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51 二人のイケメン

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あれからジョンさんの薬の管理と包帯を巻くのは俺の仕事になった。
【ときまほ💗】内の薬は一週間で効能がなくなるらしい。
だからまとめ買いが出来なくて毎週買いに来なくちゃいけない。

お陰で毎週馬車でドーナツを買いにこれる♪
おっと、浮かれている場合じゃない。
前回薬局を先にしたら買えなかったから先にドーナツ屋さんに寄ってから薬局に行こう。
なんか目的の方を後回しにして、変な感じだけど仕方ないじゃん。
薬は売り切れないけどドーナツはすぐに売り切れちゃうんだから。
お屋敷の皆も楽しみにしているんだから先週みたいに買いそこねたらがっかりさせちゃうしね!!
今日は早いからドーナツ屋さんの列も短いはず…


「あれ、なんか変だぞ。」


店の前の列が短いのはわかるけど今までと違って人が進むのがめちゃくちゃ早い。


「?」


不思議に思いながらも馬車を降りて店に向かった。

ちょうど店から出てきた3人の女性がドーナツの袋を抱えて楽しそうに話している。


「最近二人になって手際が良いから長い間 列に並ばずに買えるのは嬉しいね。」

「あの筋肉質の格好良い人誰かしら?」

「細身のスネアも良いけど、やっぱり男は筋肉が良いわね。」

「知らないの?あの御方は勇者らしいわよ。」

「うっそ!!勇者なの??!!!」

「なんでドーナツ屋で働いているの??」

「さあ?」

「だって勇者って言ったら国からお金たっぷり貰えるんでしょ。働く必要ないじゃない。」

「もしかして友達とかで、お手伝いなんじゃない?」

「友達か、分かったわ。スネアはあんたにあげるから私は勇者様にする。」

「あーーーっ!!ずるいっ!!あたしも勇者様がいい!!」

でっかい声でお前らなァァァァァ!!!
愛しているのはお金だけなのかよっっ!!
男は金持ってくるATMじゃないんだぞっっ!!
お前らなんか誰も結婚したがるもんか!!


イライラしながら店のドアをくぐると甘い香りと爽やかな声が出迎えてくれる。


「いらっしゃい。」


つられて自然とほころぶ笑顔が 秒で固まった。

ショーケースの後ろにマーチが立っている。

マーチに顔を見られる前に急いで店を飛び出した。


「ヤバイ、なんでマーチがいるんだ????!!!」


そういえばさっき「値踏みシスターズ」が勇者がいるとか言ってたけど、あれはマーチのことだったのかーー!!


窓ガラス越しに店内を覗くとイケメン二人で楽しそうにドーナツを売っている。

お兄さんが会計で、マーチがドーナツを詰めてお客さんに渡しているから店の前の列がきえたんだ。


「なんて感心してる場合じゃないよー、ドーナツがどんどん売れてなくなってくー。」


でも攻略対象マーチに会うわけに行かないからなあ。

泣く泣くドーナツを諦めて馬車に戻った。


「リーフ、ドーナツはどうしたんだ。」

「あ、えっと…その……」


手ぶらの俺を不審がる。

そうだよな、この時間は買える時間たもん。
ウツさんもドーナツ楽しみにしていたんだ。
売り切れたなんて変な嘘つけないよな…。ここは正直に言おう!


「ごめんなさい。ウツさん、お店に体の大きな男の人がいて怖くて入れないんです。」

「は?」

「ごめんなさい。」

「…人攫ひとさらいを思い出すのか?」

「へ?……ウツさん…なんでそのこと………」

人攫いの話はセプター様にしかしてないはず…あ、先週ここで俺が叫んだの聞かれてた?

「怖いのなら仕方ない。よし、俺が代わりに買ってきてやる。馬を繋いでおくから傍で見張っていてくれ。」

「有難うございます。」

ウツさんごめん!有難う!

俺は深く頭を下げた。

「よせよ、照れるじゃないか。」


ウツさんは小走りにドーナツ屋に入って行った。


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