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47 ほーら、やっぱり
しおりを挟む今朝もセプター様を起こして一緒に朝食をとり、そして今、俺はいつもどおり箒でお庭を掃いている。
それにしても、この二日間サオマ様に(色々な意味で)振り回されっぱなしで、すっごく疲れた。
昨日はあれから出来立てのレモネードをサオマ様にお出ししたら………
『ぬるいっ!!何だ、これは!!』
って怒られちゃったんだよね。
セプター様が説明してくれなかったら、殺されなかったとしても、また雲に乗せられて『ぐるぐる』する気だったよね。
はーあ、流石に今日はサオマ様は来ないと思うけど………
いや絶対に来ないで下さい。
俺の身が持たないよ。
どうか今日くらいは良い事ありますように。
両手を合わせてサオマ様が来る方向に向かって拝んだ。
「リーフ、そこで何をしている?」
「ハーマンさん。お庭のお掃除していました。」
「ふん、そうか。ところでジョンがどこにいるか知らないか?」
「いいえ。そういえば今日はジョンさんに会ってないです。どうかしたんですか?」
「ジョンには昨日の出立式の前に伸びてきた木の枝を剪定するように言っておいたのに、昨日見たら剪定してない。」
「えっ?まさか」
「ほらあそこを見ろ。伸び切った枝に梯子を掛けたままだ。乱れた庭で門出を祝うなど、なんて縁起の悪いことをしたんだ。もし旦那様に何かあったらどうするつもりなんだジョンは!リーフ、ジョンを見つけたらすぐに私に知らせるんだぞ。良いな。」
「はい。」
めちゃくちゃご立腹のハーマンさんがドスドスと足を踏み鳴らして屋敷の中へと入って行く。
「おかしいな。ジョンさんはセプター様が困るようなことをする人じゃない。」
だってセプター様に使えている使用人はハーマンさんを含めて全員旦那様が大好きで、働きすぎるほど働き者だから仕事をほったらかしにするなんてありえないもんね。
「ジョンさん、どこに行っちゃったのかな?」
お屋敷はハーマンさんが探しているだろうから俺はお庭を探してみよう。
花壇から植え込みの中、ぐるっとお屋敷の裏まで探したけど、ジョンさんはどこにもいない。
うーん、あと見ていないのは物置小屋だけ。
もしかしたら仕事道具が見つからなくて小屋の中で探しているのかもしれない。
物置小屋のドアに手をかけると中から幽霊のようなうめき声が聞こえてくる。
「ぅぅ…ぅ」
こ、怖い。どうしよう誰か呼びに行く?
「うっ、く、いたた…」
痛い?幽霊が怪我してる??でもこの声って
「あの…そこにいるの…ジョンさんですよね?」
恐る恐るドアを開けると正座で座り込んでいるジョンさんがいた。
手の傍には大きな剪定鋏が落ちている。
「ジョンさんどうしたんですか?鋏が刺さったんですか?」
「リーフか…うっ…」
体のどこからも血が出ていない。
顔を覗き込むと額に珠のような汗をかき、はっ、はっ、はっと浅く呼吸して脇腹を押さえている。
「どこか具合悪いんですか。」
「脇腹がちょっとな…」
「ここですか?」
左脇腹を押さえている手を触ろうとすると「痛いから触るな!」と手を振り回してまた「ウッ…」と呻いていた。
「怪我ですか?病気ですか?そのままでは駄目です。ジョンさん病院に行きましょう。旦那様に…」
「待てっ!くっ…旦那様には…言うな。」
「でも体が痛いんですよね、病院に行かなくちゃ」
「リーフ、何もお前は知らないんだな…病院なんてものは…うっ…使用人の俺達が行けるところじゃないだ。行けるのは貴族様だけだ…俺に払える金もない…」
「そんな…」
身分で適切な医療を受けられないことがあるなんて信じられない。
たとえ貴族がそうだとしても、俺の推しはそんな冷たい貴族なんかじゃない。
「…旦那様に言ったら払ってくれるよ。心苦しかったら分割払いすればいいじゃないか。」
「? ブン?リーフが何言ってるかわからないけどな。髪色の薄い俺達に仕事を下さる旦那様には恩がある。それなのにこんな俺をお医者様に見せて金まで払ってもらうなんてとんでもねえ。うぅぅ。」
「ジョンさん、無理しちゃ駄目だって」
「こんなのはな、じっとしていれば…、そのうち治る。でもな、あの木だけは剪定しないと…縁起が悪くて旦那様に申し訳ない。この仕事をしたら休む。剪定鋏を持って俺を立たせてくれ。」
「立たせるのは良いけど、駄目だよ。そんなことさせられない。」
「俺がやらなくちゃ駄目だろう…ううっ…」
「ジョンさん、駄目だ。そんなの無理…」
バーン
ものすごい音で物置小屋の戸が破壊され、室内が明るくなった。
「お前達なにをしている!!」
「「旦那様」」
逆光でわからないけどセプター様の声が凄く怒っている。
「申し訳ございません。うぐっ」
ジョンさんがいきなり土下座して許しをこう。
痛みに震えながら脇腹を抑えている。
「ジョンさん、やめて下さい。」
「リーフ、ジョンと何を…お前、ジョンを…。」
「はい、ジョンさんのことやっと見つけたら、具合が悪くて蹲っていたんです。多分、脇腹を怪我しているんだと思います。」
「言うな、リーフ…う…」
「は??」
「それなのに縁起悪いから旦那様のために木を剪定するって…」
はー、と小さく息を漏らしたセプター様はしゃがみこんでジョンさんに目線を合わせた。
「………ジョン。」
「旦那様、申し訳ありま…うぐ…」
「まったくお前は、植木なんかどうでもいい。すぐに医者を呼んでやる。部屋で寝ていなさい。」
そう言うないなや、セプター様はジョンさんを姫抱っこした。
「旦那様…降ろしてくだせぇ…う…お召し物が汚れちまう…」
「構わん。リーフ、ハーマンに医者を呼ぶように言ってきてくれ。」
「はい!」
ほーら、やっぱりセプター様は使用人思いの素晴らしい貴族だ。
急いで屋敷に戻って、ハーマンさんにこのことを伝えた。
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