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復讐①
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本来なら、こんな個人情報を事務所がアイドルに話す事は無いと思うけど、琉花さんのお陰で杉本さんの母方の連絡先を教えて貰う事に成功した。
梨子に後輩を装ってもらい優里さんのお見舞いを口実に、入院先を教えて貰うように頼んだ。もちろん、最初は不審がられ優里さんが話せるような状態ではないと言う事で渋られたが、僕も驚くような名演技で、梨子は頼み込み一緒に行くと言う条件で了承を得た。
彼女がいなければ、男の僕なんて門前払いだったろう。
僕たちは、面会時間が可能な時間に優里さんの母親と共に間接的に何度も顔を合わせていた彼女と初めて対面した。
「優里、貴方の後輩がお見舞いにきてくれたわよ」
優里さんは夢の中で出会った時の面影を残しながらも、やせ細っている。瞳は開けたまま覚醒し呼吸をしていたが全く反応はなかった。
校舎の屋上から落ちた優里さんは、命を取り留めたものの足は複雑骨折し、頭部外傷による重度の脳損傷を負っていた。
いわゆる、植物人間状態になっていて、医者の見立てだとこれほど長くこの状態で生きているのは、中々無いという事だった。
「ありがとう……あの地域の人でお見舞いに来てくれたのは、貴方達だけだわ。みんなあの菊池さんを恐れていたのよ。私達、優里が学校で苛められていたんじゃないかと思って、学校に説明を求めたのよ。けれど、苛めなんて無かったっていうばかりで。学校や地域にマスコミが押し掛けるのを嫌がって、菊池さんが圧力かけたって知ったわ」
『島にもあるわねぇ。よそから来た人間に騒がれるのは困るっていう……。村八分にされたく無いから、何が起こっても黙ってるんだよ。力のある相手なら特に嵐が去るのを待つだけさ。少しでも話したら誰か言ったのか直ぐにばれるし、お見舞いに行こうもんなら知らないうちに噂を立てられる』
「――――田舎では良くある事だよ。杉本さんがいない間に彼女を助けないと」
田舎特有の閉鎖的な人間関係はどこにでもある。
菊池家は、寄付してるようだったし理事長とも繋がりが深く加奈さんがリーダー格として虐めていた事も揉み消せる立場にある。
梨子は、泣き始めた彼女の背を擦りながら落ち着かせるように部屋から出ていってくれた。
僕は、それを見送ると目を開けたまま静かに呼吸する彼女の側で椅子に座った。
額に意識を集中させると、僕は霊視する。
彼女の体には、まるで耳なし芳一のように見たことも無いような呪文が刻み込まれ、それが医療器具を伝ってコンセントの方まで流れ込んでいた。
電気を触媒にしているんだろうか。
『昔は考えられなかったけど、呪詛ってのは文明に合わせて進化するねぇ。まぁ、だれもがネットで呪いの言葉を吐けるようになったんだから、昔より簡単になったのかも知れないよ』
そうかも知れない。
人と簡単に繋がれるSNSが流行っている現代では、匿名のまま誰にでも呪いの言葉を吐けるような時代だ。呪いをかける意図は無くとも、言霊となって相手のもとに届き、またそれを目撃した人が病んでいく。
『健くん、呪詛のこと調べてたんだけど。丑の刻参りが簡単にできちゃうアプリなんてあるんだね。呪い代行とか……怖い』
ふと、車の中で梨子の言った言葉を思い出した。僕もそんなものがあるなんて、と驚いたくらいだ。
誰もが簡単に生霊や呪詛を飛ばし、相手の不幸を願えてしまう、恐ろしい側面もある。誰かの恐怖を娯楽にしてしまう現代の闇でもあるように思えた。
だからこそ、杉本さんもあんな面白半分に恐怖を煽るような動画を作って彼女たちを罠にかけたのだろうか。
これは、本人に聞かなければ分からない事だが、僕は雑念を振り払うように彼女の手首に触れた。
「優里さん、僕は貴方を助けに来ました。この呪詛に込められた憎しみも恨みも本当だと思います。だけど、僕に助けを求めた貴方の声は、この痛みや、憎しみから解き放たれたい貴方の切実な願いだと僕は信じてます。そして、弟さんを心配する気持ちも伝わりました。自分の代わりに復讐する貴志さんを止めて欲しいのですね」
僕は呪詛を解いた事なんて無い。
だけど、彼女の憎しみや恐怖がそれを動かす原動力にされているのではないかと思った。だから僕は、それを恐れて逃げ回る彼女をこの中から助け出さなくてはならない。
多分、人を恨んだり虐められた記憶を見続ける事は苦しいに違いないと思うから。
闇の部分ではなく、本来の優しく明るい彼女をこの呪詛の檻から開放してあげたい。
そう強く願った瞬間、僕の意識は朝比奈女子高等学校の前に立っていた。だが、あたりは真っ暗でかつては学び舎だったそこも、まるで廃墟のようになっていて不気味だ。
学校のチャイムが鳴り響き、姿のない女の子達の歪な笑い声を聞きながら僕は校舎の扉を開けた。
普通ならライトが無いと、廊下の奥まで見えないほどだったが、不思議と行ったことも無い、夢の中で断片的にしか知らない校舎の内部の構造を理解し肉眼で見えていた。
「ここって……」
『今の朝比奈女子高等学校だよ。と言うかあんた……凄いことやってのけるね。ふふん、やっぱりばぁちゃんの孫だよ!』
「え? なにが?」
『いいから、さっさとここを浄化しなくちゃね。このいやらしい呪詛は本当に質が悪いみたいだからさ。梨子ちゃんが心配する前にさっさとやっちゃうよ』
「はぁ……ばぁちゃんがやる気だすと、嫌な予感しかしないんだけど」
僕は前回の事を思い出してうんざりとした。
梨子に後輩を装ってもらい優里さんのお見舞いを口実に、入院先を教えて貰うように頼んだ。もちろん、最初は不審がられ優里さんが話せるような状態ではないと言う事で渋られたが、僕も驚くような名演技で、梨子は頼み込み一緒に行くと言う条件で了承を得た。
彼女がいなければ、男の僕なんて門前払いだったろう。
僕たちは、面会時間が可能な時間に優里さんの母親と共に間接的に何度も顔を合わせていた彼女と初めて対面した。
「優里、貴方の後輩がお見舞いにきてくれたわよ」
優里さんは夢の中で出会った時の面影を残しながらも、やせ細っている。瞳は開けたまま覚醒し呼吸をしていたが全く反応はなかった。
校舎の屋上から落ちた優里さんは、命を取り留めたものの足は複雑骨折し、頭部外傷による重度の脳損傷を負っていた。
いわゆる、植物人間状態になっていて、医者の見立てだとこれほど長くこの状態で生きているのは、中々無いという事だった。
「ありがとう……あの地域の人でお見舞いに来てくれたのは、貴方達だけだわ。みんなあの菊池さんを恐れていたのよ。私達、優里が学校で苛められていたんじゃないかと思って、学校に説明を求めたのよ。けれど、苛めなんて無かったっていうばかりで。学校や地域にマスコミが押し掛けるのを嫌がって、菊池さんが圧力かけたって知ったわ」
『島にもあるわねぇ。よそから来た人間に騒がれるのは困るっていう……。村八分にされたく無いから、何が起こっても黙ってるんだよ。力のある相手なら特に嵐が去るのを待つだけさ。少しでも話したら誰か言ったのか直ぐにばれるし、お見舞いに行こうもんなら知らないうちに噂を立てられる』
「――――田舎では良くある事だよ。杉本さんがいない間に彼女を助けないと」
田舎特有の閉鎖的な人間関係はどこにでもある。
菊池家は、寄付してるようだったし理事長とも繋がりが深く加奈さんがリーダー格として虐めていた事も揉み消せる立場にある。
梨子は、泣き始めた彼女の背を擦りながら落ち着かせるように部屋から出ていってくれた。
僕は、それを見送ると目を開けたまま静かに呼吸する彼女の側で椅子に座った。
額に意識を集中させると、僕は霊視する。
彼女の体には、まるで耳なし芳一のように見たことも無いような呪文が刻み込まれ、それが医療器具を伝ってコンセントの方まで流れ込んでいた。
電気を触媒にしているんだろうか。
『昔は考えられなかったけど、呪詛ってのは文明に合わせて進化するねぇ。まぁ、だれもがネットで呪いの言葉を吐けるようになったんだから、昔より簡単になったのかも知れないよ』
そうかも知れない。
人と簡単に繋がれるSNSが流行っている現代では、匿名のまま誰にでも呪いの言葉を吐けるような時代だ。呪いをかける意図は無くとも、言霊となって相手のもとに届き、またそれを目撃した人が病んでいく。
『健くん、呪詛のこと調べてたんだけど。丑の刻参りが簡単にできちゃうアプリなんてあるんだね。呪い代行とか……怖い』
ふと、車の中で梨子の言った言葉を思い出した。僕もそんなものがあるなんて、と驚いたくらいだ。
誰もが簡単に生霊や呪詛を飛ばし、相手の不幸を願えてしまう、恐ろしい側面もある。誰かの恐怖を娯楽にしてしまう現代の闇でもあるように思えた。
だからこそ、杉本さんもあんな面白半分に恐怖を煽るような動画を作って彼女たちを罠にかけたのだろうか。
これは、本人に聞かなければ分からない事だが、僕は雑念を振り払うように彼女の手首に触れた。
「優里さん、僕は貴方を助けに来ました。この呪詛に込められた憎しみも恨みも本当だと思います。だけど、僕に助けを求めた貴方の声は、この痛みや、憎しみから解き放たれたい貴方の切実な願いだと僕は信じてます。そして、弟さんを心配する気持ちも伝わりました。自分の代わりに復讐する貴志さんを止めて欲しいのですね」
僕は呪詛を解いた事なんて無い。
だけど、彼女の憎しみや恐怖がそれを動かす原動力にされているのではないかと思った。だから僕は、それを恐れて逃げ回る彼女をこの中から助け出さなくてはならない。
多分、人を恨んだり虐められた記憶を見続ける事は苦しいに違いないと思うから。
闇の部分ではなく、本来の優しく明るい彼女をこの呪詛の檻から開放してあげたい。
そう強く願った瞬間、僕の意識は朝比奈女子高等学校の前に立っていた。だが、あたりは真っ暗でかつては学び舎だったそこも、まるで廃墟のようになっていて不気味だ。
学校のチャイムが鳴り響き、姿のない女の子達の歪な笑い声を聞きながら僕は校舎の扉を開けた。
普通ならライトが無いと、廊下の奥まで見えないほどだったが、不思議と行ったことも無い、夢の中で断片的にしか知らない校舎の内部の構造を理解し肉眼で見えていた。
「ここって……」
『今の朝比奈女子高等学校だよ。と言うかあんた……凄いことやってのけるね。ふふん、やっぱりばぁちゃんの孫だよ!』
「え? なにが?」
『いいから、さっさとここを浄化しなくちゃね。このいやらしい呪詛は本当に質が悪いみたいだからさ。梨子ちゃんが心配する前にさっさとやっちゃうよ』
「はぁ……ばぁちゃんがやる気だすと、嫌な予感しかしないんだけど」
僕は前回の事を思い出してうんざりとした。
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