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【水狼編】
幼なじみと初交尾①(※性描写有り)
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璃茉は、鳴麗と水狼のやり取りに当てられたように肩を竦めると、服を整えてさっさと屋敷から出て行ってしまった。
完全に水狼への疑惑が晴れたわけではないが、璃茉の率直な言葉に嘘はないように思われた。
疑惑を晴らそうとした水狼も、鳴麗に『月の印』が現れた切っ掛けが、自分ではないかと知るやいなや、そんなことなど忘れてしまっているかのように、嬉しそうに尻尾を振っている。
「で、でも! まだ本当にそうなのかも分からないしっ。口付けしただけで『月の印』が浮かび上がったりする? もう、そんなのって流行りの恋劇じゃん! しかも幼なじみとだなんて……王道すぎるっ」
「それってやっぱり、俺のことを鳴麗が雄として好きだってことでしょ! 俺のことを雄として意識したんだよね?」
「そ、それわぁ……!! 墓穴掘ったぁ!」
鳴麗は水狼の屋敷の玄関先で、耳をピコピコと動かしながら、あるがままに心の声を叫んでしまった。
箱入り娘の鳴麗は、両親のみならず、義兄の龍月からも、『月の印』の詳しい仕組みについて教えてもらっていない。
そもそも黒龍族特有の習性である、月の痣が出て成獣になる切っ掛けというのは、個体によって異なっていた。
体が成熟し、好きな相手が出来たり、自分を強く『雌』や『雄』としての意識し、自立を考えれば浮かび上がる。
それを意識するのが早ければ早いほど、幼獣の期間が短い、と世間一般には信じられている。
水狼は、物心ついたときから幼なじみの鳴麗は、自分にとって特別な存在で、いつかは彼女と結婚するということを漠然と夢見ていた。
だから自身が発情期を迎え、成獣になったとき、黒龍族の習性や文化についてよく調べるようになっていた。
「じゃあ……鳴麗。試してみる?」
「ふぇっ?」
間近で水狼は鳴麗に囁いた。
いつもの屈託のない笑顔ではなく、恋の駆け引きに慣れた成獣の雄を思わせるような表情は、鳴麗の鼓動を高鳴らせた。
まだ、室内の灯籠に火も灯されず、通りには牛の鳴き声やご近所の談笑の声が聞こえ、格子窓からは陽光が降り注いでいるような真っ昼間である。
だが、水狼はそんなことなど構わず鳴麗を抱き寄せて唇を重ねた。
「んっ……!」
後頭部を固定され、水狼にそっと唇を優しく重ねられただけで、鳴麗はあのときの感覚が蘇ってきた。
体が熱くなり、内部から火が燻ぶるような強い疼きを感じる。
そんな鳴麗の反応に気付いたのか、水狼がうっすらと目を開ける。
そして呼吸を乱し、思わず開けた鳴麗の唇の隙間からするりと舌を侵入させた。
あの時、鳴麗はとっさに寸前で彼を突き飛ばして逃げてしまったが、今日はなぜか抵抗できずそのまま彼を受け入れていた。
優しく貪るような舌の動きは心地よく、鳴麗は頬を上気させると、両手で彼の服をぎゅっと掴んだ。
「んっ、んんっ……はぁっ……んっ………すいっ……はぁ……んんっ、んぅ。や、やだぁ、ま、また……この感じ、んんっ、やっぱり!」
「だよね? やっぱり俺の口付けで鳴麗は『月の印』を迎えたんだ!」
水狼は、なぜか目を輝かせて誇らしげに胸を張ると、尻尾を振りながら華奢な鳴麗を軽々と抱き上げた。
鳴麗は、あの日初めて感じた『発情』の疼きが、ぶり返してきたかのように、段々と体温が上昇しどうしようもなく内部から疼き出すのを感じた。
「水狼……はぁっ……だめぇ、体が熱くなってきちゃった……。はぁっ、んっ……んぅっ……治まらないと……、お家まで帰れないよぉ……はぁっ」
「うん。俺の責任だよな。鳴麗のことは……俺が死ぬまで責任持つよ。だから、俺が鳴麗の『月の印』の疼きを鎮める」
水狼は、抱き上げた腕の中で呼吸を荒くする幼なじみに、不安を与えないように優しく微笑む。
鳴麗は彼に抱き上げられたまま、大きくなって初めて入る『幼なじみの寝室』を見渡す余裕もなく、水狼の腕の中で頬を染め震えていた。
「はぁ……つ、つまりそれって……このまま初交尾しちゃうってこと?」
「鎮めるだけ、って俺は思ってたけど。鳴麗は交尾までいきたい?」
「はっっ!? な、なにそれ! ずるいっっ」
水狼にまんまと乗せられ誘導された鳴麗は尻尾をふわふわさせたまま、床几の上にゆっくりと横たえられる。
普段は、幼獣っぽい言動が目立つ水狼に『モテる男のテク』を使われた鳴麗は、そのギャップにまんまとしてやられてしまった。
水狼は変わらず鳴麗に優しい微笑みを浮かべている。
責任を取ると言った彼の眼差しは、冗談ではなく真剣なものだった。
「鳴麗、本当に可愛い。幼獣の頃からとびきり可愛かったけど。だんだん綺麗になっていくから……。俺は、気が気じゃないよ。鳴麗ってば、全く自覚ないけど明るくて可愛いから、学校で鳴麗を狙ってる雄は多かったんだよ?」
「そ、そうだっけ? も、モテ期なんてこれっぽっちも全然なかったよ! はぁ……だって、告白とか……されたこと、ない……はぁ」
「俺と龍月さんでずっと守ってたから。変な雄が鳴麗に近付いて欲しくないからな。鹿族の静とかさ」
鳴麗が知らないうちに、彼女に近付くすべての雄は、義兄という高い城壁と幼なじみによって門前払いを食らっていたようだ。
そして何故か水狼は、武陵桃源の集いで再会した、青龍帝の側近で同級生の静を警戒している。
改めて、鳴麗の唇に水狼の唇が落とされると、鳴麗の縮こまった舌を誘うように絡めた。
水狼は逃さないように鳴麗の指に長い指を絡め、しっとりと角度を変えて深く交わる。
「んっ……んんっ、はぁっ……んっ、水狼……ふぁ……これ、気持ちいい……んっ、んんっ……はぁっ、お父さんとお母さんが良くやってたやつ」
「んっ……鳴麗、もうトロンとした表情になってる。もっと口付けてもいい?」
水狼は彼女の答えを聞くまでもなく、強引に鳴麗に口付けると、快楽でしなった彼女の熱い耳朶を指で撫でながら、首筋をくすぐる。
唇を離した瞬間、鳴麗の甘い吐息と小さな喘ぎ声を耳にして、水狼は熱っぽい瞳で耳をしならせ、尻尾を振りながら幼なじみを見つめた。
「あっ……んっ、んんっ、くすぐったい……あっ、はぁっ………んっ、ぁ………んっ、ゃ、待って、そ、それって痕つかない? んっ、ふぁぁ……あぁっ」
「俺の痕がしっかりつくよ。でも鳴麗の肌は目立ちにくいから……。鳴麗は俺のだっていう証拠、つけ放題だよな」
✤✤✤✤✤
ハロウィン鳴麗です!
完全に水狼への疑惑が晴れたわけではないが、璃茉の率直な言葉に嘘はないように思われた。
疑惑を晴らそうとした水狼も、鳴麗に『月の印』が現れた切っ掛けが、自分ではないかと知るやいなや、そんなことなど忘れてしまっているかのように、嬉しそうに尻尾を振っている。
「で、でも! まだ本当にそうなのかも分からないしっ。口付けしただけで『月の印』が浮かび上がったりする? もう、そんなのって流行りの恋劇じゃん! しかも幼なじみとだなんて……王道すぎるっ」
「それってやっぱり、俺のことを鳴麗が雄として好きだってことでしょ! 俺のことを雄として意識したんだよね?」
「そ、それわぁ……!! 墓穴掘ったぁ!」
鳴麗は水狼の屋敷の玄関先で、耳をピコピコと動かしながら、あるがままに心の声を叫んでしまった。
箱入り娘の鳴麗は、両親のみならず、義兄の龍月からも、『月の印』の詳しい仕組みについて教えてもらっていない。
そもそも黒龍族特有の習性である、月の痣が出て成獣になる切っ掛けというのは、個体によって異なっていた。
体が成熟し、好きな相手が出来たり、自分を強く『雌』や『雄』としての意識し、自立を考えれば浮かび上がる。
それを意識するのが早ければ早いほど、幼獣の期間が短い、と世間一般には信じられている。
水狼は、物心ついたときから幼なじみの鳴麗は、自分にとって特別な存在で、いつかは彼女と結婚するということを漠然と夢見ていた。
だから自身が発情期を迎え、成獣になったとき、黒龍族の習性や文化についてよく調べるようになっていた。
「じゃあ……鳴麗。試してみる?」
「ふぇっ?」
間近で水狼は鳴麗に囁いた。
いつもの屈託のない笑顔ではなく、恋の駆け引きに慣れた成獣の雄を思わせるような表情は、鳴麗の鼓動を高鳴らせた。
まだ、室内の灯籠に火も灯されず、通りには牛の鳴き声やご近所の談笑の声が聞こえ、格子窓からは陽光が降り注いでいるような真っ昼間である。
だが、水狼はそんなことなど構わず鳴麗を抱き寄せて唇を重ねた。
「んっ……!」
後頭部を固定され、水狼にそっと唇を優しく重ねられただけで、鳴麗はあのときの感覚が蘇ってきた。
体が熱くなり、内部から火が燻ぶるような強い疼きを感じる。
そんな鳴麗の反応に気付いたのか、水狼がうっすらと目を開ける。
そして呼吸を乱し、思わず開けた鳴麗の唇の隙間からするりと舌を侵入させた。
あの時、鳴麗はとっさに寸前で彼を突き飛ばして逃げてしまったが、今日はなぜか抵抗できずそのまま彼を受け入れていた。
優しく貪るような舌の動きは心地よく、鳴麗は頬を上気させると、両手で彼の服をぎゅっと掴んだ。
「んっ、んんっ……はぁっ……んっ………すいっ……はぁ……んんっ、んぅ。や、やだぁ、ま、また……この感じ、んんっ、やっぱり!」
「だよね? やっぱり俺の口付けで鳴麗は『月の印』を迎えたんだ!」
水狼は、なぜか目を輝かせて誇らしげに胸を張ると、尻尾を振りながら華奢な鳴麗を軽々と抱き上げた。
鳴麗は、あの日初めて感じた『発情』の疼きが、ぶり返してきたかのように、段々と体温が上昇しどうしようもなく内部から疼き出すのを感じた。
「水狼……はぁっ……だめぇ、体が熱くなってきちゃった……。はぁっ、んっ……んぅっ……治まらないと……、お家まで帰れないよぉ……はぁっ」
「うん。俺の責任だよな。鳴麗のことは……俺が死ぬまで責任持つよ。だから、俺が鳴麗の『月の印』の疼きを鎮める」
水狼は、抱き上げた腕の中で呼吸を荒くする幼なじみに、不安を与えないように優しく微笑む。
鳴麗は彼に抱き上げられたまま、大きくなって初めて入る『幼なじみの寝室』を見渡す余裕もなく、水狼の腕の中で頬を染め震えていた。
「はぁ……つ、つまりそれって……このまま初交尾しちゃうってこと?」
「鎮めるだけ、って俺は思ってたけど。鳴麗は交尾までいきたい?」
「はっっ!? な、なにそれ! ずるいっっ」
水狼にまんまと乗せられ誘導された鳴麗は尻尾をふわふわさせたまま、床几の上にゆっくりと横たえられる。
普段は、幼獣っぽい言動が目立つ水狼に『モテる男のテク』を使われた鳴麗は、そのギャップにまんまとしてやられてしまった。
水狼は変わらず鳴麗に優しい微笑みを浮かべている。
責任を取ると言った彼の眼差しは、冗談ではなく真剣なものだった。
「鳴麗、本当に可愛い。幼獣の頃からとびきり可愛かったけど。だんだん綺麗になっていくから……。俺は、気が気じゃないよ。鳴麗ってば、全く自覚ないけど明るくて可愛いから、学校で鳴麗を狙ってる雄は多かったんだよ?」
「そ、そうだっけ? も、モテ期なんてこれっぽっちも全然なかったよ! はぁ……だって、告白とか……されたこと、ない……はぁ」
「俺と龍月さんでずっと守ってたから。変な雄が鳴麗に近付いて欲しくないからな。鹿族の静とかさ」
鳴麗が知らないうちに、彼女に近付くすべての雄は、義兄という高い城壁と幼なじみによって門前払いを食らっていたようだ。
そして何故か水狼は、武陵桃源の集いで再会した、青龍帝の側近で同級生の静を警戒している。
改めて、鳴麗の唇に水狼の唇が落とされると、鳴麗の縮こまった舌を誘うように絡めた。
水狼は逃さないように鳴麗の指に長い指を絡め、しっとりと角度を変えて深く交わる。
「んっ……んんっ、はぁっ……んっ、水狼……ふぁ……これ、気持ちいい……んっ、んんっ……はぁっ、お父さんとお母さんが良くやってたやつ」
「んっ……鳴麗、もうトロンとした表情になってる。もっと口付けてもいい?」
水狼は彼女の答えを聞くまでもなく、強引に鳴麗に口付けると、快楽でしなった彼女の熱い耳朶を指で撫でながら、首筋をくすぐる。
唇を離した瞬間、鳴麗の甘い吐息と小さな喘ぎ声を耳にして、水狼は熱っぽい瞳で耳をしならせ、尻尾を振りながら幼なじみを見つめた。
「あっ……んっ、んんっ、くすぐったい……あっ、はぁっ………んっ、ぁ………んっ、ゃ、待って、そ、それって痕つかない? んっ、ふぁぁ……あぁっ」
「俺の痕がしっかりつくよ。でも鳴麗の肌は目立ちにくいから……。鳴麗は俺のだっていう証拠、つけ放題だよな」
✤✤✤✤✤
ハロウィン鳴麗です!
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