当て馬にされていた不憫な使用人は天才魔導士様に囲われる《第二部完結》

トキ

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第二部

断罪イベント2

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 ユベール様に呼ばれてやってきたステラさんとレイモンさんはホール内の騒動に驚いていた。執事さん達から簡単に説明をされていたけど、二人が来た時には騒ぎが大きくなっていた。そりゃ驚くよね。

「ステラさん。レイモンさん。ごめんなさい。みんな、頑張って準備してくれたのに……」
「ジャノ様。そんな顔をしないでください」
「ユベール様。例の書類をお持ちしました」
「あぁ。ありがとう。レイモン。俺の誕生日パーティーでこの手は使いたくなかったが、仕方ない。先に手を出したのは彼奴らだ。俺の大切なジャノを傷付けた代償は大きい」
「おい! 何をしている! 早くその宝飾品を渡せ!」
「宝飾品? まさか、ジャノ様が身に付けているロイヤル・ゼロを渡せと?」
「リリー様はジャノ様にしか扱えない筈ですが……」
「リリー本人が渡せと言っている。何か考えがあるようだ」
「本当に、よろしいんですか? ロイヤル・ゼロは謎に包まれた古代魔導具ですよ?」
「渡してください。ステラさん。レイモンさん」
「ジャノ様」
「ユベール様とジャノ様のご命令ならば。失礼します。ジャノ様」
「ありがとうございます。レイモンさん」

 二人とも最初は戸惑っていたけど、リリーちゃんに考えがあると聞いて宝飾品を外してくれた。ネックレス、耳飾り、指輪、ブレスレット。宝石が傷付かないよう両手で丁寧に持ち、ステラさんが持っている宝飾品専用のトレーに一つ一つそっと置く。全ての宝飾品が外されたのを確認して、ルグラン伯爵が「早くそれを寄越せ!」とステラさんを急かす。

「ルグラン伯爵。ジャノが身に付けていた宝飾品は全てロイヤル・ゼロです。別名、生きた宝石とも言われています。ロイヤル・ゼロは自ら主を選ぶ特殊な宝石。自分が認めた主以外の者がロイヤル・ゼロを身に付けるとどうなるか、我々も把握していません。約数千年もの間眠り続けていた古代魔導具ですから、彼女の能力も未知数です。身の安全も保証できません」
「脅しですか? ユベール様。そんな見え透いた嘘でこの俺を騙せるとでも? さっさと寄越せ!」
「そ、そんな乱暴に」
「五月蝿い! 使用人如きが俺に指図するな!」
「な!」

 傲慢にも程がある! ユベール様が忠告しているのに、それを嘘だと決め付けてまともに聞こうともしない。レイモンさんやステラさんが丁寧に扱っていたリリーちゃんを乱暴に鷲掴むなんて信じられない! ロイヤル・ゼロじゃなくても宝石はとても高価な品で、強い衝撃には弱いから大切に扱わなけれないけないのに! それに、ステラさん達への態度も酷すぎる! 宝飾品を全て奪い取ると、ステラさんに「邪魔だ!」と吐き捨てて、彼は伯爵夫人の元へ向かう。

「さあ、ニナ。代わりの宝石を持ってきてあげたよ」
「ありがとう! ダヴィド様! あぁ、やっぱり綺麗ね。ねえ、ダヴィド様! 早く付けてちょうだい! 私に似合っているか確かめてほしいの!」
「勿論だよ。ニナ。最初はネックレスにしようか。おい! そこの使用人! これを持ってろ! 絶対に盗むなよ? これはもうニナの物なんだからな!」
「…………」
「気持ちは分かる。今は言う通りにしてくれ」
「かしこまりました」
「レイモンさん。大丈夫でしょうか」

 ベルトラン公爵家に仕えているベテランのステラさんと、優秀な執事のレイモンさんを我が物顔で扱き使うなんて何を考えているのか。二人の主はクレマン様とユベール様であってルグラン伯爵夫妻じゃない。何時もクールなレイモンさんですら不満を顔に出している。それなのに周囲は「よくやった!」とか「私達の英雄だ!」とか、ルグラン伯爵夫妻を賞賛する声ばかり。ステラさんも嫌そうな顔をしている。

「あぁ、とっても綺麗だよ。ニナ」
「やっぱり素敵ね! この宝飾品、私に似合っているかしら? ダヴィド様!」
「勿論似合っているとも! やはり美しい宝石は君にこそ相応しい!」
「本当!? 嬉しいわ! それじゃあ、ジャノさん。彼も私が貰うわね」
「はあ!?」

 とんでもない要求を言い出して、驚きすぎて思わず叫んでしまった。





 何を言っているんだ!? この女は! レイモンさんも貰う、だって!? ロイヤル・ゼロだけに飽き足らず、レイモンさんも欲しがるなんて何を考えているんだよ!? と言うか、諦めてなかったのかよ。ルグラン伯爵も不躾にレイモンさんの肩や背中をバシバシ叩いて「ニナが望んでいるんだ。断る訳ないよなあ?」と悪どい笑みを浮かべている。レイモンさんが「代償はロイヤル・ゼロだけの筈では?」と聞くと、ルグラン伯爵が鼻で嗤った。

「はっ! 誰も代償が宝飾品だけなんて言ってないだろ? ニナがどうしてもお前が欲しいって言うから、仕方なく雇ってやるんだよ。有り難く思え。なあ? 元平民」
「これからよろしくね! 今日から貴方の主は私よ? 私、ずっと貴方みたいな格好よくて完璧な執事が欲しかったの!」
「ニナ。他に欲しいものはないかい? 今ならなんでも用意してもらえるぞ! コレがニナに態とぶつかって大切なネックレスを壊したからなあ! ユベール様はコレの為なら金を惜しまないと噂で聞いている。魅了の魔導具に惑わされているとも知らず、コレを守る為ならなんだってニナに与えてくれるぞ?」
「本当!? それじゃあ、ユベール様が購入した宝飾品とドレスも欲しいわ! 勿論全部よ!」
「それはいい。用意してくれますよね? ユベール様?」
「あと、チラッと見えたんだけど、金色の髪をしたシェフも欲しいわ! 確かジャノさんの親友、だったかしら? 彼も格好いいのよね!」
「ニナのお願いなら何でも叶えてあげるよ。ユベール様、ニナが言うシェフも呼んでくれますよね?」

 頭が、痛い。やり口が当たり屋と一緒だ。ネックレスを壊した代償が? ロイヤル・ゼロと? レイモンさんと? ユベール様が購入した全ての宝飾品とドレスと? 更に文也も寄越せ? どれだけ要求すれば気が済むんだよ! 此奴ら! レイモンさんはユベール様の元へ戻ろうとしたけど、ルグラン伯爵夫人に腕を絡め取られていて動けなくなっている。え? これって大丈夫なの? 伯爵夫人が未婚の男性に触れるのってタブーじゃない? 此処、公の場だよ? 浮気します! って公表しているようなもんじゃん。

「そんな無茶な要求が通ると、本気で思っているのか?」
「貴方達がしていることは恐喝と同じです。生きた人間をまるで奴隷のよう扱って恥ずかしくないんですか? 身分の低い相手を平気で見下して、人も物も乱暴に扱う貴方達に、俺の大切な人達を渡す訳にはいきません。レイモンさんと親友は諦めてください。ドレスと宝飾品もです。ユベール様が購入した大切な品を、貴方達がステラさん達のように丁寧に扱うとは思えない」
「貴様! 平民の分際で、貴族の俺に逆らうのか!?」
「またそうやって私に意地悪をして! 本当に酷いわ! ジャノさん!」
「大切な人を守るのに貴族も平民も関係ありません! どれだけ罵られようと、どれだけ平民だとバカにされようと、濡れ衣を着せられて犯罪者扱いされようと、俺の意思は変わりません。ベルトラン公爵家に仕える人達は皆、俺が守らなければならない大切な家族なんだよ! その家族が目の前で理不尽な扱いを受けているのに、黙って見過ごせる訳ねえだろ!」
「ジャノ……」
「ジャノ様」

 やっべ。素が出ちまった。でも、もう今更だし。口調が荒くなっても誰も気にしないだろう。元々俺への評価はマイナスだったし。俺にだって我慢できないことがある。何時も支えて助けてくれた人が、俺のせいで傷付けられることだ。今迄は問題を起こさないようにと、ベルトラン公爵家の顔に泥を塗らないようにと我慢していたけど、こんなことになってしまったらもう何をしても無駄だ。それなら、今迄の鬱憤も含めて言いたいことを言わせてもらおう。俺は今、かなり怒っているんだからな?

「ルグラン伯爵様、レイモンさんはユベール様の専属執事です。レイモンさんも、何時まで其処に立っているんですか? 貴方は、ベルトラン公爵家の一員でしょう? 違いますか?」
「いいえ。ジャノ様の仰る通りです」
「な! ま、待って! どうしてジャノさんの命令を聞くの!? 私の方が綺麗で可愛くて、とっても優しいのに!」
「貴方達の態度を見て、誰が心から仕えたいと思うのですか?」
「え?」
「な! 平民のくせに、お前も俺達をバカにするのか!」
「私はユベール様の専属執事です。私を引き抜きたいなら、ユベール様と旦那様の許可を得てください」
「俺が優秀なお前を手放すとでも?」
「思っていませんよ。ユベール様」
「それでこそ俺の専属執事だ」
「ありがとうございます。ジャノ様」
「お帰りなさい。レイモンさん」
「あんなことを言われたら、誰だって戻ってきますよ」

 あ、レイモンさんが笑った。ちょっと嬉しそう。状況は最悪なんだけど、レイモンさんが戻ってきてくれたことが嬉しくて俺も思わず笑ってしまった。後のことなんて全く何も考えていないんだけど、何とかなる気がする。ところで、リリーちゃんは策があると言ってたけど、その話はどうなったんだろう?
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