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No.051~No.055
しおりを挟むNo.051
あの人の唄を。あの、音階のない世界の慈悲が紡ぎだすメロディ。僕たちはそのあたたかでさみしい唄に耳を傾ける。どこかで誰かが嘆いている。どこかで誰かが叫んでいる。それがこの世界の主旋律。けれどあの人の唄を求めている。こころの癒しを。赦しを。気づかなかったすべてのたましいに。いまこそ。
No.052
誰かを守ることが自分を強くするのだと理解するにはまだ幼すぎた僕が、彼に背を向けたのは昔の話。あの時、彼が僕に叫べば振り向いたかもしれない。けれど彼のプライドが許さなかった、僕も。だからこの話はここで終わりなんだ。僕たちは再会したとしても、わだかまりを捨てたとしても、もう戻れない。
No.053
かつて悪魔を倒したという彼が僕たちの前から姿を消したのはいつだったろうか。僕たちは彼がいま何をしているか知らない。そして、本当に悪魔が存在して、それを倒したことが事実なのかも知らない。見たこともないものを信じられるだろうか。彼は「物語」の英雄にすぎず、そして世界は終わりを告げる。
No.054
聴こえるあの音がずっと鳴り止まない。あれは何?僕たちへの罰が僕たちを襲う。わかっていた、この世は悲しみでできている。けれどそれを見つめることは僕たちにできない。前を向くことは悲しみに蓋をすること。人生の本質は、絶望を持ち続けながら生きること…それが世の中だってあの音が告げてくる。
No.055
知らなければ良かったのだ、僕があまりに無力であることを。何もできないただの小さな悲しみでしかないことを。いつか終わりが来ることを誰もが知っていても、未来はきっと僕たちのその向こうを照らしていてくれると信じていなくては。信じなくてはいけない。それが信仰であると、あの人が言うのなら。
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