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邂逅逸話 暁のシジル 解⑤-6

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    タタタッ!とルーエイに駆け寄り、その背に飛び乗る。

「急ごう!せっかくルーエイが動きを止めておいてくれてるんだからな!」

    アラヌスがルーエイの背中から呼び掛ける。

「せやなー」

「いっきマース!!」

   シャアム、マトアカも背に飛び乗り、メイジーも無言のまま飛び乗る。
   ソロモンは少し二の足を踏んだが、覚悟を決めたのか、背に飛び乗ろうとした。
    オルメカも後に続こうとしたが、ラグノアーサーに腕を捕まれて引き止められた。

「お主はこちらだ」

「え…!?」

   ソロモンがルーエイの背に飛び乗ってから、ルーエイは再び羽ばたき、空を舞う。そこでオルメカがついてきていないことにソロモンが気付く。

「オル…!?」

   慌てて先程まで立っていた位置を見る。そこにラグノアーサーとオルメカの姿があった。

「な、何?」

   小さな手がオルメカの腕を掴んでいる。その力は振り解けるようなものでは無い。その事にもオルメカは驚いた。

「お主…精霊を召喚出来るな?お主の周りに精霊の気配を感じるのだ」

「え?あ、まぁうん。召喚出来るけど…」

…私の周りに精霊の気配??美男子なのかな…。
   どうでもいい事が頭を過ぎる。今ここにソロモンがいたらまた白い目で見られるところだ。

「エントを召喚するのだ。それでもって、魔法を崩す」

「え、エントって…。ちょっと待って!!私もうそんな魔力残ってないよ!!」

   ブンブンと首を横に振るが、ラグノアーサーは引く気がない。

「余の魔力も使う。問題はないのだよ」

   そう言ってオルメカの手を取り、共に手を翳す。

「ゆくぞ」

「え、ええええええええ!?」

   驚きの声をあげながら、ラグノアーサーに促されるように魔法を発動する。

「えっと…その生命の息吹は巨兵をも貫く!森の大精霊エント!!」

   ラグノアーサーの魔力とオルメカの魔力が混ざり合う。二つの魔力が一つになる。
   氷漬けになったゴーレムの前に二色の魔力が混ざり合う巨大な魔法陣が展開する。魔法陣から無数の蔦が飛び出し、その中心からは全身が植物からなる長い髭をもつ巨人の老人がゴーレムとほぼ変わらない大きさで現れた。そう、森の大精霊エントだ。今度はオルメカだけでなく、ラグノアーサーの魔力も使った召喚の為、オルメカも見た事がないほどエントの装飾も体格も比べ物にならないものだった。

「え、ええええええええ!!?」

   先ほど自分が召喚したエントよりも大きい。オルメカ自身の魔力は既に少なかったわけだから、この規模の召喚が出来たのは一重にラグノアーサーあってのものだ。
   一体、この小さな生き物は何者なんだろうか。

「さぁ、舞台は整ったぞ。ルーエイ、判っておるな?」

   そんなオルメカの横でラグノアーサーが事を進める。
   さして大きな声だった訳でもないが、ラグノアーサーの声はルーエイに届いたらしい。ルーエイは羽ばたきゴーレムの頭上に飛ぶ。

   その間にも力を込め氷を割ろうとしていたゴーレムの周りの氷にヒビが入り始める。

ピキピキピキ。

   それを止めるように大精霊エントがゴーレムの身体をガシッと掴み固定する。
   それだけではなく、氷の上から蔓のような植物が絡まり振りほどけないようにする。

   一方でルーエイぐんぐんと上昇し、ゴーレムの頭上より更に高い位置に飛ぶと、高く咆哮を上げた。
   合図だ。
   アラヌスが先頭を切ってゴーレムの額に同化しているナアマ目掛けて落ちていく。

「いっちばーん!!」

ビュオオオオ…。
   風を切って落ちていく。
   その手には光の剣。これで核を叩く。

   アラヌスが先頭を切ったことで、シャアム、マトアカ、メイジー、更にソロモンも続いてゴーレムの頭目掛けて落ちていく。

「核は心臓ぞ!!」

   風を切って落ちていく中でラグノアーサーの声が聞こえた。
   アラヌスはニヤリと笑う。

「りょーかい!!」

   光の剣のハバキにあたる部分に風の紋章が現れる。光の剣が風の剣へと変わり、中心に風が吹き荒れる。

「集え!大いなる風の力よ!!切り裂け!!旋風剣!!ウィンド・ジハード!!!」

   アラヌスが一振りすると、風が竜巻のようになり、ナアマの心臓を貫く。

「あああああああああああ」

   悲鳴が上がるが、核を壊すには至らなかった。が、ナアマの身体を砕く。
   そのお陰か、核が外からも見えるようになった。

「お!あれやな!!」

「見つけましたデース!!」

「一気にいくわよ!」

   それぞれが落下しながら構える。

「双銃の八連弾!!テクニカルレイン!!」

「百花繚乱・雪椿!!」

「やったるで!飛燕皇火爪ひえんおうかそう!!」

   ナアマの身体を貫くように魔法の雨が降り注ぎ、雪椿を描くように展開した魔法陣から氷と木の複合魔法の矢が突き刺さる。粉々に砕かれた身体から核が浮き上がり、炎を纏った手甲鉤でそれを斬りつける。

   アラヌス、マトアカ、メイジー、シャアムが凍ったゴーレムの身体を滑り台の要領で降下し、地面に着いた頃、最後のソロモンが攻撃をする。

「…ナアマ……」

   アンドロマリウスがソロモンの意思に呼応するように構える。

「これでお別れだ」

   そう言った。
   ヒビの入った核をソロモンの風魔法が切り裂きと破片ごとアンドロマリウスの腕に巻き付いていた蛇が丸飲みした。
   蛇が核を丸飲みした直後、

パキンッ!!

   と弾ける音がした。

「いやあああああああああああああ」

グアアアアアアアアア!!!

   ナアマの悲鳴とゴーレムの悲鳴が重なった不協和音が響き渡った後、形を成していた全てが崩れ、ただのさらさらの砂になっていく。

   ザァーーーー、と音を立てて崩れていく。

「…お、終わった…?」

   オルメカが崩れていく砂の山を見ながら呟いた。
   地割れだらけの荒れた城跡の広場にオルメカ達は立っている。
   アリスが駆け寄ってきてオルメカに抱きついた。


   そよそよと風が吹き、言葉もなく目の前で砂に還るそれを見ていた。
   ソロモンの瞳は揺れている。既に人型の失せた砂の山をただただ見つめていた。

   だが、崩れゆくのはゴーレム達だけではなかった。暁に染まった空からもさらさらの砂が落ちてくる。

「これは…」

   ラグノアーサーがしっぽをくるりと回す。
   バササ…と地面に降り立つと同時にルーエイが再び異形の人型を取る。

「なるほど。この空間そのものも砂という訳か」

   冷静な声でルーエイは言ったが、他のメンバーは驚愕の表情をした。

「ちょ、ちょっと待てって!ルーエイ、それってつまりー…」

「ふん。相変わらず察しが悪いようだな、脳内お花畑が。…言葉通りだ。核が壊れた以上、この空間も砂に還るぞ」

   苛立ったように言ったが、誰もそこを気にする余裕はなかった。
   …ラグノアーサーを除いては。

「não não não!!悠長なこと言うてられへんやん!!はよここから出なー…」

   シャアムがそう言い出したとき、頭上からブオンブオンと低く響く機械音と女の子の声が聞こえた。

「アラヌスー!!迎えに来たわよー!!」

   この声は…。

「ルチーナ!!」

   アラヌスが嬉しそうに顔を上げた。
   そこには空に浮かぶ飛空艇がある。それの甲板から女の子が顔を出して手を振っている。
   ギルドディスタント惑星プラネットの活動拠点である飛空艇だ。

   迎えの飛空艇に飛び乗り、砂に閉じ行く空間を後にする。




   飛空艇が飛び去った後、ナアマが身に付けていた装飾が砂の山から顔を出していた。
   徐々に砂に埋もれていく空間で、その装飾をぱくんと丸飲みで食べている影があったのだが、オルメカ達はそれを知る由もなかったー…。
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