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疑惑①
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小柄な大祖母さんは、人の良さそうな微笑みを浮かべ、僕たちに頭を下げた。
それにつられるようにして僕達も挨拶すると、加奈さんに促されて座布団に腰を下ろし畏まったように正座する。祭壇のようなものにはお神酒と米が置かれていて、左右には派手な色のぼんぼりが飾られてあった。
だが、御神体はと言うとその祭壇には無く抜け殻のようだった。
「東京からようきたねぇ。お入りなせぇ」
「お邪魔します……急にすみませんね、菊池さん」
「あわにゃー、この家にはお寺さん以外、人がきねぇからいいべ」
加奈さんが奥の部屋から炬燵机を出すのを手伝った後、大祖母さんと加奈さんが、僕達の為にわざわざお茶とお菓子の用意をしてくれた。
気を使わせてしまって申し訳無いが、どうやら農地に借り手はいても、この家自体に人は寄り付かないらしく、珍しい客人である僕達を歓迎してくれた。憑きもの筋の家系というのは、今でも地域の人々に避けられる傾向にあるのだろうか。
大祖母さんは、ゆっくりと立ち上がると部屋から出ていった。
「それで、お話というのは愛羅ちゃんの事ですか? 真砂さん達とアイドルユニットを組んでましたよね……あんな事になってしまって本当に悲しくて」
加奈さんはハンカチで目元を抑え始めた。曽根あいらさんが亡くなってそう経っていないしショックは大きいだろう。それに彼女の周りでは、学生時代の友人である梶浦結菜さん、坂裏さくらさんも亡くなっているし精神が疲弊しない方がおかしい。
「曽根さんの事もありますが、坂裏さくらさん、梶浦結菜さんも亡くなっていますよね」
「どうしてそれを……、何か関係があるんですか?」
加奈さんは目を赤くしながら僕を訝しげに見つめた。強張った彼女の表情を見て警戒されてしまっただろうかと思ったが、話を続ける。
「僕は、真砂さん達に頼まれて曽根さんの様子がおかしくなった原因を探っていたんです。彼女と連絡を取れるように曽根さんに連絡先を渡しました。曽根さんは、自殺する直前に僕に電話をしてきたんですが……次は加奈さんの番だと」
僕は、あの時起こった怪異的の部な分はやんわりと伏せて彼女に伝えた。
「曽根さんのメールアドレスに、怪しいメールが届いていたんです。『闇からの囁き』と言う題名で。坂裏さんはネットで動画配信をしていたんですが、同じメールが来ていて……検証してたみたいです」
僕の言葉に続き、梨子が補足すると杉本さんがそのメールを見せた。梶浦さんについてはSNSをやっていなかったのか、情報は出てこないものの、他の二人と同じ亡くなり方をしているのであのWEBサイトにアクセスした可能性がある。
それを受け取る加奈さんを見ながら、琉花さんが言う。
「琉花も、この気持ち悪いサイトにアクセスしたんです。あいらさんと同じものを見て……気持ち悪い黒い影とか幽霊っぽいのに付き纏われているんです」
加奈さんはゆっくりと杉本さんの携帯を返すと顔を上げた。
「そうだったんですね。実は私にも気味の悪いメールが届きました。ちょうど結菜が亡くなった後くらいでしょうか。私も……あれを見たんです」
僕と梨子は顔を見合わせた。やはり朝比奈女子高等学校の美術部にいたメンバー全員にあのメールが送られてきている。
だが、僕は比較的早い段階でメールを受け取り動画を見た彼女が、他の人たちとは違って正常な意識を保っている事に、疑問を感じていた。あの動画を見ても、なんの霊障にもあっていないのだろうか。
僕は額に神経を集中させ、試しに彼女を霊視する。
僕の瞳が真紅に染まり加奈さんを見ると彼女の体に、大きな黒いミミズのようなぬるっとした目のない蛇が絡みついているのが視えた。
驚いて僕は霊視を辞めると、耳元でばぁちゃんが声をかけてきた。
『あれは蛇……、もしかするとネブッチョウかも知れんね。だから誰もこの家には来ないんだ。ネブッチョウに憑かれた家の敷地内に入ると、祟りがあると信じられているからさ』
確かに、蛇のようなものは憑いてはいるが、未だにそんな迷信がこの現代でも受け継がれている事に、驚きを隠せない。
「僕も、あの動画を見て霊障を受けたんですが菊池さんは、大丈夫なんですか?」
「ええ、私の家には代々『お蛇様』が憑いてるので悪いものは祓ってくれるんですよ。この辺りではネブッチョウと言います……ふふ、だから大丈夫なんです。あの子達は本当に可哀想だけど、私は守られているから平気です」
加奈さんの笑顔に、僕は言いしれぬ違和感と不気味さを感じた。憑きものという呪いで『闇からの囁き』に宿る呪詛を相殺しているというのだろうか?
「……どうして曽根にそのメールが送られてきたのか、貴方は心当たりがあるんですか」
ずっと黙っていた杉本さんが加奈さんに問い掛けると、困ったように首を傾げた加奈さんだったが、少し待って下さいと言うと部屋を退室しアルバムのような物を持ってきた。
「実は、私達の学年で『いじめ』があったんです。いじめられていた子は同じ部活の女の子でした」
「いじめ……」
佐伯優里さんの事だろう。
加奈さんは可愛い花柄のアルバムをゆっくりと開くと写真を見せてくれた。学祭や授業、修学旅行に行った時の思い出の写真の中にあの美術部で写した写真があった。
SNS上で上げられた写真と一つ異なる所があるとすれば、四人の女子高生の隣に胸元まで髪を伸ばした、くせ毛の可愛らしい女の子がはにかむように映っていた事だ。
――――あの子はやっぱり佐伯優里さんだ。
加奈さんは彼女の部分を切り取り、SNS上で上げていたようだ。
それにつられるようにして僕達も挨拶すると、加奈さんに促されて座布団に腰を下ろし畏まったように正座する。祭壇のようなものにはお神酒と米が置かれていて、左右には派手な色のぼんぼりが飾られてあった。
だが、御神体はと言うとその祭壇には無く抜け殻のようだった。
「東京からようきたねぇ。お入りなせぇ」
「お邪魔します……急にすみませんね、菊池さん」
「あわにゃー、この家にはお寺さん以外、人がきねぇからいいべ」
加奈さんが奥の部屋から炬燵机を出すのを手伝った後、大祖母さんと加奈さんが、僕達の為にわざわざお茶とお菓子の用意をしてくれた。
気を使わせてしまって申し訳無いが、どうやら農地に借り手はいても、この家自体に人は寄り付かないらしく、珍しい客人である僕達を歓迎してくれた。憑きもの筋の家系というのは、今でも地域の人々に避けられる傾向にあるのだろうか。
大祖母さんは、ゆっくりと立ち上がると部屋から出ていった。
「それで、お話というのは愛羅ちゃんの事ですか? 真砂さん達とアイドルユニットを組んでましたよね……あんな事になってしまって本当に悲しくて」
加奈さんはハンカチで目元を抑え始めた。曽根あいらさんが亡くなってそう経っていないしショックは大きいだろう。それに彼女の周りでは、学生時代の友人である梶浦結菜さん、坂裏さくらさんも亡くなっているし精神が疲弊しない方がおかしい。
「曽根さんの事もありますが、坂裏さくらさん、梶浦結菜さんも亡くなっていますよね」
「どうしてそれを……、何か関係があるんですか?」
加奈さんは目を赤くしながら僕を訝しげに見つめた。強張った彼女の表情を見て警戒されてしまっただろうかと思ったが、話を続ける。
「僕は、真砂さん達に頼まれて曽根さんの様子がおかしくなった原因を探っていたんです。彼女と連絡を取れるように曽根さんに連絡先を渡しました。曽根さんは、自殺する直前に僕に電話をしてきたんですが……次は加奈さんの番だと」
僕は、あの時起こった怪異的の部な分はやんわりと伏せて彼女に伝えた。
「曽根さんのメールアドレスに、怪しいメールが届いていたんです。『闇からの囁き』と言う題名で。坂裏さんはネットで動画配信をしていたんですが、同じメールが来ていて……検証してたみたいです」
僕の言葉に続き、梨子が補足すると杉本さんがそのメールを見せた。梶浦さんについてはSNSをやっていなかったのか、情報は出てこないものの、他の二人と同じ亡くなり方をしているのであのWEBサイトにアクセスした可能性がある。
それを受け取る加奈さんを見ながら、琉花さんが言う。
「琉花も、この気持ち悪いサイトにアクセスしたんです。あいらさんと同じものを見て……気持ち悪い黒い影とか幽霊っぽいのに付き纏われているんです」
加奈さんはゆっくりと杉本さんの携帯を返すと顔を上げた。
「そうだったんですね。実は私にも気味の悪いメールが届きました。ちょうど結菜が亡くなった後くらいでしょうか。私も……あれを見たんです」
僕と梨子は顔を見合わせた。やはり朝比奈女子高等学校の美術部にいたメンバー全員にあのメールが送られてきている。
だが、僕は比較的早い段階でメールを受け取り動画を見た彼女が、他の人たちとは違って正常な意識を保っている事に、疑問を感じていた。あの動画を見ても、なんの霊障にもあっていないのだろうか。
僕は額に神経を集中させ、試しに彼女を霊視する。
僕の瞳が真紅に染まり加奈さんを見ると彼女の体に、大きな黒いミミズのようなぬるっとした目のない蛇が絡みついているのが視えた。
驚いて僕は霊視を辞めると、耳元でばぁちゃんが声をかけてきた。
『あれは蛇……、もしかするとネブッチョウかも知れんね。だから誰もこの家には来ないんだ。ネブッチョウに憑かれた家の敷地内に入ると、祟りがあると信じられているからさ』
確かに、蛇のようなものは憑いてはいるが、未だにそんな迷信がこの現代でも受け継がれている事に、驚きを隠せない。
「僕も、あの動画を見て霊障を受けたんですが菊池さんは、大丈夫なんですか?」
「ええ、私の家には代々『お蛇様』が憑いてるので悪いものは祓ってくれるんですよ。この辺りではネブッチョウと言います……ふふ、だから大丈夫なんです。あの子達は本当に可哀想だけど、私は守られているから平気です」
加奈さんの笑顔に、僕は言いしれぬ違和感と不気味さを感じた。憑きものという呪いで『闇からの囁き』に宿る呪詛を相殺しているというのだろうか?
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――――あの子はやっぱり佐伯優里さんだ。
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