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30 3人目の攻略対象

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「行くぞ。」

「でも…」

「これは俺の苺ドーナツだ。」


わかってますよ。ハーマンさん。

子供だからって人の物を欲しがるのは良くない。

ましてや店の前で寝転がるなんて、お父さんは困っているし、お店のおじさんも困っている。

こういう駄々っ子を甘やかすのは本当は嫌いなんだけど仕方ない。

後でガツンと叱ってやればいいか。

駄々っ子の傍に行って声をかけた。


「そんなに食べたいなら俺のいちごのドーナツ、1つだけなら交換してあげられるよ?」

「「えっ!」」

「やったー!!」

「ガンサだめだ!! 本当にいりません。大丈夫ですから」


!! 

こ、この人、お父さんじゃなくて攻略対象!!

木こりで斧使いのマーチだっ!!

選ばれた12人の勇者の中にいる平民3人のうちの一人。
ガテン系の体で楽々と3本の斧を振り回して魔物を倒す凄い人――!!
体格でお父さんだと思いこんでた。
どういうことだよ!!
2日連続で攻略対象と鉢合わせするなんてーー!!

急いでフードを被って顔を隠した。


「お店の人も後ろのお客さんも困ってます。チョコドーナツと交換しましょう。早く買ってきて下さい。」

「あ、ああー、はい!」


マーチは困っているのは自分だけじゃなく周りの人に迷惑かけているって気がついてくれて良かった。

慌ててチョコドーナツを買ってきて、俺の分の苺ドーナツと交換した。


「本当に有難うございます。」


近い近い近いっっ!!

フードを更に深くかぶり顔をそむけた。


子供と父親を叱るつもりだったことなんかどうでもいい。
攻略対象から速やかに離れることが重要だっ!!


「それじゃ!」


軽くお辞儀してダッシュで逃げた。


「リーフ!なんで走ってるんだ!!」

「なんとなくでーーーす!!」


ハーマンさんごめんなさい。攻略対象から全力で逃げてるんですっ!!

だって百害あって一利無し!
どこでどうなるかわからないんだから、とりあえず逃げるのが一番得策だよっ!!
なんかの拍子に浜中の所に連れて行かれて変わりに魔物討伐してこいとか……
あ、あり得る!!虐めのときのようにアイツに命令されそうっ!!
無理無理ぜったいに無理ーーー!!
俺なんの取り柄もないし非力過ぎて即ゲームオーバーだよ。
それにこの世界で死んだら生き返るのか?
通常のときまほ💗ならリトライ出来るけど、セーブポイントしおりなんか見たことないぞ。


「リーフ、走るのはもう良いだろう。」

「はぁ、はぁ、…はい。」


ハーマンさんに肩を掴まれて足を止め、後ろを見るとドーナツ屋はもう見えなかった。

ああ疲れた。本当に声かけなきゃ良かった。

今度から余計なおせっかいはしない、お屋敷からはなるべく出ないようにしよう。


「リーフ」

「すみません。馬車と反対方向に走っちゃいましたね。」

「キャンディはどこで売っているんだ?」

「!」


ハーマンさん、キャンディも買うんですかー?!
 
 
 
 
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