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第一の犠牲者③
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『ともかく、メールが誰が送ったのかは警察に任せたらいいんじゃないかい? それより、自殺した曽根さんの周りを調べて見なさい。
どうも、ばぁちゃんは繋がってるような気がするんだよ。女の感は当たるからねぇ』
ばぁちゃんが僕に助け舟を出す。メールの差出人については、ばぁちゃんの言うように曽根さんの事務所や警察に任した方が良いだろう。
梨子が腕時計を気にする仕草をしたので、時間を見ると十六時を回っていた。
「健くん、私、バイトがあるからまた夜に連絡するね。私も休憩時間にでも調べてみる」
「ああ、わかった。間宮さんも今回は大学が忙しいみたいだし、僕一人で探ってみるよ」
僕は梨子を見送ると、電車に乗り自宅マンションへと帰ることにした。この電車とも、もうすぐお別れをするんだと思うと感慨深い。
僕は座席に座りながら『朝比奈女子高等学校』を検索してみた。市立の女子校で店員割れを理由に廃校になったようだ。廃校する事に反対する保護者もいたが決裂し、今もそのまま建物だけは残っている。
念のため、曽根さんのプロフィールを確認してみたけど、彼女の出身校については触れられていなかった。
『朝比奈女子高等学校 結菜』
検索すると多数の内容が引っかかった。当然ながらどれも無関係なアカウント名や呟きが多く、僕は溜息を付く。良くある可愛い名前で、SNSでは使いやすいハンドルネームなのだろうか。
無限にスクロールする気持ちで指を動かしていると、ばぁちゃんが肩から手を伸ばして指で押さえた。
『健、これだよ』
『結菜、気付いてあげられなくてごめんね。空が飛びたくなるくらい、追い詰められていたなんて知らなかったよ。いつも明るくて、面白くて優しかった結菜の事を私達は忘れないからね。最近は全然会えてなかったけど命日にはお墓参りに行きます。朝比奈女子高等学校の文化祭楽しかったね、美術部で集まった時の思い出の写真を載せておきます』
それは、写真投稿がメインのSNSで四人のブレザー姿の女子生徒が部室の椅子に座ってこちらを振り返っているような写真だった。
ちょうど、高校の文化祭の準備といった感じでみんな良い笑顔で映っている。続きの文面を見ると、真ん中に座っている小太りの女の子が、亡くなった梶浦結菜さんのようだった。そして、彼女の隣にふざけた様子でピースをしているのが高校時代の曽根あいらさん。
「あれ、この人……?」
カメラの奥で恥ずかしそうに写っている女子高生を見て、僕はどこかで見たような気がして、凝視しながらタグを見た。
『sakura』
ああ、そうだ。
あの動画よりも写真の彼女は幼く髪は短く切られているけれど、坂浦さくらさんだ。僕は背中を悪寒が走るのを感じた。
一番最初に飛び降りた梶浦結菜、坂浦さくら、曽根あいらは、朝比奈女子高等学校の出身で同級生、そして友人同士だった。
そう悟った瞬間、夕方でそれなりに混んでいた電車の中の音が無音になり時が止まった。
僕の心臓は不規則に波打ち、冷や汗が背中を伝うのを感じてそれの気配に気付く。
携帯越しに視える汚れた上履き。
そこから視える、水死体のように白い両足に青白い葉脈のようなヒビが入っている。
頭上から聞こえる苦しそうな呼吸音は忘れる事ができないほど鼓膜にこびり付いていて、それが何者なのか分かった。
『ねぇ』
突然、携帯が振動してラインのコール音が鳴り響くとあたりに人の気配が戻ってきて、悪霊の気配が消えた。
携帯を握りしめたまま、いつまでも電話に出ない僕を周りの乗客が迷惑そうに見つめる。僕はディスプレイの名前も見ないで、慌てて席を立ち上がると最寄り駅の手前で下車し、電話に出た。
「もしもし?」
『うっ、ひっく……雨宮ぁ、助けてぇ。繋がっちゃったの。琉花……繋がっちゃったのぉ』
「え……?」
泣きじゃくる琉花さんの電話に僕は途方に暮れた。
✤✤✤
それから、僕は急いで自宅マンションに戻った。
『闇からの囁き』のWEBサイトに琉花さんがアクセスに成功し、不気味な映像を見たのだと言う。
彼女のマンションには、週刊誌の記者が張り込みをしていて、彼女がこちらに来る事も、僕が向かうのも今はリスクが高い。だから、ビデオ通話で彼女と話す提案をした。
幸いなことに、ブロバイダーの契約はまだ切れていないのでネット環境に問題はない。
「とりあえず電話は切らないで、パソコンあるなら繋げてくれるかな? 無くても大丈夫だけど」
『うん……ひっく』
いつもは生意気な琉花さんも、弱々しく返事をして僕に従っている。よほど怖い思いをしたのだろうと感じられるような反応だ。
さきほどまで、朝比奈女子高等学校の女子生徒を狙って『闇からの囁き』のメールが送信され、その人達のみがアクセスできると思っていたのに、どうして琉花さんは繋がってしまったのだろう。
最近、巷で流行っているアプリを起動させると、僕は琉花さんを招待した。
二人が液晶画面が映ると、膝を抱え怯えたように目を真っ赤にさせている琉花さんが写った。彼女の周りには黒い影が纏まり付き、烏帽子の守護霊がその度に遠ざけるように祓っている。
どうも、ばぁちゃんは繋がってるような気がするんだよ。女の感は当たるからねぇ』
ばぁちゃんが僕に助け舟を出す。メールの差出人については、ばぁちゃんの言うように曽根さんの事務所や警察に任した方が良いだろう。
梨子が腕時計を気にする仕草をしたので、時間を見ると十六時を回っていた。
「健くん、私、バイトがあるからまた夜に連絡するね。私も休憩時間にでも調べてみる」
「ああ、わかった。間宮さんも今回は大学が忙しいみたいだし、僕一人で探ってみるよ」
僕は梨子を見送ると、電車に乗り自宅マンションへと帰ることにした。この電車とも、もうすぐお別れをするんだと思うと感慨深い。
僕は座席に座りながら『朝比奈女子高等学校』を検索してみた。市立の女子校で店員割れを理由に廃校になったようだ。廃校する事に反対する保護者もいたが決裂し、今もそのまま建物だけは残っている。
念のため、曽根さんのプロフィールを確認してみたけど、彼女の出身校については触れられていなかった。
『朝比奈女子高等学校 結菜』
検索すると多数の内容が引っかかった。当然ながらどれも無関係なアカウント名や呟きが多く、僕は溜息を付く。良くある可愛い名前で、SNSでは使いやすいハンドルネームなのだろうか。
無限にスクロールする気持ちで指を動かしていると、ばぁちゃんが肩から手を伸ばして指で押さえた。
『健、これだよ』
『結菜、気付いてあげられなくてごめんね。空が飛びたくなるくらい、追い詰められていたなんて知らなかったよ。いつも明るくて、面白くて優しかった結菜の事を私達は忘れないからね。最近は全然会えてなかったけど命日にはお墓参りに行きます。朝比奈女子高等学校の文化祭楽しかったね、美術部で集まった時の思い出の写真を載せておきます』
それは、写真投稿がメインのSNSで四人のブレザー姿の女子生徒が部室の椅子に座ってこちらを振り返っているような写真だった。
ちょうど、高校の文化祭の準備といった感じでみんな良い笑顔で映っている。続きの文面を見ると、真ん中に座っている小太りの女の子が、亡くなった梶浦結菜さんのようだった。そして、彼女の隣にふざけた様子でピースをしているのが高校時代の曽根あいらさん。
「あれ、この人……?」
カメラの奥で恥ずかしそうに写っている女子高生を見て、僕はどこかで見たような気がして、凝視しながらタグを見た。
『sakura』
ああ、そうだ。
あの動画よりも写真の彼女は幼く髪は短く切られているけれど、坂浦さくらさんだ。僕は背中を悪寒が走るのを感じた。
一番最初に飛び降りた梶浦結菜、坂浦さくら、曽根あいらは、朝比奈女子高等学校の出身で同級生、そして友人同士だった。
そう悟った瞬間、夕方でそれなりに混んでいた電車の中の音が無音になり時が止まった。
僕の心臓は不規則に波打ち、冷や汗が背中を伝うのを感じてそれの気配に気付く。
携帯越しに視える汚れた上履き。
そこから視える、水死体のように白い両足に青白い葉脈のようなヒビが入っている。
頭上から聞こえる苦しそうな呼吸音は忘れる事ができないほど鼓膜にこびり付いていて、それが何者なのか分かった。
『ねぇ』
突然、携帯が振動してラインのコール音が鳴り響くとあたりに人の気配が戻ってきて、悪霊の気配が消えた。
携帯を握りしめたまま、いつまでも電話に出ない僕を周りの乗客が迷惑そうに見つめる。僕はディスプレイの名前も見ないで、慌てて席を立ち上がると最寄り駅の手前で下車し、電話に出た。
「もしもし?」
『うっ、ひっく……雨宮ぁ、助けてぇ。繋がっちゃったの。琉花……繋がっちゃったのぉ』
「え……?」
泣きじゃくる琉花さんの電話に僕は途方に暮れた。
✤✤✤
それから、僕は急いで自宅マンションに戻った。
『闇からの囁き』のWEBサイトに琉花さんがアクセスに成功し、不気味な映像を見たのだと言う。
彼女のマンションには、週刊誌の記者が張り込みをしていて、彼女がこちらに来る事も、僕が向かうのも今はリスクが高い。だから、ビデオ通話で彼女と話す提案をした。
幸いなことに、ブロバイダーの契約はまだ切れていないのでネット環境に問題はない。
「とりあえず電話は切らないで、パソコンあるなら繋げてくれるかな? 無くても大丈夫だけど」
『うん……ひっく』
いつもは生意気な琉花さんも、弱々しく返事をして僕に従っている。よほど怖い思いをしたのだろうと感じられるような反応だ。
さきほどまで、朝比奈女子高等学校の女子生徒を狙って『闇からの囁き』のメールが送信され、その人達のみがアクセスできると思っていたのに、どうして琉花さんは繋がってしまったのだろう。
最近、巷で流行っているアプリを起動させると、僕は琉花さんを招待した。
二人が液晶画面が映ると、膝を抱え怯えたように目を真っ赤にさせている琉花さんが写った。彼女の周りには黒い影が纏まり付き、烏帽子の守護霊がその度に遠ざけるように祓っている。
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