17 / 49
17、耳飾り
しおりを挟む「あっははは……!!なんだか面白いことになってるねぇ!」
しん……と静まり返った生徒会室にそぐわない高らかな笑い声が響いた。驚いて声の方を向くと白みがかった金髪が視界に入った。
生徒会室の入口に持たれるようにして立っている人物がいる。その姿を見てカルミアは心底驚いた声を上げた。
「シオン様……!!?え!?あ、そういえばいらっしゃらなかったのですね!?」
慌ててソファーから立ち上がったカルミアは生徒会長の机に座るジニアの方を見る。
「ねぇ兄さん、随分好き勝手させてるみたいだけど、そろそろ黙らせた方がいいんじゃないか?」
カルミアに「シオン様」と呼ばれたその人物は生徒会長の机の前に立つ。スラッとした体格で背はそこそこ高くどこかジニアと顔立ちや雰囲気が似ている。
シオンが目の前に立つと、今まで俯いていたジニアはニヤッと口角を上げた後、その場に立ち上がった。
シオンと向かい合うように立ったジニアの背はシオンより10cmほど低いようで立ち上がっても幼さが目立った。
「そうだね、そろそろ僕の出番だろうね」
ジニアは不敵な笑みを浮かべ、腕を組む。その姿にネリネ達の表情が強ばった。一体、何を言い出すんだろうといった様子を窺う表情になる。
一挙一動を確認するような目。そんな目に晒されてもジニアは動じなかった。
「さて、どこから話をつけようか」
にっこり微笑みながらそう言ったジニアにネリネ達は恐怖を覚える。一方で、カルミア達は恐怖を覚えることはなく、カルミアにはむしろ意地の悪い笑顔に見えていた。小さな声で「何か企んでる顔ですわ」と呟いた。
「ところでさ」
ジニアが話そうとしたのを遮ってシオンが割り込む。そんなシオンにジニアはやれやれといった仕草をした。
「意外なのがさ、ゼフィランサスだよね」
急に話題を振られてゼフィランサスはキョトンとした。つられてキョトンとなったロベリアは慌ててカルミアに小声で確認した。
「ねぇ、カルミア。シオン様って……もしかしてあのシオン様?」
「ええそうよ。あ、でもロベリアは小さい頃しか会ったことないかしら。ジニア様の双子の弟君、シオン・アゲット=アクアマリン様ですわ」
シオン・アゲット=アクアマリン。第一王子であるジニア・アゲット=アクアマリンの双子の弟で第二王子でもある。王位継承権は持っているが本人は王位に興味が無いようだ。身長は双子でありながら何故かシオンの方が高くジニアの方が小さい。
「あと、付け加えると、シオン様も婚約者がいらっしゃって、それがミモザですわ」
カルミアがそう説明してくれたのだが、それを聞いてロベリアは目が丸くなった。
(ミモザの婚約者がシオン殿下!?)
社交界にも参加しなかった引きこもりのロベリアには初耳だったし、何よりシオン殿下とはほとんど顔も合わせたこともなかったのでここで顔を合わせてもピンと来なかった。
小声で話をしていたふたりの横でゼフィランサスがシオンの言葉に首を傾げていた。
「私の何が意外なのでしょうか?」
意味がわからないと言いたげなゼフィランサスにシオンは少し意地悪そうなニヤッとした顔で答えた。
「だって、よりどりみどりなのに数多ある令嬢との縁談をことごとく断ってきた女嫌いが、よもや婚約を成立させるなんてさ、誰も思わなかったでしょって」
シオンはニヤニヤとしている。どうやら面白がっているようだ。その横で、ネリネの顔色が悪くなっていく。そして、ポツリと呟いた。
「え……誰と、誰が婚約してるって……?」
手を口元に添えて青ざめている。その反応を見てカルミアはここぞとばかりにパンッ!!と扇子を開いて口元を隠すように持つ。いかにも悪役令嬢といった振る舞いだ。
「誰と誰がって……当然、ゼフィランサス・インカローズとロベリア・カーディナリスが、ですわ!」
何故だか自慢げにカルミアがそう言うと、ネリネが小さな声で「ありえない」と零した。
しかし、信じられないといった顔をしたのはルドベキアやカンパニュラ、ライラックも同じだった。
「へぇ……誰が射止めたのかと思ってたけど……まさかカーディナリスのご令嬢とはね。兄さんは知ってたの?」
「ああ、話は聞いてたよ。案外、上手くいってるみたいだよ」
シオンとジニアはそんな会話をしながらゼフィランサスとロベリアへと視線を向ける。ふたりの視線やネリネ達からの視線に、ゼフィランサスはロベリアの腰に回していた手に少し力を入れた。より密着するよう引き寄せる。
「……ッ!」
グイッと引き寄せられたロベリアの体はゼフィランサスに持たれるように密着することになり、ロベリアは思わず赤面した。そんなロベリアとは違い、ゼフィランサスはどこか不服そうだった。
「……話を戻してよろしいでしょうか」
ムッとしたゼフィランサスがそう言うと「そうだったね」とジニアが小さくため息をついた。
「さて、途中で話が逸れてしまったけど、カルミア嬢とロベリア嬢にはこれから生徒会の仲間として入部してもらう。先日、ゼフィランサスから推薦があってね。それを受理した。もちろん、異論は認めない」
満面の笑みでジニアがそう宣言した。いくら学院が「学院内で身分は同格である」といった理念を掲げていても王太子殿下が決めたことに異論など言えるはずもなかった。ネリネも彼女に賛同するルドベキアとカンパニュラも何も言えなくなっていた。
☆
その日の生徒会でカルミアとロベリアは主に補佐をすることになり、カルミアはジニアのロベリアはゼフィランサスの補佐をする事となった。
そしてその日、生徒会での活動を終え解散したところでロベリアはゼフィランサスに呼び止められた。
「ロベリア嬢、これを」
チャリ……。ゼフィランサスから手渡されたのは羽の形をした翡翠石が埋め込まれた小さめのイヤリング。可愛らしいデザインでロベリアが好きな系統のものだった。
「まぁ!すごく可愛いですね!!ここに埋め込まれているのは翡翠ですか?」
「ええ、そうです。それには森の精霊の加護が掛けられています。貴女に安らぎを与えてくれると思いますよ」
その言葉を聞いてロベリアはハッとした。
(……それってまさか……!!)
「先日、のことですか?もしかして、ずっと心配してくださっていたのですか……?」
カルミアの贈り物を買いに行って悪意の陰口に晒された日、極度の精神的ストレスと恐怖で動けなくなってしまった。彼はその事を気にかけていてくれたようだ。
「はい。あの時は……力になれずにすみませんでした」
「そんな…ッ、一緒にいてくださったことだけでも心強かったです。本当に、ありがとうございました。それに、このような素敵な耳飾りまでいただけて……」
ロベリアが耳飾りを大事そうにギュッと握ると、その姿を見たゼフィランサスが嬉しそうに笑みを浮かべる。
「本当に、ありがとうございます。ゼフィランサス様。これ、大事にしますね」
ロベリアがヴェールの下で笑顔を浮かべ、イヤリングを自分の耳に付けるとそれが揺れてキラリと光った。
その時、廊下の開けられた窓から風が吹き込み、それがロベリアのヴェールをめくりあげ、普段隠れている素顔が見える。銀色の髪の間から赤色と桃色のオッドアイの瞳がゼフィランサスを映し出す。ロベリアは普段こそ亡者を見ない為にヴェールで顔を隠しているが、元々美人の枠に入る。
そんな彼女が笑えばきっと周りを魅了するだろう。左右色の違う瞳に自分だけが映し出されていることを嬉しいと感じたがゼフィランサスは急にそれが面白くなくなっていく。だが、それを表情に出すことはなかった。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる