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「…っ…くっ………」


「? なんだよ。急に動かなくなって泣いてんのか?」
 

心の中の叫びも虚しく現実には何もおこらない。

がっくりと首を項垂れて、自分の足元に視線が落ちる。
 
 
 
「…ふふ…そうだよな………」
 
 
異世界なんてやっぱりアニメや小説の作り物なんだよ。
 
そんなところに行けるわけないのに、馬鹿だな俺は…。
 
もういいや、お前ら乙女ゲームネタで好き放題 俺をいじめればいいだろ。
 
神様も、周りにいるクラスメートも、どうせ俺を助けてくれる人なんていないんだ。

誰も………。



パァァァァッと周りが急に明るくなった。
 
 
「!!なんだこれっ」


浜中が叫ぶ。
 

「!!」
 
 
床に直径2mほどの青く光る魔法陣が出現する。
 
何度も小説や漫画、アニメで見てきた光景が今 俺の目の前に広がっている。
 
 
「やった!! 異世界召喚だ!! 夢物語じゃなかった。本当に神様いたんだ!!」
 

………

あれ?
 
でも魔法陣の中心にいるのは俺じゃなくて、浜中幸男だ。


神様~~、違うんだよ。そいつじゃなくて異世界に行きたいのは俺なのっ!!


浜中は例えて言うなら底なし沼にハマったように魔法陣の中に足首が沈んで出られなくなっていた。

驚いた取り巻き連中4人は俺を放り出して、机や椅子を蹴散らし教室の外へと逃げていく。

他のクラスメートも同様に廊下の方まで逃げて行った。


「うわあああああっ!! 誰かっ!!下條っ、加藤っ、助けてくれーー!!」


浜中が叫び、取り巻き連中に助けを求めたけど 恐怖が勝りドアから覗き込んでいるが誰一人として近寄ることはない。



「なんだよっ。お前ら友達じゃないのかよっ、あ、阿部、助けてくれよ。そこの高野と二人なら引き上げられるだろ。」

「ひっ!」

「む、無理っ!」

「待って、山本、あっ!遠藤っ、西田っ、田中ぁ、誰でも良いから助けてくれよ!!」


顔が見えたクラスメイトの名前を片っ端から呼ぶからみんなドアからも離れて逃げて行ってしまった。




ははは、こんなに人望がない男を異世界は勇者として呼んでいるんだな。


浜中の背後で皆に存在を忘れられた俺は事の成り行きを傍観していた。


俺が望んだ異世界に行けるのは、こっちで全てを手中に収めているイケメン浜中くんをご指名…。

選考基準は顔か?

どこに行っても愛される主人公なんだな。ははは…………はーあ。

モブはいつまでたってもモブのままか…異世界にすら行けないのかよ…情けねえ……。

腰まで沈んだ浜中を背後で見下ろしながら虚しく心の中で笑う。

はー。羨ましいねー。


「…はあ」

「!  坂井っ?! 坂井っ、そこにいるのか?! 助けてくれっ、頼む、もうイジメないからお願いだ。助けてくれ」


ため息でバレちゃった。

俺にまで助けをもとめるってかなり必死だな。

まあ、俺が浜中の一番近くにいるしイジメないって言うなら助けてやろうかな。

 
 
 
 
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