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夢の中で
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『ネブッチョウって、女性に憑くんですか?』
そう言えば僕が霊視した時、加奈さんには大きな蛇が絡み付いていた。小さなミミズのような黒い影は目の端に視えていたけど、あれは親玉のようにも思える。
『一般的に憑きもの筋というのは、嫁ぐ時に一緒に相手方に憑くんだ。そこから子孫代々に憑く。雨宮くんの話だと、表向きの当主は大祖母さんでも、子供、それも女性に受け継がれるようだし、加奈さんが今の本体の依代のようだね。
しかし……祟りで呪詛を相殺か。いい考えだけど、相手の呪詛が強くなったら対応できるのかな?』
『相手の……?』
悪を持って悪を制すると言う事は、オカルト界隈ではあるそうだ。間宮さんいわく、憑きもの筋は犬神のように非常に強い呪術的な使役の場合もあるが、どちらかと言うと神仏のような守護ではなく憑きまとい棲家の宿主を守っているだけだ。
けれど強い恨みの念をもった者の呪詛は、相手が死ぬまで終わりが無い。
『それに、死んだ人間より生きた人間の念の方が強いと言われている。もし、もしだよ……呪いの効果が見られなくて、呪詛のリミッターを外したとしたら、呪いの力は強まって加奈さんはもちろん、溢れた水みたいに無関係な人も呪われるんじゃないかな』
『……!!』
――――盲点だった。
他の三人が『闇からの囁き』の呪詛で死亡したのに、早い段階で見た加奈さんに変化はない。それに苛立った優里さんが呪詛のリミッターを外し、もっと強い呪いをかけたなら。
加奈さんはもちろん、暴走した呪詛はアクセスした人に感染し連鎖する。
だから無関係の僕も、琉花さんも呪われたのだ。
『そんな事になったら、あの掲示板にあるURLを興味本位でアクセスした人や、誰かにいたずらで送られたような無関係な人たちが自殺する事になるじゃないですか。本来の目的を外れて、呪いが独り歩きしてしまう』
『ああ、とても恐ろしい事になる……僕の方でも呪詛の解き方を調べるけど、雨宮くんならきっと解決できると信じているよ』
買いかぶりすぎだ。
呪詛がこれ以上強まれば、琉花さんも守れないし僕も危ない。
それに、そうこうしているうちにも誰かが『闇からの囁き』にアクセスして見ているかも知れない。
優里さんを止めないと。
彼女は僕に助けを求めてきたんだ。それは自分自身の心を止めて欲しいのか?
でも、なんだか全貌が見えずモヤモヤとしている。
何かを見落としているような気がするのだ。
それに今日の聞き込みじゃ、佐伯さんの一家が何処に引っ越したのか元近所の人は誰も知らなかった。
「一体、どこにいるんだ優里さん」
✤✤✤
僕は真っ暗な空間の中に佇んでいた。
間宮さんとLINEで話し、梨子に報告してからの記憶がない。
一体ここはどこだろう。
地面のようなものはあるが、どれだけ天井が高いのか、幅が広いのか全く検討がつかない。
「ばぁちゃん!」
試しに名前を呼んでみても返事がないので、やはり夢の中のような気がする。前方を見るとぼんやりと光が見え、徐々に人の形になっていく。見慣れたブレザーの制服、そして焦げ茶のくせ毛の後ろ姿は佐伯優里だ。
「君は……優里さん!」
優里さんは、肩越しに僕を振り返ると怯えたような視線を向け、走り始めた。僕は、反射的に彼女の背中を追いかけた。
夢の中では大抵、こうして誰かを追い掛けていても追いつく事ができないのだが、優里さんとの距離は予想に反して縮まっていく。
「待ってくれ! 優里さん」
僕の腕が彼女の肩を掴むと、ようやく彼女は立ち止まった。彼女はゆっくりと僕を振り向くと険しい表情をしながら言い放った。
『嘘つき!!』
その瞬間、ガラガラと暗闇の壁が剥がれ落ちて歪んだ廊下と校舎、そして壁穴からヘドロのような黒い液体が流れ落ちて、ヒソヒソと女の子達の声が聞こえた。
眼の前にいたはずの優里さんの姿は無くなり、天井に何者かの気配を感じて僕は顔を上げた。四肢が折れ曲がり、首がねじ切れそうになっているグロテスクな姿の坂裏さんが、こちらを見ると言った。
『キャハハ! 優里ってもう林田先生としたの? 学校卒業したら結婚するってマジィィ? ヤメナッテェェ』
「…………!!」
今度は、ヘドロの穴からぐにゃりと顔の半分潰れた梶浦さんが、ぬるりと体を出すと僕を嘲笑うようにして見ながら言った。
『あんたさぁァ、才能ないんだからもうコンクール出すのやめな。加奈の方が上手なんだしィィ、あ、もしかしてェェ部長の座狙ってんのぉぉぉ?』
背後から生臭い吐息を感じて振り向くと、ブラブラになった腕を垂らし、可愛らしいアイドルの服を着た曽根さんが、口と鼻からゴボゴボと血を流しながら言った。
『先生に近付クノヤメナヨォ、優里ィィ。加奈に謝りなさいヨォォ! 可哀想ジャン』
これは一体なんなんだ?
優里さんの心の中を霊視しているのだろうか。過去のいじめと悪霊が混じったような気味の悪い悪夢に、僕は吐きそうになる。
曽根さんから離れるように後退った瞬間、誰かに突き飛ばされ、僕はトイレの個室の壁にぶち当たった。
『ねぇ、優里。あなたが悪いんだよ……この学校にいたいなら、私の言う事聞かなくちゃ』
僕は必死になって鍵を開け外に出ようとしたが、何かが引っ掛かって扉を開ける事が出来ない。閉じ込められてパニックになった僕は、必死になって扉を叩いた。
「加奈ちゃん! 開けてよっ、加奈ちゃん!」
優里さんの声で僕は叫ぶと、上から覗く加奈さんは綺麗な顔で微笑んだ。彼女の背後には霊視の時に見た、目のない黒い蛇がニュッと顔を出すとチロチロと舌を出していた。
加奈さんは、画用紙な描かれた水彩画をビリビリに破ると、笑いながら優里さんの頭上に紙吹雪のように落ちてきた。
優里さんは膝を抱えるとトイレの隅で座り込んで泣き出していた。
――――嘘つき。
「そうか、優里さん……加奈さんは僕に嘘をついていたんだね」
そう言えば僕が霊視した時、加奈さんには大きな蛇が絡み付いていた。小さなミミズのような黒い影は目の端に視えていたけど、あれは親玉のようにも思える。
『一般的に憑きもの筋というのは、嫁ぐ時に一緒に相手方に憑くんだ。そこから子孫代々に憑く。雨宮くんの話だと、表向きの当主は大祖母さんでも、子供、それも女性に受け継がれるようだし、加奈さんが今の本体の依代のようだね。
しかし……祟りで呪詛を相殺か。いい考えだけど、相手の呪詛が強くなったら対応できるのかな?』
『相手の……?』
悪を持って悪を制すると言う事は、オカルト界隈ではあるそうだ。間宮さんいわく、憑きもの筋は犬神のように非常に強い呪術的な使役の場合もあるが、どちらかと言うと神仏のような守護ではなく憑きまとい棲家の宿主を守っているだけだ。
けれど強い恨みの念をもった者の呪詛は、相手が死ぬまで終わりが無い。
『それに、死んだ人間より生きた人間の念の方が強いと言われている。もし、もしだよ……呪いの効果が見られなくて、呪詛のリミッターを外したとしたら、呪いの力は強まって加奈さんはもちろん、溢れた水みたいに無関係な人も呪われるんじゃないかな』
『……!!』
――――盲点だった。
他の三人が『闇からの囁き』の呪詛で死亡したのに、早い段階で見た加奈さんに変化はない。それに苛立った優里さんが呪詛のリミッターを外し、もっと強い呪いをかけたなら。
加奈さんはもちろん、暴走した呪詛はアクセスした人に感染し連鎖する。
だから無関係の僕も、琉花さんも呪われたのだ。
『そんな事になったら、あの掲示板にあるURLを興味本位でアクセスした人や、誰かにいたずらで送られたような無関係な人たちが自殺する事になるじゃないですか。本来の目的を外れて、呪いが独り歩きしてしまう』
『ああ、とても恐ろしい事になる……僕の方でも呪詛の解き方を調べるけど、雨宮くんならきっと解決できると信じているよ』
買いかぶりすぎだ。
呪詛がこれ以上強まれば、琉花さんも守れないし僕も危ない。
それに、そうこうしているうちにも誰かが『闇からの囁き』にアクセスして見ているかも知れない。
優里さんを止めないと。
彼女は僕に助けを求めてきたんだ。それは自分自身の心を止めて欲しいのか?
でも、なんだか全貌が見えずモヤモヤとしている。
何かを見落としているような気がするのだ。
それに今日の聞き込みじゃ、佐伯さんの一家が何処に引っ越したのか元近所の人は誰も知らなかった。
「一体、どこにいるんだ優里さん」
✤✤✤
僕は真っ暗な空間の中に佇んでいた。
間宮さんとLINEで話し、梨子に報告してからの記憶がない。
一体ここはどこだろう。
地面のようなものはあるが、どれだけ天井が高いのか、幅が広いのか全く検討がつかない。
「ばぁちゃん!」
試しに名前を呼んでみても返事がないので、やはり夢の中のような気がする。前方を見るとぼんやりと光が見え、徐々に人の形になっていく。見慣れたブレザーの制服、そして焦げ茶のくせ毛の後ろ姿は佐伯優里だ。
「君は……優里さん!」
優里さんは、肩越しに僕を振り返ると怯えたような視線を向け、走り始めた。僕は、反射的に彼女の背中を追いかけた。
夢の中では大抵、こうして誰かを追い掛けていても追いつく事ができないのだが、優里さんとの距離は予想に反して縮まっていく。
「待ってくれ! 優里さん」
僕の腕が彼女の肩を掴むと、ようやく彼女は立ち止まった。彼女はゆっくりと僕を振り向くと険しい表情をしながら言い放った。
『嘘つき!!』
その瞬間、ガラガラと暗闇の壁が剥がれ落ちて歪んだ廊下と校舎、そして壁穴からヘドロのような黒い液体が流れ落ちて、ヒソヒソと女の子達の声が聞こえた。
眼の前にいたはずの優里さんの姿は無くなり、天井に何者かの気配を感じて僕は顔を上げた。四肢が折れ曲がり、首がねじ切れそうになっているグロテスクな姿の坂裏さんが、こちらを見ると言った。
『キャハハ! 優里ってもう林田先生としたの? 学校卒業したら結婚するってマジィィ? ヤメナッテェェ』
「…………!!」
今度は、ヘドロの穴からぐにゃりと顔の半分潰れた梶浦さんが、ぬるりと体を出すと僕を嘲笑うようにして見ながら言った。
『あんたさぁァ、才能ないんだからもうコンクール出すのやめな。加奈の方が上手なんだしィィ、あ、もしかしてェェ部長の座狙ってんのぉぉぉ?』
背後から生臭い吐息を感じて振り向くと、ブラブラになった腕を垂らし、可愛らしいアイドルの服を着た曽根さんが、口と鼻からゴボゴボと血を流しながら言った。
『先生に近付クノヤメナヨォ、優里ィィ。加奈に謝りなさいヨォォ! 可哀想ジャン』
これは一体なんなんだ?
優里さんの心の中を霊視しているのだろうか。過去のいじめと悪霊が混じったような気味の悪い悪夢に、僕は吐きそうになる。
曽根さんから離れるように後退った瞬間、誰かに突き飛ばされ、僕はトイレの個室の壁にぶち当たった。
『ねぇ、優里。あなたが悪いんだよ……この学校にいたいなら、私の言う事聞かなくちゃ』
僕は必死になって鍵を開け外に出ようとしたが、何かが引っ掛かって扉を開ける事が出来ない。閉じ込められてパニックになった僕は、必死になって扉を叩いた。
「加奈ちゃん! 開けてよっ、加奈ちゃん!」
優里さんの声で僕は叫ぶと、上から覗く加奈さんは綺麗な顔で微笑んだ。彼女の背後には霊視の時に見た、目のない黒い蛇がニュッと顔を出すとチロチロと舌を出していた。
加奈さんは、画用紙な描かれた水彩画をビリビリに破ると、笑いながら優里さんの頭上に紙吹雪のように落ちてきた。
優里さんは膝を抱えるとトイレの隅で座り込んで泣き出していた。
――――嘘つき。
「そうか、優里さん……加奈さんは僕に嘘をついていたんだね」
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