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17、耳飾り

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 「あっははは……!!なんだか面白いことになってるねぇ!」

  しん……と静まり返った生徒会室にそぐわない高らかな笑い声が響いた。驚いて声の方を向くと白みがかった金髪が視界に入った。
  生徒会室の入口に持たれるようにして立っている人物がいる。その姿を見てカルミアは心底驚いた声を上げた。

「シオン様……!!?え!?あ、そういえばいらっしゃらなかったのですね!?」

  慌ててソファーから立ち上がったカルミアは生徒会長の机に座るジニアの方を見る。
  
「ねぇ兄さん、随分好き勝手させてるみたいだけど、そろそろ黙らせた方がいいんじゃないか?」

  カルミアに「シオン様」と呼ばれたその人物は生徒会長の机の前に立つ。スラッとした体格で背はそこそこ高くどこかジニアと顔立ちや雰囲気が似ている。
  シオンが目の前に立つと、今まで俯いていたジニアはニヤッと口角を上げた後、その場に立ち上がった。
  シオンと向かい合うように立ったジニアの背はシオンより10cmほど低いようで立ち上がっても幼さが目立った。

「そうだね、そろそろ僕の出番だろうね」

  ジニアは不敵な笑みを浮かべ、腕を組む。その姿にネリネ達の表情が強ばった。一体、何を言い出すんだろうといった様子を窺う表情になる。
  一挙一動を確認するような目。そんな目に晒されてもジニアは動じなかった。

「さて、どこから話をつけようか」

  にっこり微笑みながらそう言ったジニアにネリネ達は恐怖を覚える。一方で、カルミア達は恐怖を覚えることはなく、カルミアにはむしろ意地の悪い笑顔に見えていた。小さな声で「何か企んでる顔ですわ」と呟いた。

「ところでさ」

  ジニアが話そうとしたのを遮ってシオンが割り込む。そんなシオンにジニアはやれやれといった仕草をした。

「意外なのがさ、ゼフィランサスだよね」

  急に話題を振られてゼフィランサスはキョトンとした。つられてキョトンとなったロベリアは慌ててカルミアに小声で確認した。

「ねぇ、カルミア。シオン様って……もしかしてあのシオン様?」
「ええそうよ。あ、でもロベリアは小さい頃しか会ったことないかしら。ジニア様の双子の弟君、シオン・アゲット=アクアマリン様ですわ」

  シオン・アゲット=アクアマリン。第一王子であるジニア・アゲット=アクアマリンの双子の弟で第二王子でもある。王位継承権は持っているが本人は王位に興味が無いようだ。身長は双子でありながら何故かシオンの方が高くジニアの方が小さい。

「あと、付け加えると、シオン様も婚約者がいらっしゃって、それがミモザですわ」

  カルミアがそう説明してくれたのだが、それを聞いてロベリアは目が丸くなった。

(ミモザの婚約者がシオン殿下!?)

  社交界にも参加しなかった引きこもりのロベリアには初耳だったし、何よりシオン殿下とはほとんど顔も合わせたこともなかったのでここで顔を合わせてもピンと来なかった。

  小声で話をしていたふたりの横でゼフィランサスがシオンの言葉に首を傾げていた。

「私の何が意外なのでしょうか?」

  意味がわからないと言いたげなゼフィランサスにシオンは少し意地悪そうなニヤッとした顔で答えた。

「だって、よりどりみどりなのに数多ある令嬢との縁談をことごとく断ってきた女嫌いが、よもや婚約を成立させるなんてさ、誰も思わなかったでしょって」

  シオンはニヤニヤとしている。どうやら面白がっているようだ。その横で、ネリネの顔色が悪くなっていく。そして、ポツリと呟いた。

「え……誰と、誰が婚約してるって……?」

  手を口元に添えて青ざめている。その反応を見てカルミアはここぞとばかりにパンッ!!と扇子を開いて口元を隠すように持つ。いかにも悪役令嬢といった振る舞いだ。

「誰と誰がって……当然、ゼフィランサス・インカローズとロベリア・カーディナリスが、ですわ!」

  何故だか自慢げにカルミアがそう言うと、ネリネが小さな声で「ありえない」と零した。
  しかし、信じられないといった顔をしたのはルドベキアやカンパニュラ、ライラックも同じだった。

「へぇ……誰が射止めたのかと思ってたけど……まさかカーディナリスのご令嬢とはね。兄さんは知ってたの?」
「ああ、話は聞いてたよ。案外、上手くいってるみたいだよ」

  シオンとジニアはそんな会話をしながらゼフィランサスとロベリアへと視線を向ける。ふたりの視線やネリネ達からの視線に、ゼフィランサスはロベリアの腰に回していた手に少し力を入れた。より密着するよう引き寄せる。

「……ッ!」

  グイッと引き寄せられたロベリアの体はゼフィランサスに持たれるように密着することになり、ロベリアは思わず赤面した。そんなロベリアとは違い、ゼフィランサスはどこか不服そうだった。

「……話を戻してよろしいでしょうか」

  ムッとしたゼフィランサスがそう言うと「そうだったね」とジニアが小さくため息をついた。

「さて、途中で話が逸れてしまったけど、カルミア嬢とロベリア嬢にはこれから生徒会の仲間として入部してもらう。先日、ゼフィランサスから推薦があってね。それを受理した。もちろん、異論は認めない」

  満面の笑みでジニアがそう宣言した。いくら学院が「学院内で身分は同格である」といった理念を掲げていても王太子殿下が決めたことに異論など言えるはずもなかった。ネリネも彼女に賛同するルドベキアとカンパニュラも何も言えなくなっていた。





  その日の生徒会でカルミアとロベリアは主に補佐をすることになり、カルミアはジニアのロベリアはゼフィランサスの補佐をする事となった。
  そしてその日、生徒会での活動を終え解散したところでロベリアはゼフィランサスに呼び止められた。

「ロベリア嬢、これを」

  チャリ……。ゼフィランサスから手渡されたのは羽の形をした翡翠石が埋め込まれた小さめのイヤリング。可愛らしいデザインでロベリアが好きな系統のものだった。

「まぁ!すごく可愛いですね!!ここに埋め込まれているのは翡翠ですか?」
「ええ、そうです。それには森の精霊の加護が掛けられています。貴女に安らぎを与えてくれると思いますよ」

  その言葉を聞いてロベリアはハッとした。

(……それってまさか……!!)

「先日、のことですか?もしかして、ずっと心配してくださっていたのですか……?」

  カルミアの贈り物を買いに行って悪意の陰口に晒された日、極度の精神的ストレスと恐怖で動けなくなってしまった。彼はその事を気にかけていてくれたようだ。

「はい。あの時は……力になれずにすみませんでした」
「そんな…ッ、一緒にいてくださったことだけでも心強かったです。本当に、ありがとうございました。それに、このような素敵な耳飾りまでいただけて……」

  ロベリアが耳飾りを大事そうにギュッと握ると、その姿を見たゼフィランサスが嬉しそうに笑みを浮かべる。

「本当に、ありがとうございます。ゼフィランサス様。これ、大事にしますね」

  ロベリアがヴェールの下で笑顔を浮かべ、イヤリングを自分の耳に付けるとそれが揺れてキラリと光った。

  その時、廊下の開けられた窓から風が吹き込み、それがロベリアのヴェールをめくりあげ、普段隠れている素顔が見える。銀色の髪の間から赤色と桃色のオッドアイの瞳がゼフィランサスを映し出す。ロベリアは普段こそ亡者を見ない為にヴェールで顔を隠しているが、元々美人の枠に入る。
  そんな彼女が笑えばきっと周りを魅了するだろう。左右色の違う瞳に自分だけが映し出されていることを嬉しいと感じたがゼフィランサスは急にそれが面白くなくなっていく。だが、それを表情に出すことはなかった。
  
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