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23 回想② ー セプター・バンテール ー

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17歳になった頃、俺の部屋の掃除をすると来たメイド達は1時間経っても終わったと知らせに来ない。

伝え忘れて違う仕事に行ったんだろうと、自分の部屋に戻ると賑やかな話し声が溢れてくる。

まだ掃除が終わらないのかと呆れて立ち去ろうとすると、だらしなく開いているドアから話の内容が聞こえてきた。


「優秀な伯爵様だったら体を使ってでも仲良くなるけど、アレじゃあね。結婚したとしても上の生活は望めないし、堅苦しい人付合いだけが残るだけで良いことないから まっぴらごめんだわ。」

「そうよね。子供の髪色もどうせ、薄紫になるんだからさー。子供が可愛そうよ。」

「ねえねえ、あたし、この前お使いの時にアルーバ男爵のご子息を見かけたんだけど、野性味溢れてて格好良かったわ。髪色も濃い赤で素敵なの。」

「えー、でも噂じゃ、婚約者がいるのに女の影が耐えないって聞いてるわよ。」

「まあまあまあ、聞きなさいよ。最初は妾だとしてもご子息の髪色の子を産んだら妻の座も夢じゃないわよ。」


俺のことを蔑んでいるメイド達は掃除などしておらず、俺の椅子とデスクに腰掛けて無駄話をしていたのか。

どおりで部屋のあちこちにホコリが溜まっているわけだ。


ドアを開けるとメイド達は慌てて飛び退いて身なりを整えた。


「ちょっと、どうして呼んでないのに。」

「しっ、黙って!」

「あっ、あの坊っちゃん。今掃除を……」

「………掃除はもういい。アルーバ男爵家に紹介状を書いてやるから荷物をまとめなさい。」

「!」

「アルーバ男爵家に行ける!」

「バカ、クビになるのよっ!!」

「だって紹介状…」

「あの坊ちゃま、冗談を話していただけなんですよ。どうかここに置いて下さい。」

「あ、今夜は坊ちゃまのお部屋に私達3人でお伺いしてもいいですよ。」

「ええっ!」


紹介状に喜んでいたメイドは正直で嫌そうに声を上げてくれて助かる。


「色仕掛けで懐柔するつもりでも、一人は嫌そうだぞ?」

「もうっ!」

「バカ!」

「痛い!」

「3人共、今すぐ荷物をまとめて出ていけ。出て行かないなら、紹介状無しで追い出すぞ。」


アルーバ男爵家への紹介状もつけて、メイド達は互いを罵りながら屋敷を出ていった。

先日メイドが数名いなくなったと噂に聞いていたからアルーバ男爵家も喜ぶはずだ。





俺はこの出来事があってから屋敷で働く使用人の髪は薄い色の者しか雇わなくなった。



***


それなのにリーフはわざわざ俺の髪色と同じにしたいと言う。なんて変わっている奴なんだ。


店主が魔法で俺と同じ色に染め上げる………薄紫色の髪、毎日見ている嫌いな色。


「はい、出来ました。このお色でいいですか?」

「わあっ💗 本当にセプター様と同じ色だ。セプター様どうですか似合いますか?」


似合う?リーフは嬉しそうに笑顔で聞いてくるけれど、俺は黒髪の方が似合うと思うぞ。

店主も不安そうに俺の返答を待っている。


「ああ、よく似合う。」

「本当ですか?! 嬉しいな、綺麗な色ですよね。」


リーフは鏡に近寄って色んな角度で自分の髪を眺めて本当に喜んでいるようだ。


「あっと言う間に染めちゃって凄い魔法ですね。」

「コホン…この髪を染める魔法は、お祭りの時などにワンポイントで染めたり、このように光らせたりするんですよ。」


リーフの反応に店主も気を良くしたみたいで、光る魔法を見せてリーフを喜ばせた。


「この中からウィッグデザインを選んで下さい。」


ヘアカタログを渡されたリーフは10分ほど悩んでから店主を呼んだ。


「恐れ入ります。お客様、お決まりですか。」

「髪型は今の髪に近いこれでお願いします。」

「お色はどうしますか?」


店主は俺を見ず、今度はちゃんとリーフに注文を聞いてきた。


「この髪と同じ薄紫いろでお願いします。」



リーフはそう言うと思ったよ。
 
 
 
 
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