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44 本当に良かった
しおりを挟む「お…おかえりなさいませ。旦那様。」
「ああ。」
夕方、魔法学園から戻ってきたセプター様はめちゃくちゃ怖い顔している。
それはもう同行したハーマンさんがびびっているくらいだから珍しいことなんだろう。
俺もゲームでこんな顔しているセプター様見たことない。
このひりつく空気の中、サオマ様の明るい声がエントランスに響いた。
「おー、おかえりセプター、ちゃんと挨拶してきたか?」
ギロリとサオマ様を睨む。
「……ガストー…なぜ神子のことを教えてくれなかった。」
「はあ?何怒ってんだよ。教えたら喜んでたのか?神子に会っただけでもこんなに苛ついているお前が?」
ええ?イラつくってなんでめちゃくちゃ可愛い女の子のはずでしょ?
神子様、遅刻したセプター様に意地悪でもしたのかな?
「セプター、自分だけが嫌だなんて思うなよ。」
「………。」
嫌悪な二人に場が凍る。
「おい、俺はお前に頼まれたとおり、ちんちくりんの子守をしてやったのになにか忘れてないか?」
不機嫌そうにサオマ様が俺を見る。
そうだよな、サオマ様だって忙しいのにずっといてくれたんだから、有難うとか言ってもバチは当たらないよセプター様。
代わりに俺がサオマ様にお礼を言わなくちゃ。
「サオマ様、お忙しい中………うわあ!!」
すたーんっと俺は両足を払われ体が宙に浮いた。
ヤバイ!!
そのまま後ろにひっくり返って頭から大理石の床にぶつけるかと思ったら、ふわふわ柔らかいものの上にぽふんと仰向けに倒れた。
「え?これってサオマ様の雲?!凄いっ!!一度乗ってみたかったんだよ…………なああああーーー!!」
雲は俺を乗せて凄い勢いで部エントランスホールを飛び回る。
怖い怖い怖いーーーーっ!!
「ぎゃあああああっ!!」
「やめろ、ガストー!!」
「…俺に言うことはそれだけかよ。他に言うことはないのか?」
「言うこと?! はっ!ガストー悪かった。今日は有難う感謝している。早くリーフを降ろしてくれ。」
「………ふん」
「ぎゃああ………あ?」
今まで縦横無尽に飛び回っていた雲はピタリと止まると、ゆっくり床に降りた。
「リーフ、大丈夫か?」
「はい」
駆け寄ってきたセプター様に抱きしめられた。
「良かった。」
セプター様の背中越しに雲を目で追うとサオマ様を乗せて飛び去った。
「ハーマン。」
「はい、旦那様。」
「明朝8時、ラリー殿下が率いる風と木属性の魔物討伐隊が出立する。勇者は全員、式に参列するようにと言われたから正装を用意しておいてくれ。」
「はい、畏まりました。」
その言葉を合図のようにバタバタと使用人のみんなが食事、風呂、服の用意をするためにエントランスホールから姿を消した。
うん? 明日の朝、出立式をするということは、また魔法学園に行くの?
せっかく帰ってきたのに勇者は大変だなぁ。
「…って旦那様は、なんで俺を姫抱っこしてるんですか。」
「ヒメダ…?」
「大丈夫です。俺、歩けますから降ろして下さい。」
ハーマンさん以外、みんないなくなっちゃったよ。
えっとえっと俺は何をすればいいのかな。
そうだ、厨房へ行ってソーダイさんの手伝いをしに行こう。
「リーフどこへ行く。」
「えっと厨房を手伝いに行こうと…」
「ソーダイだけで十分だ。お前は俺の上着を持ってついて来なさい。着替えを手伝ってくれ。」
「はい。」
セプター様に上着を渡され、ハーマンさんと二人、お部屋までご案内して着替えを手伝った。
と言ってもハーマンさんがやってくれたから俺のやることはなかった。
セプター様が止めていたゲームがようやく動き始めた。
本当に良かったよぉ。
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