさせてしまうのは悪いわ。ただでさえオラトリオは人が溢れているから、仕事を見つけるのが大変なの。ああ言う人はどこにでも居るから、聞き流せば大丈夫だもの」
「優しいねぇ。でも紹介状くらい、俺が書いてやっから大丈夫♡ つーかさ、ドルチェちゃん。考えたんだけど、メイドじゃなくて、シンプルに俺の愛人で良くない? だってぇ、エッチしない時も夜は怖いからって、俺の部屋で俺にくっついて寝てるじゃんね。かんわいい♡」
「だ、だってあれはっ……。なんだか夜が怖くなってしまって」
ニヤニヤ笑いながら、レジェロ様は私の肩を抱き寄せると囁いた。私は赤面してレジェロ様の胸板を押す。軽くて女好きで最低最悪なエルフだけど、何故かレジェロ様の側に居ると、ぐっすり安心して眠れるのは事実。
レジェロ様の愛人になったら……絶対苦労しそうだわ。でも、私とレジェロ様は夜の営みを経験していて、まるで恋人みたいな事をしてる。
私はどうやら聖女で、騎士道なんて、これっぽっちもないようなレジェロ様が、私の特別な騎士だって言うし。もう、頭が混乱しそうだわ!
「れ、レジェロ様、ところで用事ってなんですか」
「メヌエット皇太女の戴冠式があるんだよねぇ。興味ねぇし、面倒臭いんだけどぉ俺も出席しなくちゃなんねぇのよ。でもドルチェちゃん、寂しいがりやだからね。なんで、馬車の中で待ってるなら良いっしょ? なんなら、おめかしして俺の隣に彼女として座るぅ?」
「た、戴冠式に出席なんて一般人は出来ないじゃない。でも遠くから様子を見られるなら、行ってみたいな。メヌエット様が女帝になられたお姿……、美しくて星の女神様のようでしょうし」
あれだけ、私の存在が見つからないように保護した癖に、レジェロ様って時々冗談めいた事を言うのよね。戴冠式の後は、神殿から城まで馬車で移動されるから、そこでお姿を見られる筈だもの。
お部屋の前に立つと、レジェロ様は、まるでお姫様をエスコートするように扉を開けると恭しく部屋に入るよう腕を曲げて、頭を垂れた。
「だねぇ。もしかすると、ランスロットくんの迷子の迷子の竜ちゃんも、見られるかもしんないし」
「そう言えば……帰還されてから、竜を見てないわ」
「そーゆーこと♡ さ、ドルチェちゃん。聖女ちゃんに相応しい、かんわいいお洋服用意したんで、好きなの選んでちょーだい♪ 生着替えよろしくぅ♡」
お部屋に入ると、お姫様が着るような綺麗なドレスが並べられていた。
きっと平民の私なんかが触れた事もないような高級な生地で出来ているのね。高価で肌触りの良くて、デザインは清楚で可愛らしいものばかり。でも、とても一人で着られそうにないようなドレスだわ。
「素敵……! でも、一人じゃ着られないわ」
「んじゃ、チルカちゃんに頼んじゃお♪」
「ち、チルカさんに頼むの? レジェロ様、全部お話を聞いていたでしょう? ……性格悪い」
「お褒め頂いて嬉しいな♡ 最後の仕事で、弁えってのを覚えてもらわねぇーとさぁ、俺も送り出せないっしょ」
レジェロ様はニィっと笑うと鋭く目を光らせた。やっぱり、レジェロ様は悪いエルフだわ。
だって、あれは単なる夢だもの。
レジェロ様に説明のしようもないから、はぐらかすしかなかったわ。
ただ、私は本当にあの日、あまりにも怖くてレジェロ様にくっついて寝てしまったけれど。
あんなに性欲の強いレジェロ様なのに、あの夜ばかりは、手を出さずに居てくれたのだから、私が思うよりも、彼は案外優しいエルフなのかしら?
ピッツィカート様のご逝去は、翌日になって、国中に号外がばらまかれた。
皇帝の急逝に、帝都オラトリオは驚きと悲しみに包まれ、ソルフェージュ帝国のみならず、アレクサンドラ大陸にいる、全ての種族と民が悲しみ喪に服した。
お亡くなりになられるのには、まだお早い年齢だったもの。
「本当に驚いたわ。こんなに早くご逝去されるなんて……。やっぱり、これまでの無理が祟ったのかしら」
仕事終えたメイド達は、階下にある休憩所でお茶をしながら、縫い物をしていた。
レジェロ様のお城で雇われているメイドって、種族問わず、グラマラスだったり、美人だったり、美少女だったり、凄く……その、レジェロ様の趣味が、よく出てるなぁって呆れちゃう。
「あれよ、ランスロット様や、レジェロ様がお戻りになられた瞬間、天寿を全うして、ポックリ逝ったんじゃない?」
「ちょっと、あんた不謹慎よ。それよりメヌエット様と、ランスロット様のご結婚はどうなるのかしら? 帝都中の使用人にも休日が与えられるという噂でしょ。エリックと結婚パレードに行くつもりだから、延期は困るのよね。ねぇ、エリーナ。あんたはどう思う?」
私も、この城では最近新人メイドとして雇われた『エリーナ』と言う事になっているの。幸い、このお城には知り合いが居ないから、私が窃盗団に襲われた、あの酒宿場の娘だと気付く人はいない。
私はお皿洗いを手伝っていた手を止めて、先輩達の方を振り返った。
「ううん……。どうなんでしょう? メヌエット様の戴冠式が終われば、ランスロット様と直ぐにでもご結婚なされるような気がします」
「ええ? さすがに、一年くらいは喪に服すんじゃないの? でもまぁ、メヌエット様はお美しいけれど、風が吹けば倒れそうなお姫様だわ。連合国を纏めるには、まだまだ少し頼りない気がするのよね。かといって、第一皇子のグラーヴェ様は、とても病弱だと言うお話しだし、頼りにならないでしょう」
「エリーナ。あんた結構感が鋭いんしゃないかしら。ピッツィカート様がお亡くなりになって、世の中が沈んでいるもの。世界を救った英雄が、美しいお姫様と結婚だなんてお伽話みたいでしょ。帝都中が盛り上がるわよ」
メヌエット様はお美しいけれど、私と同い年だし、女帝としては、あまりにも若すぎるわ。貴族達は表向きメヌエット様に従っても、帝国宰相に政治をお任せするのではないかしら。
でも、皇配にランスロット様がいらっしゃれば、少なくともお二人共帝国民、ううん、この大陸で絶大な人気があるのだから、何事も同意が取りやすそう。宰相様方にとっては、政治を有利に進めやすくなりそうだものね。
以前の私ならお二人の結婚式を楽しみにしていたのに、あんな夢を見たせいで、ランスロット様のお姿を見るのがなんだか恐ろしく感じてしまう。
だってあまりにも、生々しい夢だったから……。
あの夢を見たせいなのか、両親を目の前で殺されたせいなのか、この間の葬儀でレジェロ様と離れるだけでも、なんだか不安になってしまったの。皇族の結婚パレードだなんて、もっと長い時間が掛かるだろうし、レジェロ様と離れるのは、憂鬱だわ。
「きゃっ……!」
私が再びお皿を拭いていると、背後から誰かに腰を抱かれ、私は思わず驚いて悲鳴を上げた。
「ああ、やっぱりエリーナはスタイルが良いわねぇ。レジェロ様が好きそう。それにしてもあんたのメイド服、私達よりも、上等な生地じゃない。なんで?」
はぁ……まただわ。
なにもかもレジェロ様が用意した、数々のいやらしいメイド服のせいで、色々と怪しまれるんですもの。
チルカさんは、ここで一番立場が強いメイドさんみたい。かなりの美人だし要領も良いから、仕事も早い上にエルフの執事にも気に入られているみたいで、贔屓されている。
彼女は、クレイパイプを片手に笑いながら煙を吐くと、遠回しに私に問い詰めてきた。
以前から、彼女は私の出身や家族構成などを色々と執拗に聞いてきたけれど、今日はまるで酒場で管を巻いている、酔っぱらいみたいに絶好調だわ。
彼女は悪い人じゃないけれど、私の事はあまり好きじゃないみたいで、チクチクと棘のある言葉を、こうして投げかけてくるの。
酒宿場でも、困ったお客様はいらしたから相手するのは慣れているけれど、やっぱり嫌な気持ちになる。
「そ、そうですか? あまり他の方のメイド服を、マジマジと見た事がないんです。レジェロ様は気紛れですから、新人の私に良いメイド服を用意してくれたのかもしれません」
「私の目は誤魔化せないよ。女好きのレジェロ様が、あんたが来てからこっちにはさっぱりお呼びが掛からないもの。知ってるよね、ここのメイドは皆一回はレジェロ様と寝てるの。それで気に入られたら、何度も部屋に呼ばれる。エルフで英雄のレジェロ様に特別に目を掛けて貰えるなんてさ、最高よねぇ。もしかしてエリーナも、私同様に玉の輿を狙っているの?」
「もう、辞めなってチルカ。また虐めて新しい子が辞めちゃうと困るでしょ」
チルカさんの言葉に、そこにいたメイド達が気まずそうな、呆れたような表情をして目を逸らした。レジェロ様がこのお城に来て間もない筈なのに、もう既に側室同士みたいな女同士の争いが生まれているだなんて……。
私にあんな事をしておいて、領地を持ったら誰彼構わず女の子に手を出していただなんて、想像するだけでムカムカしてくるわ。
でも、私がお城に来てからさっぱりだなんて聞くと、急に顔が熱くなってしまったのだけれど。
あの言葉って、嘘じゃなかったの?
本当に私でないと駄目なのかしら。
不意に、トントンと、陽気に階段を降りて来る音がして、全員がそちらに視線を向けた。手をヒラヒラと動かしながら階段を降りて来たのは、レジェロ様だった。
「あーー♪ こんなところに居たのね、エリーナちゃん。探しちゃったーー♡ あ、そのまんま君達は、休憩しててくれていいよーん」
「れ、レジェロ様!」
「こんなところにお越しになるなんて」
さすがに城主が、使用人が使う憩いの場に姿を表せば、慌てて立ち上がるわ。
クレイパイプの火を慌てて消すと深々と頭を下げたの。私の肩を抱いていたチルカさんも、何食わぬ顔で私から離れると、さっきのやり取りなんてまるでなかったかのように、微笑みを浮かべて頭を下げた。
「エリーナちゃん、そろそろ俺の部屋においで? 例の事もたーぷり打ち合わせしねぇといけねぇからね♪ 後さぁ、君達あんましエリーナちゃんの事を虐めるの辞めてくんね? この子すげぇ、泣き虫だからね。そう言う事で、んじゃよろ!」
「えっ、きゃっ! ま、まだお皿洗いが残って……レジェロ様!」
レジェロ様は軽いトーンで頭を傾け、ニッコリと口の端に笑みを浮かべたけれど、紅玉の瞳の奥は、全然笑っていなかったわ。
ベェ、と二又に割れたスプリットタンの舌を出して、おどけて私の肩を抱き寄せたの。
チルカさん達は、ポカンとしたけれど体を強張らせて頭を下げた。それを後目に、私はレジェロ様に肩を抱かれながら、廊下に出た。
「チルカちゃん、俺の強火ファンだからさ。グラマラスなキャワイイ子ちゃんだけどぉ、アウトかなぁ。ドルチェちゃん泣かせるのは、ウロボロスの騎士的に見逃せないし?」
「ちょ、ちょっとそれは……。お仕事を辞めさせてしまうのは悪いわ。ただでさえオラトリオは人が溢れているから、仕事を見つけるのが大変なの。ああ言う人はどこにでも居るから、聞き流せば大丈夫だもの」
「優しいねぇ。でも紹介状くらい、俺が書いてやっから大丈夫♡ つーかさ、ドルチェちゃん。考えたんだけど、メイドじゃなくて、シンプルに俺の愛人で良くない? だってぇ、エッチしない時も夜は怖いからって、俺の部屋で俺にくっついて寝てるじゃんね。かんわいい♡」
「だ、だってあれはっ……。なんだか夜が怖くなってしまって」
ニヤニヤ笑いながら、レジェロ様は私の肩を抱き寄せると囁いた。私は赤面してレジェロ様の胸板を押す。軽くて女好きで最低最悪なエルフだけど、何故かレジェロ様の側に居ると、ぐっすり安心して眠れるのは事実。
レジェロ様の愛人になったら……絶対苦労しそうだわ。でも、私とレジェロ様は夜の営みを経験していて、まるで恋人みたいな事をしてる。
私はどうやら聖女で、騎士道なんて、これっぽっちもないようなレジェロ様が、私の特別な騎士だって言うし。もう、頭が混乱しそうだわ!
「れ、レジェロ様、ところで用事ってなんですか」
「メヌエット皇太女の戴冠式があるんだよねぇ。興味ねぇし、面倒臭いんだけどぉ俺も出席しなくちゃなんねぇのよ。でもドルチェちゃん、寂しいがりやだからね。なんで、馬車の中で待ってるなら良いっしょ? なんなら、おめかしして俺の隣に彼女として座るぅ?」
「た、戴冠式に出席なんて一般人は出来ないじゃない。でも遠くから様子を見られるなら、行ってみたいな。メヌエット様が女帝になられたお姿……、美しくて星の女神様のようでしょうし」
あれだけ、私の存在が見つからないように保護した癖に、レジェロ様って時々冗談めいた事を言うのよね。戴冠式の後は、神殿から城まで馬車で移動されるから、そこでお姿を見られる筈だもの。
お部屋の前に立つと、レジェロ様は、まるでお姫様をエスコートするように扉を開けると恭しく部屋に入るよう腕を曲げて、頭を垂れた。
「だねぇ。もしかすると、ランスロットくんの迷子の迷子の竜ちゃんも、見られるかもしんないし」
「そう言えば……帰還されてから、竜を見てないわ」
「そーゆーこと♡ さ、ドルチェちゃん。聖女ちゃんに相応しい、かんわいいお洋服用意したんで、好きなの選んでちょーだい♪ 生着替えよろしくぅ♡」
お部屋に入ると、お姫様が着るような綺麗なドレスが並べられていた。
きっと平民の私なんかが触れた事もないような高級な生地で出来ているのね。高価で肌触りの良くて、デザインは清楚で可愛らしいものばかり。でも、とても一人で着られそうにないようなドレスだわ。
「素敵……! でも、一人じゃ着られないわ」
「んじゃ、チルカちゃんに頼んじゃお♪」
「ち、チルカさんに頼むの? レジェロ様、全部お話を聞いていたでしょう? ……性格悪い」
「お褒め頂いて嬉しいな♡ 最後の仕事で、弁えってのを覚えてもらわねぇーとさぁ、俺も送り出せないっしょ」
レジェロ様はニィっと笑うと鋭く目を光らせた。やっぱり、レジェロ様は悪いエルフだわ。
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