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都市伝説 幻想図書館 解②-1

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   それは、無意識だったのかもしれない。自分のせいだ、と考えたからかもしれない。

   静寂を切り裂く破裂音が響いた時、オルメカは咄嗟にシルフを召喚し、自分とソロモンと少年を守るように風の結界を張っていた。
   この咄嗟の行動は、幻想図書館の床に巨大な穴が出現した瞬間の穴への落下を防いだ。

「何…これ…!!」

   深い闇。どこまでも深く奈落の底のような闇が足元に拡がる。シルフの魔法は浮遊の特性を持つ魔法だ。風の壁は鉄壁でもあり、あらゆる物を跳ね返す。毒の空間でも浄化の特性で影響はない。そういった意味でもこの魔法の選択は正しかったようだ。
   図書館の床にあった本の山はその半分程が奈落の底に落ちて闇に消えていく。

「本が…!」

   少年は闇に消えていく本を眺める。咄嗟に手を伸ばしたがその手は空を掴むだけだった。

「これは一体…何が起きてるの…!?」

   オルメカは足元に拡がる闇を観察する。徐々に広がっていく闇はそのまま図書館をまるごと飲み込んでしまいそうだ。
   これも恐らく魔法だ。だが、そもそもが魔法的存在の図書館の中に別の魔法が発動するなんてことがあるのだろうか。少なくとも、オルメカはこれまでに見たことが無い。

   だが、ソロモンなら何かわかるのかもしれない。そう考え、見解を聞こうとしたが、聞くまでもなかったようだ。

「小賢しい魔法だな」

   つまらなさそうにそう呟いたのをオルメカは聞いていた。少年もその言葉に彼の方を振り返った。
   そこには冷ややかな目で床に拡がる闇を腕を組み、眺めているソロモンが立っている。オルメカは彼の魔力に不穏な動きがあることを感じた。時折感じるこの不穏な魔力。それはソロモン自身が持つ強大な魔力が故の周りに与える影響のひとつ。感情がそのまま魔力に反映されやすい。とはいえ、本人が本気で隠そうとしている時にはその限りではない。つまり、今、彼はそれを隠そうとはしていないと言うことになる。
   その為、オルメカも感じ取れるのだ。

「ソロモン?」

   彼はきっと何か知っている。それはわかる。だがそれが何かはわからない。ただ、今はこの彼の放つ不穏な魔力をどうにかしたかった。だから、いつもの様に話しかけた。

「何かわかるの?何が起こったのか。それからー…」

   シルフが作った結界の中でしゃがみこんでいた少年にも話しかける。

「少年…キミはこの状態について何か知らないの?」

   オルメカが咄嗟にシルフの魔法で結界を張ったとはいえ、急ごしらえのものだし、奈落のように拡がっていく闇の穴は留まることがない。次々に人の半生が描かれた本がバラバラと落ちていく。何か手を打たねばなるまいと気持ちが焦るが、手段を見つけることが先だ。

「…ボクは知らないです。…生身の人間は入れてはいけないっていう事だけです。…悪いことが起きるからって…」

   少年は俯きながら話す。声が微かに震えているし、表情も困惑しているのがわかる。その様子から察するに、この少年は何も知らないのだろうという事が分かる。そんな様子に呆れたようにソロモンがちいさな溜息をついた。

「…恐らくその少年は何も知らないんだろう。ただあてがわれただけだろうからな」

「あてがわれた?」

   オルメカはきょとんとした様子でソロモンを見た。少年もきょとんとした様子でソロモンを見ている。そういえば、この少年は「目が覚めた時にはここに居た」と言っていたことを思い出す。そこにソロモンの言う「あてがわれた」という解釈が揃えば、ひとつの推理が成り立つ。

「それってつまり、この少年は誘拐されてここに軟禁されていたって言いたいの?…水先案内人だって信じ込ませた上で」

   そのオルメカの言葉は少年にとって、衝撃的な言葉だったことだろう。一体誰の話しをしているのか、わからなくなっているかもしれない。誰だって自分が誘拐されて来たなんて信じたくもない、聞きたくもない話だろう。

   だが、これはきっと避けては通れない話だ。幻想図書館という魔法を解釈する為に。

「…簡単にまとめるとこういう事だ」

   ソロモンはシルフの結界魔法の床に膝を立てるようにしゃがみ込む。眼下に広がる闇の世界を睨みつける。

「この幻想図書館はふたつの役目がある。ひとつは人々の記憶を収集し備蓄しておくこと。その際の見張り、監視役として生きていて素直に信じ込みやすい子供を連れて来た。…ふたつめは、誰かがこの空間に踏み込んだ際の対処。踏み込んできた人間諸共記憶を回収し幻想図書館の消滅を狙ったもの。…証拠隠滅と言ったところだな」

   淡々と語る。その視線の先に何が見えているのだろう。不穏な言葉すらも淡々と口に出す。彼は至って冷静だったが、オルメカと少年はそういう訳にはいかない。顔面蒼白とはまさにその事、とでも言えそうな表情だった。

「ちょっと待ってそれって…」

「…言っておくが、魔法に二つの意味があるものはよく使われる魔法だ。術者の思惑が絡むからな」

「術者の思惑…それが消滅させることに関係するって言うの!?」

   少年はオルメカの服の裾を掴む。怖がっているのがわかる。そりゃそうだと思う。彼としては目が覚めた時からここで与えられた事をしていただけであり、詳細も知らなかったのだ。それなのに突然見知らぬ人間が入り込んできて、しかもそれが結界魔法で弾いていたはずの生身の人間だという。いきなり訳の分からない出来事が起きているのだ。だから、頼れる何かが欲しかったのだろう。
…てかさ、この子やっぱめっちゃ可愛くないか??服の裾掴むって可愛過ぎない???こんな状況で無ければギューって抱きしめられるのに!!!!

   そんな心を読んで呆れたのか、ソロモンは呆れた目でオルメカを見る。バチッと視線が合い、その呆れた視線にオルメカは苦笑いをした。いつもならそこで終わるのだが、今は違った。ソロモンは視線で足元を見るように促す。つられて視線を足元へ。そこにはー……


「……はぁっ!?」

   バラバラと落ちていった本も消えていった闇。奈落の底のように何もかも飲み込むだけだと思っていたその闇の中から蠢く何かがいた。白い石化したような細い体。…骨だ…。巨大な骨の生き物。長い爪に大きな翼。頭蓋骨から伸びた二本の角。ギザギザの牙。
   上半身だけが闇の中からその姿を現しているが、実物を見たことがなくとも多くの人々が共通認識を持っているのではないだろうか。

「アンデッドドラゴン……?!」

   オルメカは本で見たことがある程度だが、その造形は知っていた。

ギィシャアアアーーーーーー!!!
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