当て馬にされていた不憫な使用人は天才魔導士様に囲われる《第二部完結》

トキ

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第二部

誕生日パーティー3

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 リゼットちゃん達はユベール様と少し話した後、自分達も少しだけ踊ろうと言ってジルベール様達と一緒にホールの中央付近に向かって行った。「パーティーが終わった後でドレスと宝石をじっくり見せてもらってもいいですか?」と聞かれて、俺は断る理由もないので「いいよ。また後でね」と言ったらリゼットちゃんとジョエルちゃんは嬉しそうに笑った。

「リゼットちゃんもジョエルちゃんも愛されてるなあ」
「彼女達に似合っていますね。ドレスも宝飾品も髪型も」
「ジルベール様とニコラくんの正装も格好いい」
「ジャノ?」
「あ、勿論一番格好いいのはユベール様です!」

 惚れた弱みもあるんだけど、やっぱりユベール様が一番綺麗で格好いい。今日で十九歳になるけど、僅か十九歳でこんな色気とかカリスマ性とか出るのか? 大人よりも大人じゃん! と思えてしまう。俺が十九歳だった頃なんてまだ大学生で、文也といろんな場所に出掛けて遊び回っていたぞ? ダメだ。比べるべきじゃない。

「お父様とお母様は……モラン侯爵夫妻達と歓談していますね」
「大人同士の会話、ですね。ブレーズさんも、モラン侯爵家と繋がりができて安心したんじゃないでしょうか」
「将来はニコラがデュボア男爵家に婿養子として入る予定らしいですからね」
「ニコラくんが!?」
「えぇ。愛する人の故郷を一緒に守りたいと」
「十四歳で、もうそんな先のことを見据えて頑張っているのか。凄いなあ、ニコラくん」
「まだ予定というだけで決定している訳ではありません。彼は剣術の才能もあるので、努力次第では殿下の近衛騎士に抜擢される可能性も高いです」
「将来有望なんですか!? ニコラくんが、近衛騎士!?」
「モラン侯爵家は剣術と頭脳に長けた家系なんです。ジルベールの父親はこの国の宰相なので、彼も将来は宰相になるかもしれません。ジルベールは剣術よりも頭脳に長けていると聞いたので、宰相になるのはほぼ確定でしょう。ニコラを専属の護衛騎士にしたいようですが、どうなるかは彼らの意思次第、ってところですね」
「ひぇ……」

 そ、そんなに凄いお家だったのか。モラン侯爵家。この国に必要不可欠な家系だと聞いたけど、具体的なことは教えてもらえなかったんだよなあ。俺が怖がっちゃうから、という理由で。ベルトラン公爵家もクレマン様が宮廷魔導士長様だから凄いんだけど、モラン侯爵家のお父様もやっぱり凄い。宰相って、日本でいうところの内閣総理大臣だろ? ジルベール様も将来はお父様の後を継いでその立場になるかもしれない、と。リゼットちゃんが婚約者になった後でも第二第三の婚約者にと令嬢達が言い寄る訳だ。ジルベール様はリゼットちゃん一筋だから一夫多妻は認めないと断言しているけど。

 それはニコラくんも同じだ。リゼットちゃんからちょっとだけ教えてもらったんだけど、ニコラくん、老若男女問わずモテるらしい。年上の人達からは色々と構われたり、お菓子を渡されたりして、年齢の近い貴族の令嬢や令息達からは鬱陶しいくらいアプローチされまくっているとか。ジョエルちゃんを見たらみんな直ぐに諦めて逃げ出すから今のところは大丈夫と言っていた。確かにニコラくんを見ると構いたくなる。モラン侯爵家では騎士達を中心に構われすぎてうんざりしているそうだ。十四歳って色々と複雑なお年頃だもんね。どっちの気持ちも分かっちゃうから、俺からは何も言えないや。





 ユベール様の元には多くの人が集まって祝福の言葉を贈っていた。ユベール様の傍から離れてはいけないとステラさんやリゼットちゃん達から言い聞かされていたから、必然的に俺も対応することになる。心から祝福してくれる人は俺にも優しく接してくれるけど、俺のことをよく思っていない人達は敵意や悪意を向けていて態度も悪かった。ユベール様だけに挨拶をして俺の存在は無視する程度ならまだいい方。平気で俺を貶めるようなことを言ったり、俺が身に付けている宝飾品を何時迄も眺め続けたり、俺には似合わないからドレスと宝飾品を寄越せと堂々と宣言したり。全てユベール様に言い負かされて交流を断つと告げたら逃げて行ったけど。

「案の定、でしたね」
「俺が傍に居るのに、平気でジャノを罵るなんて何を考えているのでしょう? 家を潰してほしいんでしょうか?」
「…………」

 目が、ガチなんだよなあ。声も低いし。ユベール様が言うと冗談に聞こえないから怖い。実際、クレマン様達が潰そうと思えば何時でも潰せるんだよなあ。だって、ベルトラン公爵家は王家のミシェル家の次に権力を持っている凄いお家だから。俺に敵意を向けるということは、モラン侯爵家にも喧嘩を売るということ。俺に敵意を向ける人達は自分で自分の首を絞めていることに早く気付いてほしい。

 今の地位を守りたいなら、大人しくしているのが賢明なんだよなあ。そりゃあ不満はあるだろうけどさ、俺が一人になった時やパーティーを終えた後に呼び出して不平不満を言うならまだしも、多くの人達が集まる公の場で言うことじゃないよね? 今日はユベール様の誕生日を祝うパーティーなのに、場の空気を悪くするなよ、と内心思う。まあ、俺が会場から去れば一番いいんだろうけど、ユベール様が許してくれませんでした。退場すべきは無礼な貴族達であって俺じゃない。俺が周囲に気を遣って退場する必要はない、とユベール様達から言われてるんだよなあ。

「遅れてごめんね。ユベール。ジャノくん」
「アルベール王太子殿下。本日はお忙しい中……」
「あぁ、大丈夫だよ。堅苦しい挨拶はナシで」
「で、ですが……」
「ユベール様! お誕生日、おめでとうございます」
「ありがとうございます。ルシー・ミシェル王女殿下」

 殿下の後ろから顔を出したのは殿下と同じ金髪碧眼の可愛らしい女の子だった。長い髪は綺麗に編み込まれ、きらきらと輝く髪飾りがとても似合っている。肌が白くて瞳も大きく、薄いピンク色のドレスがよく似合う。ユベール様と知り合いらしく、彼女は頬を赤く染めて嬉しそうに微笑んでいる。

「あの、ユベール様。私は大丈夫ですから。この場を盛り上げる為の茶番なんでしょう? だって、ユベール様の婚約者は私なんですもの」
「え?」
「ルシー」
「お兄様も同じ気持ちですよね? だって、こんな冴えない男がユベール様の婚約者だなんて笑い話にもならないわ。しかも平民でしょう? 平民如きが公爵家の嫡男であるユベール様と結婚なんてできませんわ。少し考えたら分かることでしょう? それとも、幼児でも分かることがこの卑しい平民には理解できないのかしら?」
「…………」

 全然可愛くなかった。可愛いのは見た目だけ。俺だってそれくらい理解している。平民が貴族に嫁ぐことは基本的には無理だということも、可能だったとしても手順があるということも、条件が厳しいということも、全て知った上でユベール様の伴侶になるって決めたのに。現実はやっぱり厳しいってことか。

「いい加減にしなさい。ルシー。ユベールは君の我儘に付き合ってあげていただけだ。ユベールの想い人が見付かるまでという条件付きで了承を得たことをもう忘れたのかい?」
「我儘なんて言っていませんわ! ユベール様の婚約者はこの私ですもの! それなのに!」
「黙りなさい。ルシー」
「え? お兄様!?」
「君が『大人しくしているから』と言うから同行を許可したのに、ユベールの命の恩人に対してその態度や言動は看過できない。王族だからと何をしても許されると思わないことだ」
「…………」

 お兄様、ということは、この子は殿下の妹さんなんだろう。婚約者と言われた時は驚いたけど、直ぐに殿下が否定してくれて安堵する。ユベール様も「王女とは婚約などしていませんよ。全てあの女の妄言です」と断言。王女様かあ。アルベール王太子殿下の妹さんなんだから当然だよな。それにしても、殿下もユベール様も妹さんにかなり冷たくないか? 兄妹仲も悪そうだし、こんな風に怒っている殿下の顔は初めて見た気がする。
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