【R18】月に叢雲、花に風。

蒼琉璃

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玖、あやかしと蜜絞り―其の伍―

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 吉良の深紅の瞳は、若菜の最上級の霊力を体に吸収して、爛々と輝いていた。漲る霊力と先程の若菜の痴態に狗神の血が疼いていた。
 狗神の大きくなった陰茎を目にして羞恥に赤面した若菜を、やれやれと不敵に笑みを浮かべて見下ろした。

『嬢ちゃんに、尺八して貰おうかと思ったがそいつァ、紅雀のお得意業なんで、他の女じゃ到底満足がいきやしねェ。
 ――――どうにも、お前の観音様を味あわねェと俺の魔羅が満足しそうにねェなァ』

「あっ、ま、待って、それは、吉良、ひぁんっ」

 実際の所、先程から痛い程勃起した陰茎が、若菜の拙い口淫に戯れる程の余裕は持ち合わせていなかった。強い清浄の霊力を含んだ極上の愛液を口にした事で、魂の根本的な空腹は満たされたが、満たされた事で湧き上がった本能的な雄の部分は猛り狂って、止める事が出来ない。
 生憎だが、自分はそこまで紳士ではない。狗は雌の臭いに反応して発情する。
 若菜の華奢な腰を抱くとうつ伏せにし、寝たままの格好で太股を開かせ、挿入しやすいように少し臀部をあげると、愛液ぬるぬると濡れた亀裂に亀頭を悪戯に擦りつけた。 
 薄桃色の重なった花弁を虐めるように、幾度も上下を繰り返すと、寝具のシーツを握りしめたまま、若菜は涙目になって喘いだ。愛液をまるで伸ばすような淫らな音が鼓膜に届いてどうしようもなく恥ずかしい。

「ゃ、やぁ、吉良、それ、恥ずかしい、んっ、やぁ、お、音がっ……ゃ、やだ」

 花弁を上下する、それだけの単純な愛撫で、思わず甘い声をあげてしまう若菜に、狗神は嗜虐的に喉の奥で笑うと、ゆっくりと熟れた桃のような蜜壺に陰茎を挿入する。

「ふぁぁっっ…! あっ……はっ……ひんっ……!あっ、蜜絞り、おわったのに、やっっ! だめ、だめだよ!」

 不意に覆い被さる吉良は両手をつくと、低く甘い声音で耳元で呟いた。根本まで挿入された魔羅を漣のような蜜壁が波打ち、奥へ奥へと誘い込むように吸い付いてくる。腰が蕩けてしまいそうな快感に、吉良は直ぐに射精してしまいそうになるのを我慢するように、シーツを握りしめた。

『はぁっ……蜜絞りは終ったが、主との儀式……いや、交尾は終わってねぇ……は、はは、挿れただけで、蕩けそうな位な巾着……おまけにミミズ千匹、数の子天上……はぁ……はぁ、若菜の観音様は、宝殿だなァ……痛くねェか?』

 まるで犬が交尾をするように、後ろから前後に動き始めると、ぱちゅぱちゅと淫らな蜜音が響いて、若菜は密色の瞳を見開いた。
 吉良の陰茎が擦れる度に、蜜壁の気持ちの良い部分を亀頭の段差で擦り付け、奥までぐにぐにと先端で愛撫されると何度も頭の中がチカチカと快感の火花が飛び散る。
 たまらず若菜は寝具の枕をぎゅっと握りしめ縋り付いた。

「あぅ、痛くなぃ……あっ! はぁっ、やぁんっ、やっあっあっあっふぁ、ん、あう、そこ……こすったら、ひぁ、やはっ」

 若菜は目を見開き頬を染めて愛らしい声をあげた。吉良の顔は見えないが、逞しい入れ墨の入った二本の腕が左右に見え、背後から突き上げられると、まるで支配されているような被虐的な気持ちになった。
 吉良は白く傷ひとつ無い臀部を満足げに見つめた。柔らかな太股に挟まれ、出入りする度に花弁が淫らに絡み付き、蜜口から天井までの狭くてさざ波のような壁を狗のように唸りながら吉良は堪能していた。

『はぁっ……はぁ……ん、全く、まだ締め付けてねェってのに絡み付いて……どっちが食われてるか……はぁ、わからねェな……はぁ……お前の膣内なかから蜜が次々と溢れてくるぜ。こんなに濡らしてると、いやらしい音が彼奴等にも聞こえそうだなァ……はぁっ、ははっ。
 ちゅっ……はぁ……背中も舐めてやる、はぁ、はぁっ』

 不意に吉良は、乱れた着物を更に指先で脱がせると肉厚の舌先で肩甲骨あたりからうなじまで舐めてやる。不意打ちに弱点を愛撫されぎゅっと瞳を閉じて若菜は戦慄いた。
 その間もいやらしい腰つきで、腰を動かされ若菜はビクビクと体を震わせて背中を反らした。快楽の涙がポタポタと、シーツに染みを作った。

「あっ、あぁんっ、やぁっ、あんっ、あっ、きら、ぐりぐりしたら、あんっ、やはっ、あっあっ、真っ白になっちゃう、あっ、あっ……ひぁっ!」

 若菜が気をやりそうになった瞬間、陰茎を抜かれ、切なくて苦しくて疼く快楽に思わず若菜は吉良を振り返ると、ふっくらとした若菜の唇を奪うように重ねながら仰向けする。
 華奢な太股をM字に折って開かせると、一気に摩羅を根本まで挿入した。
 その瞬間、敏感な若菜はビクンっと大きく背中をそらして絶頂に達した。

「んんぅっ~~~~ッ!!」

 唇の間から甘い声をあげてビクビクと膣内を蠕動させるその極楽浄土へ引導を渡されそうな行為に、一瞬快楽で我を忘れそうになったが吉良だが、呻き声をあげつつも堪え荒い呼吸を乱すと笑った。

『っ……! おい、体位変えただけで、気をやっちまいやがって…はぁ……甘ったれのお嬢ちゃんには……、こっちの方がいいだろ……んっ』

 吉良に舌先を絡められ、互いの唾液を交換をしながら若菜は蜜色の瞳を潤ませた。もう何度も気をやって体は蕩けて、その淫らで美しい表情も、傷ひとつない吸い付くような肌を持った美しい裸体も、色香の漂う美女が好みの吉良も、童顔の若菜にしては、とても艶っぽく感じた。この娘は、知らず知らずのうちに、抱く男を魅了する術でも生まれつき持っているのだろうか。
 まるで、抱く男の好みによっていかようにも魅せる事が出来るような、魔性めいたものを感じる。
 何より達する度に高まり膨れ上がる霊力の香りは、あやかしの世界や人の世界では到底嗅ぐ事のできない、まるで極楽浄土、天上の世界にいるかのような気持ちにさせられた。木花之佐久夜毘売の加護とばかり思っていたが、確証はないが、若菜の魂に宿る、根本的な素質のようにも感じられる。
 吉良は思わず、我を忘れてごくりと喉を鳴らす。

「んんっ! ごめんなさ……あっ、あぅ、狗耳可愛い」
 若菜はそんなことも露知らず、吉良の狗耳を撫でる。無意識に、黒い耳がピクピクと動く様子が少し可愛らしいと思ってしまった。

『は?? ったく、やっぱガキだな。動くぞ』

 色気のある雰囲気を壊す若菜に苦笑しつつ、主の指先を握って離した。華奢な手を寝具に押し付け、両手を若菜の体の横に付け、見つめながら腰を動かすと、若菜は蕩けた、愛らしい表情で体を敏感に震わせた。
 それに刺激されるように、ムクムクと陰茎が膣内なかで少し大きく膨れるのを感じ、それに反応するように溢れた甘い愛液が淫らに竿に絡み付いて、蕩ける蜜壺は、まるで極楽浄土のようだ。

「んんっ、あっあっあっ、ひぁ、な、なかで大きくなって、あぁぁんっ、あっあっ、はふっ、あ、あん、そんなに激しくしたらっ、ゃっ」
『っ、はぁ、お前の眞液が……飛び散ってまるで……、天国にいるみてェな気になる……この俺が女神の、巫女を抱くとはなァ……!』

 若菜はある意味、木花之佐久夜毘売の巫女だ。その彼女を、呪われ存在である狗神が抱いてる
 ――――。
 神聖な者を穢すようで、吉良は背徳的な快楽を感じていた。二人の結合部は淫らに濡れ、幼子のような、綺麗な薄桃色の亀裂が狗神の摩羅で吸い込んで淫らに収縮している。
 吉良は、浅く入り口部分の感触を楽しみ、奥まで突き上げて激しく腰を動かすと、若菜は堪らず、薄桃色の口端から銀糸が垂れて愛らしい表情で喘いだ。
 吉良の動きは、遊郭で楼主や仕込みとして、妖魔の女を扱ってきた玄人の技術で、感じやすく敏感な若菜にとって、些か刺激的すぎる快感だった。
 愛液が大量に溢れ、狗神の陰茎で淫らにかき混ぜられると、吉良は口端で狡猾な笑みを浮かべた。

『はぁ、はぁっ、気をやりそうな顔をしてきたなァ……ほら、いやらしい本気汁が出てきたぜはぁっ、なぁ若菜。本当は、俺にこうして犯されたかったのか?』
「あっあっあぁっあんっ、そんなことなっ……!あぁんっ、ふぁっっ、あっあっあっ、だめ、あっ、きら、また、また、いっちゃ、いっちゃう!」

 否定するように、頬を染め頭を振る若菜に、思わず嗜虐的な感情が生まれた吉良は、若菜を抱き締めて動きを止める。
 その反動で求めるように膣内なかが蠕動した。切なく表情を歪め、若菜はどうしようもなく吉良の深紅の瞳を吐息を乱しながら見つめた。

「………はぁ、はぁ………、やぁん、き、きら」
『はぁ、はぁ、何だ? 主人らしく言ってみろよ』

 吉良は、若菜の耳を狗の大きな舌先で舐めると低く甘い声で呟いた。
 若菜は涙目になりながら、快楽に逆らえず吉良の背中に抱きついた。ひくひくと物欲しそうに膣内なかが痙攣して今にも射精してしまいそうだ。

「はぁ……はぁ……吉良、意地悪しないで、動いて……辛いの……」
『ほら、もっと艶っぽく言えるだろ? 俺の何でどうされてェんだい? 
「ぁ………ゃ………吉良の…………摩…羅で…動いて欲しいの」
『ハッ、お前にしちゃあ上出来だな』

 若菜の甘い声は、背筋から這い上がるような吉良の欲情を滾らせ、自分の膝の上に両足を置くと抱き抱えるようにして体を丸ませ、狼のように唸りながら腰を動かした。
 紳士的な吉良も、主の前では最早狗神の本性は隠せず、激しく攻め立てるように極楽浄土の蜜壺を貪った。
 式神は、愛液や精液で人の世に止まる為の霊力を得るが、こうして交わる事でも主から多大な霊力を受けとる。木花之佐久夜毘売の巫女を組み敷き、本能のままに交尾をする高揚感と、愛液が滴り、絡み付く心地よさに陶酔するように目を細めた。
 ――――もう、我慢の限界だ。

「あっあっあっあっ! はぁっ、あぅ、あ、やはっ、あんっ、きら、あんっ、はげし、いよぉ、あっあっやっやっ、はぅんっ、もう、わたし、だめ、あっあっそんなにされたら、また気をやっちゃう、ふぁぁっ!」

『んん、はぁ…っはぁ、俺もお前の観音様に…絞り……はぁぁ、取られちまいそうだ……ほら、ほら、気をやれ……俺も、はは、無理だ……気をやっちまう』

 室内に淫靡な音が鳴り響き、華奢な若菜を壊さんばかりに腰を動かすとシーツに眞液が飛び散り、若菜はたまらず背中を反らして、絶頂に達した。
 それに続くように、桜の花弁のような女陰に思わず弾け飛んだ白濁した液体を注ぎ込んでしまった。

「ひゃんっっ、膣内なかに出しちゃだめな、の、に、あっ……はぁ、はぁ」
『はぁ、すまねェな、お前に膣内なかがあんまり気持ち良くてなァ。それに由衛にも中出しされだろ? 俺にも……な?』

 そう言われて、若菜は真っ赤になって目を瞑った。魔羅の先端まで抜き取ると、白濁した液体がどろり、と若菜から掻き出される。激しい夜伽に荒い息を付く若菜の額に口付けながら、側にあった手拭いで女陰を綺麗にしてやると抱き起こし、着物を整えてやり、抱き上げた。

 ✤✤✤

「はぁ……、吉良、待って、まだ……はぁ……息が」
『このままだと、お前は寝ちまいそうだしなァ。それに俺がまた盛っちまいそう。帰りは寝てて良いぞ』

 そう言いつつ、吉良は本能的に嫌な予感がして若菜を抱き抱えたまま、廊下を歩き広間に戻ってきた。
 妖魔達は、酒盛りで出来上がり当初よりも和やかな雰囲気だ。此方に対して、敵意や警戒はないように感じ若菜は狗神を見上げた。

『お前の蜜が効いてるようだなァ。普通の人間なら、こうはならねェが……お前の蜜が効いてる間は、こいつ等は眷属みてェなもんだ』

 入ってきた二人を見て、赤ら顔の妖魔達は笑いながら次々と話しかけてくる。
 酒も妖魔にとって、豪華な食事も次々と運ばれている。あの農民の娘や、他の奴隷も忙しそうだ。上座に座らされた吉良は、相変わらず若菜を胡座の上に抱いたままで離さなかった。
 まだ情事が終わり、息が整わない艶かしい若菜の様子に、鼻を伸ばしながら先程の蛙の妖魔がニヤニヤとして言う。

『いやー、兄貴! こんなうめぇ霊力は初めてですよ! まだまだ飲めそうですぜ』
『本気で殺すぞ?』

 若菜が、怯えるように吉良の首元に抱きつくと、まるで娘の彼女の頭を抱き寄せるようにして、殺意の籠った目で睨み付ける。

『あんたもういい加減にしなよ、殺されたいの? まぁ、人間嫌いのあんたがその娘を側に置きたがる理由は良く分かったよ。それに、その様子じゃね。人間とそうなっちゃう妖魔もいるし……、あたしもそうなったことあるからさ』

 彩芽は恐らく、二人の関係を主従以上だと勘違いしている様子だったが、それを否定するのも面倒で、吉良は取り敢えずこの場はそれで貫く事にした。

『まァな。所で、妖魔だけじゃなく、天魔も都に現れてるってェ噂も聞いたんだが……何かお前等知らねェか?』

 妖魔達は顔を見合わせ、不安そうな様子で吉良の顔色を伺った。この様子だと、詳しい事は何も知らないようだった。
 妖魔は古来、天魔より下の階級の魔族だった。第六天魔王が封印され、天魔もまた人間界と天界の間にある第六色欲界(天魔界)に封印されてしまってから、この人の世で人間を脅かす存在は天魔だけになってしまった。
 だが、封印から溢れ落ちた天魔達は、息を潜めて生きている――――と言うのが、若菜の読んだ書物には書いてあった。恐らく、彼等妖魔もそういった認識ではないだろうか。
 重苦しい沈黙を破るように田貫が腕を組み、顎に指を置きつつ、口を開いた。

『わしは聞いたことがあるぞ。下級天魔が、中級妖魔と行動を共にしたり、人間を唆しておるとな。天魔は人の欲望を糧にする。しかし吉良、わし等はこれ以上の事はわからんよ』
『もし、何か調べるんなら……もう鞍馬山の天狗に聞くしかないよ。あいつが一番世の中の情報を掴んでんだから。あんたなら、あの大天狗も喜ぶでしょ』

 それは薦めないけど、と彩芽が言うと同じように吉良も苦笑した。若菜は口を挟む事を禁じられていたので黙って聞いていたが、不思議そうに彼を見つめる。

「吉良……様、天狗と仲がいいの?」
『そうなんだぜ、お嬢ちゃん。狗神達だけは、天狗と敵対してないんだ』

 そう言うと妖魔達は笑った。

 天狗と言う妖魔は、下級の烏天狗でも陰陽師は手を焼き、先ず避けて通る相手で彼等を討伐する時は数人の陰陽師で向かい打つ。
 そんな相手であるから、天狗を式神にしている陰陽師は、夕霧以外若菜は見た事がない。
 あの光明でさえ天狗を式にしていない。最も彼の扱う双子の式神の種類はなんなのか、今だに分からない異質のものだが。
 若菜にとって、あまり馴染みの無い妖魔だが、手強い相手だと言う事は重々承知していた。

『いや………、そうじゃねェが』

 言葉を濁す吉良を見つめていた若菜が、突然ビクッと肩を竦めた。
 心臓が早鐘のように波打ち、全身に鳥肌が立った。強い妖魔が側に来た感覚と同じものを感じて、若菜の表情が強張った。その様子を、吉良は見過ごさなかった。彼もまた嫌な予感が的中したようにみるみる険しい表情になる。

「何か……くる……」

 その瞬間、おうめが慌てた様子で座敷に転がり込み、息を切らして滑り込んできた。どうやら肩を斬られているようで、流血している。

「お、お逃げくだせぇ、天狗の憲兵が……ぐぅぅ!」
『おうめ!』

 漆黒の羽根を背中に烏天狗の仮面を被った男女数人の黒衣の修験僧が無言で押し入り、おうめの体に深々と刀を突き立てた。
 その瞬間、妖魔達は悲鳴をあげ逃げまどい、あるものは彼等に飛び付き勇ましく闘い、ある者は挑んで弾き飛ばされ、中庭から逃げだした者は執拗に追う烏天狗に深々と背中から刀で刺し殺されていた。
 烏天狗達もまた、数人の妖魔に八つ裂きにされている。
 まるで、阿鼻叫喚の地獄絵だ。

 吉良は立ち上がると若菜を降ろし手首を掴んだ。陰陽師であるが、一方的になぶり殺しにされる妖魔達を不憫に思い、印を結ぼうとした瞬間、低い声で制される。

『若菜、手を出すな……逃げるぞ!』
「き、吉良、あっ……!」

 吉良が若菜の手を引き、奥の部屋に行こうとすると、不意に横から彩芽が現れ手を引っ張る。
 肩に傷をおっているのか腕から血が滴り落ちている。

『吉良、あんた等はこっちから逃げな! あの先は隠し扉だ、ここはあたし等に任せて! おうめの敵取らなくちゃ』
『おい、彩芽お前も逃げろ。死ぬ気か?』
「だめ! 彩芽さん、一緒に来て!」

 若菜も思わず叫んでしまった。驚いた鬼女だがにっこりと微笑み若菜の頭を撫でた。燃えるような赤い瞳に炎のような波打つ髪が美しい。

『何さ、あんた人間の癖に優しいね。良いを持ったじゃん吉良。頑張りなよ、生きてたら……また会おうよ』

 そう言って若菜の頭を撫でると、吉良に向かって戦友を送り出すように笑いかけた。
 踵を返して気合いを入れ、狭い廊下を走り出し、自分達の盾になるかのように闘い始めた。

「吉良……、見捨てていけないよ」
『ったく、あいつだけは騙せねェな。行くぞ、あいつはそんなに柔な女じゃない。お前を無事に人界に送りとどけねェと、朔に殺されちまうからな』

 そう言うと、若菜の訴えを無視して走り抜け、裏口の扉を開けた。二人が外に出ると既に数人の烏天狗達が回り込んでいた。吉良は舌打ちして、主を背中に押し込めた。若菜は息を飲みながら肩越しに様子を見守った。吉良の合図があれば何時でも戦えるように彼等を睨みつけている。

『―――良い度胸だなァ。この狗神の吉良と、殺り合おうってェのか。悪いが、俺は今すこぶる機嫌が悪い。お前等全員、皆殺しにしても足りねぇ位だ』

 吉良の殺気が放たれると、禍々しくもそれでいて若菜の霊力を受けた清浄な気が渦巻き、その異質さに烏天狗達をたじろがせた。
 狼狽する烏天狗を割って、彼等よりも霊力の高い男女二人の天狗が現れると、ゆっくりと仮面を取った。そこには冷たい美貌の美男美女が機械的に微笑んだ。

「吉良様、御迎えに上がりました。今や貴方に変わり、この辺りを取り仕切っている、鬼一法眼様が御呼びで御座います」

 女天狗がそう言うと吉良は大きくため息を付いた。抵抗しても若菜に危害が及ぶ可能性がある。

『鬼一法眼か。相変わらず大層な名前で名乗ってんなあいつは。この女は道中邪魔になるだろうから、俺のに置いてそちらに出向く』
「法眼様は、その人間もご一緒にとお招きしておりますのでご案内致します」

 そう言うと、拒否権のない若菜と吉良の周りを四方八方で固めた。若菜は初めて間近でみる天狗に緊張し、吉良の服をぎゅっと握りしめ彼等の顔を見渡した。
 吉良は、安心させるように肩越しで若菜を見ると「お前は話すなよ」と小声で釘を刺すと、天狗に言い放った。

『拒否権は初めからねェか……。若菜捕まってろ。お前には絶対手を出させねェから。必ず朔の元へと帰るぞ』
「うん……、絶対、無事に帰るよ」

 吉良は大きな狗神の姿になると、若菜に乗るように促した。若菜は吉良の背中に乗った。
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