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再会
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気が付くと琥之羽は見知らぬ部屋の中に居た。殴られた部分には包帯が巻かれ、衣服も新しい物に取り替えられていた。環境の変化に戸惑いつつも、状況を把握しようとベッドから降り、外へ繋がる扉へ向かう。ゆっくりとドアノブに触れると、扉はガチャリと音を立てて開く。そのままゆっくりとドアを開こうとした時、バンッと扉が勢い良く開き、琥之羽は驚いて扉から距離を取った。
「リューイさん、お帰りな、さ……」
扉から入って来たのは、黒い髪に黒い目をした少年だった。少年は琥之羽を見た瞬間、固まり、目を見開く。琥之羽も言葉を失い、少年から目が離せない。もう二度と会う事はないと思っていた。会ってはならないと思い込んでいた。けれど、何時も考える事は一緒で。ずっとずっと心配していた。でも、自分に出来る事は何もないから、諦めていた。それなのに、琥之羽が一番会いたくて、一番会いたくなかった人物が、目の前に、居る。
「こ、のは、にぃ……さ……」
小さく呟いた後、少年は駆け出し、勢い良く琥之羽に抱き付いた。
「く、れは?」
琥之羽に抱き付き、暮羽は何度も「ごめんなさい」と謝り続けた。
あの時、俺が消えろって言ったから……ずっと、ずっと謝りたかった。「兄さんを返して」と、何時も願ってた。寂しかった、苦しかった、怖かった。もう二度と、兄さんには会えないんだって思ってた。やっと、会えた。もう、何処にも行かないで……置いて、行かないで。
暮羽の本心を聞いて、琥之羽はそっと暮羽を抱き締めた。「俺の方こそ、ごめんな」と謝って、琥之羽も暮羽に本心を伝えた。
お前に何もしてやれなかった。一緒に居る事も、守る事も出来なかった本当に、ごめんな。お前は、俺の事は覚えてないと思ってたんだ。そっちの方がお前は幸せになれると思って、話さなかった。
今更、どうやって会えば良いのか、何を話せば良いのか、俺は分からなかったんだ。
お互いに本心を言い合った二人は涙でグシャグシャになった顔で笑い合った。「兄さんはずっと俺の兄さんだよ」と、「そうだな、お前は俺の自慢の弟だ」と。離れ離れだった兄と弟は長い月日を経て、漸く再会する事が出来た。昔のように笑い合い、昔のようにくっ付いて、沢山話している最中に、何時の間にか二人は眠ってしまった。
さて、これは困った。
リューイは目の前にある状況をどう打開すべきか考えていた。隣から「ほぉう」と言う声を聞き流し、リューイは策を練ることに専念する。琥之羽を連れ去り、自室のベッドに寝かせ、手際良く傷の手当をし、衣服も取り替え、リューイは魔王に報告する為に、自室を後にした。勿論、誰も琥之羽に手出し出来ないよう、強力な結界を張って……
魔王に報告を済ませ、自室に戻ると、扉は開きっ放しの状態だった。誰かが侵入したのかと思い、リューイは急いで部屋の中に入った。部屋の中央付近で横たわる二つの体。お互いに抱き合い、気持ち良さそうに寝息を立てて眠っているのは暮羽と琥之羽。泣いていたのか、二人の目元と頬が少しだけ赤みを帯びている。
何故、クレハ様が私の部屋に?
結界を張っていた筈なのに、一体どうやって……
どうして、クレハ様とコノハが私の部屋で寝ているのですか?
疑問は多々あった。しかし、それ以上にリューイは今の状況が我慢出来なかった。暮羽と琥之羽が仲良く抱き合って眠っているのだ。可愛くて可愛くて仕方ない二人が……安心した様子の二人の寝顔はそれはそれはとても可愛くて……
「「天使 (です)か」」
思わず魔王と被ってしまう。其処で魔王が隣に居た事をリューイは思い出すが、暮羽と琥之羽から目を離さず、魔王と二人、ずっと二人の寝顔を眺め続けていた。下っ端の魔物が気を遣って二人分の毛布をリューイの部屋に持って来ると、その魔物は魔王とリューイに物凄く褒められ、嬉しさよりも先に恐怖を感じ、指一本動かせなかったと言う。それ程までに、二人が誰かを褒める事はないのだ。
目を覚ました瞬間、至近距離にある整った顔が視界に入り、暮羽と琥之羽は驚いて悲鳴を上げた。暮羽の上に魔王が、琥之羽の上にリューイが寝ており、第三者が見たら暮羽と琥之羽は押し倒されているような状態だった。二人の悲鳴で魔王とリューイも目を覚まし、何を思ったのか、魔王は暮羽を強く抱き締め、リューイは琥之羽を強く抱き締めた。突然の出来事に二人は顔を赤くして、涙目になっていた。それから数十分後、魔王とリューイは漸く二人を解放した。
「済まない。暮羽があまりにも可愛くて……」
「申し訳有りません。コノハが可愛らしかったので……」
二人の言い分に、暮羽と琥之羽は同時に「可愛くないですっ!」と必死に訴えた。其処が可愛いんだと思いつつも、魔王もリューイも言葉には出さなかった。
その後、魔王とリューイは今迄の事を説明し、あの城の者の末路も全て二人に話した。ルイスはリューイが人間に扮した姿だった事。あの城に居たのは暮羽の兄である琥之羽を見つける為だった事。初めて琥之羽と会い、リューイが琥之羽に一目惚れした事。琥之羽を最初から攫うつもりでいた事。暮羽と琥之羽を散々苦しめた国王達をその座から引きずり下ろした事等。
愛輝が好き勝手暴れて使用人や兵士達を辞めさせている内部情報を、リューイは隣国の国王に流していた。それが切っ掛けになり、城から追い出された者や愛輝達に虐げられた者達は隣国の国王に助けを求めるようになった。そして、隣国の国王が城へ攻め込み、国王達は身柄を拘束され王位は剥奪。隣国の国王が新しい国王になり、彼等は国外へ追放されたと言う。
多くの人々を苦しめた愛輝は最後まで「自分は悪くない」と言っていたが、余りの傲慢な態度と、何時まで経っても自分の非を認めない事に痺れを切らした隣国の国王は、誰も寄り付かない離れ小島に彼を流すと言う。その島は昼でも辺りは夜のように暗く、海の色は黒く、動物も植物も無い事から死の島と呼ばれている。食べ物も飲み物も無いにも関わらず、何故かその島では飲まず食わずでも死ぬ事はない。代わりに、誰も居ない孤独と空腹と喉の渇きが永遠に付き纏う。いっそ死んだ方がマシだと思う程の苦痛と絶望を味わわされる為、死刑よりも重い罪を犯した者がその島流しの刑を受けると言う。愛輝の事を聞いた暮羽は、その刑は重過ぎると思ったが、口には出さなかった。
「自業自得ですね。これでも、何度か改心する機会を与えましたが、一向に反省する気配は無く、自分が正しいとそればかり。謝罪して自分の非を認めていれば、重い刑を受ける事無く、他の者達と同じ、国外追放だけで済んだかもしれないのに……」
彼はやはり醜悪で愚かですね。
正論だ。隣国の国王は国民を第一に考える立派な国王だと言う。罪人にも寛大で、罪を犯した理由次第では通常の刑罰より軽くしたり、貧困が原因ならばその場に直接足を運び、足りない物資や水路等を確保したりする。余程の事が無い限り、隣国の国王が死刑よりも重い刑罰を言い渡す事はない。と言う事は、愛輝はその寛大な国王さえも本気で怒らせたと言う事になる。話を聞き終え、暮羽は愛輝に同情する事をやめた。自業自得。リューイも隣国の国王も愛輝に改心する機会を与えていた。にも関わらず、愛輝は全て無視した。
今此処で暮羽が「島流しは重すぎる」と言えば、愛輝の刑罰は軽くなるかもしれない。けれど、そうした所で、愛輝が改心して暮羽にお礼を言う事はまずあり得ないと思った。何をしても、愛輝のあの性格は変わらない。それが分かってしまったから、暮羽は愛輝を助けなかった。それでも、ずっと一緒に居たせいか、もう二度と会う事はない事実と、これから愛輝が味わう孤独と絶望に満ちた未来を予測して、暮羽は誰にも聞こえない声で「ごめんなさい」と呟いた。全てを話し終えた頃には既に日が傾いていた。魔王は暮羽を優しく抱き上げると「自室に戻る」と言って部屋を出て行ってしまった。
魔王と暮羽が去った後、リューイは琥之羽に「疲れていませんか?」と聞く。琥之羽は「大丈夫です」と答え、リューイにお礼を言った。暮羽を助けてくれた事。城に居た時、ずっと守ってくれた事。暮羽に会わせてくれた事。リューイと魔王にはとても感謝していると、琥之羽は伝えた。
「貴方は、本当に綺麗ですね」
リューイの発言に琥之羽は驚き、直ぐに否定した。「綺麗じゃない」と、「体は汚ないから」と。泣きそうな表情で琥之羽は力無く笑う。「貴方に愛される資格は、俺には有りません」と言った瞬間、リューイに唇を塞がれ、優しく抱き寄せられる。
「私にこうされるのは、嫌、ですか?」
困ったようなシュンとした表情で聞くリューイに、琥之羽は俯き、リューイから距離を取る。分からない。他人に触れられるのは嫌な筈なのに、リューイに触れられても嫌悪感を全く抱かなかった。他人が怖くて、何時も周りに怯えていた筈なのに、怖かった筈なのに、リューイに抱き締められても、突然、キスをされても、琥之羽は怖いと思わなくなった。
「私が、怖いですか?」
琥之羽は直ぐに首を横に振り、否定する。怖くはない、触れられるのも嫌じゃない。けれど、分からない。こんな事は初めてで、優しくされると、どうしたら良いか分からなくなる。その事を必死に伝えると、リューイは「そうですか」と言って、優しく微笑んだ。
「急かし過ぎてしまったようですね。申し訳ありません。只でさえ様々な事が起こって混乱している状態なのに、更に混乱させてしまいました。貴方の心が落ち着いたら、答えを教えて下さい。私は、何時迄も待ちますから」
そう言ってリューイは琥之羽の手を取り、以前の様に従者が主に忠誠を誓う様な体勢を取る。
「もう一度、言わせて下さい」
貴方を、愛しても良いですか?
前にも言われた台詞を再び言われ、琥之羽は戸惑い、リューイから視線を逸らす。五月蝿く脈打つ心臓の音を聞きながら、琥之羽はチラチラとリューイを視界に入れ、頬を赤く染めながら、小さくコクリと頷いた。まさか返事を貰えるとは思っていなかったリューイは一瞬驚いて固まるが、嬉しさの余り琥之羽を抱き締め、真っ赤で涙目になっている彼の顔を上に向かせ、もう一度優しく口付けた。
「リューイさん、お帰りな、さ……」
扉から入って来たのは、黒い髪に黒い目をした少年だった。少年は琥之羽を見た瞬間、固まり、目を見開く。琥之羽も言葉を失い、少年から目が離せない。もう二度と会う事はないと思っていた。会ってはならないと思い込んでいた。けれど、何時も考える事は一緒で。ずっとずっと心配していた。でも、自分に出来る事は何もないから、諦めていた。それなのに、琥之羽が一番会いたくて、一番会いたくなかった人物が、目の前に、居る。
「こ、のは、にぃ……さ……」
小さく呟いた後、少年は駆け出し、勢い良く琥之羽に抱き付いた。
「く、れは?」
琥之羽に抱き付き、暮羽は何度も「ごめんなさい」と謝り続けた。
あの時、俺が消えろって言ったから……ずっと、ずっと謝りたかった。「兄さんを返して」と、何時も願ってた。寂しかった、苦しかった、怖かった。もう二度と、兄さんには会えないんだって思ってた。やっと、会えた。もう、何処にも行かないで……置いて、行かないで。
暮羽の本心を聞いて、琥之羽はそっと暮羽を抱き締めた。「俺の方こそ、ごめんな」と謝って、琥之羽も暮羽に本心を伝えた。
お前に何もしてやれなかった。一緒に居る事も、守る事も出来なかった本当に、ごめんな。お前は、俺の事は覚えてないと思ってたんだ。そっちの方がお前は幸せになれると思って、話さなかった。
今更、どうやって会えば良いのか、何を話せば良いのか、俺は分からなかったんだ。
お互いに本心を言い合った二人は涙でグシャグシャになった顔で笑い合った。「兄さんはずっと俺の兄さんだよ」と、「そうだな、お前は俺の自慢の弟だ」と。離れ離れだった兄と弟は長い月日を経て、漸く再会する事が出来た。昔のように笑い合い、昔のようにくっ付いて、沢山話している最中に、何時の間にか二人は眠ってしまった。
さて、これは困った。
リューイは目の前にある状況をどう打開すべきか考えていた。隣から「ほぉう」と言う声を聞き流し、リューイは策を練ることに専念する。琥之羽を連れ去り、自室のベッドに寝かせ、手際良く傷の手当をし、衣服も取り替え、リューイは魔王に報告する為に、自室を後にした。勿論、誰も琥之羽に手出し出来ないよう、強力な結界を張って……
魔王に報告を済ませ、自室に戻ると、扉は開きっ放しの状態だった。誰かが侵入したのかと思い、リューイは急いで部屋の中に入った。部屋の中央付近で横たわる二つの体。お互いに抱き合い、気持ち良さそうに寝息を立てて眠っているのは暮羽と琥之羽。泣いていたのか、二人の目元と頬が少しだけ赤みを帯びている。
何故、クレハ様が私の部屋に?
結界を張っていた筈なのに、一体どうやって……
どうして、クレハ様とコノハが私の部屋で寝ているのですか?
疑問は多々あった。しかし、それ以上にリューイは今の状況が我慢出来なかった。暮羽と琥之羽が仲良く抱き合って眠っているのだ。可愛くて可愛くて仕方ない二人が……安心した様子の二人の寝顔はそれはそれはとても可愛くて……
「「天使 (です)か」」
思わず魔王と被ってしまう。其処で魔王が隣に居た事をリューイは思い出すが、暮羽と琥之羽から目を離さず、魔王と二人、ずっと二人の寝顔を眺め続けていた。下っ端の魔物が気を遣って二人分の毛布をリューイの部屋に持って来ると、その魔物は魔王とリューイに物凄く褒められ、嬉しさよりも先に恐怖を感じ、指一本動かせなかったと言う。それ程までに、二人が誰かを褒める事はないのだ。
目を覚ました瞬間、至近距離にある整った顔が視界に入り、暮羽と琥之羽は驚いて悲鳴を上げた。暮羽の上に魔王が、琥之羽の上にリューイが寝ており、第三者が見たら暮羽と琥之羽は押し倒されているような状態だった。二人の悲鳴で魔王とリューイも目を覚まし、何を思ったのか、魔王は暮羽を強く抱き締め、リューイは琥之羽を強く抱き締めた。突然の出来事に二人は顔を赤くして、涙目になっていた。それから数十分後、魔王とリューイは漸く二人を解放した。
「済まない。暮羽があまりにも可愛くて……」
「申し訳有りません。コノハが可愛らしかったので……」
二人の言い分に、暮羽と琥之羽は同時に「可愛くないですっ!」と必死に訴えた。其処が可愛いんだと思いつつも、魔王もリューイも言葉には出さなかった。
その後、魔王とリューイは今迄の事を説明し、あの城の者の末路も全て二人に話した。ルイスはリューイが人間に扮した姿だった事。あの城に居たのは暮羽の兄である琥之羽を見つける為だった事。初めて琥之羽と会い、リューイが琥之羽に一目惚れした事。琥之羽を最初から攫うつもりでいた事。暮羽と琥之羽を散々苦しめた国王達をその座から引きずり下ろした事等。
愛輝が好き勝手暴れて使用人や兵士達を辞めさせている内部情報を、リューイは隣国の国王に流していた。それが切っ掛けになり、城から追い出された者や愛輝達に虐げられた者達は隣国の国王に助けを求めるようになった。そして、隣国の国王が城へ攻め込み、国王達は身柄を拘束され王位は剥奪。隣国の国王が新しい国王になり、彼等は国外へ追放されたと言う。
多くの人々を苦しめた愛輝は最後まで「自分は悪くない」と言っていたが、余りの傲慢な態度と、何時まで経っても自分の非を認めない事に痺れを切らした隣国の国王は、誰も寄り付かない離れ小島に彼を流すと言う。その島は昼でも辺りは夜のように暗く、海の色は黒く、動物も植物も無い事から死の島と呼ばれている。食べ物も飲み物も無いにも関わらず、何故かその島では飲まず食わずでも死ぬ事はない。代わりに、誰も居ない孤独と空腹と喉の渇きが永遠に付き纏う。いっそ死んだ方がマシだと思う程の苦痛と絶望を味わわされる為、死刑よりも重い罪を犯した者がその島流しの刑を受けると言う。愛輝の事を聞いた暮羽は、その刑は重過ぎると思ったが、口には出さなかった。
「自業自得ですね。これでも、何度か改心する機会を与えましたが、一向に反省する気配は無く、自分が正しいとそればかり。謝罪して自分の非を認めていれば、重い刑を受ける事無く、他の者達と同じ、国外追放だけで済んだかもしれないのに……」
彼はやはり醜悪で愚かですね。
正論だ。隣国の国王は国民を第一に考える立派な国王だと言う。罪人にも寛大で、罪を犯した理由次第では通常の刑罰より軽くしたり、貧困が原因ならばその場に直接足を運び、足りない物資や水路等を確保したりする。余程の事が無い限り、隣国の国王が死刑よりも重い刑罰を言い渡す事はない。と言う事は、愛輝はその寛大な国王さえも本気で怒らせたと言う事になる。話を聞き終え、暮羽は愛輝に同情する事をやめた。自業自得。リューイも隣国の国王も愛輝に改心する機会を与えていた。にも関わらず、愛輝は全て無視した。
今此処で暮羽が「島流しは重すぎる」と言えば、愛輝の刑罰は軽くなるかもしれない。けれど、そうした所で、愛輝が改心して暮羽にお礼を言う事はまずあり得ないと思った。何をしても、愛輝のあの性格は変わらない。それが分かってしまったから、暮羽は愛輝を助けなかった。それでも、ずっと一緒に居たせいか、もう二度と会う事はない事実と、これから愛輝が味わう孤独と絶望に満ちた未来を予測して、暮羽は誰にも聞こえない声で「ごめんなさい」と呟いた。全てを話し終えた頃には既に日が傾いていた。魔王は暮羽を優しく抱き上げると「自室に戻る」と言って部屋を出て行ってしまった。
魔王と暮羽が去った後、リューイは琥之羽に「疲れていませんか?」と聞く。琥之羽は「大丈夫です」と答え、リューイにお礼を言った。暮羽を助けてくれた事。城に居た時、ずっと守ってくれた事。暮羽に会わせてくれた事。リューイと魔王にはとても感謝していると、琥之羽は伝えた。
「貴方は、本当に綺麗ですね」
リューイの発言に琥之羽は驚き、直ぐに否定した。「綺麗じゃない」と、「体は汚ないから」と。泣きそうな表情で琥之羽は力無く笑う。「貴方に愛される資格は、俺には有りません」と言った瞬間、リューイに唇を塞がれ、優しく抱き寄せられる。
「私にこうされるのは、嫌、ですか?」
困ったようなシュンとした表情で聞くリューイに、琥之羽は俯き、リューイから距離を取る。分からない。他人に触れられるのは嫌な筈なのに、リューイに触れられても嫌悪感を全く抱かなかった。他人が怖くて、何時も周りに怯えていた筈なのに、怖かった筈なのに、リューイに抱き締められても、突然、キスをされても、琥之羽は怖いと思わなくなった。
「私が、怖いですか?」
琥之羽は直ぐに首を横に振り、否定する。怖くはない、触れられるのも嫌じゃない。けれど、分からない。こんな事は初めてで、優しくされると、どうしたら良いか分からなくなる。その事を必死に伝えると、リューイは「そうですか」と言って、優しく微笑んだ。
「急かし過ぎてしまったようですね。申し訳ありません。只でさえ様々な事が起こって混乱している状態なのに、更に混乱させてしまいました。貴方の心が落ち着いたら、答えを教えて下さい。私は、何時迄も待ちますから」
そう言ってリューイは琥之羽の手を取り、以前の様に従者が主に忠誠を誓う様な体勢を取る。
「もう一度、言わせて下さい」
貴方を、愛しても良いですか?
前にも言われた台詞を再び言われ、琥之羽は戸惑い、リューイから視線を逸らす。五月蝿く脈打つ心臓の音を聞きながら、琥之羽はチラチラとリューイを視界に入れ、頬を赤く染めながら、小さくコクリと頷いた。まさか返事を貰えるとは思っていなかったリューイは一瞬驚いて固まるが、嬉しさの余り琥之羽を抱き締め、真っ赤で涙目になっている彼の顔を上に向かせ、もう一度優しく口付けた。
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