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11 皇帝の逝去①(※side レジェロ)

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 フィーネは呆れたように腕を組み、大げさに溜息を付く。この部屋に辿り着くまでに、ドルチェちゃんのにゃん声が聞こえてんだから、俺が彼女と何やってるか、普通は分かるっしょ。
 こいつは相変わらず、白々しいんだよな。
 兄貴のケツくらい、ガキの時から見慣れてんだしさぁ。自分だって、婚約が決まったランスロットとやりまくってる癖にぃ。
 モッソの方はギラギラと金色の目を輝かせながら、俺の下で呼吸を整えているドルチェちゃんの裸体を見ていた。
 忘れてたけど獣人の男は、他の種族よりも女の発情の香りフェロモンに弱い。まぁ、種によっちゃ、女の方から発情状態になるのもいるけどさ。
 とにかく理性を失うと、所構わず女を襲うもんで、それを防ぐ為に、興奮状態を抑える『コーラル草』というハーブの香り袋を常備してんだよな。そうしないと、どんな貴族だって低能な獣呼ばわりされる。
 特にこいつは、獣人の美少女よりも人間のかわい子ちゃんが大好きな奴で、冒険中も良く、人間の娼婦を買ってたっけ。
 そーいやあの晩も、ドルチェちゃんの事を情けない獅子ライオン面で、鼻を伸ばしながら、目で追ってたわ。
 
「あ、やべ。モッソ、バキバキに覚醒しちゃうわ」
「ちょっと、モッソ! 今すぐコーラル草を嗅がないと、あんたの粗末な息子を切り落とすわよ。レジェロ、あんたも早くメイドから退きなさい」

 モッソは涎を垂らし、服の上からでも分かるくらい、チ●コを勃起させていた。フィーネの魔法剣の刃が首元に押し付けられると、さすがにモノが縮み上がり、バツの悪そうな顔をして、前のめりになりながら腰元にぶら下げていた牛皮を取り出すと、一気にそれを吸い込んだ。

「す、すまん。不意打ちで女の裸が目に入ってきたもんで。いやしかし、この女の香りどっかで、嗅いた気がするんだがなぁ」

 俺はドルチェちゃんから退くと、彼女にシーツをかけた。
 ベッドの上に腰掛けると、俺は足を組んで、クレイパイプに火を付ける。それから、フゥと煙を吐き出した。こいつが『聖女様』の紋章を見た所で、知識はないし、それを理解出来る訳はねぇだろうが、匂いへの執着心が人一倍強いからなぁ。
 タバコの煙で、ドルチェちゃんの匂いを誤魔化すと、俺はニヤリと笑みを浮かべた。

「気のせいっしょ。エリーナちゃん、最近田舎から出てきた子だしね。モッソくんさぁ、人間のかわい子ちゃんばっかり追い掛け過ぎて、いよいよ、鼻がやばくなってんじゃね?」
「冗談じゃない。お前にだけは言われたくないぞ、レジェロ。お前が女を食いまくって乱痴気らんちき騒ぎをしてると、俺の城まで噂が届いてる」

 モッソは訝しげに首を傾げると、鼻を鳴らして嫌味を言う。

「あー、マジで? 俺有名人じゃん! そりぁ、光栄ですわぁ♪ 可愛い子ならいつでも乱入大歓迎でぇす」

 ケラケラと笑っていると、フィーネが露骨に嫌そうな顔をして肩を竦めた。そう言えば今日は、露出の高いドレスは控えて、よそ行きの格好してんじゃん。これみよがしに、貴族が好んで身につけるようなバカでかい宝石の埋まった貴金属類を、身に着けているし?
 こいつは、俺とは正反対で金や宝石が大好きな女だ。我が妹ながら、金の為ならどんなやべぇ仕事でもやってのけるから、ある意味根性座ってるよねぇ。

「んで、用事ってなんだっけ? 英雄ランスロット様の挙式でやる、出し物の相談とかぁ?」
「ランスロットの挙式はもう少し後になる。まぁ、その祝福についても、ラルゴを含めて話し合いしなくちゃいけないけど、今日は違うわ。ピッツィカート皇帝が、体調を崩されているのは知っているでしょう?」

 邪神を封印した俺たちが帝国に帰還し、ランスロット達の婚約が決まってから数日後、ピッツィカート皇帝は倒れた。
 ピッツィカートは高齢という訳じゃないが、アレクサンドラ大陸が、邪神の魔の手からようやく開放されて肩の力が抜けたんだろ。
 皇帝は、あんなに元気だったのにソルフェージュ帝国の未来が安泰だと確信し気が抜けて、今まで溜め込んでいた過労がどっと出てしまったんだろ。それが原因で倒れたんじゃねぇかって、もっぱら貴族の御婦人達が噂をしていた。
 つまりそれまで、健康を害してる様子はなかったってわけね。

「アレクサンドラ大陸で、ソルフェージュ帝国はあらゆる種族を束ねる中心的な帝国だ。民に心配をかけないよう、皇帝はご自分のご病気を隠されていたんだよ。その心労たるや、すさまじかっただろうな。俺達が、長年誰もなし得なかった邪神打倒の悲願を成し遂げた事で安心され、一気にガタがきたんだろ」
「は? なにー? 病気を隠してたの」

 モッソは金色の顎髭あごひげを撫でながら誇らしげに胸を張っている。
 こいつは、どれだけ自分が、他人から偉く見えているのかが一番大事な男なんで『邪神を封印した英雄』なんてポジションは、人生最高レベルの栄光ってわけ。
 その証拠に、モッソの語る英雄冒険譚は、すっげぇ盛られてるしね。百獣の王、獣人の王と呼ばれる獅子種は、見た目もいいし、邪神を倒す勇者の仲間として、威厳があってピッタリだ。
 それこそ、巨人を素手で倒したとか、よーわからん偽の逸話まで追加されている。まぁ、実際封印したのはランスロット一人なんだけどな。

「ほーん。つまりぃ、ピッツィカート皇帝はいよいよ、棺桶に足突っ込んでるって事でオーケー?」
「――――話せるうちに、私達を宮殿に招くつもりだったみたいね。今晩、秘密裏に伝えたい事があったみたいだけど。医者の話だと、もう朝までは持たないらしいから、早く用意をして。くれぐれも失礼のないように、正装してよね」
「えーー、面倒くさーい。俺は死にかけのおっさんと過ごすより、エリーナちゃんと朝までどスケベして、にゃんつきたいんだけどぉ」
「うるさい。早くして、兄貴」

 ピクリと俺の後ろで、ドルチェちゃんの体が動いた。そらま、ソルフェージュ帝国の皇帝が病気だった事も、一般庶民には知らされてないもんねーー。
 でも俺は、皇帝が病気っていうのも怪しいなぁって思ってんだけどさ。だってあまりにも色々と、タイミング良すぎるだろ。
 シーツにくるまっているドルチェちゃんを上から抱きしめると、俺は耳元で囁いた。

「ちょい、外出するから待っててね。城内をうろついても構わねぇけどさ、外は危ないからだぁめ♡ 帰ったら、またさっきの続きしよ♡」
「……ぁっ」

 可愛いね~~。
 耳まで赤くなっちゃってさ。俺が耳朶にキスしたら、甘い声まで出すんだから聖女ちゃん最高って感じ。ほんと、堪らんわーー。
 ウロボロスの騎士ってのも、なかなか役得じゃねぇの。

「へいへい。それじゃま、行きますかねぇ。ランスロット君とは、積る話もありますしぃ?」
 
 タバコを消すと、俺はコートを羽織った。とりま、俺らが到着するまで皇帝さんには頑張って貰わねぇとな。

✣✣✣✣

世界観ミニ設定

人物 



★モッソ

ライオンの獣人で格闘家。ランスロットのパーティメンバーの一人。見栄っ張りで嘘つきな自信家。邪神討伐に参加したのは、獣人族の英雄として人々に後世まで讃えられ、崇められたいという承認欲求から。格闘技の腕は確かだが、彼が語る逸話には誇張も多い。

人間の若い娘が好き。



★顔も体も二足歩行のライオン

★格闘技

★鋭い爪や牙も攻撃力がある。
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