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タイタンにて
特別編:窓とコップのレトロカフェ
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タイタンに到着した一同は衛星探索に走るが、それとはまた一変した、しんみりとした雰囲気を醸《かも》し出すレトロなカフェ......。ロボットカフェにて声が聞こえてくる。
「......ここに置いてあるコーヒーはどうしますか」
「まだ捨てない方が良さそうだ。彼女がまた戻って来るかもしれないからのう」
ロボット同士の小さな会話。この二人......いや二体のロボットは宇宙船「TB-Sα」でのロボットカフェでマスターと、そのアシスタントを務めている。
AIも進化して、ついに感情まで持てるようになったわけだ。
ロボットの知能は、ほぼすべての人の頭脳を越しているとされる。
だからと言って昔ほど心配されることではなく、人格形成が人類の手によってされているため、大きな問題は今のところ起こっていない。
「タイタンなんて、初めてですね。冷え込んだ外と巨大な惑星......まるでゲームの世界を思い浮かべます」
アシスタントのリークの声。
「わしもここは初めてだな。だが一回こんな場所へ来た覚えがある......。」
マスターがコップにつらつらと注いだアイスコーヒーをマドラーで混ぜながら、ひっそりと声を送る。
こんな寒いところでアイスコーヒーとは......。若干引きながらも、リークは話を逸らさずに
「こんな所なんて他にあるんですか?」
するとマスターは、はっと思い出すようにして、からんと音を鳴らし飲みながら話を始めた。
「えーっと......。確か五年ほど前だな、この宇宙船が運用され始めたのは。
ちなみに、自分はここの配属が決まるまではISS(国際宇宙ステーション)でマスターをしていた」
興味津々にマスターの話をリークはきちっとして耳を傾けた。
「そして初めてこの宇宙船が打ち上げられたとき、あの髪の長いキリッとした少女、ルーカスと出会った。ファットとは別の研究者でのアシスタントとして」
彼は話を黙々と続けた。
「その時のルーカスは、なんともブルブル震えていてな。まだまだあの子も未熟だったわけだ。そしてこの星に似ているってものは、彼女が初めて地球から旅立ち行った惑星。太陽系外惑星のどこか奥の方。この星よりも何倍も長い旅路だった。
それでいざ着くとその星は緑にあふれ、なんと生物とも交流できた。ちと温度が寒そうで大きな環を持った星が浮いていたんだ。その中で半人前だった彼女は、酸素ボンベのつけ方も分からずにいたわけだな......」
「今の厳しい彼女も昔は、半人前だったわけですか......」
リークは独り言のように、そして窓へ呟くようにぼそっと声を出した。
「その通り。最初から一人前なんかいない。そして彼女が一人前になれたのは理由があってな。地球への帰路にての話なのだが......。」
リークはいかにも疑問に思っている顔をマスターに見せたせいか、また記憶が飛んでしまったのかわからないのか
「続きはまた今度。ルーカスが帰ってきたら大変だからの」
「そうですか......。ではその時はまた、聞かせてもらえれば」
リークは少し残念そうな顔を見せながらも、こっくりうなずくような素振りを見せた。
そしてマスターはコーヒーを飲み終わるとともに、窓の外に映るすべてのものをじっと眺めた。
「......ここに置いてあるコーヒーはどうしますか」
「まだ捨てない方が良さそうだ。彼女がまた戻って来るかもしれないからのう」
ロボット同士の小さな会話。この二人......いや二体のロボットは宇宙船「TB-Sα」でのロボットカフェでマスターと、そのアシスタントを務めている。
AIも進化して、ついに感情まで持てるようになったわけだ。
ロボットの知能は、ほぼすべての人の頭脳を越しているとされる。
だからと言って昔ほど心配されることではなく、人格形成が人類の手によってされているため、大きな問題は今のところ起こっていない。
「タイタンなんて、初めてですね。冷え込んだ外と巨大な惑星......まるでゲームの世界を思い浮かべます」
アシスタントのリークの声。
「わしもここは初めてだな。だが一回こんな場所へ来た覚えがある......。」
マスターがコップにつらつらと注いだアイスコーヒーをマドラーで混ぜながら、ひっそりと声を送る。
こんな寒いところでアイスコーヒーとは......。若干引きながらも、リークは話を逸らさずに
「こんな所なんて他にあるんですか?」
するとマスターは、はっと思い出すようにして、からんと音を鳴らし飲みながら話を始めた。
「えーっと......。確か五年ほど前だな、この宇宙船が運用され始めたのは。
ちなみに、自分はここの配属が決まるまではISS(国際宇宙ステーション)でマスターをしていた」
興味津々にマスターの話をリークはきちっとして耳を傾けた。
「そして初めてこの宇宙船が打ち上げられたとき、あの髪の長いキリッとした少女、ルーカスと出会った。ファットとは別の研究者でのアシスタントとして」
彼は話を黙々と続けた。
「その時のルーカスは、なんともブルブル震えていてな。まだまだあの子も未熟だったわけだ。そしてこの星に似ているってものは、彼女が初めて地球から旅立ち行った惑星。太陽系外惑星のどこか奥の方。この星よりも何倍も長い旅路だった。
それでいざ着くとその星は緑にあふれ、なんと生物とも交流できた。ちと温度が寒そうで大きな環を持った星が浮いていたんだ。その中で半人前だった彼女は、酸素ボンベのつけ方も分からずにいたわけだな......」
「今の厳しい彼女も昔は、半人前だったわけですか......」
リークは独り言のように、そして窓へ呟くようにぼそっと声を出した。
「その通り。最初から一人前なんかいない。そして彼女が一人前になれたのは理由があってな。地球への帰路にての話なのだが......。」
リークはいかにも疑問に思っている顔をマスターに見せたせいか、また記憶が飛んでしまったのかわからないのか
「続きはまた今度。ルーカスが帰ってきたら大変だからの」
「そうですか......。ではその時はまた、聞かせてもらえれば」
リークは少し残念そうな顔を見せながらも、こっくりうなずくような素振りを見せた。
そしてマスターはコーヒーを飲み終わるとともに、窓の外に映るすべてのものをじっと眺めた。
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