神子のオマケは竜王様に溺愛される《完結》

トキ

文字の大きさ
上 下
13 / 15

その後の話

しおりを挟む
 赫焉達は女神のお願いを聞き入れ、大樹の森を訪れていた。大樹の森とはエルフのみが住む特殊な森で、エルフの王が認めた者しか入れない特殊な結界が張られている。この世界へ国ごと転移した後、各国への挨拶や説明に追われバタバタしていたが、数ヶ月もすると落ち着いて、エルフの王からも許可が出た為、大樹の森に入る事を許された。

「久しぶり。彼方かなた。相変わらず愛されてるね」
「元気そうで良かった。もう悪夢は見ないのか?」
「えっと、久しぶり。将。明。その、ごめん。こんな格好で……」
「謝る必要はないと何度言えば分かるんだ? 私の膝の上が嫌なのか? 可愛らしく頬を染めているというのに……」
「だ、だって……ぅう。はずかしい、から」
「恥ずかしがるカナタも可愛い。可愛くて愛おしくて、このまま閉じ込めてしまいたい」
「ひゃ! シ、シトさん、やめ……みんなが見て、んむ!」

 これが本当に人間を憎悪して彼方という少年を死に追いやったエルフの王なのだろうか。人格変わり過ぎじゃない? 女神達から説明を受けていた赫焉達は心の中で突っ込んだ。将と同様、女神の身勝手な理由で異世界に召喚され理不尽な仕打ちを受けて命を落としてしまった彼方。この世界を創造した女神によって再び転生し、彼は最愛の人と出会って幸せになる筈だった。というのに、彼方はこの世界でも不幸になってしまった。人間を心から憎んでいたエルフの王、シトロニエの手によって。出会った時からシトロニエは彼方のことが好きだったのだが、人間への憎悪とエルフとしての高過ぎるプライドが邪魔をして、彼方がシトロニエに魅了の術をかけていると思い込み、色々と拗れに拗れた結果、彼は一度彼方を失った。

 シトロニエはエルフの王であるが故に、容姿も当然整っており、最早生きる芸術品と言っても過言ではなかった。プラチナブロンドの長い髪は両サイドだけ丁寧に編み込まれており、エメラルドのように輝く緑の瞳も美しい。女神の力によって彼方と出会った時まで逆行したシトロニエは、心から反省して彼方を溺愛した。人間不信だった彼方も、少しずつシトロニエに心を開いていき、多少の問題やすれ違いはあったものの、今はこうして結ばれ、幸せな日々を送っている。甘ったる過ぎて吐き気がしそうな勢いだが……

「王様の溺愛っぷりも変わらず、ですね」
「うん」

 立派な椅子に腰掛け、その膝の上に彼方を乗せてぎゅうっと抱きしめたり、顔中にキスしたり。シトロニエの溺愛っぷりが凄い。二人のイチャラブを見せ付けられて、赫焉は我慢できず将を抱きしめた。一緒に来ていた夜霧も便乗して明にぎゅうぎゅうと抱きつく。

「竜王様?」
「名を呼んでくれ。ショウ」
「赫焉様……」
「様はいらない」
「赫焉、さん」
「本当は、さんもいらないんだがな」
「む、無理、です」
「分かった。将が可愛いから許す」
「う」

 明の神子の力によって、将は漸く耳が聞こえるようになった。声も出せるようになって、初めて「竜王様」と呼んだ時は、赫焉達が大騒ぎして大変だったのを将は覚えている。けれど、赫焉達が心から喜んでくれたから将は嬉しくなって赫焉達の名を何度も呼んだ。赫焉達に大切にされていると自覚した時から、彼らの声を聞きたいとずっと思っていた。自分の声で、自分の言葉で感謝の気持ちを伝えたかった。それが漸く叶って、将は赫焉に自分の想いを伝えた。

 赫焉のことが好きだと伝えた後は、彼らはもっと過保護になった。各国への挨拶をする時も、王妃として紹介した時も、赫焉は将の傍を絶対に離れなかった。その理由は、王子達が無断で天竜国に侵入して将を連れ去ろうとしたから。これも女神の仕業だ。王子達は将に触れることすら許されず、激怒した赫焉達の手によって全員地上へと帰された。その後は嫉妬した赫焉が将を朝まで抱き潰し、それを知った銀嶺や水陰達が激怒して約半日くらい説教を受けた。

「竜王も私と変わらないな。伴侶が愛おしくて仕方ないんだろ?」
「当然だ。ショウは我の命の恩人であり、最愛であり、世界一可愛くて美しい伴侶なのだから」
「な! 赫焉さん! 大袈裟です!」
「ふん。貴様の目は節穴か? 私のカナタの方が世界一可愛いに決まっているだろう!」
「え? ちょ、ちょっと、シトさん!? 何を言って……」
「ちがう! あーらが! いちばんらの!」
「夜霧。張り合わなくて良いから」

 誰が一番可愛いかを真剣に話し合う赫焉達。呆れれば良いのか、微笑ましいと見守れば良いのか、敢えて無視した方が良いのか。水陰と緋炎はお互いに顔を見合わせて深いため息を吐いた。みんな伴侶が大好きということだけは分かった。可愛い可愛いと言われ続けて、彼方も将も明も顔を真っ赤にして、慌てて旦那の口を塞いでいる。

「胸焼けがしそうじゃ」
「皆さん、相思相愛で良かったですね」

 ちょっと残念な一面もあるが、シトロニエと赫焉は一国の王だ。伴侶に激甘なだけで、それ以外はかなり優秀、だと思いたい。思いたいのだが、伴侶にメロメロな二人を見るとちょっと、いやかなり不安になる。

「赫焉さん。もう、何も言わないでください!」
「シトさん! 変な事で張り合わないでください! 恥ずかしいです!」

 必死に止めようとする姿があまりにも可愛くて、二人はそれぞれの最愛を自分の腕の中に閉じ込めた。

「あーら」
「しないからね?」
「ぴゃ!」

 潤んだ瞳で見上げられた明は結局夜霧を抱き上げてぎゅうっと抱きしめた。二人が結ばれるのは思ったよりも早いかもしれない。



-end-









ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
本編はこれで完結ですが、番外編も投稿します。

お気に入り登録、感想、いいね、エールなど、本当にありがとうございます! とても励みになります。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~

荷居人(にいと)
BL
BL大賞20位。読者様ありがとうございました。 弟が生まれた日、足を滑らせ、階段から落ち、頭を打った俺は、前世の記憶を思い出す。 そして知る。今の自分は乙女ゲーム『王座の証』で平凡な顔、平凡な頭、平凡な運動能力、全てに置いて普通、全てに置いて完璧で優秀な弟はどんなに後に生まれようと次期王の継承権がいく、王にふさわしい赤の瞳と黒髪を持ち、親の愛さえ奪った弟に恨みを覚える悪役の兄であると。 でも今の俺はそんな弟の苦労を知っているし、生まれたばかりの弟は可愛い。 そんな可愛い弟が幸せになるためにはヒロインと結婚して王になることだろう。悪役になれば死ぬ。わかってはいるが、前世の後悔を繰り返さないため、将来処刑されるとわかっていたとしても、弟の幸せを願います! ・・・でもヒロインに会うまでは可愛がってもいいよね? 本編は完結。番外編が本編越えたのでタイトルも変えた。ある意味間違ってはいない。可愛がらなければ番外編もないのだから。 そしてまさかのモブの恋愛まで始まったようだ。 お気に入り1000突破は私の作品の中で初作品でございます!ありがとうございます! 2018/10/10より章の整理を致しました。ご迷惑おかけします。 2018/10/7.23時25分確認。BLランキング1位だと・・・? 2018/10/24.話がワンパターン化してきた気がするのでまた意欲が湧き、書きたいネタができるまでとりあえず完結といたします。 2018/11/3.久々の更新。BL小説大賞応募したので思い付きを更新してみました。

処理中です...