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32 儀式の翌朝 ーエイプ・フリーレルー
しおりを挟む昨夜の『聖なる乙女の儀式』で神子様は疲れているからゆっくりと休ませて差し上げよう。
そう思っていたがもう昼を過ぎている。これは寝過ぎだ。
神子様のお傍につけているのは私が一番信頼している弟子のサレタ・ロコデシ。
お目覚めになったら連絡するように言っておいたはずなのに何をしているんだ。
まさか居眠りしているのではあるまいな?
執務室のドアが開きエルとウロタの二人が食事から戻ってきた。
「フリーレル様、ずっとここにいらしてたんですか?」
「ああ、仕事が片付かなくてな。」
本当はサレタの連絡待ちなのだが遅すぎる。
まだお目覚めにならないのか。
「お体を壊してしまいます。お食事をとって下さい。なにかお持ちいたしましょうか?」
「わかった、軽くつまめるものでいい頼んだぞ。それよりエル、リモノ・ギウラに神子様のお部屋に様子を見に行くように言ってくれるか?」
「はい。あのー、フリーレル様。ギウラ様ですが、今日は一度もお姿を見ておりません。」
「一度も姿を見ていない?」
またどこかでサボっているのか。
「私が行きましょうか?」
「はー…、わかったエルもう良い。私が直接神子様のところへ出向くとしよう。」
リモノにも困ったものだ。
後で叱っておかなくてはならないな。
選ばれし12人に15時から祝福の儀式を行うと伝えてあるから神子様にはお体を清めたり身支度を整えてもらわなくてはならない。
それにもう一度『愛の奴隷』をかけなくてはそろそろ魔法が切れる頃だ。
執務室にいた2人の従者のうち、エルには神子様の食事を部屋まで持ってくるように指示をして、残った従者ウロタを連れて部屋を出た。
神子様のお体の為に栄養のある食事を沢山召し上がっていただかなくては…
廊下の一番奥の突き当りが神子様の部屋になのだが、ドアの前に2人立っている。
なんだ?よく見ると立っているのはラリー殿下の守護騎士だ。
ラリー殿下が謁見に来たのか?
神子様の体調が万全かわからないのに、私の診察を受けさせる前にラリー殿下を通すとはサレタは何を考えているんだ。
守護騎士は無表情に口だけを動かした。
「おはようございます。大魔道士フリーレル様、ここでしばらくお待ち下さい。」
「殿下は中ですか?私も神子様を診察しなくてはいけないので通して下さい。」
「申し訳ございません。ラリー殿下からお許しがあるまで誰もここを通すなと言われています。」
「何を言っている。早く通しなさい。」
二人の騎士はピクリとも動かない。
まさか!
「殿下っ!!ラリー殿下っ!!そこで何をしているんですかっ!!」
ドアを力の限り叩いて叫ぶと二人の兵士が動き、私をドアから引き剥がした。
「いけません、フリーレル様お下がり下さい。」
「ええい、邪魔するな、放せっ!!」
私は風魔法で守護騎士を吹き飛ばし、再びドアを叩く。
「ラリー殿下っ!!何をしているんですっ!!ここを開けて下さい!!開けないのなら魔法で壊しますっ!!」
「うるさいぞ。エイプ騒ぐな。今開けてやる。」
ガシャンと重い音が聞こえ、魔法でドアに鍵がかかっていた事がわかる。
ドアがゆっくりと開き、乱れた髪で気怠そうなラリー・トゥー・フェイブが着崩れた高級ローブに身を包み現れた。
「どうした急ぎの用か?何をそんなに騒いでいる。」
「殿下、なぜそのような格好で…」
「フッ、それを聞くのか?わかりきったことだろう。」
ニヤリと見下して笑うラリー殿下を押しのけて部屋に踏み込む。
「失礼なやつだ。まあいい私は寛大だからな。許してやろう。エイプそれを綺麗にしておけ。ははははは。」
ラリー殿下は高笑いをしながら立ち去っていく。
部屋の中にはサレタ・ロコデシはおらず、乱れたベッドの上には………
「っ、神子様っ!神子様――っ!!」
駆け寄ると神子様はとても祝福の儀式が行える状態ではなかった。
「ひ、どい、神子様…」
「ウロタ、神子様の治療は私一人で行う。誰もこの部屋には近づけるなっ!!」
「はいっ!!」
ウロタは言われたとおり魔法で鍵をかけるため急いで外へ走っていく。
「待て、ウロタ!エルと二人で至急選ばれし12人の勇者に今日の祝福は中止と伝えよ。」
「はい、フリーレル様!」
ラリー・トゥー・フェイブ!皇子だから何をしてもいいと思うなよっ!!
***
翌日、森の中でサレタ・ロコデシとリモノ・ギウラが死体となって見つかった。
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