14 / 39
呪詛の網①
しおりを挟む
琉花さんの守護霊は普通の人よりも強く並の悪霊ならば恐れるに足りない位に強い。だが、祓っても祓っても纏わりついてくる黒い影との攻防に守護霊も琉花さんも、いつまで持つのだろう。
あの声の主の存在も、今は画面上で確認できないが、あの悪霊が加勢すれば、彼女も無事ではすまないだろうと僕は感じた。
『健、式神を飛ばしてごらん』
「え、でも……画面越しに式神って飛ぶの?」
手元には人形の式神があるけど、目の前の悪霊に飛ばして霊を撃退、浄化させた事はあっても遠隔で操った事はない。
『式神たちの姿を頭に浮かべるのさ。お前は、ばぁちゃんより霊力が強いから、強く念じればこの人形を、あの子の所まで飛ばせる』
『さっきから、黒いのが次々来るの、雨宮怖い……! 何でもいいから助けてよ!』
彼女の霊力では僕たちの会話までは分からないだろうが、あまりの恐怖に取り乱す琉花さんを見ると、僕は慌てて額の中心に神経を集中させた。
三体の式神を、あの烏帽子姿の守護霊を援護させるイメージで念を飛ばすと、彼女の周りに絡みつく黒いモヤの間を白い人形がビュン、ビュン、とツバメのように動いた。
それに怯んだように、黒い影が画面から消えていく。
まさか上手くいくとは思わなかったが、亡くなった彼女たちの精神状態を思い起こすと、これで手を引いてくれるような悪霊には思えなかった。
「琉花さん、大丈夫? 僕の式神が追い払ったみたいだ。とりあえず式神にはそこに居て貰うようにするけど、あの執念深さだと元を絶たないと駄目だよ。君の守護霊も、全部は防ぎきれないと思うんだ」
『ありがとう、雨宮……。声を荒げちゃってごめん』
いつもなら『何とかしなさいよ、雨宮のバカッ!』と叱られそうなものだが、そんな勢いも無いほど精神が弱っている。膝を抱えたまま十代の女の子が怯えて落ち込んでいるのを見ると、胸が痛んだ。
僕とそんなに年齢は変わらないけど、彼女は高校を卒業したばかりの子供なのだ。
「それにしても、どうして琉花さんはアクセス出来たんだ? どんなものを見たの」
『わかんない……、杉本さんにアドレス送って貰って、何回かチャレンジしてみたら出来た。なんか、気持ち悪い動画が再生されて……そしたら『ねぇ』って、きもい声が聞こえて……最悪』
琉花さんも、ショックのあまりにサイトについて詳しい事を覚えていないようだ。どうやら動画のようなものが再生されるらしい。
一昔前に流行った呪いが連鎖する映画のようで僕は苦笑する。
「杉本さんに、見た事を伝えた?」
『うん……雨宮が見れないなら、琉花も大丈夫だろうって思ってたみたいだからショック受けてた。杉本さん、発作が起きて大変だったんだ』
「え? なんの?」
『喘息。……琉花、これからどうなるの? 飛び降り自殺しちゃうのかな』
マネージャーに心配をかけてしまったことも彼女の自責の念を強くしているようだった。僕は覚悟を決め、琉花さんに言う。
「――――改めて僕が霊視する。今なら、『闇からの囁き』を視れる気がするんだ。守りを強くしたから大丈夫だと思うけど何かあったら梨子に連絡して。
二十時以降なら連絡つくし、彼女なら琉花さんのマンションに入っても怪しまれないと思うからさ」
琉花さんは顔を上げて僕を見ると少し表情を明るくして頷いた。通話を終えると、僕はばぁちゃんを見上げて頷く。
杉本さんから貰ったアドレスをパソコンに転送させると深呼吸して『闇からの囁き』にアクセスする。
一度目のエラー。
二度目のエラー。
三度目にアクセスした瞬間、文字化けした言葉の羅列が画面の上から下まで流れていく。
そしてその直後に砂嵐が広がり、電源が落ちたかと思うと薄っすらと誰かに覗かれたような気配を感じて、慌てて振り返ったがそこには誰も居なかった。
「っ……!?」
『健、繋がったよ』
ばぁちゃんの声に僕はそちらを見た。
四人の黒い人がけのようなものがぼんやりと僕を覗き込んでいる。まるで水中の中で話してるようにもごもごとしていて、いったい何を話しているの分からない。
時々それに笑い声が交じって不快な気分になる。
その声の合間に聞こえる、呻くような呼吸音が気味が悪い。
8ミリフィルムの映像のように乱れていて、鏡の前にブレザー姿の少女が立っていた。
その子の頭は前後左右に激しくぶれていて、顔立ちも顔の表情も分からない位だ。
二匹の鳥が夕暮れの空を飛んで行く様子は物悲しくて、漠然と死にたくなるような感覚に襲われる。
その直後、画面が素早く切り替わると、精気の無い瞳孔が画面一杯に広がって、虚ろな焦点の合わない視線が僕を見ていた。
僕を見ているようで、見ていないその虚無の黒目は死人の眼差しと同じで、僕は全身が総毛立つのを感じた。マウスを動かしてみても固まったままで、画面を操作する事が出来ない。
『うっ……凄い邪気を感じるわ。また魔物の類かねぇ』
「フリーズしてる……、霊視するよ、ばぁちゃん」
死人の目を見ながら、僕は額に神経を集中させた。僕の目が紅く光ると霊視が始まり、この呪われた動画の中に入る。
僕は誰かの視界を借りて、四人の人影を見ているようだった。まるでコンタクトが霞んだようにぼんやりとしていて顔立ちも表情もわからないが、輪郭からして女性のような気がした。
酷い耳鳴りで会話の内容は聞こえず、しばらくすると四人は立ち上がり自分の側から離れるのを感じた。
あの声の主の存在も、今は画面上で確認できないが、あの悪霊が加勢すれば、彼女も無事ではすまないだろうと僕は感じた。
『健、式神を飛ばしてごらん』
「え、でも……画面越しに式神って飛ぶの?」
手元には人形の式神があるけど、目の前の悪霊に飛ばして霊を撃退、浄化させた事はあっても遠隔で操った事はない。
『式神たちの姿を頭に浮かべるのさ。お前は、ばぁちゃんより霊力が強いから、強く念じればこの人形を、あの子の所まで飛ばせる』
『さっきから、黒いのが次々来るの、雨宮怖い……! 何でもいいから助けてよ!』
彼女の霊力では僕たちの会話までは分からないだろうが、あまりの恐怖に取り乱す琉花さんを見ると、僕は慌てて額の中心に神経を集中させた。
三体の式神を、あの烏帽子姿の守護霊を援護させるイメージで念を飛ばすと、彼女の周りに絡みつく黒いモヤの間を白い人形がビュン、ビュン、とツバメのように動いた。
それに怯んだように、黒い影が画面から消えていく。
まさか上手くいくとは思わなかったが、亡くなった彼女たちの精神状態を思い起こすと、これで手を引いてくれるような悪霊には思えなかった。
「琉花さん、大丈夫? 僕の式神が追い払ったみたいだ。とりあえず式神にはそこに居て貰うようにするけど、あの執念深さだと元を絶たないと駄目だよ。君の守護霊も、全部は防ぎきれないと思うんだ」
『ありがとう、雨宮……。声を荒げちゃってごめん』
いつもなら『何とかしなさいよ、雨宮のバカッ!』と叱られそうなものだが、そんな勢いも無いほど精神が弱っている。膝を抱えたまま十代の女の子が怯えて落ち込んでいるのを見ると、胸が痛んだ。
僕とそんなに年齢は変わらないけど、彼女は高校を卒業したばかりの子供なのだ。
「それにしても、どうして琉花さんはアクセス出来たんだ? どんなものを見たの」
『わかんない……、杉本さんにアドレス送って貰って、何回かチャレンジしてみたら出来た。なんか、気持ち悪い動画が再生されて……そしたら『ねぇ』って、きもい声が聞こえて……最悪』
琉花さんも、ショックのあまりにサイトについて詳しい事を覚えていないようだ。どうやら動画のようなものが再生されるらしい。
一昔前に流行った呪いが連鎖する映画のようで僕は苦笑する。
「杉本さんに、見た事を伝えた?」
『うん……雨宮が見れないなら、琉花も大丈夫だろうって思ってたみたいだからショック受けてた。杉本さん、発作が起きて大変だったんだ』
「え? なんの?」
『喘息。……琉花、これからどうなるの? 飛び降り自殺しちゃうのかな』
マネージャーに心配をかけてしまったことも彼女の自責の念を強くしているようだった。僕は覚悟を決め、琉花さんに言う。
「――――改めて僕が霊視する。今なら、『闇からの囁き』を視れる気がするんだ。守りを強くしたから大丈夫だと思うけど何かあったら梨子に連絡して。
二十時以降なら連絡つくし、彼女なら琉花さんのマンションに入っても怪しまれないと思うからさ」
琉花さんは顔を上げて僕を見ると少し表情を明るくして頷いた。通話を終えると、僕はばぁちゃんを見上げて頷く。
杉本さんから貰ったアドレスをパソコンに転送させると深呼吸して『闇からの囁き』にアクセスする。
一度目のエラー。
二度目のエラー。
三度目にアクセスした瞬間、文字化けした言葉の羅列が画面の上から下まで流れていく。
そしてその直後に砂嵐が広がり、電源が落ちたかと思うと薄っすらと誰かに覗かれたような気配を感じて、慌てて振り返ったがそこには誰も居なかった。
「っ……!?」
『健、繋がったよ』
ばぁちゃんの声に僕はそちらを見た。
四人の黒い人がけのようなものがぼんやりと僕を覗き込んでいる。まるで水中の中で話してるようにもごもごとしていて、いったい何を話しているの分からない。
時々それに笑い声が交じって不快な気分になる。
その声の合間に聞こえる、呻くような呼吸音が気味が悪い。
8ミリフィルムの映像のように乱れていて、鏡の前にブレザー姿の少女が立っていた。
その子の頭は前後左右に激しくぶれていて、顔立ちも顔の表情も分からない位だ。
二匹の鳥が夕暮れの空を飛んで行く様子は物悲しくて、漠然と死にたくなるような感覚に襲われる。
その直後、画面が素早く切り替わると、精気の無い瞳孔が画面一杯に広がって、虚ろな焦点の合わない視線が僕を見ていた。
僕を見ているようで、見ていないその虚無の黒目は死人の眼差しと同じで、僕は全身が総毛立つのを感じた。マウスを動かしてみても固まったままで、画面を操作する事が出来ない。
『うっ……凄い邪気を感じるわ。また魔物の類かねぇ』
「フリーズしてる……、霊視するよ、ばぁちゃん」
死人の目を見ながら、僕は額に神経を集中させた。僕の目が紅く光ると霊視が始まり、この呪われた動画の中に入る。
僕は誰かの視界を借りて、四人の人影を見ているようだった。まるでコンタクトが霞んだようにぼんやりとしていて顔立ちも表情もわからないが、輪郭からして女性のような気がした。
酷い耳鳴りで会話の内容は聞こえず、しばらくすると四人は立ち上がり自分の側から離れるのを感じた。
10
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する
黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。
だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。
どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど??
ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に──
家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。
何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。
しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。
友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。
ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。
表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、
©2020黄札
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
女だけど生活のために男装して陰陽師してますー続・只今、陰陽師修行中!ー
イトカワジンカイ
ホラー
「妖の調伏には因果と真名が必要」
時は平安。
養父である叔父の家の跡取りとして養子となり男装をして暮らしていた少女―暁。
散財癖のある叔父の代わりに生活を支えるため、女であることを隠したまま陰陽師見習いとして陰陽寮で働くことになる。
働き始めてしばらくたったある日、暁にの元にある事件が舞い込む。
人体自然発火焼死事件―
発見されたのは身元不明の焼死体。不思議なことに体は身元が分からないほど黒く焼けているのに
着衣は全く燃えていないというものだった。
この事件を解決するよう命が下り事件解決のため動き出す暁。
この怪異は妖の仕業か…それとも人為的なものか…
妖が生まれる心の因果を暁の推理と陰陽師の力で紐解いていく。
※「女だけど男装して陰陽師してます!―只今、陰陽師修行中‼―」
(https://www.alphapolis.co.jp/mypage/content/detail/892377141)
の第2弾となります。
※単品でも楽しんでいただけますが、お時間と興味がありましたら第1作も読んでいただけると嬉しいです
※ノベルアップ+でも掲載しています
※表紙イラスト:雨神あきら様
迷い家と麗しき怪画〜雨宮健の心霊事件簿〜②
蒼琉璃
ホラー
――――今度の依頼人は幽霊?
行方不明になった高校教師の有村克明を追って、健と梨子の前に現れたのは美しい女性が描かれた絵画だった。そして15年前に島で起こった残酷な未解決事件。点と線を結ぶ時、新たな恐怖の幕開けとなる。
健と梨子、そして強力な守護霊の楓ばぁちゃんと共に心霊事件に挑む!
※雨宮健の心霊事件簿第二弾!
※毎回、2000〜3000前後の文字数で更新します。
※残酷なシーンが入る場合があります。
※Illustration Suico様(@SuiCo_0)
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる