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22 回想① ー セプター・バンテール ー
しおりを挟む「こちらにお座り下さい。それでは何色に致しましょう?」
店主はリーフではなく俺に聞いてきた。なんで染める本人に聞かないんだ。
「リーフ、何色が良い?」
リーフに聞いてやるとやはり自分で選びたかったのだろう。ぱあっと明るい顔になって喜んだ。
「俺が選んで良いんですか?………それじゃあ、セプター様と同じ髪色にして下さい。」
「!」
「え! バ、バンテール伯爵様と同じですか。」
店主が驚くのは無理もない。髪の色は濃ければ濃いほど優秀な人間と言われている。
俺の髪の色は薄く劣等種、下級と言われる色だ。
元々と優秀な黒い髪のリーフは近いブラウンか紺にすると思っていたのに、わざわざ薄紫こんな色にする物好きはいない。
それを嬉しそうに望むなんて。
俺達の反応を見て何かを察したリーフから笑顔は消え、悲しそうな表情にうつると急に怯える目に変わった。
「ごめんなさいセプター様、平民が貴族と同じ髪色なんて言って、あのっ、一般的な色にして下さい。」
「…店主…本人が望んでいる。俺と同じ色にしてくれ。」
「はい、畏まりました。」
リーフは申し訳無さそうな顔をして小さく座っている。
不思議な子供だ。
***
我がバンテール伯爵家は伯爵の中でも一番下位に順位が下がったのは跡取りである俺がこの髪色で生まれたからだ。
勉強も剣術も一生懸命努力して成果を上げたのだが、髪色の階級は絶対に覆されず両親にもがっかりさせてしまった。
父親譲りの濃い紫色の髪をした弟が産まれると両親の愛情は全てそちらに注がれ俺の居場所はなくなった。
10歳の誕生日に父に呼ばれた。
普段自分に関心のない父が呼んでいると言うだけで俺の胸は喜びに溢れた。
いつもは執事から貰っていたプレゼントをもしかしたら手渡しで貰えるかも知れない。
急いで父の部屋に行くとプレゼントはなく「10歳なら十分大きい明日から別邸に住むように」と言い渡された。
父は俺の髪を見るのも嫌で傍に置いておきたくなかったんだ。
子供の頃はそんなことがわからず、両親を恋しがった。
両親に会えるのは年に1、2度。
次第に面倒を見てくれるメイドや執事に親の愛を求めるようになると
「貴族のお坊ちゃまに そのようなことは出来ません。」
と今思えば当たり前のことを言われて傷ついた。
使用人達から距離を置かれ、誰にも愛されないことを知る。
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