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第二部
大切な人には正直に4
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クレマン様とラナ様は午後から仕事があるからと、準備をして王宮へ向かった。フランソワさん達もそれぞれ仕事場に戻り、公爵邸の玄関先には俺とユベール様だけ。俺達はパーティーの主役だったから今日も休んでいいと言われているので、午後は二人でゆったり過ごす予定だ。
「ユベール様。俺、ずっと疑問に思っていたことがあるんです」
「疑問?」
「はい。どうして、あのタイミングで前世の記憶を思い出したんだろう? って、ずっと不思議だったんです」
前世の記憶を思い出す場合、物語の中では何かが切っ掛けで思い出すことがほとんどだ。でも、俺は突然前世の記憶を思い出した。何の前触れもなく、気付くと前世の記憶が流れ込んできて俺は困惑した。思い出した直後に周囲を確認すると悪趣味な部屋が広がっていて、幼い子どもが複数の大人達に押さえ付けられていて、今から襲いますよっていう状況で。
「その理由が、分かったんですか?」
「はい。悪い大人達に襲われそうになっていた幼いユベール様を助ける為に、俺は前世の記憶を思い出したんだと思います」
「え?」
「今のユベール様を見ていると、そうとしか思えなくて。俺が助けなくても、他の誰かが助けてくれたかもしれない。でも、あの場でユベール様を助けられるのは俺だけだった。あの時、ユベール様を助けたのが俺でよかった。って、これは完全に自惚れですね」
恥ずかしくなってユベール様を見られない。きょろきょろと視線を彷徨わせていると、ユベール様の手が俺の頬にそっと触れる。優しく頬を撫でられ、親指と人差し指で顎を固定され、強引に顔を上へ向けられる。
「ジャノ。それは、反則です」
「え? ん!」
ちゅ、と唇にユベール様の唇が重なる。触れるだけのキスをして、ユベール様は唇を離した。突然キスされた俺は情けない顔をしているに違いない。胸がドキドキして、顔が熱い。そうなるのも当然だ。だって、目の前には俺を愛おしそうに見つめるユベール様の麗しいお顔があるのだから。
「そうやって俺を喜ばせることばかり言って」
「よ、喜ばせるって」
「貴方に助けられたあの日から、俺は貴方の虜です。十年経った今も、ジャノは何一つ変わっていない。この輝くようなハニーブロンドの髪も、蜂蜜とチョコレートを混ぜ合わせて固めたような美しい瞳も、困っている人を助けられる優しさも、大切な人を守り抜こうとする勇敢さと強さも。その全てが貴方の魅力なんです。ジャノ」
「か、過大評価ですよ! ユベール様! 俺はみんなに助けられてばかりだし」
「ジャノ。貴方は自分が思っている以上に周囲から必要とされている人間だと自覚してください」
「え?」
「……無自覚ですか。鈍感なところもジャノの魅力ではあるんですが、危機感がなくて心配になりますね」
「そういうユベール様は、俺に対して過保護だと思うんですけど」
「ふふ。拗ねているジャノも可愛いですね」
ちゅ、と再びキスをされて俺は慌てて離れようとする。でも、ユベール様に背中と腰に腕を回されて身動きが取れない。ぎゅうぎゅうと強く抱きしめられ、無駄な抵抗なんだと仕方なく諦める。ユベール様は「可愛い、可愛い」と言って俺の顔中にキスを落とし続けた。
「ジャノ。これからも、俺の、俺だけの大天使様でいてください」
「……はい。二人で、幸せになりましょう。ユベール様」
今度は俺の方からユベール様に口付ける。誕生日パーティーが無事に終わったが、これからやることは山積みだ。悪事を働いていた貴族達は王家直々に罰が与えられるそうだ。その対応にユベール様達も協力しなければならない為、明日からはまた忙しい日々を送ることになる。俺もユベール様の伴侶として、今以上に勉強しなければ。それに、王宮で行われる表彰式の準備もあるし、古代魔導具や古代文明も謎のまま。ローズさんとリリーちゃんが目覚めた理由も不明なままで、前のご主人様と創造主様が誰なのかも分からない。
「外は冷えますね。部屋に戻りましょう。ジャノ」
「はい。ユベール様」
「なんですか?」
「あの家から俺を連れ出してくれて、ありがとうございます」
なんかお礼ばっかり言っているなと思うが、ユベール様にはとても感謝しているから何度言っても問題はないだろう。固まってしまったユベール様の手をしっかりと握り、俺は颯爽と歩き出した。色々と考えなきゃいけないことは多いけど、今はユベール様との時間を大切にしたい。
「坊っちゃま。顔が真っ赤ですよ」
「い、言うな! ステラ!」
ステラさんは楽しそうにクスクス笑い、レイモンさんは小声でステラさんに「からかいすぎです」と注意していた。俺はスタスタと前を歩いているからユベール様の顔は見えない。ステラさんの言葉を必死に否定するユベール様の声は普段より幼く聞こえてしまう。二人のやりとりを偶然見てしまった人達も微笑ましそうに見守っていて、そんなユベール様が可愛くて、俺は我慢できず笑ってしまった。
◇
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
第二部完結しました!後日談も投稿するので、よろしくお願いします。
また、沢山のお気に入り登録、感想、いいね、エールなど、本当にありがとうございます! とても励みになります。
「ユベール様。俺、ずっと疑問に思っていたことがあるんです」
「疑問?」
「はい。どうして、あのタイミングで前世の記憶を思い出したんだろう? って、ずっと不思議だったんです」
前世の記憶を思い出す場合、物語の中では何かが切っ掛けで思い出すことがほとんどだ。でも、俺は突然前世の記憶を思い出した。何の前触れもなく、気付くと前世の記憶が流れ込んできて俺は困惑した。思い出した直後に周囲を確認すると悪趣味な部屋が広がっていて、幼い子どもが複数の大人達に押さえ付けられていて、今から襲いますよっていう状況で。
「その理由が、分かったんですか?」
「はい。悪い大人達に襲われそうになっていた幼いユベール様を助ける為に、俺は前世の記憶を思い出したんだと思います」
「え?」
「今のユベール様を見ていると、そうとしか思えなくて。俺が助けなくても、他の誰かが助けてくれたかもしれない。でも、あの場でユベール様を助けられるのは俺だけだった。あの時、ユベール様を助けたのが俺でよかった。って、これは完全に自惚れですね」
恥ずかしくなってユベール様を見られない。きょろきょろと視線を彷徨わせていると、ユベール様の手が俺の頬にそっと触れる。優しく頬を撫でられ、親指と人差し指で顎を固定され、強引に顔を上へ向けられる。
「ジャノ。それは、反則です」
「え? ん!」
ちゅ、と唇にユベール様の唇が重なる。触れるだけのキスをして、ユベール様は唇を離した。突然キスされた俺は情けない顔をしているに違いない。胸がドキドキして、顔が熱い。そうなるのも当然だ。だって、目の前には俺を愛おしそうに見つめるユベール様の麗しいお顔があるのだから。
「そうやって俺を喜ばせることばかり言って」
「よ、喜ばせるって」
「貴方に助けられたあの日から、俺は貴方の虜です。十年経った今も、ジャノは何一つ変わっていない。この輝くようなハニーブロンドの髪も、蜂蜜とチョコレートを混ぜ合わせて固めたような美しい瞳も、困っている人を助けられる優しさも、大切な人を守り抜こうとする勇敢さと強さも。その全てが貴方の魅力なんです。ジャノ」
「か、過大評価ですよ! ユベール様! 俺はみんなに助けられてばかりだし」
「ジャノ。貴方は自分が思っている以上に周囲から必要とされている人間だと自覚してください」
「え?」
「……無自覚ですか。鈍感なところもジャノの魅力ではあるんですが、危機感がなくて心配になりますね」
「そういうユベール様は、俺に対して過保護だと思うんですけど」
「ふふ。拗ねているジャノも可愛いですね」
ちゅ、と再びキスをされて俺は慌てて離れようとする。でも、ユベール様に背中と腰に腕を回されて身動きが取れない。ぎゅうぎゅうと強く抱きしめられ、無駄な抵抗なんだと仕方なく諦める。ユベール様は「可愛い、可愛い」と言って俺の顔中にキスを落とし続けた。
「ジャノ。これからも、俺の、俺だけの大天使様でいてください」
「……はい。二人で、幸せになりましょう。ユベール様」
今度は俺の方からユベール様に口付ける。誕生日パーティーが無事に終わったが、これからやることは山積みだ。悪事を働いていた貴族達は王家直々に罰が与えられるそうだ。その対応にユベール様達も協力しなければならない為、明日からはまた忙しい日々を送ることになる。俺もユベール様の伴侶として、今以上に勉強しなければ。それに、王宮で行われる表彰式の準備もあるし、古代魔導具や古代文明も謎のまま。ローズさんとリリーちゃんが目覚めた理由も不明なままで、前のご主人様と創造主様が誰なのかも分からない。
「外は冷えますね。部屋に戻りましょう。ジャノ」
「はい。ユベール様」
「なんですか?」
「あの家から俺を連れ出してくれて、ありがとうございます」
なんかお礼ばっかり言っているなと思うが、ユベール様にはとても感謝しているから何度言っても問題はないだろう。固まってしまったユベール様の手をしっかりと握り、俺は颯爽と歩き出した。色々と考えなきゃいけないことは多いけど、今はユベール様との時間を大切にしたい。
「坊っちゃま。顔が真っ赤ですよ」
「い、言うな! ステラ!」
ステラさんは楽しそうにクスクス笑い、レイモンさんは小声でステラさんに「からかいすぎです」と注意していた。俺はスタスタと前を歩いているからユベール様の顔は見えない。ステラさんの言葉を必死に否定するユベール様の声は普段より幼く聞こえてしまう。二人のやりとりを偶然見てしまった人達も微笑ましそうに見守っていて、そんなユベール様が可愛くて、俺は我慢できず笑ってしまった。
◇
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