11 / 145
伍、義姉弟番い―中編―
しおりを挟む歌奈は緊張していた。
対面の席に呼ばれた時はその口がら心臓が飛び出すのではないかと思うくらいだった。
しかし、歴史上の濃姫に会える事に少なからず興奮していた。
「面を上げよ。」
優しい声が響く・・
顔を上げると、凛としてそこに鎮座する美しい濃姫がそこにいた。
思わず見とれてしまう・・
ただただボ~っと自分を見ている歌奈が何だか可笑しく濃姫は笑いながら話しかけた。
「どうかしましたか?」
「ごめんなさい!!あまりにお綺麗なので見とれてしまいました。」
その唐突で素直な言い方に思わず声を出して笑った。
「もう少し傍へどうぞ。」
我に返った歌奈は自分には使命がある事をようやく思い出した。
「濃姫様にお会いしたかったんです。なので私がお館様にお願いしたんです。ご迷惑では無かったですか?」
「私も吉乃殿と話しがしたいと思ってました。」
「本当ですか!良かった~私、濃姫様と仲良くなりたいんです。濃姫様の事、もっと知りたいと思ってたんです。」
そして歌奈の怒涛の質問攻めが始まる。
「濃姫様はお好きな食べ物はなんですか?私はここの鰻が好きです!尾張にきて楽しい事はなんですか?私は乗馬!野山を駆け回るのがとっても楽しいです。もちろんひとりでは乗れないんですがね・・いつも何をしてらっしゃいますか?屋敷ではどんな事がありますか・・それと・・」
「待って、待って!分かったから、ひとつずつ答えるから待って頂戴。吉乃殿はせっかちなのね~。」
そう言いながらも濃姫の顔は笑顔だった。
(この人はとてもいい人だわ)
歌奈はそう感じた。
2人でお茶を飲み、庭を散策し、他愛もない会話を積み重ねた。
そして日も傾き始めた頃、歌奈は核心に近づいていった。
「濃姫様、信長様とは形だけの夫婦だと・・信長様からお聞きしました。撫し付けとは思いますが何故なのか?お聞きしたかったんです。」
「なっ!」
急に夫婦の話しをされ濃姫は言葉が出なかった。
「寂しくはないですか?この尾張では知り合いもいないはず、おひとりでこの屋敷にいて辛くはないのですか?」
「寂しい?辛い?そんな事思った事などない。そもそも私はひとりではない。」
「ひとりではないとは?」
穏やかな表情で濃姫は答える。
「ここにいるお静は私が幼い頃からずっと仕えて一緒にいる。寂しさなど感じた事もない。」
歌奈が傍にいる侍女に目を向けるとそのお静とやらは静かに頭を下げた。
「でも、あくまでも侍女ですよね?この方だけではお心は埋まらないんじゃありませんか?あっ!もしかして・・婚姻前にどなたか心に決めた男性でもいらっしゃったのですか?その方が忘れられないとか?」
その時、濃姫の顔色が急に変わったのが分かった。
「そんな事はない!吉乃!無礼ですよ!」
そう言って怒りをあらわにする濃姫にお構いなしにたたみかける。
「そうですか・・ではなぜ信長様を拒むのですか?別に他の男が好きでもいいじゃないですか。政略結婚だったのだから。正直に話しても信長様は怒りませんよ。信長様には私がいるんですから嫉妬なんてしませんよ。」
その言葉に自尊心を傷付けられたのか、濃姫のその顔には明らかに怒りの表情が見えた。
歌奈は構わず捲し立てる。
「いったいどんな男性だったのですか?素敵な方だったんですか?聞かせて下さいよ~もちろん濃姫様が嫌なら信長様には黙ってますから。」
「好きな男なんていない!男なんて好きになるわけがない!信長様とて同じこと!男の心など欲しいと思った事などないわ!もういい!下がるがよい!」
濃姫は否定し怒り露わに席を立った。
歌奈はその時の濃姫の視線の先を見過ごさなかった。
そして・・答えが分かったような気がした。
信長と秀吉が待つ部屋に戻った歌奈は神妙な顔で話し始める。
「濃姫にはやっぱり好きな人がいると思う。誰か分かったような気がする。でも確信がないのよね~。それで確かめようと思うの。手伝ってくれる?」
この大芝居はかなり大変である。
それでもこの何年と芝居を続けてきたと言っていい信長には大いに興味をそそられる芝居だ。
歌奈の心配をよそに信長はやる気満々であった。
対面の席に呼ばれた時はその口がら心臓が飛び出すのではないかと思うくらいだった。
しかし、歴史上の濃姫に会える事に少なからず興奮していた。
「面を上げよ。」
優しい声が響く・・
顔を上げると、凛としてそこに鎮座する美しい濃姫がそこにいた。
思わず見とれてしまう・・
ただただボ~っと自分を見ている歌奈が何だか可笑しく濃姫は笑いながら話しかけた。
「どうかしましたか?」
「ごめんなさい!!あまりにお綺麗なので見とれてしまいました。」
その唐突で素直な言い方に思わず声を出して笑った。
「もう少し傍へどうぞ。」
我に返った歌奈は自分には使命がある事をようやく思い出した。
「濃姫様にお会いしたかったんです。なので私がお館様にお願いしたんです。ご迷惑では無かったですか?」
「私も吉乃殿と話しがしたいと思ってました。」
「本当ですか!良かった~私、濃姫様と仲良くなりたいんです。濃姫様の事、もっと知りたいと思ってたんです。」
そして歌奈の怒涛の質問攻めが始まる。
「濃姫様はお好きな食べ物はなんですか?私はここの鰻が好きです!尾張にきて楽しい事はなんですか?私は乗馬!野山を駆け回るのがとっても楽しいです。もちろんひとりでは乗れないんですがね・・いつも何をしてらっしゃいますか?屋敷ではどんな事がありますか・・それと・・」
「待って、待って!分かったから、ひとつずつ答えるから待って頂戴。吉乃殿はせっかちなのね~。」
そう言いながらも濃姫の顔は笑顔だった。
(この人はとてもいい人だわ)
歌奈はそう感じた。
2人でお茶を飲み、庭を散策し、他愛もない会話を積み重ねた。
そして日も傾き始めた頃、歌奈は核心に近づいていった。
「濃姫様、信長様とは形だけの夫婦だと・・信長様からお聞きしました。撫し付けとは思いますが何故なのか?お聞きしたかったんです。」
「なっ!」
急に夫婦の話しをされ濃姫は言葉が出なかった。
「寂しくはないですか?この尾張では知り合いもいないはず、おひとりでこの屋敷にいて辛くはないのですか?」
「寂しい?辛い?そんな事思った事などない。そもそも私はひとりではない。」
「ひとりではないとは?」
穏やかな表情で濃姫は答える。
「ここにいるお静は私が幼い頃からずっと仕えて一緒にいる。寂しさなど感じた事もない。」
歌奈が傍にいる侍女に目を向けるとそのお静とやらは静かに頭を下げた。
「でも、あくまでも侍女ですよね?この方だけではお心は埋まらないんじゃありませんか?あっ!もしかして・・婚姻前にどなたか心に決めた男性でもいらっしゃったのですか?その方が忘れられないとか?」
その時、濃姫の顔色が急に変わったのが分かった。
「そんな事はない!吉乃!無礼ですよ!」
そう言って怒りをあらわにする濃姫にお構いなしにたたみかける。
「そうですか・・ではなぜ信長様を拒むのですか?別に他の男が好きでもいいじゃないですか。政略結婚だったのだから。正直に話しても信長様は怒りませんよ。信長様には私がいるんですから嫉妬なんてしませんよ。」
その言葉に自尊心を傷付けられたのか、濃姫のその顔には明らかに怒りの表情が見えた。
歌奈は構わず捲し立てる。
「いったいどんな男性だったのですか?素敵な方だったんですか?聞かせて下さいよ~もちろん濃姫様が嫌なら信長様には黙ってますから。」
「好きな男なんていない!男なんて好きになるわけがない!信長様とて同じこと!男の心など欲しいと思った事などないわ!もういい!下がるがよい!」
濃姫は否定し怒り露わに席を立った。
歌奈はその時の濃姫の視線の先を見過ごさなかった。
そして・・答えが分かったような気がした。
信長と秀吉が待つ部屋に戻った歌奈は神妙な顔で話し始める。
「濃姫にはやっぱり好きな人がいると思う。誰か分かったような気がする。でも確信がないのよね~。それで確かめようと思うの。手伝ってくれる?」
この大芝居はかなり大変である。
それでもこの何年と芝居を続けてきたと言っていい信長には大いに興味をそそられる芝居だ。
歌奈の心配をよそに信長はやる気満々であった。
0
お気に入りに追加
849
あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる