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21 同じ髪色
しおりを挟む「リーフ、こっちだ。」
セプター様に手を引かれて連れて行かれた床屋は、趣のある木製看板が掛かって歴史を感じるお店だ。
けれど店の窓にはカーテンが引かれていて『Close』の文字のプレートがドアに掛かっている。
今日は定休日だったみたい。せっかく来たのに残念だな。
当然、違う店を探すのかと思ったら、セプター様は躊躇うことなく床屋のドアを開けた。
中から歓迎の明るい声が聞こえてくる。
「バンテール伯爵様、いらっしゃいませ。」
中年太りの白衣を着たおじさんが恭しく出迎えた。
お店の中にはおじさん一人だけ………もしかして貸し切りにしたのかな?
「急に悪かった。」
「いえいえ、バンテール伯爵様の頼みであれば何でもお引き受けいたします。このたびは選ばれし12人になられて、まことにおめでとうございます。お祝いを言うのが遅くなりまして申し訳ありません。」
「有難う」
「本日はどのような色に染めますか?」
「いや、俺じゃない。リーフ」
「はい」
「彼の髪の色を染めてもらいたい。」
俺はフードを外すと床屋の店主は顎が外れるほど驚いた。
「黒!! 私は初めて見ましたぞ。これを染めてしまうんですか?なんてもったいない。染める前に少し髪を切りませんか?ぜひ私に一房下さい。」
俺の髪をキラキラした目で見つめ手を伸ばしてくる。
「き、切りません。怖いです。」
「そうおっしゃらずに形を整えるだけですよ。なんて艷やかな黒い髪、まるでカラスの濡羽色ですな。」
この人、目がイッちゃってるー。俺の髪の毛全部むしりそうだよ。
「セプター様っ」
身に危険を感じてセプター様の後ろに隠れた。
「店主、お前のような者から守るために髪を染めるんだ。切るつもりはない。」
「はっ!も、申し訳ありません。バンテール伯爵様、お許しください。」
「リーフ、もう大丈夫だ。私がずっとついていてやるから安心しろ」
「有難うございます。」
「料金は3倍払う。これには口止め料も入っている。この髪のことは他言無用だ。わかるな?」
「はい、畏まりました。」
ふうぅぅ、おじさんは普通の人に戻って安心した。
「時間はどのくらいで染められる。」
「魔法で着色するので、すぐに出来ます。明日には元のお色に戻ってしまいますが…」
「それでは困る。なるべく長い間色を変えたい。」
「では、ウイッグにするのはいかがでしょう?今日、急いで拵えて 明日お屋敷にお届けします。」
ウィッグか、俺のときまほ💗のクローゼットの中に下級アイテムのウィッグがいっぱいあったな。
それが使えたら良かったのに。
ガチャで色付きのウイッグが出た日にはめちゃくちゃ嬉しかったけど、ここでは色付きの方が普通だなんて皮肉だな。
「それで頼む。この後町で買い物をするから、とりあえず今日は魔法で髪を染めてくれ。」
「承知しました。」
魔法で髪に色をつけてくれるんだ!初めての魔法楽しみだな♪
「こちらにお座り下さい。それでは何色に致しましょう?」
おじさんは、セプター様に聞いている。何色になるのかな、出来たら…
「リーフ、何色が良い?」
「俺が選んで良いんですか?…それじゃあ、セプター様と同じ髪色にして下さい。」
「!」
「え! バ、バンテール伯爵様と同じですか。」
床屋のおじさんは顔を青くしてセプター様に聞いている。
推しの髪の毛と同じ色にしたかったんだけど駄目?
そんなにいけないこと?
はっ!
平民が貴族と同じ色の髪にするのは駄目なのか!
「ごめんなさいセプター様、平民が貴族と同じ髪色なんて言って、あのっ、一般的な色にして下さい。」
「…店主…本人が望んでいる。俺と同じ色にしてくれ。」
「はい、畏まりました。」
えーん、またハーマンさんに叱られる。
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