【R18】桃源郷で聖獣と霊獣に溺愛されています

蒼琉璃

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月の印①

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 龍月の自立は早く、一人暮らしも長いので鳴麗よりも料理が上手だった。手作り包子パオズも母親の作るものよりも美味しい。
 鳴麗もようやく一人前に料理を作れるようになってきたものの、義兄に教えられる事はまだまだ多かった。
 今日は点心に魚介スープ、鶏肉と木の実の炒めものなど栄養満点な夕食が並んでいた。
 鳴麗は包子を頬張るともぐもぐ口を動かす。

「はぁ、龍月兄さんの包子ってば本当に美味しい、ほっぺが落ちちゃいそう! 幸せ」
「お前は、嬉しくなると耳がピクピク動くから分かりやすい。今日はあの場に玄武様がいらして良かったな。本当にどうなる事かと思って私は生きた心地がしなかった」

 無邪気な義妹の反応に、龍月は苦笑しつつスープを飲んだ。白虎帝に鳴麗が手を捕まれた時は本当に生きた心地がしなかった。
 部下から義妹が、かの有名な暴君で凶性を持つ白虎帝と廊下でぶつかったと言う話を聞いたからだ。
 二度目の粗相そそうは、四聖獣の中で最も位の高い玄天上帝という立場にあっても、庇いきれるものではない。

「う、うん……ごめんなさい、兄さん。でも、楽しそうにしてたから多分……大丈夫だと思うの。よく分からない事を言われちゃったけど」
「――――よく分からない事とは?」
「月が満ちて、お前に印が現れたらお前をおんなにしてやる……って。どう言う意味なの?」

 その言葉を聞いた瞬間、龍月は飲みかけたスープをむせて吐き出しそうになってしまった。龍月は眉間にシワを寄せ、冷たい美貌がさらに険しくなる。
 黒龍ヘイロン族の特徴として、雄も雌も生殖が可能になる年頃になると、体のどこかに月の印が現れる。そうなると、発情期を迎える事になり、完全な成獣として成長したことになる。
 本気か冗談なのか、白虎帝は鳴麗の発情期が来たら、自分の愛人にすると宣言した。
 前々から手癖の早いと噂の聖獣帝だったが、最愛の義妹に手を出そうと言うのならば、こちらも全力でそれを阻止するしかない。

「龍月兄さん?」
「……ああ。全く……。義母上や義父上はお前のことを蝶よ花よと育てていたせいで、大事なことを教えていなかったみたいだな。その時が来たら私がきちんと教える」
「う……うん?」

 発情期がくるのは個体それぞれで、鳴麗の年齢にしては遅いほうだが、無垢な少女もいずれ成獣となる。義妹に発情期が来れば、はたして自分は義兄として冷静でいられるのか分からなかった。
 娼妓を買って彼女への気持ちを紛らわしていたが、自分をもう騙せなくなりそうだ。

「ねぇ、今夜は兄さんと一緒に寝たら駄目?」
自分の部屋で寝なさい」
「けちー」

 むくれる鳴麗に、龍月は思わずため息をついた。全く別の卵から生まれた自分を、実の兄のように慕っている彼女は無邪気に甘えてくる。
 とうの昔に、龍月は血の繋がらない鳴麗のことを妹として見ておらず、異性として愛していたからだ。
 すでに発情期を迎えた龍月にとって、いろいろと心の整理がつかずその無邪気さが、時に残酷に思えた。
 願わくば、他の雄や外の世界の事など知ることなくこのままここに閉じ込めておきたいとさえ龍月は思ってしまう。この世は天帝に統治された華やかな楽園だが、光が強ければ強いほど影もまた濃いという事も義妹はまだ知らない。

 鳴麗は、最近あまり構ってくれなくなった兄に不満を抱きつつ、印について考えていた。
 そう言えば幼い時に両親に満月のような印が体に刻まれているのを見た事があるが、あれがそうなのだろうか。
 他の黒龍族も同じ場所に現れないのか、あまり見かけた事はないし、義兄も目に見える場所に印は存在していないように思える。
 明日は休暇で、久しぶりに水狼と遊ぶ約束をしたので鳴麗は彼に相談してみようと思った。

✤✤✤

 ラァン族の水狼も、香安育ちで宮廷より少し離れた地区に住んでいる。彼も鳴麗と同じく親元から離れて、一族の誉れとなる白虎帝へと士官した。
 西のくにに引っ越せば、今よりも楽に勤務が出来るだろうが、水狼いわく故郷の國が一番で幼馴染の鳴麗と、気軽に遊べなくなるのが嫌だと言うことだった。
 遊び、と言っても手掴みで魚を取ったり虫を取りに行ったり、そんな事ばかりなので最近では、渋々鳴麗に合わせるかのように買い物に出掛けたり家で雑談、もしくは古劇を見に行ったり、彼に譲歩して釣り竿を持って魚釣りに行くくらいなものだ。

「今日の古劇は面白かったねぇ。青龍帝様の英雄談、凄かったよ。青龍帝様は同じ龍だから、いつか遠くからでもお見かけしたいなぁ」
「白虎様と並ぶ武将だもんな! 魔物達と三日三晩死闘を繰り広げるなんて、かっこ良すぎる。白虎様と仲が良いみたいで時々遊びに来るよ。でもさ、穏やかな方であんなに暴れ回っていたなんて信じられねぇ、かっけーー!」

 水狼は目をキラキラとさせ、幼獣のように興奮したように両手に拳を作った。久々の古劇にわいわい感想を言い合いながら賑やかな市場を抜けて歩いていた。

「青龍様の下には鹿ルー族のジンが仕えてたよね。青龍様が降臨されてから、ずっと一家を代々召し使えているなんて、凄いよ」
「あー……静かぁ。あいつは直ぐに俺に自慢してくるから苦手なんだよ。明日、武陵桃源の誓いがあるだろ、あそこで静と美杏メイアンに逢うのが憂鬱ゆううつだ。鳴麗も行かされるよな?」

 美杏は、命鳥ミンミャオ族の少女で今は紅一点の朱雀帝の元で士官している。美杏も静も同じ学び舎で学んだ級友で、奇跡的に全員がそれぞれ聖獣の元で職を得る事が出来た。
 静はプライドが高くて人気者の水狼を敵視し、嫌われ者だったが、なぜか鳴麗の事は友人のように話しかけてくる。
 美杏は他の獣から見てわかるほど、昔から水狼に好意を寄せていたので、幼馴染の鳴麗に対して並々ならぬ敵対心を抱いていた。

「うん、でも、みんなと会えるのは嬉しいよ。卒業したらあんまりお友達と会えなくなるから……ねぇ、あの……みんなはもう、月の印が出たのかな? 水狼も……もう出た?」
 
 水狼の屋敷の玄関を、鳴麗が開けようとした瞬間、ふと昨日の兄とのやり取りを思い出して背後の水狼を見上げた。
 水狼は目を見開き、驚いたように幼馴染を見下ろした。
 
「ああ……それは」
「?」

 いつもの水狼とは違い、歯切れの悪い感じで目線を反らすと頭を掻いた。黒龍ヘイロン族は、分かりやすい形で繁殖できるかどうかを知る事ができる。
 ある意味それが、他の種族にとっては下品な冗談の種になってからかわれる事もあり、それが原因で、特に黒龍族の雌はおおっぴらにそのような事を口にしない。
 少なくとも狼族にはそのような印は無く、成獣を迎える前から繁殖を意識するようになる。
 すでに水狼はもう何年も前に雄として、立派に役割を果たせるようになっていた。
 もちろん、鳴麗が知らないだけで雌とは経験済みだ。たしかに彼女の前では無邪気な幼獣こども時代に戻れる。だが、それも印が現れるまでだと水狼は思っていた。
 けれど幼獣の時のようにずっとじゃれあってきた彼女もいつの間にか、綺麗な成獣おとなになっていた。
 いつか偽りの仮面も剥がされ、彼女への生々しい気持ちが湧き出てしまう。彼女に恋心を拒絶され嫌われてしまうかも知れないという恐怖と、雄としての期待を持っていた。

「もしかして、鳴麗……ようやく印が出た?」
「ううん。水狼は印がなんなのか知ってるの?」
「そうか。俺はもう、何年の前に……印は来た」

 そう言うと、玄関先で立ち尽くし不思議そうにして見上げる、鳴麗に口付けた。
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