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46 自由人

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俺が水を持って戻るとセプター様は燃え尽きてしまったボクサーの様にがっくりと項垂れてた。
 
 
「リーフ、ご苦労様。旦那様は目が覚めたようなので、食堂にお連れして」

「?…はい…。」


もー、折角持ってきた水は使わないで終わっちゃったよ。




食堂で朝食をとってもらったあと、急いでハーマンさんと一緒に馬車に乗っていただいた。

今日は特別な日だから使用人全員でお見送りする仕来りなんだってバンテール邸の使用人は少ない。

でもこうして並んでお見送りするのは素敵だな。

マリーさんの言葉とお辞儀に皆続いた。


「旦那様、行ってらっしゃいませ。」

「「「行ってらっしゃいませ。」」」


「ぅっ、っ…」



小さい呻き声が聞こえた。


馬車が門を出たところで体を起こした。


「さあ、みんな持ち場に戻って。」


体を起こした時に呻き声がした方を見ると具合の悪そうな人はいなかった。

あれは空耳かな?


「リーフ、今日は早かったから先に休憩を取っていいわよ。」

「はい、有難うございます。じゃあ俺、部屋で少し仮眠取らせてもらいます。」

「まあ、仕方ないわね。今日は特別よ。」

「有難うマリーさん。」


マリーさんの言葉に甘えて部屋に戻り、服を着たままベッドに倒れ込んだ。


「ふあ~~っ、気持ちいい。」


少し仮眠をとってからマリーさんと交代して夕食用レモネードを作ろう。

ふかふかのベッドに埋もれるとすぐ寝てしまった。



  ◇  ◇  ◇



「ちんちくりぃぃぃーーーーーん、どこだぁ!!!」

「ふゃいっ?!」


窓の外から屋敷中に響き渡る大声量で俺は起こされた。


この声はまさか


飛び起きて窓の外を見ると3階の窓の付近に青い雲が浮かんでいる。


ああ、やっぱり!
んん??
ちょっと!今って出立式に出席している時間だろう。

ガストー・サオマ、あんた自由人すぎるよ。


「ちんちくりぃぃぃーーーーーん!!!」


昨日いじめられたから会いたくないんだよなー。
でも俺はここでは使用人だし、無視も出来ないしー。
くそーっ、平民の身分が恨めしい。


虐められる覚悟で声をかけるしかなかった。


「サ、サオマ様―、なにか御用ですかー?旦那様は魔法学…」

「お!なんだ下にいたのか」


スーッと目の前に雲が降りてサオマ様の隣にはセプター様が座っている。

えっ!二人で出立式サボってきたの?
いや、違う。俺が寝過ぎちゃったのか。
どうしようっっ!!


「ちんちくりん。レモネードを飲みに来てやったぞ。」


濃い青の布地に金糸で模様を刺繍された正装のサオマ様が俺に向かってニカッと眩しく笑う。


うわああっ!!
おおお、推しじゃないけど、推しじゃないけど………ガストー・サオマのNewスチル、イイっ💗

おかげで眠気も吹っ飛んだ。


「おーい、何 ぼーっとしている。」

「はっ…失礼しました。サオマ様、レモネードのことですが…」

「ははーん、さてはちんちくりん、俺の正装が格好良かったから見とれていたんだろう。」

「はい。」


あ、つい言っちゃった。
確かに見とれてましたけど、セプター様ほどじゃないよーだ。


「リーフ、それは本当か?!俺とガストーどっちが格好良いんだ。」


なんでセプター様がうろたえてるの?
俺の推しが一番格好良いに決まってます!


「勿論、旦那様です。」

「そうか」

「主人のお前に気を使っているんだろ。殺さないから正直に言って良いんだぞ。」


ぎょっ!


「こ、殺す?!」

「なんて物騒なこと言うんだ。そんなこと絶対にさせないから大丈夫だぞ。リーフ。」

「どっちが格好いいんだ。早く正直に言えよ。」

「本当に殺しませんか?」

「そう言っているだろ。早く言え。」


言うけど怒んないでよ。


「では正直に言います。世界中で旦那様が一番格好いいです。」

「世界中…」

「チッ………ちんちくりん、レモネードを出せ。」

「あのサオマ様、申し訳ありません。レモネードはまだ作っていません。」

「………はあ?なんだよ。わざわざ飲みに来たのにないのか。」

「すみません。今からすぐにお作りして出来立てをお持ちします。」

「出来立てか…よし、セプターの部屋まで持ってこいよ。」

「畏まりました。」


急いでレモネードを作って持っていくと上機嫌のセプター様と超不機嫌のサオマ様が向い合せでテーブルに座って待っていた。
 
 
 
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