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50 人攫い

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「!」

振り返ると黒いフードを目深にかぶった男が俺の腕を力強く掴んでいる。


なになになになになに??? 


「強盗?!人攫ひとさらい!?うわあああああああああっ!!誰か助けてーっ!!」


恐怖で細くなった喉から絞り出した小さな声は少しずつ大きくなって最後の方は叫ぶことが出来た。

フードの男は俺の大声に驚いて怯んだ。

とっさに手を振りほどき大通りに向かって駆け出すと、俺の行く先に人が立ち塞がり、目の前が絶望の色に染まる。


「どうしたんですか?凄い声が聞こえて…」

「!!」


顔が影になって分からないが、俺はこの声の主を知っている。

この人は人攫ひとさらいの仲間じゃない!俺の味方だ………思い切り胸の中に飛び込んで名前を叫んだ。


「ハーマンさんっっ!助けて下さい!」

「は?助ける?」

人攫ひとさらいです!逃げて!!」

「落ち着けリーフ、どういうことですか?旦那様。」

「…えっ、旦那様?」

「酷いぞ、リーフ。」


フードを脱いだセプター様が傷ついた顔している。


「お屋敷に戻ったらリーフがお使いに出ていると聞いて、旦那様はすぐに町に迎えに来てくださったんだぞ。」


セプター様が迎えに来てくれた?


「だって急に腕掴まれて凄く怖かったんです。」

「こら、お礼とお詫びくらい言いなさい。」


ハーマンさんにすかさず怒られる。
使用人の俺を馬車で迎えに来てくれたのに主人である旦那様に人攫ひとさらいっていっちゃったんだもん。


「ごめんなさい旦那様。迎えに来てくださって有難うございます。」

「まあ、いい。何かに怯えていたみたいだからな。なにがあった?」


マーチが歩いてたから会いたくなくて逃げてました。とは言えない。
心苦しいが嘘をつかせてもらお。


人攫ひとさらいに似ている人を見かけたので隠れてました。」

「何?!どこだ!!」


ギラリと瞳が輝くとセプター様は腰に携えていた水属性の剣を抜いた。


「わああ、大丈夫です。見間違いでしたーーーー。」

「見間違い?本当か?」


俺は全力で首を縦に振る。

こんなところで刃傷沙汰なんか起こしたらセプター様の名誉に関わるよぉぉ。

ハーマンさんが呆れ顔で「まったく人騒がせだな。」とつぶやかれちゃった。


「リーフ、屋敷に帰るぞ。」


剣を鞘に戻して俺に手をさしのべてくれるセプター様はいつもどおりの優しい笑顔に戻っていた。
 
 
 
 
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