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【白虎編】
その命が尽きても愛してる(※エンディングスチルあり)
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白虎帝と鳴麗の婚約発表は文字通り東西南北の國に衝撃を与え、四神を驚かせた。今まで正式に表立って結婚するという報告をした聖獣は誰一人としていない。
誰もが聖獣という立場からわきまえるものが多かったのだが、今回は違う。
西の國で魔物を討伐し國の危機と西方を守護した事で鳴麗の人気はうなぎのぼりになり、彼女ならばふさわしいだろうと世間が判断した。
そして、親しみを込めて西の黒龍姫と呼ばれるようになる。
白虎帝に憧れを抱いていた雌たちも、よもや凶神と恐れられ、数々の雌たちを虜にした白虎帝が、一般霊獣と番になるとは恋劇が現実になったと興奮し自分に重ねる微笑ましい者も現れた。
西の國の屋台では、可愛らしい黒龍の人形や、大好物の鳴麗の焼印付き包子が売られた。
話題の婚約者を一目見たくて他国から訪れる観光客も増えて、街は活気に満ちていた。
四神の頭でもある玄武は白虎と仲が良いこともあり、かなり驚いていたが今回ばかりは本気で婚姻を考え、過去を乗り越えた事を知り友人として祝福した。他の四神たちも驚愕しつつも、彼らの婚姻を歓迎している。
龍月は、はじめは複雑な様子だったが最後には義妹の幸せを願って結婚を認めた。
また、白虎帝は鳴麗の両親を北の國へと招き、何不自由なく暮らせるように屋敷を与えた。
いつでも彼女が好きなときに大好き両親に逢えるようにという配慮からだ。
「鳴麗様、そろそろご用意が整いました。花籠の方へ」
膝の上で卵を温めていた鳴麗が顔を上げた。明け方まで、白虎帝が二人の卵を大事に温めていたが、この時ばかりは信頼できる侍女に預けた。
あれから、まだ結婚式も終えていないというのに密月とばかりに二人が夜な夜な愛し合っていると、ある日の早朝、目が覚めたとたんに鳴麗は卵を産んで大騒ぎになった。
黒龍族の番は、雄と雌で交代で卵を温めると言われる。
雌ぐせの悪かった白虎は意外と子煩悩なのか、鳴麗と共にかいがいしく卵を温めている姿は官吏だけでなく、水狼を驚かせていた。
白虎帝が黒龍族の子育ての様子を熱心に書物で調べているところを見ると、孵化する幼獣を心待ちにしているのが伝わり、鳴麗はくすぐったいような気持ちになる。
「う、うんっ……はぁぁ、緊張しちゃうなぁ。転ばないようにしないと」
「大丈夫ですよ、式場まで花嫁は花籠で移動するのですから。まぁ、最後の婚礼の儀で転んで失敗しなければ花丸です」
鳴麗は、プレッシャーをかけてくる侍女に頬を膨らませた。
可憐で美しい花嫁衣装を来て、美しい髪飾りをつけた鳴麗はたいそう麗しく、部屋に控えていた狼族が抱える花籠の中にゆっくりと腰を下ろした。
古くからの伝統で妻は夫の使わした花籠に乗って会場に入る。
虎の模様が書かれた金と赤の華やかな籠に乗せられた鳴麗は、ちょうど夜になると真上に天帝を表す北斗七星が見える式場に向かった。
心臓の音が神輿を担いでいる霊獣たちに聞こえてしまうのではないかと緊張して俯いていたが、花籠が止まり扉が開かれると、前方にはこの日のために仕立てた皇帝の礼服に身を包んだ美しい白虎が佇んでいた。
(ふぁぁぁっ……白虎さま、ものすごく格好いい! いつも格好いいけど、今日はちゃんと偉い聖獣様っぽい!)
心の中で絶叫しつつ、鳴麗は生涯の伴侶となる白虎帝の元へと向かった。二人を見守るようにして四神、西の國の官吏と鳴麗の両親に龍月そして水狼がいた。
白虎は口端に笑みを浮かべ、鳴麗に向かって手を伸ばす。
頬が熱くなるのを感じながら彼の指先に触れるとゆるりと皇后を招いた。
「白虎様……」
「いつものお前も可愛いが、見間違えたな。さぁ、天帝の前で夫婦の誓いを立てよう」
二人は聖なる水で互いの手を清め、一つの皿に乗った供物をそれぞれ口に含み、互いの腕を交差させて一口酒を飲む。
伝統的な婚礼の儀が終わると、白虎は鳴麗の頬を包み込んだ。
「鳴麗、お前は俺よりも寿命が短く天帝の元へと還る運命だ。俺の宿命の中でその幸福は短い一時かも知れない。だが愛する家族と過ごした日々はかけがえの無いものとなるだろうと思っている。その命が尽きるまで愛してる」
「白虎様っ……私も永遠に愛してます。絶対に結婚したのを後悔させませんっ。絶対に幸せにします!」
感動に目を潤ませ真っ赤になって必死に答える鳴麗を見ると、白虎はくすぐったいような妙な気分になってしまう。
鳴麗はいつだって真っ直ぐで、嘘偽りのない言葉で愛情を表現する。皇后という立場の雌にしては少しおっちょこちょいだが、それも可愛らしい。
「あぁ。俺はどうやらお前以外の雌は愛せそうにないらしい」
この先、たとえ彼女の命が尽きても鳴麗以外の雌を愛することはないだろう。誓いの口付けをすると、婚礼の儀の終了を知らせるドラの音が國中に響き渡った。
それを待っていたかのように城下町にいた西の民が、歓声を上げながら天に向かって鮮やかな花びらを放り投げる。
こうして、四神で初めて正式な皇后が生まれた。
「ひっ、あぁっ……び、白虎様ってば!?」
「よかろう? 俺は妻を民に見せびらかしたいのだ。街に出たいな、うまい包子が食いたい」
鳴麗をひょいと抱き上げた白虎帝は口端をニヤリと笑みを浮かべた。
白虎帝と西の黒龍姫は生涯愛し合い、慈しみあい、支え合ってたくさんの子宝に恵まれた。彼らの恋劇は西の國だけでなく東西南北で末永く語られ愛されることになる。
【白虎帝編・完】
エンディングスチル
Illustrator Suico様
誰もが聖獣という立場からわきまえるものが多かったのだが、今回は違う。
西の國で魔物を討伐し國の危機と西方を守護した事で鳴麗の人気はうなぎのぼりになり、彼女ならばふさわしいだろうと世間が判断した。
そして、親しみを込めて西の黒龍姫と呼ばれるようになる。
白虎帝に憧れを抱いていた雌たちも、よもや凶神と恐れられ、数々の雌たちを虜にした白虎帝が、一般霊獣と番になるとは恋劇が現実になったと興奮し自分に重ねる微笑ましい者も現れた。
西の國の屋台では、可愛らしい黒龍の人形や、大好物の鳴麗の焼印付き包子が売られた。
話題の婚約者を一目見たくて他国から訪れる観光客も増えて、街は活気に満ちていた。
四神の頭でもある玄武は白虎と仲が良いこともあり、かなり驚いていたが今回ばかりは本気で婚姻を考え、過去を乗り越えた事を知り友人として祝福した。他の四神たちも驚愕しつつも、彼らの婚姻を歓迎している。
龍月は、はじめは複雑な様子だったが最後には義妹の幸せを願って結婚を認めた。
また、白虎帝は鳴麗の両親を北の國へと招き、何不自由なく暮らせるように屋敷を与えた。
いつでも彼女が好きなときに大好き両親に逢えるようにという配慮からだ。
「鳴麗様、そろそろご用意が整いました。花籠の方へ」
膝の上で卵を温めていた鳴麗が顔を上げた。明け方まで、白虎帝が二人の卵を大事に温めていたが、この時ばかりは信頼できる侍女に預けた。
あれから、まだ結婚式も終えていないというのに密月とばかりに二人が夜な夜な愛し合っていると、ある日の早朝、目が覚めたとたんに鳴麗は卵を産んで大騒ぎになった。
黒龍族の番は、雄と雌で交代で卵を温めると言われる。
雌ぐせの悪かった白虎は意外と子煩悩なのか、鳴麗と共にかいがいしく卵を温めている姿は官吏だけでなく、水狼を驚かせていた。
白虎帝が黒龍族の子育ての様子を熱心に書物で調べているところを見ると、孵化する幼獣を心待ちにしているのが伝わり、鳴麗はくすぐったいような気持ちになる。
「う、うんっ……はぁぁ、緊張しちゃうなぁ。転ばないようにしないと」
「大丈夫ですよ、式場まで花嫁は花籠で移動するのですから。まぁ、最後の婚礼の儀で転んで失敗しなければ花丸です」
鳴麗は、プレッシャーをかけてくる侍女に頬を膨らませた。
可憐で美しい花嫁衣装を来て、美しい髪飾りをつけた鳴麗はたいそう麗しく、部屋に控えていた狼族が抱える花籠の中にゆっくりと腰を下ろした。
古くからの伝統で妻は夫の使わした花籠に乗って会場に入る。
虎の模様が書かれた金と赤の華やかな籠に乗せられた鳴麗は、ちょうど夜になると真上に天帝を表す北斗七星が見える式場に向かった。
心臓の音が神輿を担いでいる霊獣たちに聞こえてしまうのではないかと緊張して俯いていたが、花籠が止まり扉が開かれると、前方にはこの日のために仕立てた皇帝の礼服に身を包んだ美しい白虎が佇んでいた。
(ふぁぁぁっ……白虎さま、ものすごく格好いい! いつも格好いいけど、今日はちゃんと偉い聖獣様っぽい!)
心の中で絶叫しつつ、鳴麗は生涯の伴侶となる白虎帝の元へと向かった。二人を見守るようにして四神、西の國の官吏と鳴麗の両親に龍月そして水狼がいた。
白虎は口端に笑みを浮かべ、鳴麗に向かって手を伸ばす。
頬が熱くなるのを感じながら彼の指先に触れるとゆるりと皇后を招いた。
「白虎様……」
「いつものお前も可愛いが、見間違えたな。さぁ、天帝の前で夫婦の誓いを立てよう」
二人は聖なる水で互いの手を清め、一つの皿に乗った供物をそれぞれ口に含み、互いの腕を交差させて一口酒を飲む。
伝統的な婚礼の儀が終わると、白虎は鳴麗の頬を包み込んだ。
「鳴麗、お前は俺よりも寿命が短く天帝の元へと還る運命だ。俺の宿命の中でその幸福は短い一時かも知れない。だが愛する家族と過ごした日々はかけがえの無いものとなるだろうと思っている。その命が尽きるまで愛してる」
「白虎様っ……私も永遠に愛してます。絶対に結婚したのを後悔させませんっ。絶対に幸せにします!」
感動に目を潤ませ真っ赤になって必死に答える鳴麗を見ると、白虎はくすぐったいような妙な気分になってしまう。
鳴麗はいつだって真っ直ぐで、嘘偽りのない言葉で愛情を表現する。皇后という立場の雌にしては少しおっちょこちょいだが、それも可愛らしい。
「あぁ。俺はどうやらお前以外の雌は愛せそうにないらしい」
この先、たとえ彼女の命が尽きても鳴麗以外の雌を愛することはないだろう。誓いの口付けをすると、婚礼の儀の終了を知らせるドラの音が國中に響き渡った。
それを待っていたかのように城下町にいた西の民が、歓声を上げながら天に向かって鮮やかな花びらを放り投げる。
こうして、四神で初めて正式な皇后が生まれた。
「ひっ、あぁっ……び、白虎様ってば!?」
「よかろう? 俺は妻を民に見せびらかしたいのだ。街に出たいな、うまい包子が食いたい」
鳴麗をひょいと抱き上げた白虎帝は口端をニヤリと笑みを浮かべた。
白虎帝と西の黒龍姫は生涯愛し合い、慈しみあい、支え合ってたくさんの子宝に恵まれた。彼らの恋劇は西の國だけでなく東西南北で末永く語られ愛されることになる。
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エンディングスチル
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