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狼男に食べられしは魔女の耳
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「わー、純! 可愛い~」
咲良と優果が同時に嬌声を上げた。
「当たり前よ。私が純に一番似合うイメージで手作りしたんだから」
お杏がしたり顔で満足そうに言った。
「な、なんか……恥ずかしい……」
しかし、私は俯き加減で小さく呟く。
「何言ってんの、純。その魔女コス、純にぴったり!」
「そうそう。すごく可憐だわ」
皆が口々に褒めそやす。
制服からお杏お手製の黒い魔女ワンピに着替えた私は、短めの白いマントを羽織り、ポニテの上から、赤いテープリボンで装飾されたつば広の黒いとんがり三角帽子を深く被っている。
今日は10月31日『ハロウィン』の日。
放課後、午後6時から校庭で生徒会主催の『キャンプファイヤー』が開催されるのだ。
この催しは済陵史上、初の試み。
例年、済陵祭での非公認の打ち上げが教師の目に余り、今年は学校側が打ち上げ全面禁止を徹底したところ、当然それに対する生徒の反発は強かった。
そこで、生徒会が教師と粘り強く掛け合った結果、ハロウィンにかこつけ、キャンプファイヤーのイベントが催されることになったという経緯である。
「でも、純。思った以上にスタイル良いのねー」
「そのウエスト! お杏と遜色ないんじゃない?」
「あら、私の方が3㎝細いわよ。私は58セン……」
「もー、お杏! そんなことばらさない!」
私は慌ててお杏の言葉を遮った。
「それにしてもお杏はやっぱりさすが優雅ね。そのアラジンの王女コス、お杏らしい」
お杏は髪をアップに結いあげ、濃い紅のヴェールにゴールドティアラの髪飾りとネックレスを身につけている。ウエストはやや際どい線で形の良い小さなおへそをセクシーに見せ、その細腰で紅いアラビア風パンツを穿いたアラビアンナイトの王女様風コスプレは、なんとも言えず妖艶な美しさを漂わせている。
「優果のサンタクロースも可愛いわよ」
優果は上半身が赤で下半身は緑色の超ミニスカワンピに赤いサンタ帽を被っている。
「園子はフェアリー、すごく園子っぽい」
「わ、私……。ちんちくりんだから……」
背が低く体つきも小さい園子は魔法棒を持ち、黄色い裾が膨らんだワンピ姿で、背中の四枚の白い羽根がいかにも妖精らしく可愛らしい。
「咲良はやけに厳かねえ」
「ハロコスにそれってありなの?」
「いーじゃん! キリスト教ってなんだかロマンチックじゃない」
咲良は黒のシスター帽に黒いロングの礼服。手には本物の聖書を持って、カトリックのシスターになりきっている。
「まあまあ。咲良も似合ってるわよ」
そう助け船を出したのは明希。明希はウエストから胸にかけては黒い生地で白いパフスリーブ。ふんわりした赤いミモレ丈のサテンスカートの下に白のペチコートを覗かせ、真っ赤なマントの首元をリボン結びした赤ずきんのコスをしている。
そうやって仲の良い女子五人組で盛り上がっていたけれど、
「そろそろ校庭に行こうか。点火式が始まるわよ」
「そうね。もう陽も落ちて暗くなってきたわね」
北校舎二階の教室の窓から外を見ると、空は赤く染まった夕焼けが蒼い薄暮へと色を刻々と変えていくトワイライトタイム。
そして、私達は各々個性的な思い思いのコスチュームで連れだって教室を後にした。
***
キャンプファイヤーの準備は万全に整っていた。
校庭中央には木材が大きく何段も真四角に組まれ、その中に焚き火に焼べる何十本もの太い薪が立てかけてある。
校庭の一角にはテーブルが設置され、紙コップと紙皿、何種類かのソフトドリンクとポテチやクッキー、キャンディなどスナック菓子が多数用意されている。予め配布されているチケットを係に渡せば、生徒一人につきコップ一杯の飲み物と紙皿一枚のお菓子がもらえる手順だ。
もう集まった生徒達が所々でグループになって、お喋りに興じている。
「もうそろそろ時間ね」
お杏がそう言った時、アナウンスがあった。
「もうすぐ『点火式』を始めます。生徒の皆さんはファイヤーブロックから五メートル以上離れて、焚き火を囲んで輪になって下さい」
生徒達が大きく組まれた焚き火を二重、三重に輪になって囲むと、いよいよ『火の司』役の生徒会長が開催宣言をした。
「今から済陵高校『第一回ハロウィン・キャンプファイヤー』を開催します」
灯の点ったランプを持った『火の神』役の生徒会役員がゆっくりと火の周りを一周し、『栄火長』役の生徒の横につく。『火の守』役がランプから採火し、栄火長のトーチに点火すると、栄火長の挨拶が始まった。
「火は遠い昔から私達に、生きる喜びや勇気を与えてくれました。火は私達の生命でもあります。火を大切にすることは、自分を守ることにもなるのです。しかし、この偉大な火も、使う人の心により、人類を闘争と破壊へと導くことにもなります。火を大切にすることを忘れてはいけません。今、ここに燃える火は、ここに集う私達に、大きな勇気と自信を与えてくれるものと信じます」
厳かな儀式の挨拶が終わると、いよいよ栄火長が中央の火床に点火した。
「うわぁ……」
思わず感嘆の溜め息が漏れた。
焚き火の炎が大きく燃え上がり、夜の闇が迫りくる辺りを煌々と明るく照らす。
それは、期せずして感動的な瞬間だった。
「生徒の皆さん、共に『燃えろよ、燃えろ』の歌を歌いましょう」
『火の司』役の言葉があり、校庭に放送部による『燃えろよ、燃えろ』のBGMが流れ始めた。
” 燃えろよ 燃えろよ 炎よ燃えろ
火の粉を巻き上げ 天まで焦がせ……"
定番の歌を小さく口ずさみながら、私は小学生の時の夏休みを思い出していた。
YMCAの子供キャンプに参加してキャンプファイヤーを体験した。それは、幼い頃の夏のきらきらと輝いていた懐かしい良き想い出。
「これで『点火の儀式』を終わります。生徒の皆さんは『終了の儀式』まで節度を保って、各自自由に楽しんで下さい」
生徒会役員によるキャンプファイヤーの『点火の儀式』が厳粛に終わった。
周りがにわかに活気を帯び、賑やかになる。
じっと炎に見入っている者もいるが、大半は仲良し同士で喋ったり、早くもお菓子をぱくついたりしている者もいる。
コーラやポカリなど甘いジュースは好きじゃない。烏龍茶がなくならない内に早めに飲み物とお菓子をもらいに行こうかなどと考えながら私は、天までも昇るような幻想的で美しい炎を見つめていた。
その時。
「神崎」
背後から声をかけられ、振り向くと、
「守屋君」
彼が立っていた。しかし一瞬、私は目を瞬かせた。
「守屋君…そのコス……!」
彼は大きく胸元が開いたVネックのアイボリーのトレーナー姿だけれど、問題は……。
「眼鏡、久しぶりじゃない。それに、その……キャップ……」
彼は二学期に入ってから愛用の茶色の薄いフレームの眼鏡をかけて来ることはたまにしかなくて、今日は二週間ぶりくらい。
最近では彼の素顔はかなりのイケメンということが知れ渡り、女子達に騒がれている。私は正直、心中穏やかではない。陰を湛える落ち着いた大人っぽい彼に眼鏡はよく似合っていて、私はそんな眼鏡男子の彼のルックスが好きだ。
しかし、目を引いたのはその眼鏡だけじゃない。
彼は頭に狼の耳をしたもふもふの帽子を被っているのだ。
「案外、似合うだろ」
いつも通りクールな、やはり私の好きな低いテノールの彼の声……。
私はそっと上目遣いで彼を見上げた。Vネックから覗く彼の引き締まった鎖骨と首筋は逞しい。それはセクシュアルな男らしさを感じさせ、私は慌てて目を逸らす。
茶色いフェイクファーの両耳がピンと立った『狼男』の帽子は野性的で、彼の言う通り存外、彼によくマッチしている。
しかし、ハッと自分が魔女コスをしていることを意識して、私は思わず俯いた。
殊更強調するようにウエストを絞ったミディフレアーワンピ姿がやけに何だか恥ずかしくて。
黒いとんがり帽子を被ったいかにも『魔女』だなんて、童話に出て来るように意地悪く見えないかな……。
「何、黄昏れてんの?」
その時。
脚の長いスリムの黒いヴィンテージジーンズを穿いた彼は、ポケットに左手を突っ込んだまま、鋭角に曲げた右手で私の魔女帽子の広いつばをクイと上げた。
ぼ、帽子クイ……!?!
私はとっさに無意識で胸を両腕でかばった。躰は強張り、ろくに言葉も出ない。
そんな私を彼は軽く抱き寄せると、
「狼男だからって、取って食いやしないよ」
耳元で囁いた。
彼のその言葉にボン!と私の顔は赤らんだ。
「守屋君が言うと……冗談に聞こえない……」
小さく呟いた私のその言葉を耳敏く聞きつけた彼は、
「俺はよほどお前にとって危ないオトコなんだな」
そう言って、クッと笑いをかみ殺している。
「そ、そんなんじゃないもん!」
そんな会話を交わしている内に、気がつけばもうとっぷりと陽は沈んでいた。
全米チャートインの洋楽が程良い音量でBGMに流れていて、キャンプファイヤーの雰囲気を盛り上げている。焚き火の炎が赤々と辺りを照らすけれど、夜目には暗い。
他の生徒達の中にも、ふたりきりで寄り添い焚き火を見つめているカップルがちらほら見受けられる。
それは、とてもロマンティックなひとときだった。
そして──────
「神崎」
「守屋、君……」
彼が上背をやや屈め、私の魔女帽の陰に隠れるように私の耳元で低く囁いた。
「好きだぜ」
燃えさかる焚き火を背に夜の闇に乗じて、魔女コスに身を包んだ私は狼男の守屋君に、紅く染まった右の耳たぶをそっと食べられた。
咲良と優果が同時に嬌声を上げた。
「当たり前よ。私が純に一番似合うイメージで手作りしたんだから」
お杏がしたり顔で満足そうに言った。
「な、なんか……恥ずかしい……」
しかし、私は俯き加減で小さく呟く。
「何言ってんの、純。その魔女コス、純にぴったり!」
「そうそう。すごく可憐だわ」
皆が口々に褒めそやす。
制服からお杏お手製の黒い魔女ワンピに着替えた私は、短めの白いマントを羽織り、ポニテの上から、赤いテープリボンで装飾されたつば広の黒いとんがり三角帽子を深く被っている。
今日は10月31日『ハロウィン』の日。
放課後、午後6時から校庭で生徒会主催の『キャンプファイヤー』が開催されるのだ。
この催しは済陵史上、初の試み。
例年、済陵祭での非公認の打ち上げが教師の目に余り、今年は学校側が打ち上げ全面禁止を徹底したところ、当然それに対する生徒の反発は強かった。
そこで、生徒会が教師と粘り強く掛け合った結果、ハロウィンにかこつけ、キャンプファイヤーのイベントが催されることになったという経緯である。
「でも、純。思った以上にスタイル良いのねー」
「そのウエスト! お杏と遜色ないんじゃない?」
「あら、私の方が3㎝細いわよ。私は58セン……」
「もー、お杏! そんなことばらさない!」
私は慌ててお杏の言葉を遮った。
「それにしてもお杏はやっぱりさすが優雅ね。そのアラジンの王女コス、お杏らしい」
お杏は髪をアップに結いあげ、濃い紅のヴェールにゴールドティアラの髪飾りとネックレスを身につけている。ウエストはやや際どい線で形の良い小さなおへそをセクシーに見せ、その細腰で紅いアラビア風パンツを穿いたアラビアンナイトの王女様風コスプレは、なんとも言えず妖艶な美しさを漂わせている。
「優果のサンタクロースも可愛いわよ」
優果は上半身が赤で下半身は緑色の超ミニスカワンピに赤いサンタ帽を被っている。
「園子はフェアリー、すごく園子っぽい」
「わ、私……。ちんちくりんだから……」
背が低く体つきも小さい園子は魔法棒を持ち、黄色い裾が膨らんだワンピ姿で、背中の四枚の白い羽根がいかにも妖精らしく可愛らしい。
「咲良はやけに厳かねえ」
「ハロコスにそれってありなの?」
「いーじゃん! キリスト教ってなんだかロマンチックじゃない」
咲良は黒のシスター帽に黒いロングの礼服。手には本物の聖書を持って、カトリックのシスターになりきっている。
「まあまあ。咲良も似合ってるわよ」
そう助け船を出したのは明希。明希はウエストから胸にかけては黒い生地で白いパフスリーブ。ふんわりした赤いミモレ丈のサテンスカートの下に白のペチコートを覗かせ、真っ赤なマントの首元をリボン結びした赤ずきんのコスをしている。
そうやって仲の良い女子五人組で盛り上がっていたけれど、
「そろそろ校庭に行こうか。点火式が始まるわよ」
「そうね。もう陽も落ちて暗くなってきたわね」
北校舎二階の教室の窓から外を見ると、空は赤く染まった夕焼けが蒼い薄暮へと色を刻々と変えていくトワイライトタイム。
そして、私達は各々個性的な思い思いのコスチュームで連れだって教室を後にした。
***
キャンプファイヤーの準備は万全に整っていた。
校庭中央には木材が大きく何段も真四角に組まれ、その中に焚き火に焼べる何十本もの太い薪が立てかけてある。
校庭の一角にはテーブルが設置され、紙コップと紙皿、何種類かのソフトドリンクとポテチやクッキー、キャンディなどスナック菓子が多数用意されている。予め配布されているチケットを係に渡せば、生徒一人につきコップ一杯の飲み物と紙皿一枚のお菓子がもらえる手順だ。
もう集まった生徒達が所々でグループになって、お喋りに興じている。
「もうそろそろ時間ね」
お杏がそう言った時、アナウンスがあった。
「もうすぐ『点火式』を始めます。生徒の皆さんはファイヤーブロックから五メートル以上離れて、焚き火を囲んで輪になって下さい」
生徒達が大きく組まれた焚き火を二重、三重に輪になって囲むと、いよいよ『火の司』役の生徒会長が開催宣言をした。
「今から済陵高校『第一回ハロウィン・キャンプファイヤー』を開催します」
灯の点ったランプを持った『火の神』役の生徒会役員がゆっくりと火の周りを一周し、『栄火長』役の生徒の横につく。『火の守』役がランプから採火し、栄火長のトーチに点火すると、栄火長の挨拶が始まった。
「火は遠い昔から私達に、生きる喜びや勇気を与えてくれました。火は私達の生命でもあります。火を大切にすることは、自分を守ることにもなるのです。しかし、この偉大な火も、使う人の心により、人類を闘争と破壊へと導くことにもなります。火を大切にすることを忘れてはいけません。今、ここに燃える火は、ここに集う私達に、大きな勇気と自信を与えてくれるものと信じます」
厳かな儀式の挨拶が終わると、いよいよ栄火長が中央の火床に点火した。
「うわぁ……」
思わず感嘆の溜め息が漏れた。
焚き火の炎が大きく燃え上がり、夜の闇が迫りくる辺りを煌々と明るく照らす。
それは、期せずして感動的な瞬間だった。
「生徒の皆さん、共に『燃えろよ、燃えろ』の歌を歌いましょう」
『火の司』役の言葉があり、校庭に放送部による『燃えろよ、燃えろ』のBGMが流れ始めた。
” 燃えろよ 燃えろよ 炎よ燃えろ
火の粉を巻き上げ 天まで焦がせ……"
定番の歌を小さく口ずさみながら、私は小学生の時の夏休みを思い出していた。
YMCAの子供キャンプに参加してキャンプファイヤーを体験した。それは、幼い頃の夏のきらきらと輝いていた懐かしい良き想い出。
「これで『点火の儀式』を終わります。生徒の皆さんは『終了の儀式』まで節度を保って、各自自由に楽しんで下さい」
生徒会役員によるキャンプファイヤーの『点火の儀式』が厳粛に終わった。
周りがにわかに活気を帯び、賑やかになる。
じっと炎に見入っている者もいるが、大半は仲良し同士で喋ったり、早くもお菓子をぱくついたりしている者もいる。
コーラやポカリなど甘いジュースは好きじゃない。烏龍茶がなくならない内に早めに飲み物とお菓子をもらいに行こうかなどと考えながら私は、天までも昇るような幻想的で美しい炎を見つめていた。
その時。
「神崎」
背後から声をかけられ、振り向くと、
「守屋君」
彼が立っていた。しかし一瞬、私は目を瞬かせた。
「守屋君…そのコス……!」
彼は大きく胸元が開いたVネックのアイボリーのトレーナー姿だけれど、問題は……。
「眼鏡、久しぶりじゃない。それに、その……キャップ……」
彼は二学期に入ってから愛用の茶色の薄いフレームの眼鏡をかけて来ることはたまにしかなくて、今日は二週間ぶりくらい。
最近では彼の素顔はかなりのイケメンということが知れ渡り、女子達に騒がれている。私は正直、心中穏やかではない。陰を湛える落ち着いた大人っぽい彼に眼鏡はよく似合っていて、私はそんな眼鏡男子の彼のルックスが好きだ。
しかし、目を引いたのはその眼鏡だけじゃない。
彼は頭に狼の耳をしたもふもふの帽子を被っているのだ。
「案外、似合うだろ」
いつも通りクールな、やはり私の好きな低いテノールの彼の声……。
私はそっと上目遣いで彼を見上げた。Vネックから覗く彼の引き締まった鎖骨と首筋は逞しい。それはセクシュアルな男らしさを感じさせ、私は慌てて目を逸らす。
茶色いフェイクファーの両耳がピンと立った『狼男』の帽子は野性的で、彼の言う通り存外、彼によくマッチしている。
しかし、ハッと自分が魔女コスをしていることを意識して、私は思わず俯いた。
殊更強調するようにウエストを絞ったミディフレアーワンピ姿がやけに何だか恥ずかしくて。
黒いとんがり帽子を被ったいかにも『魔女』だなんて、童話に出て来るように意地悪く見えないかな……。
「何、黄昏れてんの?」
その時。
脚の長いスリムの黒いヴィンテージジーンズを穿いた彼は、ポケットに左手を突っ込んだまま、鋭角に曲げた右手で私の魔女帽子の広いつばをクイと上げた。
ぼ、帽子クイ……!?!
私はとっさに無意識で胸を両腕でかばった。躰は強張り、ろくに言葉も出ない。
そんな私を彼は軽く抱き寄せると、
「狼男だからって、取って食いやしないよ」
耳元で囁いた。
彼のその言葉にボン!と私の顔は赤らんだ。
「守屋君が言うと……冗談に聞こえない……」
小さく呟いた私のその言葉を耳敏く聞きつけた彼は、
「俺はよほどお前にとって危ないオトコなんだな」
そう言って、クッと笑いをかみ殺している。
「そ、そんなんじゃないもん!」
そんな会話を交わしている内に、気がつけばもうとっぷりと陽は沈んでいた。
全米チャートインの洋楽が程良い音量でBGMに流れていて、キャンプファイヤーの雰囲気を盛り上げている。焚き火の炎が赤々と辺りを照らすけれど、夜目には暗い。
他の生徒達の中にも、ふたりきりで寄り添い焚き火を見つめているカップルがちらほら見受けられる。
それは、とてもロマンティックなひとときだった。
そして──────
「神崎」
「守屋、君……」
彼が上背をやや屈め、私の魔女帽の陰に隠れるように私の耳元で低く囁いた。
「好きだぜ」
燃えさかる焚き火を背に夜の闇に乗じて、魔女コスに身を包んだ私は狼男の守屋君に、紅く染まった右の耳たぶをそっと食べられた。
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