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9.3 回想 疑惑 ーラリー・トゥー・フェイブ第二皇子ー (改)
しおりを挟む大魔道士エイプ・フリーレルが執務室から退出すると、追いかけるように兄イルーメも出ていく。
私も気になり急いで後を追うと、兄上がフリーレルに突っかかっていた。
「フリーレル!貴様、どういうつもりだ!」
「イルーメ殿下、どうしたんですか?何を怒っていらっしゃるのです。」
「父上の前で余計なことを言うな」
「私の心配が余計な事なのですか?私はイルーメ殿下の身を案じただけです。ご存じだとは思いますが勇者が一人でも欠ければ討伐パーティーは全滅してしまうのですよ。私の治療は完璧でないとイルーメ殿下が死んでしまうことになりますからとても不安だったんです」
「貴様っ!俺が何も知らないと馬鹿にしているのか!!」
「いいえ、滅相もございません。……ああ、本当にイルーメ殿下の右手は大丈夫のようですね。安心しました。」
胸ぐらを掴んでいる右手を確認してフリーレルは怪しく微笑む。
「く…!」
フリーレルを突き飛ばしてイルーメはどすどすと足を踏み鳴らして去って行く。
「フリーレル、なぜ兄上は怒っているんだ。」
「ふふ…」
「何がおかしい!」
私の顔を見たフリーレルの目はゾッとするほど笑っていなかった。
「ラリー殿下、これは私の独り言です。聞いていただいても、いただかなくても構いません。」
「………なんだと!?」
「ですがこの独り言は大事なことなので聞いていただいた方が宜しいかと存じます。」
「!…」
その場で立ち止まっているとフリーレルは消音魔法をかけた。
「私はこの二週間で勇者の魔法石による国王陛下の怪我を私は二度治癒しました。1度目はラリー殿下の魔法石、2度目は先程の魔法石によるものです。そして昨日、深夜に私はイルーメ殿下の執事に起こされました。イルーメ殿下が怪我をしたと…」
「!」
「イルーメ殿下の右手には、陛下と同じ怪我をなさっていました。」
父上と同じ『魔法石が傷つけた怪我』だと?
「勇者の魔法石は所有者と神子様には危害を加えません。魔法石が怪我をさせるのは………」
「…勇者じゃないということか…」
「もし仮に奪った魔法石を持った偽物の勇者が魔物討伐に参加していたら………討伐パーティーは全滅。怒りが収まらない魔物達はこの国を滅ぼすまで暴れるでしょう。」
「!!」
イルーメのせいでこの国が滅びるだと?
「勇者の魔法石は勇者の命そのもの。勇者が死ねば消えてしまいます。」
「勇者の命…」
「自分の魔法石に触れることが出来ない勇者がいるなら、その魔法石に触れることが出来る者がどこかにいるのではないかと私は思うのです。」
「!………………勇者は生きているのか…」
「ラリー殿下お静かに」
消音魔法が解除されると同時に人影が駆け寄ってきた。
「大魔道士エイプ・フリーレル様、お探しました。大神官がお呼びです。はっ!ラリー殿下っ!ご歓談中、申し訳ありませんでした。」
「サレタ大丈夫ですよ。ラリー殿下はお心の広いお方です。では呼ばれてしまったのでラリー殿下これにて失礼します。」
「ああ」
フリーレルの弟子が私に深々と頭を下げるのを一瞥してから私室に急いで戻る。
思い返してみれは父上の前で傷のことを指摘されただけなのに あの時のイルーメの慌てようは普通ではなかった。
今までずっと抱えていた自分の中の違和感も払拭したい。
イルーメの我儘の為に国が滅ぼされるという恐ろしい話が本当かどうか調べるだけだ。
調べるだけでイルーメの身の潔白を証明できればそれでいいじゃないか。
王族が名誉の欲に塗れて不正をしたなどとあっては国民の信用にも関わるからな。
俺は一生懸命心の中で調査に対しての言い訳をして腹をくくった。
「影はいるか。」
「ハッ!ラリー殿下ここに。」
「イルーメの身辺を探れ、怪しい動きがあったら私の所にすぐに知らせよ。」
「ハハッ。」
兄は今まで自分が一番だったから、俺が勇者になったことが許せないのかも知れない。
そんなことで国を滅ぼしてまで通して良い我ではない。
影から届く報告がフリーレルと私の思い違いであることを祈った。
翌日、祝賀パーティーでは勇者達を歓迎して、沢山の料理がふるまわれた。
習いたてのテーブルマナーで平民勇者がガチャガチャとうるさく食事して不愉快だ。
仕方のないことだと思うが食事をする気分がそがれ、私は食事に殆ど口をつけなかった。
パーティーの間、陛下はイルーメをべた褒めして可愛がり、とても機嫌が良かった。
周りのあきれた視線を気にせずイルーメも自分が一番偉いと当然のように振る舞った。
ストレスの溜まるパーティーから解放され、私はようやく終わり自室に戻ると窓の方からノックされる。
!…影か
「入れ」
「失礼いたします。ラリー殿下」
「勇者は見つかったのか?」
「はい、地下牢に一人 記録にない罪人が収監されております。」
「地下牢だと?」
なるほど変に部屋に囲うより地下牢の罪人であれば王族や勇者の目から隠すことが出来る。
「考えたな。場所はどこだ?」
「一番奥の部屋です。扱いは罪人のそれとは全く違いかなり手厚くもてなされています。食事や衣服も良いものを出されております。ただ舌を抜かれて話すことが出来ない様子です。」
「そうか。」
この最悪な調査報告でフリーレルの言葉が正しいことが証明されてしまった。
イルーメは自分のプライドのために我が国全体を危険にさらしているのかと思うと心底情けなかった。
どうする?
どうしたら良い?
国王陛下に報告するか?
報告しても陛下はイルーメ可愛さに証拠の勇者を殺してしまうかも知れない。
それでは国は滅びてしまう。
どう考えを巡らせても答えは一つしかなかった。
イルーメを殺害して、本当の選ばれし12人の勇者最後の一人を救出する。
それしかない。
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