神子のオマケは竜王様に溺愛される《完結》

トキ

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神子のオマケの話2※

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 あ、これ、性奴隷ってヤツだ。広くて丸い部屋。中央には柔らかくてふっかふかの大きなベッド。触り心地のいい着物のような衣装。長く伸びた髪。貪るように求められる身体。鮮やかな赤い髪を持つ、驚く程整った顔立ちの男。男の頭には立派な二本の角が生えおり、耳は長く尖っていた。エルフ耳といえば分かりやすいかもしれない。この男に限らず、此処に住む者達はみんな角が生え、耳も尖っている。竜宮城を思わせるような建物に、和風の衣装を纏った美麗な人達。

 気が付くと、将は見知らぬ部屋の中に居た。あのまま死ぬと思っていたが、将は生き延びたらしい。目が覚めて最初に見たのは、鮮やかな赤い髪をした美麗な男。彼は将を抱きしめて気持ち良さそうにすやすや眠っていた。驚いて飛び起きると、黒い糸が何本も垂れて将の視界を奪う。邪魔だなと思って払い除けようとして、それが自分の髪だと理解するのに少しだけ時間がかかった。

 何故こんなに髪が長くなっているのか。頸までしかなかった筈の髪が、今は腰より少し下くらいまで伸びている。はっきり言って邪魔だった。丁度サイドテーブルに小刀が置かれているのに気付き、将は長くなった髪を束ねてバッサリ切ろうとした。

 しかし、それは誰かに腕を掴まれて止められてしまう。見上げると、険しい表情をして将を見下す美女が居た。彼女は何か怒鳴っているようだが、将は全く聞き取れなかった。喋っているのだから聞こえる筈なのに何も聞こえない。不思議に思っていると、眠っていた男が起き上がった。

 彼は将が握っている小刀を奪い取って投げ捨てた。両肩を掴み、怖い顔を近付けてくる。パクパクと口が動いているのは分かるが、やはり何も聞こえない。あぁ、聞こえなくなったのか。将は自分の耳が聞こえなくなったのだと理解した。けれど、不思議と悲しくはなかった。二人が怖い顔をして怒鳴っているのは分かる。きっと、王子達のように将の事を色々と罵っているのだろう。なら、聞こえない方がいい。そう思い直し、将はぼんやりと忙しなく動く男の口を眺め続けた。

 暫く此処で生活するようになって、将は少しずつ男が何者なのか分かるようになった。赤い髪を全て後ろに流している美麗な男はとても偉い人で、同じく赤い髪と瞳を持つ美女は彼の婚約者。青い髪をした人は赤い髪の人の従者。何となく彼らの立場が分かると、声は聞こえなくても表情や雰囲気だけで察することができる。

 今度は赤い髪の美女に虐げられるのかと思ったが、何故か彼女は毎日飽きもせず将の長い髪の手入れをしている。高そうな櫛で髪を梳いて、これまた高そうな宝石がついた簪やら、繊細な模様が施された髪飾りやらを持ってきて、付けては外し付けては外しを繰り返している。最近では将が着るものにも拘るようになったようで、触り心地がよく美しい花や蝶などの模様が入った着物を何着も用意させて将に着せている。更には化粧まで施して、納得できる仕上がりになると赤髪の美女は少し離れて将を観察した後、満足したように笑った。

 赤髪の男は将が目覚めてから毎日、彼を求めて何度も何度も身体を繋げた。最初は怖くて震えていたが、予想に反して男は将を優しく抱いた。髪に口付け、額に口付け、瞼、耳、頬、そして唇。将に触れる男の手は驚く程優しくて、ほとんど痛みは感じなかった。暫くしたら飽きるだろうと思っていたが、男は今日も将を優しく抱く。婚約者が居るにも関わらず、だ。

 赤髪の美女が婚約者なのに、何故自分を抱くのか。将はそれが分からなかった。考えて考えて至った結論は、単なる性欲処理の道具。つまり性奴隷。赤髪の男は恐らく美しいものが好きで、綺麗に着飾った者を抱きたいのだろう。だから赤髪の美女は何時も、将の長い髪を梳いて簪などで飾り、美しい着物を沢山用意して、化粧まで施した。何故、婚約者が将を着飾ろうとするのかは分からないが、自分は性奴隷なんだと思えば全て納得した。

 性奴隷といえばあまりいいイメージはないが、此処での生活は将にとって快適で居心地が良かった。もう一生此処で暮らせばいいや、と思うくらいには今の生活を気に入っている。暴力を振るわれない。嫌味も言われない。朝昼晩、きちんと食事も用意してくれて、冷たい泥水ではなく綺麗で温かな風呂で丁寧に体を洗われ、髪や肌の手入れは全部赤髪の美女と彼女の使用人達がしてくれる。その見返りとして赤髪の男に身体を差し出せば良いだけなので、本当に楽だと将は思った。それに、赤髪の男と身体を繋げるのも嫌いじゃない。すごく気持ち良くて強請ってしまう程だ。

 声は出せないが……

 それに気付いたのは何時だったか。耳が聞こえないことを伝えようとしたが、誰にも伝わらなかった。言葉が違うのかもしれない。そう思って何度か声を出そうとしたが、空気が抜けるだけだった。耳が聞こえなくて、声も出ない。

 悲観したのは一瞬。まあ良いか。声が出なくても困らないし。将は今の生活で満足しているから、何も変える必要はないと思った。何時かは捨てられるだろうと思っているが、根本的に間違っていることに彼は全く気付かなかった。

 明、元気かな?

 将が何時も心配するのは、一人残してしまった親友の明だけ。死んでしまったと思われただろうか。また、泣かせてしまった。明を置いて来てしまった。明のことを考えると、嫌なことも思い出して将は強く目を閉じた。





 性奴隷って、何だっけ?

 最初に抱いた違和感や疑問は将の中でどんどん大きくなった。それもその筈。将への対応が明らかに性奴隷にするものではないからだ。毎日赤髪の男に体を求められて抱き潰されるのは変わらないが、将に触れる男の手は驚く程優しく、見詰める瞳は甘く蕩けている。お礼に将から口付けたり、自分から求めたりすると赤髪の男はボッと顔を紅潮させ、将を強く抱きしめて顔や髪に沢山キスを落とす。まるで、本当に愛おしい人に向けるような優しさに包まれて将は戸惑った。この男に抱かれる度、優しい目を向けられる度、将はドキリと胸が高鳴った。

 朝も赤髪の男にキスされて起きるし、肌の手入れや着替えは赤髪の美女と使用人達が全部してくれるし、朝食も自分で食べられるのに何時も青髪の青年が「あーん」を強要してくる。それに腹を立てた赤髪の男と美女が鬼の形相をして喧嘩になり、今は話し合いの結果順番で将に「あーん」することで解決したらしい。その後は赤髪の美女が使用人達と一緒に将の着る服を選び、それが終わると髪を梳き、髪飾りを選び、薄く化粧を施す。

 今迄ずっと部屋の中で生活していたが、最近は部屋の外に出て建物の中を探索したり、隅々まで手入れされた美しい庭園で昼食をとったり、たまに城下町に遊びに行ったりしている。部屋の外に出る時や外出する時は必ず隣に赤髪の男が居た。今日は城下町まで遊びに来ており、彼が道を歩くと周囲の者達は深々と頭を下げた。城下町は昔の日本を思わせるような和風建築が多く、将は少しだけ日本を感じることが出来て嬉しくなった。

 やはり町の人達にも角が生えており、耳は尖っていた。彼らが着ているものは質素で、赤髪の男が如何に身分の高い者なのかを再認識した。お店の人達が次から次へと声をかけ、彼らが将に目を向けると赤髪の男はそれはそれは美しく微笑んでパクパクと口を動かした。そっと肩に手を添えられ、男に密着するように抱き寄せられる。

 店の者達は目をパチクリさせた後、満面の笑みを浮かべて何かを言って何度も男に頭を下げてから去って行った。そんなことが何度も起こり、将は「俺って、性奴隷だよな?」と再び疑問に思った。

 城下町が日本に似ているとは思ったが、食べ物も日本とよく似ていた。食べ物の屋台ばかりが並ぶ道を歩いていると、香ばしい匂いが漂ってきた。屋台の定番と言ってもいいイカ焼きや焼きそば、更にはたこ焼き。中にはりんご飴を売っている店もあった。此処は食べ歩きしても大丈夫なようで、行き交う人達は屋台で買った食べ物を片手に齧りながら歩いていた。

 将が気になってジッと見たものを赤髪の男は直ぐ買って、将に食べさせた。身分が高い筈なのに、彼はちゃんと列に並んで順番を守っている。その姿が可愛くて、将は小さく笑ってしまった。他の人達がギョッとして順番を譲ろうとすると、彼は断るような仕草をして順番を待つ。少し怖い顔立ちをしているが、民を大切にする人なのだろう。赤髪の男の意外な一面を見て、将はまた胸が高鳴った。

 将は耳が聞こえず、声も出せない為、何かを選ぶ時は手や頭を動かして意思表示した。その度に赤髪の男は悲しそうな、何かに耐えるような苦しい表情をするが、彼が何故そんな顔をするのか将には分からない。また笑ってほしくて、将は買ってもらったたこ焼きを男の口の中に突っ込んだ。まだ少し熱かったようで、男は口をはふはふ動かして飲み込む。少し涙目になっていて、将は少しだけ申し訳なく思った。

 慌てる男の反応が面白くてクスクス笑っていると、ふに、と唇に柔らかな感触。それが、男の唇だと気付くのに少し時間がかかった。触れるだけのキスをした後、男は将の手を引いて路地裏へ移動した。やりすぎたのか、と将が怯えていると、壁に押し付けられ将はまた男に口付けられる。

 触れるだけのキスではなく、全てを蹂躙するような深く激しいキス。逃さないようにする為か、将の手を壁に縫い付け、もう片方の手を後頭部に回して、更に深く口付ける。少しソースの味がしたが、直ぐにそんなことを考えられなくなった。歯列をゆっくりなぞられ、舌を絡め取られ、急に与えられた甘い刺激に、将は無意識に男を求めるように身体を揺らした。

「ん……ぷは、ふぅ……はぁ」

 漸く唇が離れ、二人の唾液が細くなりプツンと切れる。足ががくがくして動けない将は、縋るように男の着物を掴んだ。もたれかかる将をしっかりと抱きとめ、男は彼が落ち着くまで頭を撫で続けた。





 ドスドスドス。音で表すならこんな感じだろうか。先程まで優しい表情をしていた男は、今は険しい表情のまま城の中を進む。何か問題でも起こしてしまったのだろうか。何か、怒らせるようなことをしてしまったのだろうか。大きく逞しい腕に抱かれた将は、此処から逃げ出すことも出来ず、ただ怯えることしか出来なかった。

 あの後、冷えたたこ焼きを二人で食べて、再び城下町を探索する事になったが、突然赤髪の男が豹変した。将に似合う耳飾りを買いたかったようで、男は様々な装飾品を売っている店を訪れた。彼は店主らしき人から紹介された耳飾りを将の耳に近付けては元に戻し、また別の耳飾りを近付けては元に戻す行為を何度も繰り返した。最終的に二つまでに絞られたようで、将の前に二つの耳飾りが並べられ、赤髪の男が口をパクパク動かしている。この時までは何時も通りだったように思う。

 彼が変わったのは、店主が何かに気付いてそれを男に伝えた後。男はサッと店主を見て、次に将を見る。また店主を見て、将を見る。次第に男の顔が真っ青になり、将の両肩を掴んで顔を近付けた。何かを必死に叫んでいるが、将には何も聞こえない。

 肩を掴んでいた手から力が抜け、男はその場に崩れ落ちた。その表情は絶望に彩られていて、将は訳が分からず首を傾げた。心配になって将が男に触れようとすると、ガッと腕を掴まれ、気付いたら男に抱き上げられていた。男は店主に何かを伝えると急いで城へと戻った。その表情は険しいままで、将は怖くて震えが止まらなかった。

 何時も寝泊まりしている部屋に戻されると、男は直ぐに出て行った。嫌われた? 捨てられる? そんな最悪なことを考えていると、バッと扉が勢い良く開き、男は白衣を着た老人を連れて来た。何故か、赤髪の美女と青髪の青年も一緒で、二人とも顔色が悪い。

 老人は医者なのだろう。テキパキと将の体に触れ、ふむふむと頭を上下に動かし、すらすらと紙に文字を書く。全ての診察が終わったのか、老人は赤髪の男に何やら説明しているようだった。結果を聞かされた男は更に顔面蒼白になり、青髪の青年が彼の頭を思いっきり叩いた。赤髪の美女も同じように男を殴り飛ばす。突然の出来事に将は怯え、戸惑った。

 すると老人が何かを言って三人を落ち着かせた。青髪の青年がブルブルと震える手で何かを取り出すと、それをテーブルに広げた。どうやら様々な文字が書かれた紙らしい。赤髪の美女にそっと肩を抱かれてテーブルの近くへ移動して、将は驚いて目を見開いた。

 広げられた紙には、ひらがなが書かれていた。その下に、この国の文字らしきもの。将の反応を見て察した青髪の青年は、まだブルブル震える手でゆっくりと一文字一文字指を置いた。

『こえ きこえる』

 やっと彼らと意思疎通が出来た将は、泣きたくなるのを必死に耐えて首を横に振った。すると青髪の青年は再び文字に指を置いた。

『こえ でない』

 将は力なく頷いた。やはり三人は顔面蒼白だ。しかし、暫くするとみんな険しい表情になり、赤髪の美女が怒鳴り散らした。テーブルをバン! と叩き、美女は青髪の青年を睨み付け、何やらブツブツ呟いている。青髪の青年はやはり怯えたまま指を動かした。

『たちば わかる』

 立場。自分の立場を聞かれていると予測した将は、青年と同じように指を動かした。将が示した文字を目で追いながら言葉にして、漸くその意味を理解した三人は絶叫した。何やら色々と叫んで発狂している。老人が怒鳴ると大人しくなった。しかし、先程からダラダラと汗が流れており顔色も悪い。

『ちがう せいどれい ちがう きみ おうひ せいさい りゅうおうさまの せいさい』

 今度は将が驚く番だった。確かに性奴隷にしては待遇が良いなと思ったし、まるでお姫様のように扱う彼らに疑問も抱いていた。しかし、完全に信じることは出来なかった。何故なら、王妃に相応しいのは赤髪の美女だからだ。将が恐る恐る指を動かして「かのじょは」と聞くと、青年は「もとおうひこうほ」と教えてくれた。

『いま ちがう おうひ きみ』

 青年は震える指を動かして、もう一度「王妃は君」と伝えた。信じられなくて縋るように赤髪の男を見ると、彼は激しく首を上下に振った。彼もずんずんと青年に近付いて何やら叫んでいる。すると美女も叫び、青年は涙目になりながら指を動かした。

『かれ なまえ かくえん りゅうおうさま』
『かのじょ なまえ ひえん』
『ふたり きみ だいすき かわいい きれい おもってる』
『ごめん きづく おそい ほんと ごめん なさい』

 確かに今更感はある。しかし、伝える努力を怠った将にも非はあるし、彼らのせいでこうなった訳ではない。これは女神と召喚した連中が将を傷付けたのが原因だ。彼らは将を守ろうとしてくれただけ。だから将は指を動かして彼らが悪くないことと、守ってくれて嬉しかったことを伝えた。

 何故か全員号泣して、赤髪の男と美女にぎゅうぎゅう抱きしめられた。一瞬戸惑いはしたものの、将は安堵して抱きつく二人の背に腕を回して抱きしめ返した。
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