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25 ただいま診察中?

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オークト様に押しかけられた感じで馬車に乗り込む。

俺とセプター様が横に並んで座り、向かい側にオークト様が腰掛けた。


「じ、じゃあ、キ、キミの目を診ようか。 ど、道具を外して…」


メガネを外すと何も見えないから怖いけれどセプター様が傍にいてくれるから大丈夫だよね?

セプター様に視線を送ると頷いてくれた。

メガネを外すとセプター様から息を飲む音が聞こえた。


なになに??セプター様どーしたの? 怖いよー。


オークト様の両手が俺の顳かみを包むようにして顔を上に向けさせる。


「ああ、なんて綺麗な黒い瞳、このまま抉り取りたくなる。」


フェリス・オークトが 流暢 りゅうちょうに喋っている時は研究とか興味がある時だけだ。


ってことは俺の目玉抉られちゃうってことー?!!


「わーーっ!!セプター様っ!!」


振り払って隣にいるセプター様に抱きつくと俺を守るように抱きしめてくれた。


「オークト様っ!!」

「じょ、冗談ですよ。 こ、今度はちゃんと診るから怒らないで下さい。」


絶対今のは冗談じゃなかった。俺はゲームでよーく知っているんだからな。


「………次、やったら許しませんよ。」

「は、はい。」


またさっきと元の位置に戻って ビクビクしながらオークト様の診察を受ける。


「め、目を閉じて下さい。…な、なるほど……。バ、バンテール様………。」

「どうしました。」


嫌だ、二人の声が硬いよ。俺の目に何かあったのかな。


「ま、魔法学園にはいつ戻られるんですか?」

「はい?」


えっ?なにそれ。今聞くこと?診察中ですよね?


「が、学園にいないと情報が滞って困りませんか。」


セプター様が呆れたようなため息を漏らした。


「………特に困ってないです。」

「バ、バンテール様はサオマ様と仲がいいですよね。」

「サオマ様とは幼い頃からの友人ですから」

「ゆ、友人………あああ、あの魔法学園に戻ってきて下さい。 そ、それと私とも仲良くしてくれませんか。……お、同じ水属性なんですから………」


! 


最後の方は聞き取れないほどの小ささだった。

もしかしてコミュ障のオークト様が部屋から出て来たのは、学園に来ないセプター様を心配して来てくれたのかもしれない。


でもねー、話すきっかけがめちゃくちゃ不器用過ぎです。

その不器用なところが可愛いって女子にウケてたけど男には通用しないですよ。

うーん、この姿勢辛いなー。


「オークト様、リーフの目を診て下さるんじゃなかったんですか?」

「え、え、わ、私診たよね。キミ。」


診た?俺の頭、ただ掴んでただけじゃ…


そっと目を開けるとクリアな視界が広がり、目の前にはレアバージョンのもっさりオークト様の姿がはっきりと見えるー!! 横を向けば俺のことを心配しているセプター様の表情にやられてしまう。


「はううううっ💗」


メガネフィルター無しでドアップの推しを見れる日が来るなんてっ!!
刺激が強すぎて手で顔を覆って足をバタバタしてしまい喜びを隠せないー。
だって尊すぎて目が潰れちゃいそうなんだよーーーっっ!!


「オークト様、次は許さないって言いましたよね。」

「わ、私は…」


はっ!セプター様が剣に手をかけているっ!!


「駄目ぇっ!! セプター様、誤解です。俺の目、見えてます。メガネなくてもはっきりとセプター様のお顔が見えるようになりました。」

「本当か?」

「はい、オークト様 有難うございます。」


馬車の壁面に張り付いたオークト様はズルズルと床に落ちて行く。腰が抜けてしまったみたいだ。


「オークト様、失礼をお詫びします。リーフがお世話になりました。」

「う、うん。だ、大丈夫。」


よほど怖かったのがまだ震えている。


「リーフもどうしてああなったんだ。誤解するだろう。」

「え、あーー、急に色々物が見えるようになってパニックになりました。すみません。」

「ふう、まったくお前は………オークト様、先程の話ですが、屋敷での仕事がありますのでしばらくの間、魔法学園には戻りません。」

「そ、そうですか……あ、あの…まだ話があるのですが…そ、その………」


オークト様が俺の方をちらりと見て話あぐねている。


「大丈夫ですよ。話して下さい。」

「…え、選ばれし12人の最後の勇者が見つかったんです。 み、神子様も召喚…」

「!」


最後の勇者が見つかった?!
それって浜中のことだよね。


「く、詳しく話したいので…」


またオークト様に視線をおくられて居心地悪い。

こういう時、使用人は馬車の外で待機したほうがいいよね?


「俺は席を外します。失礼しました。」

「リーフ待て。」

「?」

「悪いな。見物は一人で行ってきてくれ。これでなにか買うと良い。」


セプター様は、銀貨を5枚俺に手渡してくれた。


「有難うございます。」


馬車のドアを丁寧に締めてドーナツ屋さんに向かった。
 
 
 
 
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